病める時も、健やかではない時も

野村にれ

文字の大きさ
115 / 206

対策4

しおりを挟む
「モリー様の身は大丈夫なのよね?」
「それはきちんとする、約束します。心配されないでください」
「私も大規模な流行り病の経験はありませんが、感染症や事故などは対処は幾度となくしておりますから、慣れておりますから大丈夫ですよ」
「ですが、安全面は必ず考慮します」

 モリーが流行り病を治しに来て、患うようなことがあってはならない。ジーアも予防にも万全を尽くすつもりであった。

 だが、モリーにとっては酷い環境などいくらでもあったために、そんなことは心配しなくてもいいのにと思っていた。

「ちなみに水を粉末にするようなことは不可能なのでしょうか?」
「ああ……塩のようになどということでしょうか?」
「はい、分離するような」
「私の知る限りでは、塩の方法ではできませんでしたが、やってみられますか?」

 海水を煮詰めるように、治癒術の掛けられた水の治癒の成分だけを取り出すことはできないかと、プレメルラ王国でも行われたことはあった。

 だが、煮詰めた時点で何もなくなった。

「よろしいのですか?」
「ええ、私は問題ありません。いくらでも出しますよ?何か入れ物がありますか?」
「取って来ます」

 ジーアは王宮の敷地内にある研究室に入れ物を取りに向かい、モリーとレオーラは二人きりになった。

 レオーラはモリーがパークスラ王国にいることを、改めて感謝した。

「モリー様、本当にご協力ありがとうございます。ですが、無理は絶対にしないでください」
「でも、やれることはやらせてください。でないと、来た意味がありませんから」
「ですが、モリー様に何かあったら、私は責任を感じます」
「それは、そうですね。申し訳ありません」

 モリーは自分が良くとも、呼んだレオーラの責任になることは抜け落ちていた。

「謝らないでください!でも、自身も守っていただきたいのです」
「分かりました」

 そんな話をしていると、ジーアが二本の瓶を持って戻って来た。

「よろしくお願いいたします」
「はい」

 モリーは瓶を空けて、掌に水を集めて注いだ。

 その様子を初めて見たわけではないだろうにと思いながら、レオーラとジーアはじっと見つめていた。

 二本分入れ終えると、蓋を閉めた。

「ありがとうございます、魔術というのは不思議ですね」
「私も使えない気持ちも分かりますから、なぜなのだろうと思いますよね」

 モリーも二回目は、どうなっているのだろう?どんな気分なのだろう?と考えていた。だが、三回目で使えるようになった時は、始めは嬉しくて、コントロールするためにも練習ばかりしていた。

「はい、体は大丈夫ですか?」
「このくらいは余裕ですよ。感染者には咳止めとして、配布するのはいかがですか?緊急薬として」
「それはいい考えですね」

 咳から始まるということなら、闇雲に使うよりも咳をしている者に咳止めとして使うというのは、いい案だと思った。

「どの程度、治るのでしょうか?」
「咳は治まると思います」
「万能なのでしょうか?」
「急な病であれば治ると思います。昨日は痛くなかった腰が痛むのなら治りますが、もう何年も痛む腰は少し良くなる程度だと思います」
「なるほど」
「ですので、私は流行り病には適役だとは思うのです」

 モリーの治癒術は、何でも治るというわけではない。

 長い病や古傷が得意なのは、光と闇魔法の治癒術の使える者になるが、派遣してもらうのも簡単ではない。

「まあ、本当に有り難いわ。ねえ、ジーア様」
「そうだな。だが、咳止めの使用にはさすがに上の許可がいる。一番いいのは、国王陛下には許可をいただく方法になるかと思います」
「……そうですよね」

 得体のしれないものを大丈夫だと渡しても、使うことは躊躇するだろう。躊躇していたら、どんどん広がってしまうかもしれない。

 だからこそ、安全だという許可が必要である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

顔がタイプじゃないからと、結婚を引き延ばされた本当の理由

翠月るるな
恋愛
「顔が……好みじゃないんだ!!」  婚約して早一年が経とうとしている。いい加減、周りからの期待もあって結婚式はいつにするのかと聞いたら、この回答。  セシリアは唖然としてしまう。  トドメのように彼は続けた。 「結婚はもう少し考えさせてくれないかな? ほら、まだ他の選択肢が出てくるかもしれないし」  この上なく失礼なその言葉に彼女はその場から身を翻し、駆け出した。  そのまま婚約解消になるものと覚悟し、新しい相手を探すために舞踏会に行くことに。  しかし、そこでの出会いから思いもよらない方向へ進み────。  顔が気に入らないのに、無為に結婚を引き延ばした本当の理由を知ることになる。

執着のなさそうだった男と別れて、よりを戻すだけの話。

椎茸
恋愛
伯爵ユリアナは、学園イチ人気の侯爵令息レオポルドとお付き合いをしていた。しかし、次第に、レオポルドが周囲に平等に優しいところに思うことができて、別れを決断する。 ユリアナはあっさりと別れが成立するものと思っていたが、どうやらレオポルドの様子が変で…?

待ってください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。 毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。 だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。 一枚の離婚届を机の上に置いて。 ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。 ※短編連作 ※この話はフィクションです。事実や現実とは異なります。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。

木山楽斗
恋愛
幼少期から魔法使いとしての才覚を見せていたラムーナは、王国における魔法使い最高峰の役職である聖女に就任するはずだった。 しかし、王国が聖女に選んだのは第一王女であるロメリアであった。彼女は父親である国王から溺愛されており、親の七光りで聖女に就任したのである。 ラムーナは、そんなロメリアを支える聖女補佐を任せられた。それは実質的に聖女としての役割を彼女が担うということだった。ロメリアには魔法使いの才能などまったくなかったのである。 色々と腑に落ちないラムーナだったが、それでも好待遇ではあったためその話を受け入れた。補佐として聖女を支えていこう。彼女はそのように考えていたのだ。 だが、彼女はその考えをすぐに改めることになった。なぜなら、聖女となったロメリアはとてもわがままな女性だったからである。 彼女は、才覚がまったくないにも関わらず上から目線でラムーナに命令してきた。ラムーナに支えられなければ何もできないはずなのに、ロメリアはとても偉そうだったのだ。 そんな彼女の態度に辟易としたラムーナは、聖女補佐の役目を下りることにした。王国側は特に彼女を止めることもなかった。ラムーナの代わりはいくらでもいると考えていたからである。 しかし彼女が去ったことによって、王国は未曽有の危機に晒されることになった。聖女補佐としてのラムーナは、とても有能な人間だったのだ。

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?

リオール
恋愛
両親に虐げられ 姉に虐げられ 妹に虐げられ そして婚約者にも虐げられ 公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。 虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。 それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。 けれど彼らは知らない、誰も知らない。 彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を── そして今日も、彼女はひっそりと。 ざまあするのです。 そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか? ===== シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。 細かいことはあまり気にせずお読み下さい。 多分ハッピーエンド。 多分主人公だけはハッピーエンド。 あとは……

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

処理中です...