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3.盗聴器
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東館1階。校長室の扉をノックする。
「どうぞ」
扉の向こうから、低く落ち着いた声が返ってきた。
「おはようございます」
俺は扉を開けて、校長に挨拶した。
「元気がよくていい声だね、伏木君。おはよう」
校長が、椅子から立ち上がった。
50代くらいの白髪交じりの男性だ。品のよい茶色いスーツを着ているが、ぽっこり出たお腹のせいでタヌキを連想させる。たれ目で愛嬌のある顔だ。
「時間がないから、手短に説明する」
笑みを浮かべていた校長が、表情を引き締めた。
「生徒たちの日常観察という通常任務に加えて、緊急の任務が発生した」
俺は胃の辺りがキュッと縮むような気がした。
通常任務さえまだ何もやってないっていうのに、緊急任務だって?
「そんな話聞いてません」
「そりゃそうだろう。今から初めて話すのだから」
俺の反抗的な態度は、簡単にかわされた。
「実は学園内で、微弱ではあるが盗聴器の電波をキャッチした」
「えっ」
思わず驚きの声が漏れる。
マジかよ。なんだか物騒な話が始まりそうだ。俺が関わるような内容か? ごく普通の男子高校生だぞ。
「電波が学園内を移動していることは確かなのだが、位置が全く特定できない。これほど高性能な機器を取り扱っているのは、メカニカルフューチャー社しか考えられない」
校長が、眉間にしわを寄せた。
「メカニカルフューチャー社って、インフィニティブレイン社をライバル視しているって噂の?」
俺の質問に、校長が大きく頷いた。
彼はレアリティ学園の校長だが、インフィニティブレイン社の社員でもある。
「メカニカルフューチャー社は、当社のアンドロイド技術を欲しがっている。過去に業務提携の話も持ち掛けられたが、インフィニティブレイン社は断った」
「メカニカルフューチャー社に情報が漏れたらやばくないですか?」
俺は気持ちが焦って早口になった。
「まだ、その形跡はない。だが、一刻も早く盗聴器を見つけなければ安心できない」
校長が、俺の顔をじっと見つめる。
まさか……。
「僕に、それを見つけろと?」
俺は、人差し指で自分の顔を指した。俺は今、きっと間抜け面をしている。こんなアホそうなやつに、頼んでくれるな。こんな任務、俺には重すぎる。
「その通り」
唖然とする俺を無視して、校長は続けた。
「盗聴器は学園内を移動している」
「はぁ」
俺はやる気のない返事をした。
「つまり盗聴器は、なにか動くものに仕掛けられているということだ」
それでも校長はおかまいなしだ。
「まぁ、そうっすねぇ」
適当に相槌でもうっておくか。
「今から話すことは、私の憶測にすぎないのだが……」
「お……」
俺は出かかった言葉を飲み込んだ。
憶測で語るなこのタヌキ面が。心の中だけで悪態をついた。
「アンドロイドを東京からこの島に輸送する際に、社外の民間業者を使った。もしかしたら、その時に、盗聴器が仕込まれたのかもしれないと、私は考えている」
「アンドロイドを輸送する時って……まさか」
「そうだ。生徒の誰かに盗聴器が仕込まれ、アンドロイドの内蔵データが改ざんされた可能性がある。つまり私は、生徒の誰かがスパイ化している可能性を疑っている」
俺に生徒の中からスパイを探し出せってことか。
うわぁ。俺は額に手の平を当て、大げさにうなだれてみせた。
「僕、ただのモニターですよね? 他の生徒を観察して、行動に異常がないかを報告するだけの……」
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃないか」
校長が俺の話を遮ってくる。
「他に頼める人がいないんだよ」
校長が歩み寄ってきて、俺の肩を叩く。
「他の生徒に頼んで、そいつがスパイだったらどうする?」
校長が俺の顔を覗き込む。
うわ、近い近い。俺は腰をそらせ、顔をそむけた。
「そりゃそうですけど……」
校長の気迫に押されそうになる。
「でもこういうのって、プロの探偵に依頼した方が早くないですか?」
「部外者の人間を、そう簡単に学園内に入れられるわけないじゃないか。これは、インフィニティブレイン社の極秘プロジェクトなんだ」
校長が語気を荒めた。
「わかっているよね伏木君?」
口元は笑っているが、目は笑っていない。
「わ、わかってます……」
弱気になるなよ俺。はっきりきっぱり断らなくては。
「だけどですねぇ、通常任務に加えて緊急任務までこなすとなると、頻繁に校長室に出入りしなければならなくなる。そうしたら、僕の行動みんなに怪しまれませんか?」
俺の話に、校長がうなずきながら腕を組む。
「実は私もそう思ってね」
お? ついに校長を説得できたか。そうだそうだ。俺に頼むのは諦めろ。
「君を生徒会長に抜擢することにした。これで頻繁に校長室に出入りする理由ができた」
校長が勝ち誇ったように鼻で笑った。
「どうぞ」
扉の向こうから、低く落ち着いた声が返ってきた。
「おはようございます」
俺は扉を開けて、校長に挨拶した。
「元気がよくていい声だね、伏木君。おはよう」
校長が、椅子から立ち上がった。
50代くらいの白髪交じりの男性だ。品のよい茶色いスーツを着ているが、ぽっこり出たお腹のせいでタヌキを連想させる。たれ目で愛嬌のある顔だ。
「時間がないから、手短に説明する」
笑みを浮かべていた校長が、表情を引き締めた。
「生徒たちの日常観察という通常任務に加えて、緊急の任務が発生した」
俺は胃の辺りがキュッと縮むような気がした。
通常任務さえまだ何もやってないっていうのに、緊急任務だって?
「そんな話聞いてません」
「そりゃそうだろう。今から初めて話すのだから」
俺の反抗的な態度は、簡単にかわされた。
「実は学園内で、微弱ではあるが盗聴器の電波をキャッチした」
「えっ」
思わず驚きの声が漏れる。
マジかよ。なんだか物騒な話が始まりそうだ。俺が関わるような内容か? ごく普通の男子高校生だぞ。
「電波が学園内を移動していることは確かなのだが、位置が全く特定できない。これほど高性能な機器を取り扱っているのは、メカニカルフューチャー社しか考えられない」
校長が、眉間にしわを寄せた。
「メカニカルフューチャー社って、インフィニティブレイン社をライバル視しているって噂の?」
俺の質問に、校長が大きく頷いた。
彼はレアリティ学園の校長だが、インフィニティブレイン社の社員でもある。
「メカニカルフューチャー社は、当社のアンドロイド技術を欲しがっている。過去に業務提携の話も持ち掛けられたが、インフィニティブレイン社は断った」
「メカニカルフューチャー社に情報が漏れたらやばくないですか?」
俺は気持ちが焦って早口になった。
「まだ、その形跡はない。だが、一刻も早く盗聴器を見つけなければ安心できない」
校長が、俺の顔をじっと見つめる。
まさか……。
「僕に、それを見つけろと?」
俺は、人差し指で自分の顔を指した。俺は今、きっと間抜け面をしている。こんなアホそうなやつに、頼んでくれるな。こんな任務、俺には重すぎる。
「その通り」
唖然とする俺を無視して、校長は続けた。
「盗聴器は学園内を移動している」
「はぁ」
俺はやる気のない返事をした。
「つまり盗聴器は、なにか動くものに仕掛けられているということだ」
それでも校長はおかまいなしだ。
「まぁ、そうっすねぇ」
適当に相槌でもうっておくか。
「今から話すことは、私の憶測にすぎないのだが……」
「お……」
俺は出かかった言葉を飲み込んだ。
憶測で語るなこのタヌキ面が。心の中だけで悪態をついた。
「アンドロイドを東京からこの島に輸送する際に、社外の民間業者を使った。もしかしたら、その時に、盗聴器が仕込まれたのかもしれないと、私は考えている」
「アンドロイドを輸送する時って……まさか」
「そうだ。生徒の誰かに盗聴器が仕込まれ、アンドロイドの内蔵データが改ざんされた可能性がある。つまり私は、生徒の誰かがスパイ化している可能性を疑っている」
俺に生徒の中からスパイを探し出せってことか。
うわぁ。俺は額に手の平を当て、大げさにうなだれてみせた。
「僕、ただのモニターですよね? 他の生徒を観察して、行動に異常がないかを報告するだけの……」
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃないか」
校長が俺の話を遮ってくる。
「他に頼める人がいないんだよ」
校長が歩み寄ってきて、俺の肩を叩く。
「他の生徒に頼んで、そいつがスパイだったらどうする?」
校長が俺の顔を覗き込む。
うわ、近い近い。俺は腰をそらせ、顔をそむけた。
「そりゃそうですけど……」
校長の気迫に押されそうになる。
「でもこういうのって、プロの探偵に依頼した方が早くないですか?」
「部外者の人間を、そう簡単に学園内に入れられるわけないじゃないか。これは、インフィニティブレイン社の極秘プロジェクトなんだ」
校長が語気を荒めた。
「わかっているよね伏木君?」
口元は笑っているが、目は笑っていない。
「わ、わかってます……」
弱気になるなよ俺。はっきりきっぱり断らなくては。
「だけどですねぇ、通常任務に加えて緊急任務までこなすとなると、頻繁に校長室に出入りしなければならなくなる。そうしたら、僕の行動みんなに怪しまれませんか?」
俺の話に、校長がうなずきながら腕を組む。
「実は私もそう思ってね」
お? ついに校長を説得できたか。そうだそうだ。俺に頼むのは諦めろ。
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校長が勝ち誇ったように鼻で笑った。
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