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第一章 それぞれの道
第2話 自重しなさい!
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ギルドの受付カウンターで文字が読めないソルトとレイはエリスと受付のお姉さんの二人から説明を受けつつ登録を済ませ、なんとかGランクで登録することが出来た。
「では、これで簡単な説明は終わりです。後、読み書きが出来ないようですが、早めに誰かに習ってくださいね。出ないと依頼書も読めないで、困ることになりますからね」
「「はい」」
「で、次にパーティの登録ですが、リーダーはエリスさんでよろしいですか?」
「「はい?」」
受付のお姉さんの言葉にソルトとレイが聞き返す。
「なんでエリスさんが?」
「おや? 女将に聞いてませんか? 私はあなた達のサポートをするようにと女将に言われています。後、そこのゴルドもですが」
「俺もか?」
「ええ、そう聞いてますよ」
「では、四人でパーティ登録しますね。名前は決まっていますか?」
受付のお姉さんにパーティの登録名を聞かれる。
「では、『エリスと従者達』で」
「「「却下!!!」」」
「そうだな、『酒こそ全て!』で」
「それはもう登録済みです。他は?」
「なら、『美女を守る守護神』で」
「美女要素が足りません! 次!」
受付のお姉さんに次と言われ、エリス達全員の目がソルトに向けられる。
「えっと、じゃあ『探求者』で」
「『探求者』ですね。登録しました。あのソルト様。もし、よければこの名前にした理由をお伺いしても?」
「ええ、いいですよ。ただ単純に俺達はこの世界のことは知らないことが多いので、ゆっくり探求しながら冒険出来たらと思って名付けました」
「「「おお!」」」
パチパチパチとエリス達が軽くソルトに対し拍手する。
「おっどろいた~ソルトがそんなことを考えていたなんてね~」
「レイ、そうはいうが知らないうちに森に転移させられて、ここがどこかも分からなかったんだからな。そんな俺たちにはピッタリだと思うがな」
「そうですね、成り行きとはいえ、私もパーティの一員ですが、確かに私も知らないことの方が多いです。ソルトもなかなかやりますね」
「……」
なにも言わないゴルドに対し、ソルト、レイ、エリスの視線が向けられる。
「ゴルドもなにか言いなさいよ」
「いや、俺はこの街の生まれだし、お前達みたいに外から来たわけじゃないし……」
「それでも、街の外を知りたいとか、あなたにも探究心があるんじゃないの?」
「そうだな、確かにエリスの言う通りだ。俺ももう少し外の世界を知りたいかな」
「よし、じゃあここに新しいパーティ『探求者』の結成ね」
「うふふ、おめでとうございます。では早速ですが依頼は受けますか?」
「いや、それよりも換金したい素材があるんだが、いいか?」
「ええ、それは構いませんが……見たところそれっぽい物はお持ちでないようですが?」
「ああ、そのことも含めて相談したいんだが、ギルドマスターはいるか?」
「分かりました。少々お待ちください」
受付のお姉さんがカウンター奥の部屋へと向かう。
ソルトは受付が終わりこれから、ラノベで読んだことがあるお決まりのお約束がいつ始まるのかワクワクドキドキしていたが、ゴルドが受付のお姉さんに頼んでいたことが気になった。
「ゴルドさん、これからなにがあるんです?」
「なにって、お前のことだよ。あのな、俺も裏庭の風呂を見たんだよ。あれを一時間も掛けずに作ったって聞いてな。その辺の注意とかをしておこうと思ってな」
「ふ~ん、あんたいつの間にお風呂なんて作ったのよ。私なんて、こっちに来てからずっと……」
「「こっち?」」
「あ~もう、レイ! 風呂は宿に帰ってからでいいだろ。ルー!」
『念話スキルを取得しました』
「なによ、もう……『いいから、今は下手なことを言わないように!』……あれ、ソルト?」
『今は念話でレイに直接話しかけているから、そのまま聞いてほしい。分かったら頷いて』
レイがソルトの念話に対し、頷くが当然のことながらエリス達には分からない。
おまけに並列思考を使って、念話でレイと会話をしながら、エリス達とも問題なく会話出来ている。
「レイは大丈夫なのか?」
「ええ、心配はないでしょう」
「でも、どこか宙を見つめて頷いているのは大丈夫とは言えないんじゃない?」
「あれ? それもそうですね」
~念話での内容~
『いいかい? まだ、俺達が日本から喚ばれたことは秘密にしておきたい。これはいいね?』
無言で頷くレイ。
『だったら、不用意な発言は控えるように。異世界人なんて知られたら誘拐されて見世物小屋に入れられるかもしれないでしょ?』
無言で頷き自分の不用意な発言で危なかったことをやっと認知したレイ。
『じゃ、これで念話は終わり。皆が不思議がっているから、正気に戻ってね』
「な、ちょっと!」
~念話での内容~
「お、嬢ちゃん。戻ったか」
「ちょうど、よかったわね。あちらでお呼びみたいよ」
受付のお姉さんがカウンターの向こうからゴルドさんに話しかける。
「ゴルドさん、ギルドマスターがお会いになるので、こちらへどうぞ」
受付のお姉さんが、カウンターの端を上げ人が通れるくらいの幅が開く。
「悪いな」
ゴルドが、受付のお姉さんにお礼をいいカウンターの中へ入ろうしていたが、後を着いてこないソルト達に対し言う。
「お前達も来るんだよ。特にソルト! お前のことなんだからな!」
「はい!」
皆で慌ててゴルドの後を追いカウンターの中へと入り、奥の部屋へと向かう。
「ギルドマスター、ゴルドさん達をお連れしました」
「おう、入ってくれ」
ゾロゾロとゴルドさんの後から、部屋の中へと入ると執務机にはゴリマッチョな禿頭の中年男性が座っていた。
「あ、茶はいいから、しばらくは呼ぶまで誰も通さないでくれ」
「分かりました」
ギルドマスターが案内してくれた受付のお姉さんが部屋から出るのを確認すると、ゴルドに尋ねる。
「で? わざわざ、お前が俺に話したいことってのはなんなんだ?」
「その前に紹介はないのかい?」
「ん? エリスは俺のことは知っているだろ? 今更なにを紹介しろってんだ?」
「そうじゃない、あんたの目にはそこの坊ちゃんとお嬢ちゃんは目に入ってないのかい?」
「ん? おう、そういや、見たことない顔だな。俺はここのギルドマスターをしているゴメスだ。よろしくな」
「はぁ、ギルマスか。あ、いや、俺はソルトです」
「レイよ。よろしくね。ギルマスさん」
「ギルマス? それは俺のことか? 嬢ちゃん」
「嬢ちゃんじゃなく、レイね。レイ。で、ギルマスはギルドマスターを縮めてみたの。ダメだった?」
「いや、いい。いいんじゃないか。ギルマス。うん、悪くないな」
「ふふふ、相変わらず若いのには甘いね」
「放っとけ! まあエリスは見た目だけは若いんだが、実際の年齢を知るとな」
「それこそ、放っときなさいよ」
「それより、話の続きをいいか? ってか、まだなにも話してはいないがな」
「「すまない」」
ギルマスことギルドマスターとエリスのじゃれあいが終わるのを待って、ゴルドが話しかけやっと本題に入る。
「で、ゴルドからの頼み事ってのはなんなんだ?」
「それはな、このソルトとレイのことだ。こいつらは元いた場所から、なにかの作用で魔の森に転移させられ、昨夜ここに辿り着いたんだ」
「待て! 魔の森からの帰還だと!」
「ああ、そうだ」
「こんなひょろっとした奴が?」
「ああ、昨夜は俺が門番から呼ばれて対応したからな。それは間違いない」
「そうか。で、俺にわざわざ相談したいってことは、こいつらのことか」
「そうだ。なんせ、転移してきたばかりで、こっちの言葉は話せるが文字の読み書きは出来ないそうだ。なにか気付かないか?」
「そういうことか」
「ちょっと待って、ゴルド。私にも分かるように教えてくれないか」
「エリスのところには伝説は残っていないのか?」
「伝説? なんのだ」
「勇者伝説だよ」
「「えっ!」」
ゴルドの口から出た内容にソルトとレイが思わず反応してしまう。
それを見たゴルドも反応する。
「二人の反応からすると当たりみたいだな」
「そうだな。でだ、ゴルドはどうしたいんだ?」
「そうだな、俺とエリスは女将からのお願いもあり、こいつらの面倒を見ることになったが、どう見ても勇者には見えないんだよな」
「確かにな」
「あの~」
ソルトはゴルドが話す勇者伝説に興味が湧き声を掛ける。
「なんだい、勇者殿」
「いや、俺は勇者ではなく巻き込まれた者で」
「あ! バカソルト! なんで言うのよ!」
「でも、もうしっかりバレているし。隠すのも無理でしょ」
「そりゃそうだけけどさ……」
「まあ、異世界人だからってなにも見せ物にする訳でもないから、その辺は気にするな。なあ、ゴルド」
「ああ、俺もエリスもお前達がどこから来たのかは詮索しない。だが、こっちで悪さをするつもりなら、それなりの対処をさせてもらうだけだ」
「「分かりました」」
「それで、なんで俺達が異世界人と分かっちゃったんでしょうか?」
「ソルトはそこが気になるのか?」
「ええ、そこを気をつければ今後の危険を減らせるかと思いまして。だから、ゴルドさん教えてください」
「そうか、分かったよ。じゃあ話してやるよ。いいか、よく聞け……」
ゴルドがソルト達を異世界人として認識出来た理由として、話せるが文字の読み書きが出来ないことが異世界人の特徴だと教えられた。
そして異世界人が元いた世界から、こちらへと渡ってくる時にギフトとして『言語理解』とユニークスキルが一つ付与されることも教えられた。この『言語理解』スキルは会話には不自由しないが、文字の読み書きまでは面倒みてくれないらしい。
「はぁそういうことなのね。なんだかしょぼい理由ね」
「もう一つ、なんでこの街に勇者伝説が残っているんですか?」
「ああ、それか。それはな……」
ゴルドがソルトの質問に答える形で、うろ覚えだがと断りつつ話を続ける。
ある王国で召喚された勇者は、その王国で、無茶振りとも言える内容の依頼を受けつつなんとか逃げ出す機会を探っていた時に隣国との戦争に駆り出されそうになり慌てて王国から逃げ出して、この街まで辿り着き、子を成し生涯を終えた。
「はぁ? じゃあ、なに私達って帰れないってこと?」
「そこまでは分からないよ。前の勇者はそのこと聞かない内に逃げ出したからね」
「まあ、そうね」
ゴルドの話を聞き終え、ソルトとレイが帰れないかもしれないと考える。レイは帰りたがっているが、ソルトとしては、元の世界に戻ったとしても誰かが待っているわけでもなく、思い残すことといえば、連載していた漫画の最終回くらいだ。
だが、帰りたいという気持ちも分からないではないので、とりあえずは出来るだけ協力してみようかなと考えてみる。
「じゃあ、ソルト達が勇者召喚に巻き込まれた形で来たってのは、お前達のその格好からしても本当らしいな」
「ああ、そうだった。だから、換金して服を買いたかったのに」
「なら、話は終わりでいいのか?」
「そうじゃない、ギルマス。だから、買取の件だがな。それで頼みがあって来たんだ」
「ゴルドよ、それってどういうことだ?」
「ソルト。ちょっと見せてもらってもいいか?」
「見せるって、なんのことです?」
「お前な、転移者だろ? なら、なにかのスキルで換金対象の物を持っているんだろ? なんせ手ぶらで換金するっていうくらいだからな」
「あ!」
「バカソルト!」
ゴルドの明確な指摘に思わず頭を抱えるソルトだが、ゴルドはもうバレバレなんだから、ここにいる連中には秘密にすることはないだろうと押し切られる形で、『無限倉庫』を持っていることを明かす。
「はぁ。俺に話して正解だな。こんなもの倉庫で見せられたら騒ぎになっていたぞ。で、なにを持って来たんだ?」
「ちょっと待ってください」
ソルトは頭の中に無限倉庫の中身をリストで確認する。
「え~と、オークが十七体、コボルトが三十四体、あとゴブリンの魔石が三個ですね」
「そうか、なら倉庫に案内しよう。そこで全部出してくれ。いいか?」
「ええ、お願いします」
ギルマスに案内され、ギルドの持つ解体倉庫へと向かう。
「お~い、ニックいるか?」
「なんだい。ギルドマスターか。どうした?」
ギルマスに呼ばれでっかい肉切り包丁を持った血だらけの男が奥から現れる。
「うわっ! スプラッターじゃん」
「なんだ? そのスプラなんとかってのは?」
「いいから、いいから気にしないで」
「俺のことは今後、ギルマスと呼んでくれ。ギルドマスターなんて長ったらしくないからいいだろ」
「それはいいが、それだけかい?」
「いや、ちょっとこれから見せることは口外しないと約束して欲しいんだがいいか?」
「なんだい、畏まって。まあ、いいぜ。その話せないほどのすごいなにかを見せてもらおうか」
「ああ、ソルト。ここに全部並べてもらえるか」
「はい、分かりました。じゃ、出しますね」
ソルトがギルマスの指示する場所へオーク十七体、コボルト三十四体を出す。
「ほぉお前さん、収納持ちかい。でも、こいつらは今倒したばかりのように暖かいが……もしかして時間停止も持っているのか?」
「はい、まあそんなもんです」
「こいつぁたまげた。こりゃギルマスのいうように簡単には人に話せないな」
「分かってくれたかい」
「ああ、分かった。よし、ソルトって言ったな。まずはこっちのコボルトは全部しまってくれ。あと、オークも五、いや三体を残して全部収納してくれ」
「ええ、そんな~これを換金してもらわないと、困るんです」
「そうか、でもな。これだけのを俺が解体するとなると、半分以上は腐らせることになるぞ」
「ソルトよ、まずはさっき言われた通り収納してくれ。なに悪いようにはしないから。安心しろ」
「分かりました。お願いしますよ、ギルマス」
「ああ、分かってる」
ソルトは不承不承ながら、オークを三体だけ残して全部を収納する。
「よし、これでいいな。じゃ、ニックよ。計算してもらえるか」
「ああ、いいぜ。ちょっと待ってな」
ニックが机の端でなにやら紙に書き込むとソルトに差し出す。
「これは?」
「これを受け付けに出せば、そこに買いてある金額を受け取れるぞ。また追加で出して欲しい時は呼ぶから、頼むな」
「はい、分かりました」
「で、いくらになったの?」
「ちょっと、待って……いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまんで六十万セル。六十万セルだって」
「へ~。で、それってどれくらいなの?」
レイの言葉にソルトも自分がこの世界の物価についてなにも教えてもらってないことに気付く。
「お、結構いい金額になったな」
「ゴルドさん、これってどれくらいの価値なんですか?」
「ああ、それもあるか。じゃあ、ギルマス。部屋に戻ってもいいかい?」
「そうだな、ここでする話じゃないな」
「よし、なら受付で換金してもらってから、またギルマスの部屋で話そうか」
「はい、分かりました」
解体倉庫を出ると、受付により換金して下さいとソルトがお願いすると、ゴルドが横から金貨一枚を細かくしてくれと追加でお願いする。
「どういうことです?」
ソルトが理由を尋ねてもゴルドは後から分かるとだけ、答えギルマスの部屋へ向かう。
ギルマスの部屋に入り、先ほどと同じように座ると同時にドアがノックされ、換金したものを受付のお姉さんが持ってきてくれた。
持って来てくれたトレイの上には革袋がいくつか置かれていた。
「まずは中を確認してくれ」
ギルマスに言われ、ソルトが中を確認すると金貨、銀貨、銅貨、鉄貨という風に分けて革袋に入れられていた。
「いいか、まずは一番小さい硬貨が、この鉄貨だ。この鉄貨が十枚で、次に銅貨一枚になる。そして銅貨百枚で銀貨一枚、次は銀貨百枚で金貨一枚だ。ここまではいいか」
「はい。だから、金貨五枚に鉄貨が十枚、銅貨が九十九枚、銀貨が九十九枚になるんですね」
「ああ、そうだ。なんだ計算は問題ないんだな」
「ええ、ソルトの方は問題ないみたいよ。そっちのお嬢さんは困っている見たいだけどね」
「レイ、全部が十進で硬貨の種類が変わらないんだよ。十進は鉄貨だけで後は、百倍だよ」
「なんだ、そうならそうと言ってくれればいいのに」
「ゴルドさん、硬貨の種類は分かりましたが、俺達にはこの六十万セルがどれほどの価値かが分からないんですよ。この街の物価とかで分りやすく教えてもらえないですか?」
「ふむ、そうか。あの宿なら一泊六千から7千と言えば分かるか?」
「ああ、なるほど。なら、元いた場所と対して変わらないですね」
「ソルト、どういうこと?」
「あの宿をビジホとして考えれば、大体向こうだと五千から高くても八千って考えれば、ほとんど変わらないって言えるでしょ」
「ああ、なるほど。じゃあ、私の服も買えるってことなのね。よかった~」
「え?」
「え? ってどういうこと?」
「だって、このオークは俺が倒したんだし……それはちょっと」
「え~なに、私はずっとこのままってこと。え、ちょっと待ってよ。私だってゴブリンの魔石を取ったじゃない。あれは? あれはいくらになるの? ギルマス!」
「そうだな、ゴブリンの魔石なら一個……」
「一個いくら?」
「確か……」
「もう、いくらなの!」
「百いかないくらいだな」
「そんな~」
「レイ、ほら」
ソルトが革袋から金貨を二枚取り出すとレイに握らせる。
「え! ソルト、いいの?」
「うん、とりあえず利子は無しにしといてあげるから」
「え? 利子……ってことはソルトに借金するってことなの?」
「嫌なら、別にいいけど」
ソルトがレイから金貨を返してもらおうと手を伸ばすが、レイがその手を払う。
「いいわよ。借りるわよ。そのうち、熨斗つけて返してあげるから! 待ってなさい!」
そのままギルマスの部屋から出ようとレイが立ち上がるが、エリスがそれを抑える。
「放してよ! 私は服を買いに行くの!」
「それ、全部使うつもりなの?」
「そうよ、悪い?」
「「「「はぁ」」」」
その場にいるレイ以外が嘆息する。
「エリスさん、レイが散財しないように着いていってもらえますか。後、おしゃれな服じゃなくて、冒険者として動きやすい服装でお願いします」
「分かったわ、任せなさい」
「あ、それと失礼ですが」
そう言って、ソルトがエリスに銀貨を三十枚ほど革袋に入れて渡す。
「報酬として十分かどうかは分からないですが」
「ふふふ、十分よ。そうね、お返しとして新しい下着でソルトのところにお邪魔しようかしら」
「「え?」」
「ふふふ、冗談よ。私は本気でも構わないけどね」
なにを想像したのかソルトの顔が赤くなる。
「ソルト、やめとけ。アイツもダテに歳はとっておらん」
「ゴルド、聞こえてるわよ。まあ、いいからゴルドもソルトを服屋に案内してあげなさいよ」
「そうじゃな。じゃ、ギルマスすまんかったな」
「いいってことよ。久々に楽しくなって来たしな。後ソルト」
「なんですか?」
「自重しろよ。いろいろな」
ギルマスが不敵に笑って、ソルトが部屋から出るのを見送る。
「自重か~出来るのかな~」
「では、これで簡単な説明は終わりです。後、読み書きが出来ないようですが、早めに誰かに習ってくださいね。出ないと依頼書も読めないで、困ることになりますからね」
「「はい」」
「で、次にパーティの登録ですが、リーダーはエリスさんでよろしいですか?」
「「はい?」」
受付のお姉さんの言葉にソルトとレイが聞き返す。
「なんでエリスさんが?」
「おや? 女将に聞いてませんか? 私はあなた達のサポートをするようにと女将に言われています。後、そこのゴルドもですが」
「俺もか?」
「ええ、そう聞いてますよ」
「では、四人でパーティ登録しますね。名前は決まっていますか?」
受付のお姉さんにパーティの登録名を聞かれる。
「では、『エリスと従者達』で」
「「「却下!!!」」」
「そうだな、『酒こそ全て!』で」
「それはもう登録済みです。他は?」
「なら、『美女を守る守護神』で」
「美女要素が足りません! 次!」
受付のお姉さんに次と言われ、エリス達全員の目がソルトに向けられる。
「えっと、じゃあ『探求者』で」
「『探求者』ですね。登録しました。あのソルト様。もし、よければこの名前にした理由をお伺いしても?」
「ええ、いいですよ。ただ単純に俺達はこの世界のことは知らないことが多いので、ゆっくり探求しながら冒険出来たらと思って名付けました」
「「「おお!」」」
パチパチパチとエリス達が軽くソルトに対し拍手する。
「おっどろいた~ソルトがそんなことを考えていたなんてね~」
「レイ、そうはいうが知らないうちに森に転移させられて、ここがどこかも分からなかったんだからな。そんな俺たちにはピッタリだと思うがな」
「そうですね、成り行きとはいえ、私もパーティの一員ですが、確かに私も知らないことの方が多いです。ソルトもなかなかやりますね」
「……」
なにも言わないゴルドに対し、ソルト、レイ、エリスの視線が向けられる。
「ゴルドもなにか言いなさいよ」
「いや、俺はこの街の生まれだし、お前達みたいに外から来たわけじゃないし……」
「それでも、街の外を知りたいとか、あなたにも探究心があるんじゃないの?」
「そうだな、確かにエリスの言う通りだ。俺ももう少し外の世界を知りたいかな」
「よし、じゃあここに新しいパーティ『探求者』の結成ね」
「うふふ、おめでとうございます。では早速ですが依頼は受けますか?」
「いや、それよりも換金したい素材があるんだが、いいか?」
「ええ、それは構いませんが……見たところそれっぽい物はお持ちでないようですが?」
「ああ、そのことも含めて相談したいんだが、ギルドマスターはいるか?」
「分かりました。少々お待ちください」
受付のお姉さんがカウンター奥の部屋へと向かう。
ソルトは受付が終わりこれから、ラノベで読んだことがあるお決まりのお約束がいつ始まるのかワクワクドキドキしていたが、ゴルドが受付のお姉さんに頼んでいたことが気になった。
「ゴルドさん、これからなにがあるんです?」
「なにって、お前のことだよ。あのな、俺も裏庭の風呂を見たんだよ。あれを一時間も掛けずに作ったって聞いてな。その辺の注意とかをしておこうと思ってな」
「ふ~ん、あんたいつの間にお風呂なんて作ったのよ。私なんて、こっちに来てからずっと……」
「「こっち?」」
「あ~もう、レイ! 風呂は宿に帰ってからでいいだろ。ルー!」
『念話スキルを取得しました』
「なによ、もう……『いいから、今は下手なことを言わないように!』……あれ、ソルト?」
『今は念話でレイに直接話しかけているから、そのまま聞いてほしい。分かったら頷いて』
レイがソルトの念話に対し、頷くが当然のことながらエリス達には分からない。
おまけに並列思考を使って、念話でレイと会話をしながら、エリス達とも問題なく会話出来ている。
「レイは大丈夫なのか?」
「ええ、心配はないでしょう」
「でも、どこか宙を見つめて頷いているのは大丈夫とは言えないんじゃない?」
「あれ? それもそうですね」
~念話での内容~
『いいかい? まだ、俺達が日本から喚ばれたことは秘密にしておきたい。これはいいね?』
無言で頷くレイ。
『だったら、不用意な発言は控えるように。異世界人なんて知られたら誘拐されて見世物小屋に入れられるかもしれないでしょ?』
無言で頷き自分の不用意な発言で危なかったことをやっと認知したレイ。
『じゃ、これで念話は終わり。皆が不思議がっているから、正気に戻ってね』
「な、ちょっと!」
~念話での内容~
「お、嬢ちゃん。戻ったか」
「ちょうど、よかったわね。あちらでお呼びみたいよ」
受付のお姉さんがカウンターの向こうからゴルドさんに話しかける。
「ゴルドさん、ギルドマスターがお会いになるので、こちらへどうぞ」
受付のお姉さんが、カウンターの端を上げ人が通れるくらいの幅が開く。
「悪いな」
ゴルドが、受付のお姉さんにお礼をいいカウンターの中へ入ろうしていたが、後を着いてこないソルト達に対し言う。
「お前達も来るんだよ。特にソルト! お前のことなんだからな!」
「はい!」
皆で慌ててゴルドの後を追いカウンターの中へと入り、奥の部屋へと向かう。
「ギルドマスター、ゴルドさん達をお連れしました」
「おう、入ってくれ」
ゾロゾロとゴルドさんの後から、部屋の中へと入ると執務机にはゴリマッチョな禿頭の中年男性が座っていた。
「あ、茶はいいから、しばらくは呼ぶまで誰も通さないでくれ」
「分かりました」
ギルドマスターが案内してくれた受付のお姉さんが部屋から出るのを確認すると、ゴルドに尋ねる。
「で? わざわざ、お前が俺に話したいことってのはなんなんだ?」
「その前に紹介はないのかい?」
「ん? エリスは俺のことは知っているだろ? 今更なにを紹介しろってんだ?」
「そうじゃない、あんたの目にはそこの坊ちゃんとお嬢ちゃんは目に入ってないのかい?」
「ん? おう、そういや、見たことない顔だな。俺はここのギルドマスターをしているゴメスだ。よろしくな」
「はぁ、ギルマスか。あ、いや、俺はソルトです」
「レイよ。よろしくね。ギルマスさん」
「ギルマス? それは俺のことか? 嬢ちゃん」
「嬢ちゃんじゃなく、レイね。レイ。で、ギルマスはギルドマスターを縮めてみたの。ダメだった?」
「いや、いい。いいんじゃないか。ギルマス。うん、悪くないな」
「ふふふ、相変わらず若いのには甘いね」
「放っとけ! まあエリスは見た目だけは若いんだが、実際の年齢を知るとな」
「それこそ、放っときなさいよ」
「それより、話の続きをいいか? ってか、まだなにも話してはいないがな」
「「すまない」」
ギルマスことギルドマスターとエリスのじゃれあいが終わるのを待って、ゴルドが話しかけやっと本題に入る。
「で、ゴルドからの頼み事ってのはなんなんだ?」
「それはな、このソルトとレイのことだ。こいつらは元いた場所から、なにかの作用で魔の森に転移させられ、昨夜ここに辿り着いたんだ」
「待て! 魔の森からの帰還だと!」
「ああ、そうだ」
「こんなひょろっとした奴が?」
「ああ、昨夜は俺が門番から呼ばれて対応したからな。それは間違いない」
「そうか。で、俺にわざわざ相談したいってことは、こいつらのことか」
「そうだ。なんせ、転移してきたばかりで、こっちの言葉は話せるが文字の読み書きは出来ないそうだ。なにか気付かないか?」
「そういうことか」
「ちょっと待って、ゴルド。私にも分かるように教えてくれないか」
「エリスのところには伝説は残っていないのか?」
「伝説? なんのだ」
「勇者伝説だよ」
「「えっ!」」
ゴルドの口から出た内容にソルトとレイが思わず反応してしまう。
それを見たゴルドも反応する。
「二人の反応からすると当たりみたいだな」
「そうだな。でだ、ゴルドはどうしたいんだ?」
「そうだな、俺とエリスは女将からのお願いもあり、こいつらの面倒を見ることになったが、どう見ても勇者には見えないんだよな」
「確かにな」
「あの~」
ソルトはゴルドが話す勇者伝説に興味が湧き声を掛ける。
「なんだい、勇者殿」
「いや、俺は勇者ではなく巻き込まれた者で」
「あ! バカソルト! なんで言うのよ!」
「でも、もうしっかりバレているし。隠すのも無理でしょ」
「そりゃそうだけけどさ……」
「まあ、異世界人だからってなにも見せ物にする訳でもないから、その辺は気にするな。なあ、ゴルド」
「ああ、俺もエリスもお前達がどこから来たのかは詮索しない。だが、こっちで悪さをするつもりなら、それなりの対処をさせてもらうだけだ」
「「分かりました」」
「それで、なんで俺達が異世界人と分かっちゃったんでしょうか?」
「ソルトはそこが気になるのか?」
「ええ、そこを気をつければ今後の危険を減らせるかと思いまして。だから、ゴルドさん教えてください」
「そうか、分かったよ。じゃあ話してやるよ。いいか、よく聞け……」
ゴルドがソルト達を異世界人として認識出来た理由として、話せるが文字の読み書きが出来ないことが異世界人の特徴だと教えられた。
そして異世界人が元いた世界から、こちらへと渡ってくる時にギフトとして『言語理解』とユニークスキルが一つ付与されることも教えられた。この『言語理解』スキルは会話には不自由しないが、文字の読み書きまでは面倒みてくれないらしい。
「はぁそういうことなのね。なんだかしょぼい理由ね」
「もう一つ、なんでこの街に勇者伝説が残っているんですか?」
「ああ、それか。それはな……」
ゴルドがソルトの質問に答える形で、うろ覚えだがと断りつつ話を続ける。
ある王国で召喚された勇者は、その王国で、無茶振りとも言える内容の依頼を受けつつなんとか逃げ出す機会を探っていた時に隣国との戦争に駆り出されそうになり慌てて王国から逃げ出して、この街まで辿り着き、子を成し生涯を終えた。
「はぁ? じゃあ、なに私達って帰れないってこと?」
「そこまでは分からないよ。前の勇者はそのこと聞かない内に逃げ出したからね」
「まあ、そうね」
ゴルドの話を聞き終え、ソルトとレイが帰れないかもしれないと考える。レイは帰りたがっているが、ソルトとしては、元の世界に戻ったとしても誰かが待っているわけでもなく、思い残すことといえば、連載していた漫画の最終回くらいだ。
だが、帰りたいという気持ちも分からないではないので、とりあえずは出来るだけ協力してみようかなと考えてみる。
「じゃあ、ソルト達が勇者召喚に巻き込まれた形で来たってのは、お前達のその格好からしても本当らしいな」
「ああ、そうだった。だから、換金して服を買いたかったのに」
「なら、話は終わりでいいのか?」
「そうじゃない、ギルマス。だから、買取の件だがな。それで頼みがあって来たんだ」
「ゴルドよ、それってどういうことだ?」
「ソルト。ちょっと見せてもらってもいいか?」
「見せるって、なんのことです?」
「お前な、転移者だろ? なら、なにかのスキルで換金対象の物を持っているんだろ? なんせ手ぶらで換金するっていうくらいだからな」
「あ!」
「バカソルト!」
ゴルドの明確な指摘に思わず頭を抱えるソルトだが、ゴルドはもうバレバレなんだから、ここにいる連中には秘密にすることはないだろうと押し切られる形で、『無限倉庫』を持っていることを明かす。
「はぁ。俺に話して正解だな。こんなもの倉庫で見せられたら騒ぎになっていたぞ。で、なにを持って来たんだ?」
「ちょっと待ってください」
ソルトは頭の中に無限倉庫の中身をリストで確認する。
「え~と、オークが十七体、コボルトが三十四体、あとゴブリンの魔石が三個ですね」
「そうか、なら倉庫に案内しよう。そこで全部出してくれ。いいか?」
「ええ、お願いします」
ギルマスに案内され、ギルドの持つ解体倉庫へと向かう。
「お~い、ニックいるか?」
「なんだい。ギルドマスターか。どうした?」
ギルマスに呼ばれでっかい肉切り包丁を持った血だらけの男が奥から現れる。
「うわっ! スプラッターじゃん」
「なんだ? そのスプラなんとかってのは?」
「いいから、いいから気にしないで」
「俺のことは今後、ギルマスと呼んでくれ。ギルドマスターなんて長ったらしくないからいいだろ」
「それはいいが、それだけかい?」
「いや、ちょっとこれから見せることは口外しないと約束して欲しいんだがいいか?」
「なんだい、畏まって。まあ、いいぜ。その話せないほどのすごいなにかを見せてもらおうか」
「ああ、ソルト。ここに全部並べてもらえるか」
「はい、分かりました。じゃ、出しますね」
ソルトがギルマスの指示する場所へオーク十七体、コボルト三十四体を出す。
「ほぉお前さん、収納持ちかい。でも、こいつらは今倒したばかりのように暖かいが……もしかして時間停止も持っているのか?」
「はい、まあそんなもんです」
「こいつぁたまげた。こりゃギルマスのいうように簡単には人に話せないな」
「分かってくれたかい」
「ああ、分かった。よし、ソルトって言ったな。まずはこっちのコボルトは全部しまってくれ。あと、オークも五、いや三体を残して全部収納してくれ」
「ええ、そんな~これを換金してもらわないと、困るんです」
「そうか、でもな。これだけのを俺が解体するとなると、半分以上は腐らせることになるぞ」
「ソルトよ、まずはさっき言われた通り収納してくれ。なに悪いようにはしないから。安心しろ」
「分かりました。お願いしますよ、ギルマス」
「ああ、分かってる」
ソルトは不承不承ながら、オークを三体だけ残して全部を収納する。
「よし、これでいいな。じゃ、ニックよ。計算してもらえるか」
「ああ、いいぜ。ちょっと待ってな」
ニックが机の端でなにやら紙に書き込むとソルトに差し出す。
「これは?」
「これを受け付けに出せば、そこに買いてある金額を受け取れるぞ。また追加で出して欲しい時は呼ぶから、頼むな」
「はい、分かりました」
「で、いくらになったの?」
「ちょっと、待って……いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまんで六十万セル。六十万セルだって」
「へ~。で、それってどれくらいなの?」
レイの言葉にソルトも自分がこの世界の物価についてなにも教えてもらってないことに気付く。
「お、結構いい金額になったな」
「ゴルドさん、これってどれくらいの価値なんですか?」
「ああ、それもあるか。じゃあ、ギルマス。部屋に戻ってもいいかい?」
「そうだな、ここでする話じゃないな」
「よし、なら受付で換金してもらってから、またギルマスの部屋で話そうか」
「はい、分かりました」
解体倉庫を出ると、受付により換金して下さいとソルトがお願いすると、ゴルドが横から金貨一枚を細かくしてくれと追加でお願いする。
「どういうことです?」
ソルトが理由を尋ねてもゴルドは後から分かるとだけ、答えギルマスの部屋へ向かう。
ギルマスの部屋に入り、先ほどと同じように座ると同時にドアがノックされ、換金したものを受付のお姉さんが持ってきてくれた。
持って来てくれたトレイの上には革袋がいくつか置かれていた。
「まずは中を確認してくれ」
ギルマスに言われ、ソルトが中を確認すると金貨、銀貨、銅貨、鉄貨という風に分けて革袋に入れられていた。
「いいか、まずは一番小さい硬貨が、この鉄貨だ。この鉄貨が十枚で、次に銅貨一枚になる。そして銅貨百枚で銀貨一枚、次は銀貨百枚で金貨一枚だ。ここまではいいか」
「はい。だから、金貨五枚に鉄貨が十枚、銅貨が九十九枚、銀貨が九十九枚になるんですね」
「ああ、そうだ。なんだ計算は問題ないんだな」
「ええ、ソルトの方は問題ないみたいよ。そっちのお嬢さんは困っている見たいだけどね」
「レイ、全部が十進で硬貨の種類が変わらないんだよ。十進は鉄貨だけで後は、百倍だよ」
「なんだ、そうならそうと言ってくれればいいのに」
「ゴルドさん、硬貨の種類は分かりましたが、俺達にはこの六十万セルがどれほどの価値かが分からないんですよ。この街の物価とかで分りやすく教えてもらえないですか?」
「ふむ、そうか。あの宿なら一泊六千から7千と言えば分かるか?」
「ああ、なるほど。なら、元いた場所と対して変わらないですね」
「ソルト、どういうこと?」
「あの宿をビジホとして考えれば、大体向こうだと五千から高くても八千って考えれば、ほとんど変わらないって言えるでしょ」
「ああ、なるほど。じゃあ、私の服も買えるってことなのね。よかった~」
「え?」
「え? ってどういうこと?」
「だって、このオークは俺が倒したんだし……それはちょっと」
「え~なに、私はずっとこのままってこと。え、ちょっと待ってよ。私だってゴブリンの魔石を取ったじゃない。あれは? あれはいくらになるの? ギルマス!」
「そうだな、ゴブリンの魔石なら一個……」
「一個いくら?」
「確か……」
「もう、いくらなの!」
「百いかないくらいだな」
「そんな~」
「レイ、ほら」
ソルトが革袋から金貨を二枚取り出すとレイに握らせる。
「え! ソルト、いいの?」
「うん、とりあえず利子は無しにしといてあげるから」
「え? 利子……ってことはソルトに借金するってことなの?」
「嫌なら、別にいいけど」
ソルトがレイから金貨を返してもらおうと手を伸ばすが、レイがその手を払う。
「いいわよ。借りるわよ。そのうち、熨斗つけて返してあげるから! 待ってなさい!」
そのままギルマスの部屋から出ようとレイが立ち上がるが、エリスがそれを抑える。
「放してよ! 私は服を買いに行くの!」
「それ、全部使うつもりなの?」
「そうよ、悪い?」
「「「「はぁ」」」」
その場にいるレイ以外が嘆息する。
「エリスさん、レイが散財しないように着いていってもらえますか。後、おしゃれな服じゃなくて、冒険者として動きやすい服装でお願いします」
「分かったわ、任せなさい」
「あ、それと失礼ですが」
そう言って、ソルトがエリスに銀貨を三十枚ほど革袋に入れて渡す。
「報酬として十分かどうかは分からないですが」
「ふふふ、十分よ。そうね、お返しとして新しい下着でソルトのところにお邪魔しようかしら」
「「え?」」
「ふふふ、冗談よ。私は本気でも構わないけどね」
なにを想像したのかソルトの顔が赤くなる。
「ソルト、やめとけ。アイツもダテに歳はとっておらん」
「ゴルド、聞こえてるわよ。まあ、いいからゴルドもソルトを服屋に案内してあげなさいよ」
「そうじゃな。じゃ、ギルマスすまんかったな」
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