ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問3 条件による分岐を辿れ

問3-3

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 10秒くらい固まっていただろうか。

「ナニコレ」

 俺が目を開いてチョッキにそう聞くと、いつの間にかくつろいだ様子で座っていた彼は「なはは」とお気楽そうに笑った。

「見て分かるだろ、ネット記事だよ。昨日のアレの」

 チョッキのアバターは純白の豪奢な鎧を着こなした短髪の美丈夫だ。髪の色は輝くシルバー、目の色はキラキラとした緑の虹彩が印象的な聖騎士然としたアバターだ。背も高く、その長い足を大きく組んで体重を背に預けた姿は、座っているものがわしゃわしゃと音を立てる大きなビーズクッションで無ければどこぞの騎士団のエリートのように見えるだろう。

「なんだよこのタイトル」
「出回ってる記事の中で一番悪意があるやつを選んでみたんだけど、どうよ? 気に入った?」
「いらすか」

 俺はビーズクッションを蹴っ飛ばして抗議する。彼の体重が加わったクッションは俺の蹴りの力を吸収するだけで身じろぎもしなかった。
 それを見てまたチョッキは笑うと、急に真剣な顔で俺に向き合った。

「ところで、だ。りょーちん」
「ん?」

 こいつが真剣な表情をするのなんて、1年通しても数えるほどだ。俺も少し身を正して構えたが、出てきた言葉は、

「どこでミューミューちゃんと知り合ったんだ。嘘を吐くようだったら、俺はお前を――」

 息を大きく吸い込んで溜めている。

「――許さない」
「うるせえ」

 くだらない戯言だったので、俺はディスプレイ上で部屋のオブジェクトを操作してビーズクッションを収納した。

「あいたっ!」

 急に座っていたオブジェクトが消えたので、チョッキはそのままの格好で尻もちをついていた。

「なーにが『許さない』だ。俺は未だに彼女がどんな奴かあんまり知らないってのに」
「はぁ!? 嘘だろ!? どうしたらあの子の情報を仕入れずにゲームをやって来れたんだよ!!」
「いや、俺は蔵書室の情報もランク系じゃなくて限定イベントと新カードプレビューしか見ないからさ」
「……ああ、確かに、りょーちんはそういうタイプだったわ」

 一瞬でヒートアップし、一瞬で鎮火してしまった。せわしない男だ。

「じゃあ、俺がログインして無かった昨日、何があったか説明してくれるんだよな?」
「そのために呼んだ訳だし」

 俺とチョッキはテーブルを挟んで向かい合わせに座り直した。

「昨日の試合ゲームログがあるから、軽く流しながら説明するぞ」
「おっけ」

 テーブル全体をスクリーンに変更させると、俺はかいつまんでチョッキに説明を始めた。







 一通り事の顛末を話し終えた俺は、ついでに大量のメッセージと謎のプレゼントの事にも言及した。

「そりゃそうなるさ、りょーちん。ミューミューちゃんの配信専用チャンネルの登録ユーザー数、知ってる?」
「知るわけがない」
「20万」
「……冗談きついぞ」
「しかも、昨日の会見は、そこで放送されてたっぽい」
「マジか」
「マジマジのマジ」

 そりゃ一晩で拡散するわ!!
 1割しか配信を見てなかったとしても、あの会場の何倍だよ!

「で、このプレゼントとか、ちょっと怖くて見れてないんだけど、大丈夫だと思う?」
「知らん。メッセージは応援と怒りと嫉妬と入り混じってるだろうから、めちゃくちゃテンションが高くて何を言われても動じない気持ちのときに開けろ」
「わかった。メッセージもプレゼントもとりあえず封印しとく」

 今そんなものをぶち込まれても処理できそうにない。結局それらは無視というか、一時保留ということになった。
 残る問題は2つ。

「あと、今日この後で、俺そのミューミューと会う約束、あるんだよね」
「おっとさっそく逢瀬おうせか。お盛んだねぇ」
「……チョッキってたまに、いや結構そういう親父っぽいこと言うよな」
「あ、そう?」

 そういうところが無ければ、リアルでも高身長イケメンのハイパー出来る男オーラを出してるんだからもっとモテるだろうに。いや、そんなちょい変な部分も含めて既にモテてるか、こいつは。

「で、それの何が問題なんだよ」

 これに関しては少し恥ずかしいが、相談相手はこいつしかいない。俺はチョッキから顔を背けながらボソボソと告白した。

「俺、他のプレイヤーとほとんど一緒にやったこと無いし……」
「子供の恋愛か!!」

 馬鹿にされた。しかも大きな声で。
 チョッキはため息をつくと、優しい目をしてゆっくりしゃべってくれた。

「いつも通りやれよ、りょーちん。お前、やる時はやる奴だろ? 自信を持て。初めてなら失敗したって別に変な雰囲気にならないからさ。ただ、彼女の事を第一に考えろ。独りよがりは絶対に嫌われるからな」
「ベテランっぽい……」

 なんかいやらしい話をしている気分になってきた。
 チョッキは場の中心になるようなタイプなので、ゲーム内でもフレンドが多くいつも違うメンツと遊んでいるような奴だ。こいつに相談したのは、そういう面でのアドバイスがみずちよりよっぽど役に立つからだ。

「応援してやるよ、仕方ない」
「サンキュ。俺、うまく出来るかな?」
「お前……俺のミューミューちゃんに何する気だ」
「いや、何もしないけど」
「あ、ああごめん、言い方が卑猥だったから、つい」
「あと、お前のミューミューちゃんでもないだろ」
「それは勢いで言った」

 まあいいや。もう約束はしてあるんだ、なるようになるだろ。
 これ以上話してもチョッキの視線がどんどん哀れな者を見る目に変わっていきそうだったので話題を変えた。

「それと、こんなのも入ってた」

 俺は自分の画面に表示されたメッセージをテーブルの上に操作して映す。

「デザイアへの出演依頼、か。凄いな。これでりょーちんも晴れて有名人の仲間入りだな~」
「もう既に悪い意味で有名人では?」
「まあな。でもこの公式チャンネルに出るってのは、一種の承認だぞ」
「承認?」
「公式も注目する面白いプレイヤーですよ、っていう証みたいな感じ。ミューミューちゃんのチャンネルと違って、ネクロプレイヤーのほとんどが目にするだろう番組に出るわけだから、そこでの一挙手一投足が取りざたされたりするかもな」
「うーわ……。これ以上俺を追い込まないでくれよ……」
「何をしゃべるか決めとけよ」
「まだ出るって返信してないぞ」

 メッセージには、どういった趣旨の番組かといった説明と、諸々の注意事項。それと出演する場合の収録時間のお知らせなどが書いてあった。
 そして、一番下にはボタンが2つ。
 「承認して連絡する」と「出演拒否」だ。

「え、拒否するつもりなん? 嘘だろ?」
「いや、断れるなら断るだろ……。チョッキの話聞いてもっと出たく無くなったし。まだランクマッチすら未参戦なんだぞ? これ以上叩かれたくないわ」
「おいおいおいおい勘弁してくれよりょーちん。アレ出たくて仕方ない奴だらけなんだぞ!? 今回の一件がどうであれ、さっき見せてくれたあのミューミューちゃんとの一戦が公式の目に止まったって事だぜ!?」
「そう言われると、ちょっと嬉しいし勿体無い気もするけど……」
「ごちゃごちゃ言ってないでとりあえず出ろって! むしろ俺が出たい! なぜなら目立ちたいから!」

 チョッキがまたヒートアップしてきた。
 二人で「出ろ」「出ない」と進展しない問答を続けていると、突然普段外側から開くことは無い玄関扉が大きな音を立てて開いた。

「おっはよー!! 火香ちゃんだよー!!!」

「「は?」」
「あれ、チョッキがいる。よっす」

 そこには晴れやかな笑顔のみずちが立っていた。
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