婚約者の浮気現場を目撃したら、魔力が暴走した結果……

四馬㋟

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どうしてこんなことに……

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「エメリン嬢、ちょっといいか?」



 教室を出たところで、再び不審な動きをしているオリバー先輩に遭遇した。ジョシュアが近くにいないことを確認すると、ほっとしたように物陰から出てきて、私に話しかけてくる。



「マーガレットが体調を崩して、今医務室にいるんだ。本人は大丈夫だと言い張ってるんだが、心配でな。時間がある時にでも、様子を見に行ってくれないか? 女同士のほうが話しやすいだろうし」



 もしや女性特有のあれだろうかと察して、私は快く承諾した。

 早速その足で医務室へ向かう。



 養護教諭の姿はなく、私はまっすぐベッドに足を向けた。

 寝ているようなら黙って立ち去るつもりだったが、



「マーガレット先輩、具合はどうですか?」



 上体を起こして窓の外を見ていた先輩は、はっとしたようにこちらを向く。



「……エメリン、どうして」

「見舞いに来ました」



 マーガレット先輩の顔色は悪く、私の視線を避けるように俯いた。



「心配しないで。もうすぐ迎えの馬車が来るはずだから」

「早退されるのですか?」

「え、ええ」



 青ざめた顔で口数も少なく、会話を拒むように視線を逸らしている。

 何となく違和感を覚えたものの、体調が悪いせいだろうと思い、深くは考えなかった。



「でしたら荷物を取ってきましょうか?」

「まあ、悪いわ」

「構いません。できるだけ早く戻りますから」



 立ち上がった私は、ふと思い出して、



「そういえばゾフィーも、今日は休みらしくて」

「……そう」

「心配ですよね」



 マーガレット先輩は曖昧に微笑むと、



「ごめんなさい、本当に体調が悪くて……少し眠るわ」



 横になると、ぐったりした様子で目を閉じてしまった。




 ***




 私はマーガレット先輩の教室には立ち寄らず、校舎を出てまっすぐ寄宿舎へ向かった。どういうわけか、胸騒ぎがしたのだ。管理人に付いてきてもらい、ゾフィーの部屋をノックする。



「ゾフィー、いるの? いたら返事をして」



 朝から顔を見せないので、管理人の女性も心配しているようだった。

 試しにドアを開けようとするが、開かない。中から鍵をかけられているようだ。



「すみません、開けてもらえますか? 中で倒れている可能性もあるので」



 管理人に鍵を開けてもらい、中に入ると、



「ゾフィーっ」



 両手両足を紐で縛られ、床に倒れている彼女の姿があった。

 意識はあるらしいが、口を塞がれていて、声が出せないようだ。



「どうしてこんなことに……」



 私は慌てて彼女に駆け寄ると、拘束を解き、口を塞いでいた布を外した。



「まさかマーガレット先輩の仕業なの?」

「いいえ、違うわっ」



 口が利けるようになると、ゾフィーは私の肩を掴んで揺さぶった。



「お願い、今すぐ彼女を捕まえてっ。彼女は私じゃないっ。私じゃないのっ」



 その瞬間、先ほど感じた違和感の正体に気づいた。





『彼女が図書室で、どのような書物を読み漁っているのかはご存知?』

『魅了魔法、記憶操作、人体の入れ替わり――どれも物騒なものばかりです』



 

 私はゾフィーを見、呆然とつぶやく。



「貴女、マーガレット先輩……なのですか?」

「ああ、エメリン。良かった、気づいてくれて。ええ、そうよ。マーガレットは私よ」



 だったら先ほど、医務室にいた彼女は――



「彼女は全てを話してくれたわ。悪いのはお父様よ。彼女は被害者なのに……それなのに私は、彼女を受け入れることができなかった。突然、妹だと言われて――混乱してしまったの。ひどい言葉をぶつけてしまったわ。それで彼女……ゾフィーは怒り出して……」



 気づけばゾフィーと身体が入れ替わっていたらしい。

 目覚めた時には拘束されていて、助けを呼ぶこともできなかったそうだ。



「彼女、私の家に行くつもりだわ。お父様に会いに」



 ゾフィーの姿をしたマーガレット先輩は、恐怖のあまり、ぶるぶると震えていた。



「私のことはいいから、行って、エメリンっ。彼女を止めてっ」



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