ゴドウィン校のヴァンパイア達~望まぬ転生~

亜依流.@.@

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【92話】忘れさせて

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我ながらバカな選択だと思いながらも、振り切ったあとの気分は悪くなかった。


「ユラン様はご不在です。宜しければ伝言を承ります」

「え」


返答は予想と違っていた。

少し早く来すぎたのだろうか。
首を振ると、それきり返答はなくなった。

廊下の方へ戻り、窓から外を眺める。
空は、既に先程より薄暗くなっている。

もう少し待ってみよう。千秋はそう決めて、壁によりかかった。

あの快楽と痛みが与えられることを知りながら彼を待つのは、なかなか酷なことだった。
何度も挫けそうになりながら、その度唇を固く結んだ。

それから、少なくとも子一時間は待ったと思う。

ユランどころか、扉を開ける者は1人も現れない。
他にも出入りできる場所があるのかもしれない。
再びノブの前に立ち、先程と同じやり取りをする。


「ユラン様はご不在です。宜しければご伝言を承ります」


全く同じ応答に、千秋は、いいえと呟いた。
空はもうすっかり暗くなっている。
胸の奥から、何かがすとんと落ちて、納得してしまった。

そもそも、ユランが自分との約束を忘れたり放棄することは、何らおかしなことでは無い。
所詮自分は、彼の玩具なのだ。

何を思い上がっていたのだろう。
自分だって、痛い思いをしない方がいいに決まっている。

来た道を戻ろう。たんたんと踵を返した。

今から行けば、ウィルはまだいるかもしれない。
ユランのことなど自分も忘れて、好きにすれば良いのだ。
千秋は急ぎ足で門まで向かった。


「千秋!」


門の入り口に、スラリと背の高い人影があった。
走り寄って来た千秋の手を取り、ウィルは甲に触れるだけの口付けをした。

歯の浮くような言動は、彼がするととても様になってしまう。
グウの音も出ない。

「走ってきたの?」


甘いマスクが綻んだ。


「嬉しいよ」


千秋は言葉が浮かばなかった。
ユランがいれば、自分はここには来なかった。

ウィルは、優しくて、誠実で、頼りになって、そしてとても格好いい。
どこをとっても完璧で、素敵な人だ。

自分は、そんな彼を裏切るような真似をしたんじゃないだろうか?


「行こうか」


丘を少し下ると、一台の馬車が止まっているのが見えた。
立派な黒馬が誇らしげに鬣をなびかせている。
ウィルは千秋の手を引き、馬車の中へ導いた。

2人が中に乗り込むと、馬車はなめらかに走り出した。


「千秋」


馬車の中で、何度かキスをされた。
甘く呼ばれ、少し見つめられるのが合図だ。
3度目は自ら目を閉じてしまっていた。


「本当に嬉しいよ」







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