かみのかみ

八花月

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 目の前に仙一……モドキの身体が転がっている。見たところ普通の人間に見える。

 数日後、僕は再び漫喫の地下室に来ていた。

 僕がそっと降りていくと、モドキはあの古いパソコンのモニターに向かって何か作業らしきことをしていた。

 僕は躊躇わずその後頭部にゴツいスパナを振り下ろしていた。

 血は流れていないが、ピクリとも動かない。

 生きているのだろうか? 死んでいるのだろうか? 確かめる気も起らない。

 どうしたものか。せめてこれが人間だったのかどうかは確かめたほうが……。

 いや、やめよう。どっちみち後戻りは出来ないのだ。

 ちょうど、そう思い定めた瞬間、奇妙な笑い声が室内に響いた。ちょっと形容が難しいのだが、鈴の音のリンリンいう音の全てに濁点がついているような声である。

 想像してみても笑い声とは思えないだろうが、まあそうなのだ。

 決して綺麗な音ではないが、僕はなんだか救われた気がした。

 自分のしたこと、これからすることは間違ってないのだ、と。

 仙一氏の言うことを信ずるとするならば、ここには何かがひそんでいるらしい。

 そして仙一氏はそれを慰めるか封じるかするために絵と文字で構成された何か……マンガのようなものを描き続けているということである。

 俄かに信じがたい、荒唐無稽な話ではあるが僕はそれを信ずることにした。

 信じた上で僕はその、ここに密んでいるものを見てみたいと思ったのだ。

 その好奇心と、あの路地裏の仙一モドキの印象があまりに邪悪だったこともある。今、床の上に倒れている彼とあれは本当に同一人物なのだろうか? 最早確かめる術はない。

 僕は通販で買った一番小さい容器に入れたガソリンを五個ほど持ってきていた。これだけあれば足りるだろう。

 ちょっと迷って、僕はしずしずとガソリンを辺りに撒き始めた。途端にムワッと刺激臭が鼻をつく。

 和綴じ本の棚に一通り撒き終わり、仙一氏……モドキの前に立った。やはり少し逡巡して僕はその背中にガソリンを垂らし始めた。

 まるで何かの秘蹟を授ける司祭のように自分が荘厳な存在と化したような気になった。

 ガソリンは無くなった。油臭さでむせて倒れそうになる。早くすることを済ませてここを出たほうが良い。

 僕は倒れた身体の向こう側にあるパソコンを見遣った。

 今は何も表示されていないが、少なくとも否定はされていないと感じた。

「お別れだね」
 僕が語り掛けると、

「いや、ずっと一緒だよ」

と、返事がきた。ような気がした。
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