185 / 290
第2章 亜麻色の光
111 いってきます
しおりを挟む
「ねぇアリス」
一緒に寝る準備をしてベッドに横になったアリスに話しかける。
「ん?」
「明日の朝アリスが起きた時には俺はもういないと思うってさっき言ったでしょ? 全然そうなるつもりはないけど……俺が帰ってこなかったらどうする?」
今度は置いていかないでほしいと言われているし、本当に深い意味はないんだけどねー?
「怒るよ? 悲しいこと言わないで。そんなに危険なの?」
「ごめんね、ただ気になって聞いてみただけ。上手くいけばすごく危険だろうけど、短期間だからとりあえずは大丈夫なはずだよ」
「そっか。でもナギサの基準は当てにならないかな」
なんでよ。俺が普通じゃないみたいだからそんなこと言わないでほしいよねー。俺が死ぬ確率なんて寿命以外ならゼロに近いから大丈夫だけど、一緒に行くのはルーだけの予定だから危険が少ないわけでもないんじゃない? と思ってる。心配かけるだけだからアリスには言わないけど。
「俺が戻るまでの間、アリスはできるだけ一人にならないでね。精霊を護衛につけるとは言ったけど無敵というわけではないんだから。短期間だけど……敵も動くなら俺がいない間だろうし」
「うん。気を付けて行ってきてね」
「ん、ありがとー。おやすみアリス」
「おやすみなさい」
◇
「───ごめんね、アリス。俺はいつも君を悲しませてばかりだ。今回もまた泣かせてしまうかもしれない。俺がアリスを好きにならなければ良かったのに。君に嫌われるようなことができたら良かったんだけどな……俺の中で一番大きくてはっきりしている感情が大切な人への愛なんだよ。だからどうしても自分から離れてあげることはできない。本当にごめん」
アリスにだけは知られたくない。俺がこんなこと思っているなんてね。知ったらきっと悲しむよ。だけど寝ている今なら、ちょっとくらい良いでしょ? どんな形であれいつかは知られちゃうはずだし。
「……俺はね、何度生まれ変わっても世界で一番自分のことが嫌いだよ。誰よりも恨んでる。だから前世で死ぬ時、苦しんでる自分にざまぁって思っちゃった。本当に大嫌いで仕方ないから。だから……どんなに苦しむことになったとしても、俺は喜んで自分の守りたいものを守るよ。たとえそれで命を失ったとしてもね。俺のエゴでしかないけど、お願いだから守らせて。そして俺を嫌ってよ。怒ってよ。なんでまた約束を破るのって。アリスに嫌われることは俺にとって一番の罰だからね」
俺は何となく分かるんだよ。自分の未来が、結末が。もちろんそれが変わることもあるし、変えることだってできる。でも俺の心はまだ前世に囚われてる。桜井渚に恋愛なんて似合わないなって自分でも思うけど、それでもアリスのことを愛してるからね。俺は離してあげられない。だからお願いだよアリス、俺を嫌って。そうすれば俺は───
……きっと誰も知らないだろうね。精霊王の心がこれほど脆いとは。
◇
「みんな、おいで」
数時間後。まだ夜が明けきらない頃、俺は隣で眠るアリスを起こさないように部屋から出た。玉座の間に移動し、精霊達を集める。数秒も経たない内に俺が座る玉座の前にはすべての精霊の代表格のみが集結した。さすがに全員を集めると数が多すぎるからここにいる精霊達に伝達してもらう。
「俺は今から会合までの間、黒幕についての調査に行ってくる。ルーは俺と一緒に来て、他の精霊は君達四人が護衛に振り分けて。残りの子は世界中に散らばって何かあったら教えてね」
「御意。ルーはお手伝いだと聞いていますがナギサ様の護衛は不要なのですか?」
「俺に護衛なんていらないよ。みんなも知っている通り俺は強いからね。だから安心して俺が命じたことに集中して」
「承知致しました」
「もう……ほんとめんどくさい。俺は自由に楽に生きたいのにさ、なんでこうして動かないといけないのかな? 黒幕、絶対に許さない……」
絶対殺す。どんな奴らなのか知らないけど碌な奴じゃないでしょ。絶対に頭脳戦も肉弾戦も強いから警戒しないといけないし。まあ馬鹿だろうが弱かろうが、どんな奴であろうと俺の自由を奪っている時点でまともじゃないのは分かってる。
「面倒だから一々俺のところに話を持ってこないでね。俺にしか対処できないようなことと報告以外はシルフ達が何とかして」
「はい、お気を付けて」
「ががが、が、頑張って……」
「はいはーい」
今回、短期間と言っても一ヶ月近くはあるから、絶対に何かしらの収穫を得て帰ってくることを目標にしている。とはいえ、どんな相手か分からないし今のところ全くと言って良いほどに情報がないから頑張らないと。
「じゃあね、行ってきまーす」
【第2章・完結】
一緒に寝る準備をしてベッドに横になったアリスに話しかける。
「ん?」
「明日の朝アリスが起きた時には俺はもういないと思うってさっき言ったでしょ? 全然そうなるつもりはないけど……俺が帰ってこなかったらどうする?」
今度は置いていかないでほしいと言われているし、本当に深い意味はないんだけどねー?
「怒るよ? 悲しいこと言わないで。そんなに危険なの?」
「ごめんね、ただ気になって聞いてみただけ。上手くいけばすごく危険だろうけど、短期間だからとりあえずは大丈夫なはずだよ」
「そっか。でもナギサの基準は当てにならないかな」
なんでよ。俺が普通じゃないみたいだからそんなこと言わないでほしいよねー。俺が死ぬ確率なんて寿命以外ならゼロに近いから大丈夫だけど、一緒に行くのはルーだけの予定だから危険が少ないわけでもないんじゃない? と思ってる。心配かけるだけだからアリスには言わないけど。
「俺が戻るまでの間、アリスはできるだけ一人にならないでね。精霊を護衛につけるとは言ったけど無敵というわけではないんだから。短期間だけど……敵も動くなら俺がいない間だろうし」
「うん。気を付けて行ってきてね」
「ん、ありがとー。おやすみアリス」
「おやすみなさい」
◇
「───ごめんね、アリス。俺はいつも君を悲しませてばかりだ。今回もまた泣かせてしまうかもしれない。俺がアリスを好きにならなければ良かったのに。君に嫌われるようなことができたら良かったんだけどな……俺の中で一番大きくてはっきりしている感情が大切な人への愛なんだよ。だからどうしても自分から離れてあげることはできない。本当にごめん」
アリスにだけは知られたくない。俺がこんなこと思っているなんてね。知ったらきっと悲しむよ。だけど寝ている今なら、ちょっとくらい良いでしょ? どんな形であれいつかは知られちゃうはずだし。
「……俺はね、何度生まれ変わっても世界で一番自分のことが嫌いだよ。誰よりも恨んでる。だから前世で死ぬ時、苦しんでる自分にざまぁって思っちゃった。本当に大嫌いで仕方ないから。だから……どんなに苦しむことになったとしても、俺は喜んで自分の守りたいものを守るよ。たとえそれで命を失ったとしてもね。俺のエゴでしかないけど、お願いだから守らせて。そして俺を嫌ってよ。怒ってよ。なんでまた約束を破るのって。アリスに嫌われることは俺にとって一番の罰だからね」
俺は何となく分かるんだよ。自分の未来が、結末が。もちろんそれが変わることもあるし、変えることだってできる。でも俺の心はまだ前世に囚われてる。桜井渚に恋愛なんて似合わないなって自分でも思うけど、それでもアリスのことを愛してるからね。俺は離してあげられない。だからお願いだよアリス、俺を嫌って。そうすれば俺は───
……きっと誰も知らないだろうね。精霊王の心がこれほど脆いとは。
◇
「みんな、おいで」
数時間後。まだ夜が明けきらない頃、俺は隣で眠るアリスを起こさないように部屋から出た。玉座の間に移動し、精霊達を集める。数秒も経たない内に俺が座る玉座の前にはすべての精霊の代表格のみが集結した。さすがに全員を集めると数が多すぎるからここにいる精霊達に伝達してもらう。
「俺は今から会合までの間、黒幕についての調査に行ってくる。ルーは俺と一緒に来て、他の精霊は君達四人が護衛に振り分けて。残りの子は世界中に散らばって何かあったら教えてね」
「御意。ルーはお手伝いだと聞いていますがナギサ様の護衛は不要なのですか?」
「俺に護衛なんていらないよ。みんなも知っている通り俺は強いからね。だから安心して俺が命じたことに集中して」
「承知致しました」
「もう……ほんとめんどくさい。俺は自由に楽に生きたいのにさ、なんでこうして動かないといけないのかな? 黒幕、絶対に許さない……」
絶対殺す。どんな奴らなのか知らないけど碌な奴じゃないでしょ。絶対に頭脳戦も肉弾戦も強いから警戒しないといけないし。まあ馬鹿だろうが弱かろうが、どんな奴であろうと俺の自由を奪っている時点でまともじゃないのは分かってる。
「面倒だから一々俺のところに話を持ってこないでね。俺にしか対処できないようなことと報告以外はシルフ達が何とかして」
「はい、お気を付けて」
「ががが、が、頑張って……」
「はいはーい」
今回、短期間と言っても一ヶ月近くはあるから、絶対に何かしらの収穫を得て帰ってくることを目標にしている。とはいえ、どんな相手か分からないし今のところ全くと言って良いほどに情報がないから頑張らないと。
「じゃあね、行ってきまーす」
【第2章・完結】
30
あなたにおすすめの小説
「元」面倒くさがりの異世界無双
空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。
「カイ=マールス」と。
よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。
神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!
さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語
会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?
異世界魔物大図鑑 転生したら魔物使いとかいう職業になった俺は、とりあえず魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました
おーるぼん
ファンタジー
主人公は俺、43歳独身久保田トシオだ。
人生に疲れて自ら命を絶とうとしていた所、それに失敗(というか妨害された)して異世界に辿り着いた。
最初は夢かと思っていたこの世界だが、どうやらそうではなかったらしい、しかも俺は魔物使いとか言う就いた覚えもない職業になっていた。
おまけにそれが判明したと同時に雑魚魔物使いだと罵倒される始末……随分とふざけた世界である。
だが……ここは現実の世界なんかよりもずっと面白い。
俺はこの世界で仲間たちと共に生きていこうと思う。
これは、そんなしがない中年である俺が四苦八苦しながらもセカンドライフを楽しんでいるだけの物語である。
……分かっている、『図鑑要素が全くないじゃないか!』と言いたいんだろう?
そこは勘弁してほしい、だってこれから俺が作り始めるんだから。
※他サイト様にも同時掲載しています。
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
ただいま御褒美転生中!〜元召喚勇者は救った世界で、自作の自立型魔法創作物と共に自由を求める〜
いくしろ仄
ファンタジー
女神に頼まれ魔王を討ち倒したご褒美に、当人の希望通りの人生に転生させてもらった主人公。
赤ん坊から転生スタートします。
コメディ要素あり、ほのぼの系のお話です。
参考図書
復刻版鶴の折り紙・ブティック社
転生魔竜~異世界ライフを謳歌してたら世界最強最悪の覇者となってた?~
アズドラ
ファンタジー
主人公タカトはテンプレ通り事故で死亡、運よく異世界転生できることになり神様にドラゴンになりたいとお願いした。 夢にまで見た異世界生活をドラゴンパワーと現代地球の知識で全力満喫! 仲間を増やして夢を叶える王道、テンプレ、モリモリファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる