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第3章 動き出す思惑
50 お説教は当然です
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ルーの言う通り、俺は何度も魔力を暴走させたよ。でもルーは暴走させたこと自体に怒っているわけではないんだろうね。
魔力の暴走って、『暴走』というくらいだから普通は自分でするものじゃないし、わざとやろうと思っても簡単にはできない。
魔力暴走というのは主に感情が激しく乱れて制御できない段階に達したときに起こるもの。全身をズタズタに切り裂かれて、体の内側から炎に焼かれ、さらに全身を抉られてもまだ足りないくらいの痛み。藻掻き苦しみ、死んだ方が楽だと思ってしまうほど心と体に負担が掛かる。それが故意的なものならさらに負担が大きい。加えて、周囲への被害を抑えるために動こうと思えるだけの理性が残っていたなら、当然だけど何とかしようとするでしょ。
それもやってやれないことはない。だけどそれは周囲が受けるはずだった被害をそのまま自分の身に投じているのと同じ。
これに耐えられる人がどれだけいるだろうね。言葉だけでは絶対に伝わらない辛さ。それだけのことをルーが勘付くレベルで繰り返していたから、この子は怒って悲しんでいるんだと思う。
「俺はもう慣れてるよ。知ってるでしょ? 精霊王ナギサは生まれたその瞬間、世界に対抗するために魔力を暴走させた」
「……知っていますよ」
「今まで何回同じことを繰り返してきたと思ってる? どんなに苦しいこともいつかは慣れる。それが普通ならショック死するほど心身に負担をかけることだとしても、この俺が耐えられないわけないでしょ? 時間は有限なんだから手っ取り早い方法を選ぶのは当たり前のこと」
「分かっています。それでも心配なものは心配ですし、慣れても激しい苦しみが伴うことは変わりません」
たしかにそれはそう。特に、ルーは一度魔力暴走を体験した過去があるから余計に心配になるんだと思う。
「良いことを教えてあげようか」
「何ですか?」
「守りたいものがある人は……俺のように命懸けではなくても、大切なものを守るために行動できる人はいくらでも強くなれる。その気持ちこそが行動を起こす原動力だから。それにね?」
「……?」
「愛するものを守る力になるかもしれないのに、俺がやらないとでも思った? 頭のどこかで予想していたでしょ、俺が近い内に魔力を暴走させること。俺の覚悟を舐めてもらっては困るね。……愛するものは死んでも守る。自分の愛の重さは誰よりも自覚しているよ」
衝動的な感情がない。俺の感情の振れ幅は一定のラインを絶対に超えない。例外があるとすればそれは愛するものに関わった時だけ。だからこそ、俺はどんなに重くても自分の中にある『愛』を大事にするよ。
「……いつも思いますけど、重くはないですよ。愛情深いだけだと思います」
「そう? まあどちらでも良いよ。それより、そろそろ痛いから手を離してくれない?」
「誤魔化そうとしてます? これを聞くまで離しません。何回魔力暴走を起こしたのですか。十? 二十?」
良く覚えてたねぇ……ルーが忘れてくれるわけないか。俺の話は聞いてくれたけど、怒りはまだ収まっていなかったらしい。俺を抑えつける手にさらに力が入り、満面の笑みなのに目だけは笑っていないという、一番恐ろしい表情を俺に向けてきた。
「怒らないでよ?」
「約束はできません」
どうしようかな。絶対怒られるパターンだよねー? これ、お説教何時間コース? 勘弁してほしいけど……嘘を吐いたら絶対悪化するよねぇ……
「………五十……以上」
「───ゆっくりお話ししましょうね、ナギサ様?」
「やだ! 離して! 俺は逃げる……!」
「無理です」
「やーだー!」
その後は必死の抵抗も虚しく、まだ回復しきっていない魔力を早急に回復させるために転移魔法を使うように命令された。転移した先は火の宮。そこでしっかり魔力回復をしつつ、数時間コースの非常にありがたいお言葉をいただいた。お説教が終わる頃には魔力も完全回復していたね。どうせなら少しも魔法が使えないくらいまで魔力を使っておけば良かったな、というのが今回の反省点。そうすれば転移させられ、長時間お説教されることはなかったはずだから……
◇
魔力の暴走って、『暴走』というくらいだから普通は自分でするものじゃないし、わざとやろうと思っても簡単にはできない。
魔力暴走というのは主に感情が激しく乱れて制御できない段階に達したときに起こるもの。全身をズタズタに切り裂かれて、体の内側から炎に焼かれ、さらに全身を抉られてもまだ足りないくらいの痛み。藻掻き苦しみ、死んだ方が楽だと思ってしまうほど心と体に負担が掛かる。それが故意的なものならさらに負担が大きい。加えて、周囲への被害を抑えるために動こうと思えるだけの理性が残っていたなら、当然だけど何とかしようとするでしょ。
それもやってやれないことはない。だけどそれは周囲が受けるはずだった被害をそのまま自分の身に投じているのと同じ。
これに耐えられる人がどれだけいるだろうね。言葉だけでは絶対に伝わらない辛さ。それだけのことをルーが勘付くレベルで繰り返していたから、この子は怒って悲しんでいるんだと思う。
「俺はもう慣れてるよ。知ってるでしょ? 精霊王ナギサは生まれたその瞬間、世界に対抗するために魔力を暴走させた」
「……知っていますよ」
「今まで何回同じことを繰り返してきたと思ってる? どんなに苦しいこともいつかは慣れる。それが普通ならショック死するほど心身に負担をかけることだとしても、この俺が耐えられないわけないでしょ? 時間は有限なんだから手っ取り早い方法を選ぶのは当たり前のこと」
「分かっています。それでも心配なものは心配ですし、慣れても激しい苦しみが伴うことは変わりません」
たしかにそれはそう。特に、ルーは一度魔力暴走を体験した過去があるから余計に心配になるんだと思う。
「良いことを教えてあげようか」
「何ですか?」
「守りたいものがある人は……俺のように命懸けではなくても、大切なものを守るために行動できる人はいくらでも強くなれる。その気持ちこそが行動を起こす原動力だから。それにね?」
「……?」
「愛するものを守る力になるかもしれないのに、俺がやらないとでも思った? 頭のどこかで予想していたでしょ、俺が近い内に魔力を暴走させること。俺の覚悟を舐めてもらっては困るね。……愛するものは死んでも守る。自分の愛の重さは誰よりも自覚しているよ」
衝動的な感情がない。俺の感情の振れ幅は一定のラインを絶対に超えない。例外があるとすればそれは愛するものに関わった時だけ。だからこそ、俺はどんなに重くても自分の中にある『愛』を大事にするよ。
「……いつも思いますけど、重くはないですよ。愛情深いだけだと思います」
「そう? まあどちらでも良いよ。それより、そろそろ痛いから手を離してくれない?」
「誤魔化そうとしてます? これを聞くまで離しません。何回魔力暴走を起こしたのですか。十? 二十?」
良く覚えてたねぇ……ルーが忘れてくれるわけないか。俺の話は聞いてくれたけど、怒りはまだ収まっていなかったらしい。俺を抑えつける手にさらに力が入り、満面の笑みなのに目だけは笑っていないという、一番恐ろしい表情を俺に向けてきた。
「怒らないでよ?」
「約束はできません」
どうしようかな。絶対怒られるパターンだよねー? これ、お説教何時間コース? 勘弁してほしいけど……嘘を吐いたら絶対悪化するよねぇ……
「………五十……以上」
「───ゆっくりお話ししましょうね、ナギサ様?」
「やだ! 離して! 俺は逃げる……!」
「無理です」
「やーだー!」
その後は必死の抵抗も虚しく、まだ回復しきっていない魔力を早急に回復させるために転移魔法を使うように命令された。転移した先は火の宮。そこでしっかり魔力回復をしつつ、数時間コースの非常にありがたいお言葉をいただいた。お説教が終わる頃には魔力も完全回復していたね。どうせなら少しも魔法が使えないくらいまで魔力を使っておけば良かったな、というのが今回の反省点。そうすれば転移させられ、長時間お説教されることはなかったはずだから……
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