【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜

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番外編

【ナギサ誕生日記念】ベルフラワーの花束を

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 時間軸が合わないため、本編と切り離してお読みください。X(旧Twitter)に軽くタイトルの解説を載せています。



 ーーーーー



 「───ナギサ様、お誕生日おめでとうございます!」

 ここは地の宮。今日はいつも通り水の宮で過ごしていた。なぜかルーに仕事を取り上げられたので書庫で読書をしていたところ、精霊達に呼ばれて地の宮にやってきた。目の前にはセインくんやランスロットくん、エリオットくんにアリス、イレーナちゃん、精霊達もいる。周囲を見渡すと、俺が呼ばれた部屋は綺麗に飾り付けがされていた。

 ◇

 「お誕生日おめでとうございます、渚様」
 「ありがとうございます」
 「先日、また桜井で功績を上げられたそうですね。優秀でいらっしゃる跡取りを持たれて、ご当主様も安心でしょう」
 「そうですね」

 桜井渚十七歳の生誕パーティー。『渚』最後の誕生日も、俺は桜井家の跡取りとして多くの政治家や名家の人間の相手をしていた。
 誰も彼も口を開けば俺を褒めたたえ、持ち上げようとする。そして比較するように落ちこぼれと蔑まれる直人くんに視線を向けるまでが一つの流れ。

 俺がいる場では誕生日だろうと何だろうと桜井家の未来の当主に媚びを売る場に成り下がる。
 『桜井の恩恵を』『権力を上げたい』『次期当主と関わりを』などなど、俺に擦り寄る理由は様々だけど、一番多いのは『桜井の跡取りの懐に入り、あわよくば深真の長女を蹴落として自分の娘を婚約者に』というもの。
 だから俺は必要最低限しか会話をしない。弟に恋人、自分の大切な人を下に見るような奴に誰が心を許すか。俺が懐に入れるのは心から信頼している人だけ。信用しているけどもし裏切られたとして、裏切りを許せる相手にしか心を許したりはしない。

 本気の直人くんを相手にしてみな。一族全員路頭に迷うことになるよ。有栖を蹴落とそうとしてみな? 二度と逆らう気にはなれなくなる。俺が優秀なのは自分でも分かってるよ。それだけの努力をしているからね。だけど君達が見下している相手は自分よりよっぽど優秀なんだよ。俺を相手にするのとは違って、それを本当の意味で知った時にはもう手遅れだろうけど。

『渚様は優秀なだけでなく、立場関係なく接してくださるお優しい方だ』

 俺はそんな風に言われることが多かったけどね、それは外面しか見てないからだよ。どれだけ素っ気なくしていても、顔だけは笑顔を保っている。どこまでも俺の外面しか見ないからそんな勘違いをするんだよ? 必要最低限の会話しかしなくても俺の評判が落ちないのはそういうこと。どの方向から見ても、誰も跡取りではない俺に興味がないのなんて丸分かりだった。

 ◇

「……そういえば俺、今日は誕生日だったね。なんでみんな知ってるの?」
「アリス嬢に聞いたんだ。それでいつも世話になってるからみんなで祝おうという話になってな」
「そっか。別に気を遣わなくて良いんだよ? 俺もみんなの誕生日なんて祝ってないし、誕生日がいつなのかすら知らないんだから」

 精霊達も手伝ったのか、恐らく精霊の力を使ったであろう飾りもある。客室を使ったみたいだね。俺は基本的に誰も私室に入れない。大切な話がある時は別だけど、心を許している人達でもプライベートの空間に入れるのは苦手でね。例外はほぼ常に俺の傍にいる側近のルーと恋人のアリスくらいかな。精霊達はそれを知っているからこの部屋を使ったんだと思う。

「別に気を遣っているわけではありませんよ。友人が生まれた日を祝いたいと思うのは当然でしょう」

 ……前世の生誕パーティーに比べたらささやかなものだよ。だけど祝ってくれる人が違うだけでこんなに嬉しく思えるんだね。今まで俺の誕生日を心から祝ってくれる人なんて家族や深真家くらいしかいなかったけど、今世では友人達もいるのか。

「……そう。ありがとう。嬉しいよ」
「おいエリオット、こいつ本当に喜んでいると思うか……?」
「喜びと戸惑いが混ざってるんだろ。見ろ、視線が揺れてる」

 だって、打算のないお祝いがこんなに嬉しいものだとは思わなかったんだよ。家族に祝われるのとはまたちょっと違うし……

「ナギサ、これからは毎年お祝いするから覚悟しててね!」
「私もお祝いしますよ! 精霊王様のお誕生日を祝うことができる人なんて限られているはずですし、その中に私がいるのは嬉しいです。……あら? 私も祝って良いですよね……?」
「怖いねぇ。もちろん良いよ、イレーナちゃん。なんでそこで迷ってるの?」
「私は皆様に比べたらナギサ様と一緒にいることが少ないので」
「俺は祝ってもらえると嬉しいよ。君も友人の一人だからさ」
「そうですか? そういうことなら、遠慮なく!」

 たしかに彼らに比べたら親しくはないのかもしれないけど、それは関わるようになったのが一番遅いからだと思うんだよね。イレーナちゃんも俺もアリスと一緒にいることが多いんだから、最近はそれなりに絡んでいるはずだよ。少なくともその辺の人達に比べたら親しいのは間違いない。

「嬉しそうだね、アリス。何か良いことあった?」
「うん! ナギサ、『愛する人が幸せそうだと俺も嬉しい』っていつも言ってるでしょう? 私も同じだよ」
「そっか」

 愛されてるね、俺。別に俺は大切な人達に愛されたくて愛してるわけじゃないから、同じ気持ちを返してもらえなくても良いんだよ。俺の言う『大切な人』っていうのは、アリスや精霊達だけでなく友人のことでもある。ここに優劣はないよ。愛の種類は様々だけど、俺は何かあれば全員を救える順番で彼らを守る。
 愛されなくても、守らせてほしいとは思ってるよ。それなのに愛することを許されるだけでなく、こうして大切にしてもらえている。それが俺にとってどれだけ幸せなことかみんな知らないでしょ? いいよ、知らなくて。この気持ちは俺に独占させてほしい。

 今まで自分の誕生日なんて面倒なだけで興味を持つことはなかった。どうでも良かったんだよ。だけどさ、こんな風に大切な人達に祝ってもらえたら特別な日になっちゃうよね。

「みんな、ありがとね。次は俺が君達の誕生日を祝うよ。精霊王のお祝いだから期待しててね?」
「それは喜ぶべきなのか、それとも恐れるべきなのか分からないな」

 そんなことを苦笑しながら言われる。まあたしかに、『精霊王のお祝い』って言われると何をされるか分からなくて怖くなるかもしれない。でも安心して、俺も君達と同じような感じでやるよ。みんなも貴族だからこんな風に祝われたら俺の気持ちも分かるんじゃない?

 俺、これでも本当に喜んでいるんだよ。大切で大好きで、愛する人達に心から祝ってもらえているんだからね。
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