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悠久の城
【より、さらに】
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自らが心から信頼し、愛している人。
そんな人から“されること”、特に愛撫には不思議な力があるものだ。
自分のものとは違う手が体の線をなぞったり個人的な部分に触れる“愛撫”。通常他人相手であれば嫌悪感を抱いて当然の行為だが、しかしパートナーが行えばとろけるような心地の快感をも もたらすという…情事の前戯には欠かせない行為である。
穏矢にとってその愛撫を許す相手は、言うまでもなく真祐ただ1人だ。
いつも始まりは様々だが、とにかく抱きしめられたりうなじの辺りから腰の辺りまでを擦られたり、時折尻の肉をグッと持ち上げられたりしながら口づけを交わすと、彼はたちまち勃起して秘部をヒクつかせてしまう。
そして真祐の唇が首筋から鎖骨、そして胸へと移ってゆく頃にはすっかり情事のことしか考えられないくらいにトロトロになってしまうのである。
それらはなにもかも、穏矢のことを隅から隅まで知り尽くしている真祐だからこそ成しえる技だ。
ーーーーー
「あっ…そこ…うぅ………」
眉根を寄せて快感に見悶える穏矢。
彼の勃起した陰茎は真祐の口撫を受けている真っ最中だ。
込み上げてくる射精感によってふるふると震えているその柱は、小さくはないが凶悪というほどでもなく、奥深くまで咥えられると全体がすっぽりと覆われてしまっている。
これまでにも幾度となく行われてきた真祐による絶妙な舌遣いと速さの愛撫だが、それでも彼はまったく慣れることがなく、今この瞬間もすぐにでも射精したくなってしまうのをこらえるので精一杯だ。しかし耐えようとすればするほどむしろ我慢が難しくなり、たまらない。
あまりにも早く達してしまわないようにと脚や体に力が入っているのを見た真祐は陰茎から口を離すと、緩やかにそこを手で扱いながら「そんなに気持ちよかった?」と囁きかけてきた。
「穏矢、いつもこうすると耐えようとして…それを見てる俺も射精そうになる」
「んっ……」
興奮を途切れさせないようにと緩やかに扱かれ続けているせいで余計に射精感を煽られる穏矢。
いい加減白濁を放ってしまいたいところだが、ベッドで横になりながら2人で映画を見た後に、少し抱きしめ合ってイチャイチャしただけですぐに射精してしまうというのはあまりにもお粗末な気がして、また男としての矜持が傷つくような気がして、穏矢は『このまま扱かれたい』という思いを強引に振り切ると真祐のモノにも手を伸ばす。
寝間着の上からでもすでにはっきりと形が分かるくらいになっていた真祐の肉棒は直接手で包み込むと一回りググッと大きくなったような反応を示した。
とても熱く、大きなそれ。
根元の方から先の亀頭までを擦り、そしてカリ首のくびれたところを人差し指と親指でキュッと軽く締めると、真祐も眉根を寄せてくぐもった声を漏らす。
誰だってパートナーのそんな良さそうな反応を目にすれば、もっと自分の手で気持ちよくさせたいという気になるものだろう。
穏矢は自分がされてとても気持ちがいいこと、つまり口での愛撫をしようと真祐の下の方へと向かおうとした。
だが、それは真祐に止められてしまう。
「穏矢、穏矢はそういうことはしなくていいから」
明らかに興奮しながらも、下へ向かおうとする穏矢を抱き寄せて止めた真祐。
「………」
穏矢は大人しく胸に収まっているが、深く息を吐いて小さく不満感を表した。
実はこれまでにも穏矢は真祐のものを口に含もうとする度にこうして止められていたのである。
いつもはその後もなぜ止められたのかについては考える間もなくそれ以上の快楽におぼれてしまっていたので気にしたことはなかったのだが…今回ばかりはどういうわけかその理由が気になって仕方がない。
「…なんで僕にはさせないの、下手だから?」
「歯とかを当てないようにすればいいんでしょ…真祐にされてることを真似するよ、それならそれほど下手にはならないと思うんだけど……」
試しに一度…と再度下の方に向かおうとするも、真祐は「違うよ、そういうわけじゃない」と穏やかに微笑み、そして少し考えてから言った。
「…こうやって口でするのにもリスクがあるんだよ。男女共に病気になるリスクがあるってことが分かってる。穏矢にはいつまでも健康でいてほしいから…あんまりそういう危険のあることはしないでほしいってこと」
「フェラしてもらわなくても、こうやって手でしてもらうだけでも俺はすごく気持ちいいし興奮するから…それに俺は穏矢のこの火照った顔がそばにある方がいいし……」
ちゅっと額に口づけてくる真祐。
「…真祐は僕のを口でするじゃん。リスクがあるのに」
「俺は穏矢が気持ちよくなってくれればいいからね」
「…じゃあもう僕にもするのはやめて」
「気遣ってくれるの?」
「…別に。ただ自分のものをしゃぶってた口とキスするのはちょっと気分があれだからってだけ」
「…そう言われると…もう何も言えないな」
苦笑する真祐に(僕だって…真祐に健康でいてほしいと思ってるに決まってる)と思いながら口づける穏矢。
胸と胸をぴったりと重ね、下半身の硬いものを押し付け合うようにしながら過ごすベッドの上。
じっとりと体が熱くなってくれば、互いの上に乗ったり、上下を入れ替えるようにして転がり、ベッドのひんやりとしたところへと移動してさらに体を火照らせてゆく。
こうして体を密着させて絡み合っていれば、挿入の瞬間が待ちきれなくなっていくのも当然だろう。
「さねまさ…」
ちょうど挿入に良い体勢になったところでそう熱っぽく穏矢はねだる。
《今すぐに下腹部で触れ合っている硬いものを挿れてめちゃくちゃに突いてほしい》
彼の頭の中はそんな思いでいっぱいだ。
真祐は「ん…ちょっとだけ待ってて」と囁くと、穏矢の耳朶を甘噛みして、そしてベッドサイドテーブルの引き出しにあるコンドームの箱を手にした。
真祐の手際はとてもよく、本当に一瞬の間に挿入の支度が済んでしまう。
だが、その様子を見ていた穏矢は思わず「…ゴム、いらないのに」と呟いていた。
「なんで…いつもゴムするの、それ…やっぱ汚いからゴムしないと嫌ってこと?僕、すごく気を遣ってるし…ナマでも……」
「ナマでやっても…いいよ……」
『コンドームなど使用せず生で挿入してほしい』などというのは本当に言い出しづらいことであり、穏矢も真っすぐに真祐を見ながら言うことができずに視線をどこかベッドの端の方に向けてしまう。
口にした後で『なぜこんなことを言ってしまったのか』とすら思うようなことだ。
とはいえ穏矢の本心であることも事実である。
すると真祐は「違うよ、汚いからってことじゃない」と穏矢の髪を撫でつけながら話した。
「穏矢がすごく気を遣って準備してくれてるってことはよく分かってるし、俺だってナマでする感覚がどんな感じなのか気にならないって言ったら…それは嘘だ。でも」
「本来ここってこういうための場所じゃないだろ。女の人はある程度そういうものを受け入れるようにできてるけど、でもここはそうじゃない。だからすごく繊細ですごく傷つきやすいんだよ。たとえよく慣らして血が出ずに済んだとしてもやっぱり摩擦とかで見えないくらいの傷がつくことだってあるだろうし、それに…もしナマでして中に射精しちゃったりしたらそれのせいで体調を崩すってことにもなる。直前で抜き出したとしても少し中に残ってるだけで腹を痛めることになるし、射精されたのを掻き出そうとして指とかで傷つける可能性もある。たしかにゴム無しっていうのはある種の魅力があるけど、でもリスクも多いってことだよ」
「俺は穏矢のこと、すごく愛してるし大切に思ってる。だからこそ辛い思いは絶対にしてほしくないんだ。腹を痛めたり熱を出したり、薬を飲まなきゃならなくなるようなことはしたくないんだよ。こうしてヤる以上はどうしたってリスクをゼロにすることはできないけど、なるべくできることはして、ただ穏矢には気持ちよさだけを感じてほしいって…そう思ってる」
真祐は穏矢を抱き寄せながら頬や耳元の辺りに口づけた。
その動き一つ一つからはくすぐったくなるほどの愛情が感じられるようで、穏矢は思わずはぁっという熱い吐息を漏らしてしまう。
素肌が密着し合っていることで感じられるこの温もりとくすぐったさは他ではけっして味わうことのできないものであり、まさに愛を紡いでいる最中であるということを実感させられる素晴らしいものだ。
「穏矢…」
その静かな呼び声は挿入直前だったところを散々焦らされている穏矢から一切の理性というものを取り払い、そして腰と尻の割れ目のところにあてがわれている立派なものを中に導きたいという欲を駆り立てる。
「もう…いいから、早く…きて………」
穏矢は自らの尻の肉を手で押し拡げながら秘部を露出させた。
すると、すぐにその中心は真祐のものによって貫かれたのだった。
ーーーーーー
《心から信頼を寄せているパートナーとは コンドームなどを使用せずに生身のままで愛し合いたい》
それはたとえリスクがあることだと分かっていたとしても誰しもが抱く想いである。
けっしてナマで情事をいたすことが愛情の現われというわけではないものの、しかし相手の体の本当の熱や感触をゴム越しではなく直接感じたいという想いは誰だって抱いて当然なのである。(男女共に“ナマでする”ということに対してある種の背徳感を抱き、興奮するからだということもあるかもしれないが)
穏矢に対してリスクがあることを説いた真祐ももちろん同じだった。
彼だって本当はそういったものを使用せずに無茶苦茶に抱いてしまいたいという欲があるのだが、やはりそれによって起こりうる様々なことを考えてしまうとそうした行為への実現には踏み切ることができないのである。
だが、穏矢がそれによって不満を抱えていることもよく理解している真祐。
そこで彼は一計を案じた。
穏矢がナマでの行為について言及してから数日後のこと、再びベッドでそういう雰囲気になったときに彼はこっそりと購入していたものをベッドサイドから取り出したのだ。
「穏矢…今日はさ、これのどれかを使ってみるのはどうかな」
真祐が取り出して見せたもの。
それは数種類のコンドームの箱だった。
パッケージデザインも、書かれている文言も様々なそのコンドームが突然目の前にずらりと並んだことで目を瞬かせる穏矢。
真祐は言う。
「ナマでするのはアレだけど…でもこういうゴムの会社の人達は『ナマでするよりも気持ちいい』っていう製品を作ろうとしてるってのを随分前に聞いたことがあってさ。どっちかっていうとそれは“装着する側”に向けての言葉なんだろうけど…でもほら、見て?これなんかは途中に2個の『輪っか』が付いてるでしょ。この輪っか状に盛り上がってる部分なら…もっと穏矢の気持ちいいところを沢山刺激できるんじゃないかな」
「細かいツブツブが付いてるのもあったんだけどそれは摩擦が強くなっちゃいそうだったからやめておいたんだ。大きいツブツブがいくつか付いてるなら面白いかもしれないけど、ヤスリみたいになっちゃう気がしてさ…せっかく付けるのに結局痛みが出るようだと困るからね」
真祐が示した箱にはたしかにコンドームの形状が普通のものとは異なることが書かれている。
他にも温感ゼリーが使われているものやゴムの柔らかさにこだわっているもの、さらには高密着性のゼリーが使われているものなど…これまで体験したことのないような文言が書いてあるコンドームばかり。
その種類の豊富さに釘付けになって興味を示す穏矢に、真祐は「全部ちゃんとポリアクリル酸ナトリウムが使われてないやつだっていうのも調べてあるから大丈夫」と伝える。
ポリアクリル酸ナトリウム。
聞き慣れないその単語に穏矢が「ぽり…ってなにそれ」と聞き返すと、真祐は「色んなローションに含まれてる成分のことだよ」と肩を抱きつつ応える。
「ポリアクリル酸ナトリウムっていうのは水分を吸う性質がある物質で紙オムツとかにも使われてるんだけど、ぬめり成分の元にもなるんだ。だからローションにもよく成分表示されてたりする。でもその“水分を吸う性質”ってのが却って良くなかったりするんだよ。だから基本的にこの成分が含まれてるローションとかはあくまでも胸とかへのマッサージ用で体の中には入れない方がいいんだけど、挿入にも使えるって謳ってるものの中には含まれてることもあってさ。少しならそんなに影響はないんだろうけど…やっぱりそれが原因で体調を崩すことになったら元も子もないし、避けるに越したことはないでしょ」
挿入に適した潤滑剤と、そうではないマッサージや愛撫に適した潤滑剤。
そんな違いなど気にしたこともなかった穏矢はいつも自分達が使っている潤滑剤がオイルであることを指摘する。
真祐は「そう。俺達はいつもマッサージとかに使う植物性のキャリアオイルを使ってる」と愛用品のオイルが入ったポンプ容器を手に取った。
「胸とか全身をマッサージするときと挿入れる時とで使い分けずに済むからね。オイルは使いすぎるとベタベタになるしゴムによってはオイルとの相性が悪くて溶けちゃったりもするから注意が必要だけど、でも全身の保湿にも使えるものだから肌馴染みがいいだろ。…実際 穏矢の肌はすごく…すべすべでとぅるとぅるだし、いつも滑らかだ」
寝間着の中に滑り込んだ手が脇腹や乳首をかすめ、穏矢は背筋から腰や尻にびりびりという電流が走ったかのようになって頬を染める。
たちまち彼の乳首はピンと勃って摘まめるくらいになった。
包み込み、摘み、揉む。
そのすべての動きは下半身にもつぶさに伝わる。
さらに真祐の大きく温かな手が胸や背や腰を彷徨い、唇がうなじと耳と頬に触れ、時々ぎゅっと強く抱きしめられると、少し息苦しくなるくらいのそれが愛の深さを知らしめているようで嬉しくもなる。
穏矢は口づけと愛撫を受け入れながら、抑えきれない火照りに突き動かされるように何気なく手にしたままだった箱を真祐へと差し出してさらなる行為を誘った。
彼が差し出したのは形状が普通のものとは異なる、輪っか状の突起が特徴的なものだった。
「じゃあ…今日はこれを使ってみようか」
穏矢は真祐の寝間着を脱がしながら《いつもとは違うものを試す》という目的によって激しく興奮を掻き立てられるままに真祐の寝間着を脱がしていった。
ーーーーー
耳たぶを甘噛みする音
触れたかどうかあいまいなほど繊細な睫毛の感覚
控えめな吐息
真祐による前戯というのは毎度のことながら余念がない。
あちこちを攻め、焦らし、穏矢が数回軽く絶頂して我慢できなくなるまでそれを繰り返しながらこれでもかというほど愛を知らしめるのである。
特に今夜は初めて使う種類のコンドームだということもあり、指に装着させての秘部のほぐしもいつも以上にしっかりと丁寧に時間をかけて行われた。
丁寧に時間をかけたのは、真祐いわくこの製品が穏矢の体に合うものかどうかを確かめるためらしい。
製品によってはアレルギー反応を示す素材(ゴムでいうとラテックスなど)が使われていることもあるため、これまでにそういった反応を示したことがなくてもきちんと試してから使うべきなのだという。
あまりの用意周到さに穏矢は『そこまでしなくても』と思うのだが、真祐はそれこそが愛なのだと言って聞かない。
「言っただろ、俺は穏矢のことを大切に思ってるんだって。もしいきなり中まで深く挿入れて何かあったら辛い思いをするのは穏矢なんだから…こういうことはきちんとしないと」
細やかなその気遣いが愛しているからであるとはっきり言われることの恥ずかしさはなかなかのものだろう。
嬉しいやら恥ずかしいやらでいっぱいいっぱいにさせられながらも、穏矢は真祐による念入りな“ほぐし”を受け続けた。
しかし指に装着して秘部の浅いところだけに挿入れられているだけではこのコンドームの持ち味というのを実感することはできない。
このゴムが真価を発揮するのは、やはり男根に装着、そして挿入されてからのことなのである。
十分にほぐされて柔らかくなった後、真祐はそれからまた少し会陰を優しく押して外側から前立腺の辺り、つまり穏矢の良いところを刺激して、そしてついに挿入への支度を整え始めた。
見た目からしていつものものとは違うそれ。
真祐の方も存外興奮しているようだ。
穏矢が挿入に備えて両足を広げると、真祐はその間に割って入りつつ、穏矢の頭の下にある枕を少し手前に引き寄せて、わざと穏矢に“繋がるところ”が見えるようにした。
「穏矢…俺のが自分の中に入っていくところ、見る…?」
「あ…あっ……」
「………っ」
先端がゆっくりと自らの中を拓いてゆくその様子を、穏矢は秘部の感覚と視覚とでありありと味わう。
勃起して腹にぴったりとくっつくほど反り返った自身の陰茎。その向こう側に見えていた真祐の色濃い亀頭がそのまま姿を消していく様は信じられないほど官能的で、淫靡で、淫らだ。
大きなその先端をなんとか呑み込み終えると、次に陰茎は中ほどまで挿し込まれる。
だが、穏矢はそこで驚きに目を見張った。
なんと挿入の途中だというのに、まるで2つ目の亀頭が自らの中に入ってきたかのような感覚を覚えたのである。
「っ…~~~!!」
それこそがこのコンドームの特徴だった。
『勃起した陰茎の先端とくびれがもたらす快感が竿の部分で再現されている』のだ。
根元まできっちりと挿入が済み、舌を絡める口づけを交わしながら少し馴染むのを待った後、真祐はいよいよ抽挿を開始する。
そうして穏矢は新しい製品の真髄を味わうことになった。
「っあ!!はぁっ、あっ……!!!」
元々、挿入で気持ちよくなるポイントは『奥を突かれること』と『浅めのところにある前立腺を攻められること』だった穏矢。
しかし通常は奥を突かれていると前立腺の辺りは滑らかな竿による緩やかな刺激しか味わうことができず、浅いところを攻められていると奥の方がおざなりになってしまうので、そのどちらもを一度に感じることなどできるはずがなかった。
しかし、このコンドームはその2つの快感を《同時に味わう》ということを可能にしたのである。
深くまで突き挿れた陰茎で奥の部分をコツコツと小刻みに叩くようにすると、ちょうどコンドームの輪っか状に隆起している部分が穏矢の前立腺の辺りをゴリゴリと刺激する。
それはまさに“えもいわれぬ快感”だ。
奥と、浅いところと。
コツコツと、ゴリゴリと。
「~~~っ!!!」
穏矢はもはや喘ぎ声すら上げられなくなりながらその快感に激しく身悶えた。
目を見開いたり、眉根を寄せてぎゅっと閉じたり、全身を縮こまらせたり足を伸ばしてみたり。
喉を後ろに反らせたり、逆に俯いて結合部に目を向けたり。
あまりにも強く何度も押し寄せてくる悦楽の波にどうしたらいいのかと戸惑っているような様子でひたすら荒い呼吸を繰り返す穏矢。
…腰を動かしている真祐の方も、これまでとは明らかに違う挿入感や快感を感じてすっかり夢中になっていた。
というのも、いつもは単調になりすぎるのを防ぐためにも根元から先端までを抜き出して行なう大きな動きの抽挿も途中で行うなどしたりしていたのだが、内側を大きく擦る動きというのはその分『摩擦で体内を傷つけてしまう恐れ』もある上に『何度もしていると動いている側にも負担がかかる』という欠点があるものなので彼はいつも少し動き方に気をつけていなければいけなかったのだ。
このコンドームを付けていればこうして小刻みに動くだけでも、いや、むしろ小刻みに動くからこそ気持ちがいいので心身ともに余裕を持ったまま行為を続けることができる。
それに、小刻みに動くことのもう一つの利点として『双方の体の密着度も高いままを維持できる』というのがあった。
固く抱き合いながら小刻みな抽挿をしていると、互いの体温や鼓動がつぶさに感じられるだけでなく真祐の胸や下腹部に穏矢の乳首や陰茎までもが密着してくるので、彼がどれほど快感を感じているかがありありと分かるのである。
行為の最中にパートナーが感じているというのがはっきりと分かれば分かるほど興奮というのは増々掻き立てられるものだ。
真祐は自らの感覚を頼りに、ゴムの輪っか状になっている部分が穏矢のいい部分を引っ掻いていることを確認しつつ、ひたすらそこを攻め続けた。
時には緩急をつけて。
ごりごりと引っ掻いては、ゆっくりと押しつぶすようにしてみたり。
「はぁっ…はぁ……ぁっ………」
一切止むことがない抽挿を一身に受け入れながら目を潤ませるほど数え切れないほどの絶頂を迎える穏矢。
真祐はそんな穏矢の片足を胸に抱きしめると、仕上げだといわんばかりに腰を捩らせた穏矢の中をさらに突いて攻めた。
体の微妙な捩れによって体内の締まり具合もぐっと強くなり、真祐の陰茎はちぎられてしまいそうなほどにまでなる。
「うっ……っ、しずなお…しずなお………」
縋るようにして、自らの頭の下にあった枕を抱く腕に目一杯の力を込める穏矢。
やがて 真祐と穏矢は揃って体を震わせて絶頂を迎えた。
とても大きなその絶頂はなかなか止まず、体がじんわりと痺れたようになりながら、彼らは互いのビクつく感覚によってさらに数回甘く絶頂し続ける。
穏矢の体内の奥深くに挿し込まれていた真祐の先端では、精液溜まりがはちきれてしまいそうなほどの大量の精液が放たれていたのだった。
ーーーーー
「………」
事後の気だるげな時間。
いつもであれば一通りさらに愛撫をしてからシャワーを浴びるかこのまま眠るかという話をする頃合いだが、ベッドに横になったままの穏矢は何かを熱心に見つめている。
彼が見ているのは…先ほど利用したコンドームの箱だ。
パッケージをまじまじと見ては裏に書いてある商品説明を上から下まで端から端まで熱心に読み込んでいる。
『まるで亀頭が2つあるような新感覚!』
『薄さと程よい弾力を実現させた気持ちよすぎるコンドーム!!』
『奥も手前もダブル攻め!』
製品のイラスト共にそんな文言が書かれているパッケージだ。
「それ、気に入ってもらえたみたいで良かったよ」
箱の表と裏、そして側面に至るまでどんな些細な情報も逃さないというほどに食い入るようにしながら見ている穏矢に真祐が声をかけると、穏矢は箱から目を離さずに「この輪っかになってるところって、ちょっと盛り上がってるだけ?それとも結構はっきり形になってる?俺あんまり見てなかった」と実際の形状について興味津々に訊いてくる。
先ほど使ったゴムをもう1度見せてほしいとまで言い出したので、真祐が「もう縛って捨てちゃったよ」と苦笑すると、穏矢は「…そっか」と名残惜しそうにゴミ箱の方を見遣った。
本当に心底気に入られたらしいコンドーム。
真祐が「これ、また買おうか」と提案すると彼はすぐに頷いた。
「これからも使いたい。これがいい」
「うん。じゃあそうしようか」
新しい楽しみが増えたようで、そしてなにより2人の情事のためにと購入したものを穏矢が気に入ってくれたようで嬉しい真祐。
だが、彼は次第に穏矢がこのコンドームを気に入りすぎているという事実を不安に思い始めたのだった。
たしかにこの製品を提案したのは自分だが、しかしこの特殊形状のものをこれからも使いたいといわれるということは…それはつまり『もう普通のコンドームは使わない』ということではないか、と。
(いや…まさかそんな……)と思いながら真祐は「なぁ、次はこの『ごく薄ウルウル生感』っていうのを使うのはどう?」と別の箱を差し出してみるも、穏矢はそれをパッと見てからあまり乗り気ではない様子をみせる。
「これ…?」
「そう、このゴムもいいんじゃない?」
「……」
「ほら『こだわりジェルをたっぷり』って。密着度が高いらしいよ」
「………」
「え、あんまり興味ない?」
「うん」
興味が湧かないかという問いに対して即答した穏矢。
その直後、穏矢が発した言葉に真祐は絶句することになる。
「だってこれ普通のでしょ。さっきのみたいにどっちも攻めるのはできないじゃん」
「普通のはもういいや」
………
《普通のはもういい》
それはつまり、穏矢の言うことを要約すると『普通の形をしたナマのような陰茎には興味がない』ということだった。
たしかに初めは『ナマでする以上に気持ちよくなれるゴムを』ということでこれらのものを勧めたが、まさか『普通のにはもう興味がない』というところまでいくとはまったく思いもしていなかった真祐。
彼は穏矢が気持ちよさを感じたのは自分の技術ではなく“特殊形状のコンドームそのもの”であるということにあせりを感じ、用意していた他の種類のものを慌てて見せる。
「ほらっ、これは温感タイプなんだけど、どう…!?」
「こっちのは『めちゃ柔らかゴム』だって!柔らかくてほとんど素肌と同じ感じらしいよ…!」
「変わった形のばっかりじゃなくてさ、普通のも使おうよ、俺の…俺の本来の形が分かるようなやつ…!」
そう言いながら箱を手渡す真祐だが、当の穏矢は「う~ん」と生返事をしつつそれほどの熱意もないまま箱を見ている。
情事に良くも悪くも新たな風をもたらしたコンドーム。
真祐の心中は複雑である。
だが、なんにせよ2人の性生活がよく潤っているというのは間違いない。
そしてそれが揺るぎない事実であることも疑う余地はない。
真祐と穏矢はそれからもしばらくベッドの上で『あぁでもないこうでもない』と言いながら夜の秘められた時間を過ごしたのだった。
ーーーーーーー
次回は11月2日(日曜日)の14時更新予定です
そんな人から“されること”、特に愛撫には不思議な力があるものだ。
自分のものとは違う手が体の線をなぞったり個人的な部分に触れる“愛撫”。通常他人相手であれば嫌悪感を抱いて当然の行為だが、しかしパートナーが行えばとろけるような心地の快感をも もたらすという…情事の前戯には欠かせない行為である。
穏矢にとってその愛撫を許す相手は、言うまでもなく真祐ただ1人だ。
いつも始まりは様々だが、とにかく抱きしめられたりうなじの辺りから腰の辺りまでを擦られたり、時折尻の肉をグッと持ち上げられたりしながら口づけを交わすと、彼はたちまち勃起して秘部をヒクつかせてしまう。
そして真祐の唇が首筋から鎖骨、そして胸へと移ってゆく頃にはすっかり情事のことしか考えられないくらいにトロトロになってしまうのである。
それらはなにもかも、穏矢のことを隅から隅まで知り尽くしている真祐だからこそ成しえる技だ。
ーーーーー
「あっ…そこ…うぅ………」
眉根を寄せて快感に見悶える穏矢。
彼の勃起した陰茎は真祐の口撫を受けている真っ最中だ。
込み上げてくる射精感によってふるふると震えているその柱は、小さくはないが凶悪というほどでもなく、奥深くまで咥えられると全体がすっぽりと覆われてしまっている。
これまでにも幾度となく行われてきた真祐による絶妙な舌遣いと速さの愛撫だが、それでも彼はまったく慣れることがなく、今この瞬間もすぐにでも射精したくなってしまうのをこらえるので精一杯だ。しかし耐えようとすればするほどむしろ我慢が難しくなり、たまらない。
あまりにも早く達してしまわないようにと脚や体に力が入っているのを見た真祐は陰茎から口を離すと、緩やかにそこを手で扱いながら「そんなに気持ちよかった?」と囁きかけてきた。
「穏矢、いつもこうすると耐えようとして…それを見てる俺も射精そうになる」
「んっ……」
興奮を途切れさせないようにと緩やかに扱かれ続けているせいで余計に射精感を煽られる穏矢。
いい加減白濁を放ってしまいたいところだが、ベッドで横になりながら2人で映画を見た後に、少し抱きしめ合ってイチャイチャしただけですぐに射精してしまうというのはあまりにもお粗末な気がして、また男としての矜持が傷つくような気がして、穏矢は『このまま扱かれたい』という思いを強引に振り切ると真祐のモノにも手を伸ばす。
寝間着の上からでもすでにはっきりと形が分かるくらいになっていた真祐の肉棒は直接手で包み込むと一回りググッと大きくなったような反応を示した。
とても熱く、大きなそれ。
根元の方から先の亀頭までを擦り、そしてカリ首のくびれたところを人差し指と親指でキュッと軽く締めると、真祐も眉根を寄せてくぐもった声を漏らす。
誰だってパートナーのそんな良さそうな反応を目にすれば、もっと自分の手で気持ちよくさせたいという気になるものだろう。
穏矢は自分がされてとても気持ちがいいこと、つまり口での愛撫をしようと真祐の下の方へと向かおうとした。
だが、それは真祐に止められてしまう。
「穏矢、穏矢はそういうことはしなくていいから」
明らかに興奮しながらも、下へ向かおうとする穏矢を抱き寄せて止めた真祐。
「………」
穏矢は大人しく胸に収まっているが、深く息を吐いて小さく不満感を表した。
実はこれまでにも穏矢は真祐のものを口に含もうとする度にこうして止められていたのである。
いつもはその後もなぜ止められたのかについては考える間もなくそれ以上の快楽におぼれてしまっていたので気にしたことはなかったのだが…今回ばかりはどういうわけかその理由が気になって仕方がない。
「…なんで僕にはさせないの、下手だから?」
「歯とかを当てないようにすればいいんでしょ…真祐にされてることを真似するよ、それならそれほど下手にはならないと思うんだけど……」
試しに一度…と再度下の方に向かおうとするも、真祐は「違うよ、そういうわけじゃない」と穏やかに微笑み、そして少し考えてから言った。
「…こうやって口でするのにもリスクがあるんだよ。男女共に病気になるリスクがあるってことが分かってる。穏矢にはいつまでも健康でいてほしいから…あんまりそういう危険のあることはしないでほしいってこと」
「フェラしてもらわなくても、こうやって手でしてもらうだけでも俺はすごく気持ちいいし興奮するから…それに俺は穏矢のこの火照った顔がそばにある方がいいし……」
ちゅっと額に口づけてくる真祐。
「…真祐は僕のを口でするじゃん。リスクがあるのに」
「俺は穏矢が気持ちよくなってくれればいいからね」
「…じゃあもう僕にもするのはやめて」
「気遣ってくれるの?」
「…別に。ただ自分のものをしゃぶってた口とキスするのはちょっと気分があれだからってだけ」
「…そう言われると…もう何も言えないな」
苦笑する真祐に(僕だって…真祐に健康でいてほしいと思ってるに決まってる)と思いながら口づける穏矢。
胸と胸をぴったりと重ね、下半身の硬いものを押し付け合うようにしながら過ごすベッドの上。
じっとりと体が熱くなってくれば、互いの上に乗ったり、上下を入れ替えるようにして転がり、ベッドのひんやりとしたところへと移動してさらに体を火照らせてゆく。
こうして体を密着させて絡み合っていれば、挿入の瞬間が待ちきれなくなっていくのも当然だろう。
「さねまさ…」
ちょうど挿入に良い体勢になったところでそう熱っぽく穏矢はねだる。
《今すぐに下腹部で触れ合っている硬いものを挿れてめちゃくちゃに突いてほしい》
彼の頭の中はそんな思いでいっぱいだ。
真祐は「ん…ちょっとだけ待ってて」と囁くと、穏矢の耳朶を甘噛みして、そしてベッドサイドテーブルの引き出しにあるコンドームの箱を手にした。
真祐の手際はとてもよく、本当に一瞬の間に挿入の支度が済んでしまう。
だが、その様子を見ていた穏矢は思わず「…ゴム、いらないのに」と呟いていた。
「なんで…いつもゴムするの、それ…やっぱ汚いからゴムしないと嫌ってこと?僕、すごく気を遣ってるし…ナマでも……」
「ナマでやっても…いいよ……」
『コンドームなど使用せず生で挿入してほしい』などというのは本当に言い出しづらいことであり、穏矢も真っすぐに真祐を見ながら言うことができずに視線をどこかベッドの端の方に向けてしまう。
口にした後で『なぜこんなことを言ってしまったのか』とすら思うようなことだ。
とはいえ穏矢の本心であることも事実である。
すると真祐は「違うよ、汚いからってことじゃない」と穏矢の髪を撫でつけながら話した。
「穏矢がすごく気を遣って準備してくれてるってことはよく分かってるし、俺だってナマでする感覚がどんな感じなのか気にならないって言ったら…それは嘘だ。でも」
「本来ここってこういうための場所じゃないだろ。女の人はある程度そういうものを受け入れるようにできてるけど、でもここはそうじゃない。だからすごく繊細ですごく傷つきやすいんだよ。たとえよく慣らして血が出ずに済んだとしてもやっぱり摩擦とかで見えないくらいの傷がつくことだってあるだろうし、それに…もしナマでして中に射精しちゃったりしたらそれのせいで体調を崩すってことにもなる。直前で抜き出したとしても少し中に残ってるだけで腹を痛めることになるし、射精されたのを掻き出そうとして指とかで傷つける可能性もある。たしかにゴム無しっていうのはある種の魅力があるけど、でもリスクも多いってことだよ」
「俺は穏矢のこと、すごく愛してるし大切に思ってる。だからこそ辛い思いは絶対にしてほしくないんだ。腹を痛めたり熱を出したり、薬を飲まなきゃならなくなるようなことはしたくないんだよ。こうしてヤる以上はどうしたってリスクをゼロにすることはできないけど、なるべくできることはして、ただ穏矢には気持ちよさだけを感じてほしいって…そう思ってる」
真祐は穏矢を抱き寄せながら頬や耳元の辺りに口づけた。
その動き一つ一つからはくすぐったくなるほどの愛情が感じられるようで、穏矢は思わずはぁっという熱い吐息を漏らしてしまう。
素肌が密着し合っていることで感じられるこの温もりとくすぐったさは他ではけっして味わうことのできないものであり、まさに愛を紡いでいる最中であるということを実感させられる素晴らしいものだ。
「穏矢…」
その静かな呼び声は挿入直前だったところを散々焦らされている穏矢から一切の理性というものを取り払い、そして腰と尻の割れ目のところにあてがわれている立派なものを中に導きたいという欲を駆り立てる。
「もう…いいから、早く…きて………」
穏矢は自らの尻の肉を手で押し拡げながら秘部を露出させた。
すると、すぐにその中心は真祐のものによって貫かれたのだった。
ーーーーーー
《心から信頼を寄せているパートナーとは コンドームなどを使用せずに生身のままで愛し合いたい》
それはたとえリスクがあることだと分かっていたとしても誰しもが抱く想いである。
けっしてナマで情事をいたすことが愛情の現われというわけではないものの、しかし相手の体の本当の熱や感触をゴム越しではなく直接感じたいという想いは誰だって抱いて当然なのである。(男女共に“ナマでする”ということに対してある種の背徳感を抱き、興奮するからだということもあるかもしれないが)
穏矢に対してリスクがあることを説いた真祐ももちろん同じだった。
彼だって本当はそういったものを使用せずに無茶苦茶に抱いてしまいたいという欲があるのだが、やはりそれによって起こりうる様々なことを考えてしまうとそうした行為への実現には踏み切ることができないのである。
だが、穏矢がそれによって不満を抱えていることもよく理解している真祐。
そこで彼は一計を案じた。
穏矢がナマでの行為について言及してから数日後のこと、再びベッドでそういう雰囲気になったときに彼はこっそりと購入していたものをベッドサイドから取り出したのだ。
「穏矢…今日はさ、これのどれかを使ってみるのはどうかな」
真祐が取り出して見せたもの。
それは数種類のコンドームの箱だった。
パッケージデザインも、書かれている文言も様々なそのコンドームが突然目の前にずらりと並んだことで目を瞬かせる穏矢。
真祐は言う。
「ナマでするのはアレだけど…でもこういうゴムの会社の人達は『ナマでするよりも気持ちいい』っていう製品を作ろうとしてるってのを随分前に聞いたことがあってさ。どっちかっていうとそれは“装着する側”に向けての言葉なんだろうけど…でもほら、見て?これなんかは途中に2個の『輪っか』が付いてるでしょ。この輪っか状に盛り上がってる部分なら…もっと穏矢の気持ちいいところを沢山刺激できるんじゃないかな」
「細かいツブツブが付いてるのもあったんだけどそれは摩擦が強くなっちゃいそうだったからやめておいたんだ。大きいツブツブがいくつか付いてるなら面白いかもしれないけど、ヤスリみたいになっちゃう気がしてさ…せっかく付けるのに結局痛みが出るようだと困るからね」
真祐が示した箱にはたしかにコンドームの形状が普通のものとは異なることが書かれている。
他にも温感ゼリーが使われているものやゴムの柔らかさにこだわっているもの、さらには高密着性のゼリーが使われているものなど…これまで体験したことのないような文言が書いてあるコンドームばかり。
その種類の豊富さに釘付けになって興味を示す穏矢に、真祐は「全部ちゃんとポリアクリル酸ナトリウムが使われてないやつだっていうのも調べてあるから大丈夫」と伝える。
ポリアクリル酸ナトリウム。
聞き慣れないその単語に穏矢が「ぽり…ってなにそれ」と聞き返すと、真祐は「色んなローションに含まれてる成分のことだよ」と肩を抱きつつ応える。
「ポリアクリル酸ナトリウムっていうのは水分を吸う性質がある物質で紙オムツとかにも使われてるんだけど、ぬめり成分の元にもなるんだ。だからローションにもよく成分表示されてたりする。でもその“水分を吸う性質”ってのが却って良くなかったりするんだよ。だから基本的にこの成分が含まれてるローションとかはあくまでも胸とかへのマッサージ用で体の中には入れない方がいいんだけど、挿入にも使えるって謳ってるものの中には含まれてることもあってさ。少しならそんなに影響はないんだろうけど…やっぱりそれが原因で体調を崩すことになったら元も子もないし、避けるに越したことはないでしょ」
挿入に適した潤滑剤と、そうではないマッサージや愛撫に適した潤滑剤。
そんな違いなど気にしたこともなかった穏矢はいつも自分達が使っている潤滑剤がオイルであることを指摘する。
真祐は「そう。俺達はいつもマッサージとかに使う植物性のキャリアオイルを使ってる」と愛用品のオイルが入ったポンプ容器を手に取った。
「胸とか全身をマッサージするときと挿入れる時とで使い分けずに済むからね。オイルは使いすぎるとベタベタになるしゴムによってはオイルとの相性が悪くて溶けちゃったりもするから注意が必要だけど、でも全身の保湿にも使えるものだから肌馴染みがいいだろ。…実際 穏矢の肌はすごく…すべすべでとぅるとぅるだし、いつも滑らかだ」
寝間着の中に滑り込んだ手が脇腹や乳首をかすめ、穏矢は背筋から腰や尻にびりびりという電流が走ったかのようになって頬を染める。
たちまち彼の乳首はピンと勃って摘まめるくらいになった。
包み込み、摘み、揉む。
そのすべての動きは下半身にもつぶさに伝わる。
さらに真祐の大きく温かな手が胸や背や腰を彷徨い、唇がうなじと耳と頬に触れ、時々ぎゅっと強く抱きしめられると、少し息苦しくなるくらいのそれが愛の深さを知らしめているようで嬉しくもなる。
穏矢は口づけと愛撫を受け入れながら、抑えきれない火照りに突き動かされるように何気なく手にしたままだった箱を真祐へと差し出してさらなる行為を誘った。
彼が差し出したのは形状が普通のものとは異なる、輪っか状の突起が特徴的なものだった。
「じゃあ…今日はこれを使ってみようか」
穏矢は真祐の寝間着を脱がしながら《いつもとは違うものを試す》という目的によって激しく興奮を掻き立てられるままに真祐の寝間着を脱がしていった。
ーーーーー
耳たぶを甘噛みする音
触れたかどうかあいまいなほど繊細な睫毛の感覚
控えめな吐息
真祐による前戯というのは毎度のことながら余念がない。
あちこちを攻め、焦らし、穏矢が数回軽く絶頂して我慢できなくなるまでそれを繰り返しながらこれでもかというほど愛を知らしめるのである。
特に今夜は初めて使う種類のコンドームだということもあり、指に装着させての秘部のほぐしもいつも以上にしっかりと丁寧に時間をかけて行われた。
丁寧に時間をかけたのは、真祐いわくこの製品が穏矢の体に合うものかどうかを確かめるためらしい。
製品によってはアレルギー反応を示す素材(ゴムでいうとラテックスなど)が使われていることもあるため、これまでにそういった反応を示したことがなくてもきちんと試してから使うべきなのだという。
あまりの用意周到さに穏矢は『そこまでしなくても』と思うのだが、真祐はそれこそが愛なのだと言って聞かない。
「言っただろ、俺は穏矢のことを大切に思ってるんだって。もしいきなり中まで深く挿入れて何かあったら辛い思いをするのは穏矢なんだから…こういうことはきちんとしないと」
細やかなその気遣いが愛しているからであるとはっきり言われることの恥ずかしさはなかなかのものだろう。
嬉しいやら恥ずかしいやらでいっぱいいっぱいにさせられながらも、穏矢は真祐による念入りな“ほぐし”を受け続けた。
しかし指に装着して秘部の浅いところだけに挿入れられているだけではこのコンドームの持ち味というのを実感することはできない。
このゴムが真価を発揮するのは、やはり男根に装着、そして挿入されてからのことなのである。
十分にほぐされて柔らかくなった後、真祐はそれからまた少し会陰を優しく押して外側から前立腺の辺り、つまり穏矢の良いところを刺激して、そしてついに挿入への支度を整え始めた。
見た目からしていつものものとは違うそれ。
真祐の方も存外興奮しているようだ。
穏矢が挿入に備えて両足を広げると、真祐はその間に割って入りつつ、穏矢の頭の下にある枕を少し手前に引き寄せて、わざと穏矢に“繋がるところ”が見えるようにした。
「穏矢…俺のが自分の中に入っていくところ、見る…?」
「あ…あっ……」
「………っ」
先端がゆっくりと自らの中を拓いてゆくその様子を、穏矢は秘部の感覚と視覚とでありありと味わう。
勃起して腹にぴったりとくっつくほど反り返った自身の陰茎。その向こう側に見えていた真祐の色濃い亀頭がそのまま姿を消していく様は信じられないほど官能的で、淫靡で、淫らだ。
大きなその先端をなんとか呑み込み終えると、次に陰茎は中ほどまで挿し込まれる。
だが、穏矢はそこで驚きに目を見張った。
なんと挿入の途中だというのに、まるで2つ目の亀頭が自らの中に入ってきたかのような感覚を覚えたのである。
「っ…~~~!!」
それこそがこのコンドームの特徴だった。
『勃起した陰茎の先端とくびれがもたらす快感が竿の部分で再現されている』のだ。
根元まできっちりと挿入が済み、舌を絡める口づけを交わしながら少し馴染むのを待った後、真祐はいよいよ抽挿を開始する。
そうして穏矢は新しい製品の真髄を味わうことになった。
「っあ!!はぁっ、あっ……!!!」
元々、挿入で気持ちよくなるポイントは『奥を突かれること』と『浅めのところにある前立腺を攻められること』だった穏矢。
しかし通常は奥を突かれていると前立腺の辺りは滑らかな竿による緩やかな刺激しか味わうことができず、浅いところを攻められていると奥の方がおざなりになってしまうので、そのどちらもを一度に感じることなどできるはずがなかった。
しかし、このコンドームはその2つの快感を《同時に味わう》ということを可能にしたのである。
深くまで突き挿れた陰茎で奥の部分をコツコツと小刻みに叩くようにすると、ちょうどコンドームの輪っか状に隆起している部分が穏矢の前立腺の辺りをゴリゴリと刺激する。
それはまさに“えもいわれぬ快感”だ。
奥と、浅いところと。
コツコツと、ゴリゴリと。
「~~~っ!!!」
穏矢はもはや喘ぎ声すら上げられなくなりながらその快感に激しく身悶えた。
目を見開いたり、眉根を寄せてぎゅっと閉じたり、全身を縮こまらせたり足を伸ばしてみたり。
喉を後ろに反らせたり、逆に俯いて結合部に目を向けたり。
あまりにも強く何度も押し寄せてくる悦楽の波にどうしたらいいのかと戸惑っているような様子でひたすら荒い呼吸を繰り返す穏矢。
…腰を動かしている真祐の方も、これまでとは明らかに違う挿入感や快感を感じてすっかり夢中になっていた。
というのも、いつもは単調になりすぎるのを防ぐためにも根元から先端までを抜き出して行なう大きな動きの抽挿も途中で行うなどしたりしていたのだが、内側を大きく擦る動きというのはその分『摩擦で体内を傷つけてしまう恐れ』もある上に『何度もしていると動いている側にも負担がかかる』という欠点があるものなので彼はいつも少し動き方に気をつけていなければいけなかったのだ。
このコンドームを付けていればこうして小刻みに動くだけでも、いや、むしろ小刻みに動くからこそ気持ちがいいので心身ともに余裕を持ったまま行為を続けることができる。
それに、小刻みに動くことのもう一つの利点として『双方の体の密着度も高いままを維持できる』というのがあった。
固く抱き合いながら小刻みな抽挿をしていると、互いの体温や鼓動がつぶさに感じられるだけでなく真祐の胸や下腹部に穏矢の乳首や陰茎までもが密着してくるので、彼がどれほど快感を感じているかがありありと分かるのである。
行為の最中にパートナーが感じているというのがはっきりと分かれば分かるほど興奮というのは増々掻き立てられるものだ。
真祐は自らの感覚を頼りに、ゴムの輪っか状になっている部分が穏矢のいい部分を引っ掻いていることを確認しつつ、ひたすらそこを攻め続けた。
時には緩急をつけて。
ごりごりと引っ掻いては、ゆっくりと押しつぶすようにしてみたり。
「はぁっ…はぁ……ぁっ………」
一切止むことがない抽挿を一身に受け入れながら目を潤ませるほど数え切れないほどの絶頂を迎える穏矢。
真祐はそんな穏矢の片足を胸に抱きしめると、仕上げだといわんばかりに腰を捩らせた穏矢の中をさらに突いて攻めた。
体の微妙な捩れによって体内の締まり具合もぐっと強くなり、真祐の陰茎はちぎられてしまいそうなほどにまでなる。
「うっ……っ、しずなお…しずなお………」
縋るようにして、自らの頭の下にあった枕を抱く腕に目一杯の力を込める穏矢。
やがて 真祐と穏矢は揃って体を震わせて絶頂を迎えた。
とても大きなその絶頂はなかなか止まず、体がじんわりと痺れたようになりながら、彼らは互いのビクつく感覚によってさらに数回甘く絶頂し続ける。
穏矢の体内の奥深くに挿し込まれていた真祐の先端では、精液溜まりがはちきれてしまいそうなほどの大量の精液が放たれていたのだった。
ーーーーー
「………」
事後の気だるげな時間。
いつもであれば一通りさらに愛撫をしてからシャワーを浴びるかこのまま眠るかという話をする頃合いだが、ベッドに横になったままの穏矢は何かを熱心に見つめている。
彼が見ているのは…先ほど利用したコンドームの箱だ。
パッケージをまじまじと見ては裏に書いてある商品説明を上から下まで端から端まで熱心に読み込んでいる。
『まるで亀頭が2つあるような新感覚!』
『薄さと程よい弾力を実現させた気持ちよすぎるコンドーム!!』
『奥も手前もダブル攻め!』
製品のイラスト共にそんな文言が書かれているパッケージだ。
「それ、気に入ってもらえたみたいで良かったよ」
箱の表と裏、そして側面に至るまでどんな些細な情報も逃さないというほどに食い入るようにしながら見ている穏矢に真祐が声をかけると、穏矢は箱から目を離さずに「この輪っかになってるところって、ちょっと盛り上がってるだけ?それとも結構はっきり形になってる?俺あんまり見てなかった」と実際の形状について興味津々に訊いてくる。
先ほど使ったゴムをもう1度見せてほしいとまで言い出したので、真祐が「もう縛って捨てちゃったよ」と苦笑すると、穏矢は「…そっか」と名残惜しそうにゴミ箱の方を見遣った。
本当に心底気に入られたらしいコンドーム。
真祐が「これ、また買おうか」と提案すると彼はすぐに頷いた。
「これからも使いたい。これがいい」
「うん。じゃあそうしようか」
新しい楽しみが増えたようで、そしてなにより2人の情事のためにと購入したものを穏矢が気に入ってくれたようで嬉しい真祐。
だが、彼は次第に穏矢がこのコンドームを気に入りすぎているという事実を不安に思い始めたのだった。
たしかにこの製品を提案したのは自分だが、しかしこの特殊形状のものをこれからも使いたいといわれるということは…それはつまり『もう普通のコンドームは使わない』ということではないか、と。
(いや…まさかそんな……)と思いながら真祐は「なぁ、次はこの『ごく薄ウルウル生感』っていうのを使うのはどう?」と別の箱を差し出してみるも、穏矢はそれをパッと見てからあまり乗り気ではない様子をみせる。
「これ…?」
「そう、このゴムもいいんじゃない?」
「……」
「ほら『こだわりジェルをたっぷり』って。密着度が高いらしいよ」
「………」
「え、あんまり興味ない?」
「うん」
興味が湧かないかという問いに対して即答した穏矢。
その直後、穏矢が発した言葉に真祐は絶句することになる。
「だってこれ普通のでしょ。さっきのみたいにどっちも攻めるのはできないじゃん」
「普通のはもういいや」
………
《普通のはもういい》
それはつまり、穏矢の言うことを要約すると『普通の形をしたナマのような陰茎には興味がない』ということだった。
たしかに初めは『ナマでする以上に気持ちよくなれるゴムを』ということでこれらのものを勧めたが、まさか『普通のにはもう興味がない』というところまでいくとはまったく思いもしていなかった真祐。
彼は穏矢が気持ちよさを感じたのは自分の技術ではなく“特殊形状のコンドームそのもの”であるということにあせりを感じ、用意していた他の種類のものを慌てて見せる。
「ほらっ、これは温感タイプなんだけど、どう…!?」
「こっちのは『めちゃ柔らかゴム』だって!柔らかくてほとんど素肌と同じ感じらしいよ…!」
「変わった形のばっかりじゃなくてさ、普通のも使おうよ、俺の…俺の本来の形が分かるようなやつ…!」
そう言いながら箱を手渡す真祐だが、当の穏矢は「う~ん」と生返事をしつつそれほどの熱意もないまま箱を見ている。
情事に良くも悪くも新たな風をもたらしたコンドーム。
真祐の心中は複雑である。
だが、なんにせよ2人の性生活がよく潤っているというのは間違いない。
そしてそれが揺るぎない事実であることも疑う余地はない。
真祐と穏矢はそれからもしばらくベッドの上で『あぁでもないこうでもない』と言いながら夜の秘められた時間を過ごしたのだった。
ーーーーーーー
次回は11月2日(日曜日)の14時更新予定です
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