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「健やかなる時も病める時も」
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同じマンションに住んでいる玖一と律悠。
彼らは元々隣り合った部屋に住んでいたのだが、結婚報告をした際に知り合いでもある大家から『壁を一部壊して2部屋つなげれば良い』と提案された(というよりも半ば強引に決められた)ため、今ではどちらの部屋も中で自由に行き来が出来るという環境での生活を送るようになっている。
かなり贅沢なようだが、実はこれが彼らにとっては結構便利なのだった。
それまでは彼らがどちらかの部屋まで来るのにはいちいち外の扉(つまり玄関)を利用しなければならなかったのだが、それがリビングを繋ぐ扉をくぐるだけで済むようになり、基本的に自宅でPCに向かって作業をするのが仕事の玖一達はそれぞれの仕事部屋を確保しながらも生活空間を同じにすることできるようになったので、格段にコミュニケーションが取りやすくなったのである。
慣れた部屋や動線がそのままであるというのも とても便利で良いものだ。
それに、これまでにも忙しい互いのために時間に余裕のあるどちらかが食事などを用意しておくなどしていたのだが、そうした声がけも直接しやすくなったことで忙しい仕事の最中にメッセージのやり取りをする必要がなくなり、地味に仕事の効率も上がっている。
仕事を早く集中して切り上げられるようになればその分2人で過ごす時間も増えるというもので、彼らはそれ以前よりもより一層『一緒に生活している感』を味わえるようになった。
あまりショッピングやレジャーなどには興味がない2人は、この部屋で休日をまったりと過ごすなどしている。
ーーーーー
休日の昼前のこと。
玖一と並んでキッチンに立つ律悠は、使い終えた調理器具を洗いながら「なんか久しぶりだね、こうやって2人でゆっくり料理したりするの」とにこやかに言って隣に目を向けた。
「僕達最近忙しかったからさ、今日はどうしても玖と料理がしたかったんだ」
律悠のなんとも嬉しそうな声に、玖一も「俺もだよ~!早く悠とゆっくりしたかったんだ こうやって」と答えて和やかな空気を作り出す。
「2人で料理する時間がさ、俺、すごく楽しくて好きなんだ。しかも今日のメニューはラザニアじゃん?やっぱりラザニアって美味しいよね!いつもこれ作るといっぱい食べちゃうんだよ」
「うん。しかも残ったこのミートソースはなんにしても良いから便利なんだよね。明日はこのミートソースでパスタにしよっか」
「あぁっ、もう絶対美味しいやつ…っ!ぜったいそうしよ」
そんな風に話しながら2人は洗い物をすべて片付けていく。
今日は朝食をごく軽く済ませた後にこうして一緒にラザニアを作り、そして昼食に出来立てアツアツのラザニアを沢山食べようということになっていた。
実家が洋食屋である玖一にとってはホワイトソースを一から作るのだってなんら難しいことはないため、玖一がホワイトソース、律悠がひき肉とトマトたっぷりのミートソースとそれぞれ分担して用意をしたのだが、玖一がバターと小麦粉をフライパンで熱しながら練り、少しずつ牛乳を加えてなめらかな舌触りのホワイトソースを作るところを眺めるのが好きな律悠は、特にグラタンやこのラザニアを作る時間を楽しみにしている。
2人で作った2種類のソースとラザニアのパスタを交互に耐熱容器の中へ重ねていく時間もなかなか良いものだ。
その他にも、大きなシート状のパスタが肉汁を吸い込むまで待つ時間、そしてラザニアが焼きあがるまでの時間、オーブンから出したてのラザニアにナイフを入れて切り分ける時間…と、とにかくどの瞬間もなんだか楽しみに満ちていて、それらはただの待ち時間というわけではなく2人にとってはすべてが特別なのである。
そわそわとしながらキッチンをすっかり綺麗に片付けた律悠。
彼が玖一に「まだラザニアを焼くまでに時間があるからさ、テレビかなんか観て一息つこうよ」と持ちかけると、玖一もそれに賛同してテレビの電源を付け、今の時間帯で放送している番組に一通り目を通し始めた。
だがあまり2人の関心を引くような番組がちょうどなかったらしく、玖一は「う~ん…」と今度はDVDプレーヤーの電源を入れる。
「あんまりいい番組やってないかも、映画にしても良い?」
「うん?もちろん。玖が観たいやつを選んで入れといて、今お茶淹れるね」
「ありがと」
律悠はさっそく湯を沸かして淹れる茶を紅茶にしようか緑茶にしようかと悩み始めたのだが、玖一の方もテレビ横の棚にズラリと並んだ映画のDVDの背表紙を眺めたり、手にとってパッケージを詳しく確かめてみたりするなどして悩んでいる。
だが、そうしてしばらく経ってから玖一は何気なく話し始めた。
「昔はさ、俺も好きなバラエティ番組とかがあってよくテレビを観てたんだけど…最近はニュースを見る時かこういうプレーヤーに繋いで映画観る時ぐらいしか使わなくなってる気がする。それこそ学生時代とかは宿題かテレビか、みたいな感じで嫌々部屋に帰ったりしてたのに」
「あはは、そうだね、僕もそうだったな」
「悠も?」
「うん。勉強もしなきゃと思いつつ家族で観るクイズ番組とかが面白くてついついリビングにいちゃったりしてさ」
「へぇ…悠もそういう番組とか観てたんだね、勉強一筋かと思ってた」
「まさか~!夕飯のときとかはみんなでそうやってテレビを観たりしてたよ」
「そうなんだ…なんか意外な感じがする」
「え~?そう?」
子供の時の話などをしつつ茶を淹れる支度をしたり、観る作品の目星をつけたりする2人。
ふと、玖一は話し出した。
「でもほんとに…最近は前よりもすごく主張が強くなった気がして、テレビ観るのが苦手になっちゃったんだよね、俺。声高に言う人が苦手…っていうのかな。どういうのが正しくてどういうのか悪なのかって…声を上げる人がいるのは良いことだし、声を上げてる内容も正しいことなのかもしれないけど、でも物事には2つの側面があると思うからその一方ばかりを悪と決めつけて話すのは違うのかなって思ったりして。そりゃもちろん犯罪とかはダメに決まってるんだけどさ。でも…なんかモヤモヤすることが増えた気がするんだ、昔よりもね」
あはは、と少し寂し気に笑いながらまた手に取っていた一本の映画を棚に戻す玖一。
律悠はそんな玖一にかける言葉を探しながら淹れたばかりの紅茶が入ったマグカップ2つを持ってテレビ前のソファに腰掛けた。
「うん…玖がそう思うのも無理はないと思うよ。玖は物事を多角的に捉えようとする人だから、一方の意見ばかりを聞いたりするのは違うって思うんだよね。僕もそう思うタイプだからよく分かるよ」
「そう?」
「うん。しかも同じ内容でもさ、言い方によって印象って変わるでしょ?他の意見を挟ませないというか、圧倒して封じ込めるような言い方をされると…どうしたって賛同しづらくなるものだよね。…でもね、玖。そういうことで玖が苦しい思いをする必要はないんだよ」
振り向いてソファに目を向けた玖一に、律悠は言う。
「…僕、前に心理学でね、こういう話を聞いたんだ。『人は自分の心を守るためにその時経験したことや感じたことを良いように操作することがある』って。例えば…例えばさ、AとBのチームに分けた何人かずつにすっごくつまんない単純な作業を延々とさせるっていう実験があるんだ。Aの人達には少ない報酬、Bの人達には高い報酬でね。で、そしたらその後、作業をした人達にアンケートを取ってみるの。『今の作業はどれくらい面白かったですか』みたいなのを。そうすると結果は…どうなると思う?」
「え…そりゃあつまんないことさせられてたんだから面白かったとは答えないでしょ」
「そう、そうなんだよ。ほとんどの人がつまらなかったって答えるの。でもそれと全く同じ作業をした後に今度は『次にこの作業をする人に〚面白い作業だ〛と期待してもらえるように、あなたの作業内容を説明してください』って伝えて実践してもらうのね。で、そうやって他人に説明をするっていう段階をいれた後にアンケートを取ってみると、不思議なことにAの報酬が少なかったチームの人達は『作業が面白かった』って答えるようになったんだって。作業内容はまったく同じなんだよ?だけどアンケートの結果が変わるんだ」
内容の奇妙さに玖一が首をかしげると、律悠は「僕もこの話を聞いた時にすごく不思議に思ったよ」と困ったように微笑んだ。
「その現象は心理学的にもきちんと考察がされてるんだ。それが『人間は自分が体験したこととその結果の両方が釣り合うように心を操作する』ってことなんだって。そのつまらない作業を『つまらない』と思ったのは事実だったけど、でもその後に『作業が面白かった』っていう嘘をついたことで心の中に体験とその結果の間のズレが生じて『実際は作業は面白いものだった』って思い込もうとしたってことだよ。つまりこの実験のミソは自分はつまらないと思ったのに、他の人に対しては『面白いっていう嘘』をついたってところなんだ。嘘をついて面白いと言った事実…他人を巻き込む嘘をついたことはもう取り返せない、なかったことにできない、どうしようもないことでしょ。だから自分が感じた『つまらなかった』っていうその時の感情を捻じ曲げて『面白かった』って思い込むことで、『自分は嘘をついたわけじゃない』っていう風に心を守ろうとするって。まぁ、つまりはそう錯覚するってことかな。ちなみにBの報酬が高かったチームの人達も同じように嘘をついたわけだけど、マイナスなそういう思いよりも『報酬が高かった』っていうプラスの結果の方が上回ったからアンケート結果は大して変わらなかったみたい。作業を面白いと思い込む必要がなかったってことだね。『嘘はついたけど、でもこんなに報酬もらったから』って」
律悠から聞いた思いがけない話に「へぇ…」と感心してしまう玖一。
するとさらに律悠は話す。
「こういう風に人間って記憶や考えを簡単に都合のいいように変えちゃうものなんだって。他にも色んな心理学の実験があるらしいよ。例えば家財をすべて売り払ってまで何かに熱中したとするでしょ?じゃあ売るものがなくなって手元に何も残らないすっからかんの状態になったらその熱中してたものへの熱が冷めるかってというとそうじゃなくて、その反対にもっと熱を上げたりするんだって。それも『自分がそれまでつぎ込んできたことは無駄じゃない』って思いたいからみたい。あとは…小さい時に迷子になったことなんかないのに、『おまえが小さい時にショッピングモールで迷子になったことがあっただろ?』って何度も聞かれると、そのうちありもしない迷子になった記憶を話し出す、とかね」
「…え?でも迷子になったことはないんでしょ?」
「うん。ほんとは本当に迷子になんかなったことはないんだよ。だから初めは迷子になったことがあるだろって聞かれても『そんなことなかったよ』って答えるんだ。でも何度もそうやって訊くと次第に本当は迷子になったことがあるような気がしてきて、ついにありもしないその記憶をでっちあげて話し出しちゃうんだよ。中にはその時助けてくれた店員さんのエプロンの色まで詳細に話し出した人もいたみたい。何回も『そういうことがあったっけ』って考えてると勝手に記憶を作り出しちゃうこともあるってことは…もしかしたら僕達がずっと引きずってる昔の嫌な体験とかも、何回も思い出してるうちに『自分で思い出に脚色をして 実際よりももっと嫌な思い出に仕立て上げてる』ってことだったりするのかもね」
不思議な人間の心理に関連した錯覚の話にすっかり聞き入っていた玖一。
律悠は「とにかく、そういうことから考えてみると『なにか1つの物事について強い主張をしている人』っていうのは、もしかしたらそういう色んな心理的な作用が働いてて…過去の自分から身を守ろうとしている人かもしれないと僕は思うんだ」とゆったり話した。
「今話したように、人間は自分の経験したことがあまりにも辛かったり結果と違ったりすると、無意識のうちに記憶や感情を捻じ曲げちゃうことがある。それこそ『辛い思いをしたけどそこに至るには自分にも非があった』っていうようなことがあると、自分が悪かったんだって思いつめちゃう人もいるだろうけど、中には『自分は絶対に悪くない!』って他の要因を敵にすることで過去の自分の後悔や罪悪感から逃れようとする人だっているんだ。これはそれが良い事か悪い事かって問題じゃなく、その人なりの心を守ろうとする自己防衛策なんだよね。だから僕はそういう刺々しい言い方や物事のどちらか一方ばかりを強く否定したりする人のことは『そうすることで身を守ってる人なんだな』って思うようにしてる。そういう人の言うことにも一理あるかもしれないけど、でもだからってそれを真に受けて悩んだりすることはないんだよ。物事を公平的な視線で見るってことはとても重要で大切なことなんだから」
律悠は玖一がテレビなどの媒体で情報を目にする上で思い悩んでいたということを優しく受け止めながら言葉で解きほぐし、優しく包み込んでいく。
物事をはっきり白と黒に分けなければならないというような強い主張を聞く度にモヤモヤとした気分になっていた玖一は少し心が軽くなったが、それでも「せっかく声をあげてる人のことをそういう風に思ってもいいのかな…なんていうか、同情?みたいな」と胸中を吐露する。
するとさらに律悠は言ったのだった。
「たしかにそうかもしれないね。でも僕は玖が辛い思いをする方が嫌だよ」
「玖は優しくて、どんなことでも双方の意見を聞こうって考えられる人だ。だから強い主張の人のことも平等にその話を聞かなきゃいけないって思うんだね。でももっと『そういう風に言ったり考えたりする人もいるんだな』くらいの軽い受け止め方をしたって大丈夫だよ。それはけっして罪なことじゃないんだから」
律悠の微笑んだ表情には安心感を与える何かがあって、心が軽くなった玖一は「…そっか」と同じようにはにかみながら1本の映画を手にしてソファのところへと戻ってきた。
玖一が持ってきたのは少し長めの名作映画で、2人とも大好きな作品だ。
もう何度も観たことがあるものだとはいえ、律悠も「あっ、良いの選んだな~パッケージ見たら久しぶりにすごく観たくなってきた」と嬉しそうに言う。
玖一は律悠にDVDを手渡しながら「ありがとう、悠」と心からの想いを込めた。
「悠はいつも俺のことを助けてくれるね。本当に…ありがとう」
「ん~?そんなたいしたことはしてないよ」
「ううん、俺は悠に何度救われてきたことか」
あらためてまっすぐにそう言われるとどうにもくすぐったくて堪らず、律悠は「僕もテレビとか観てて色々思うことがあるから、玖と一緒だよ」と困ったように眉をひそめて笑う。
「じゃあ映画観よっか、後でメイキングも観なきゃね!やっぱりエンドロールの後とメイキングはちゃんと…」
「悠はどんなことでモヤモヤしたりするの?」
「えっ」
映画のディスクを取り出そうとしていた律悠は、玖一からの問いに一瞬その手を止めて目を瞬かせる。
玖一はさらにもう一度「悠もモヤモヤしたりするんでしょ?それは…どういうことで?」と律悠に訊ねた。
「俺には話してくれないの?」
「え、いや、そうじゃないけど…でも大丈夫だよ、ちょっと話が重たくなりすぎるから!それよりほら映画観ようよ、ね」
「………」
まさか今度はこうして自分が話す流れになるとは思いもしていなかった律悠は玖一の視線から逃れるようにしてわざとらしく映画に話を振ろうとしたが、しかし玖一も「…健やかなる時も病める時も、ってやつじゃないの?」と引き下がろうとはしない。
きっと玖一は本当に律悠が言いたくないというような風であればそれ以上は追及しなかったに違いない、のだが…
「…ほんとに、ちょっと重い話になっちゃうから話したって何にも…」
「どんな話だって俺は聞きたいよ、悠」
「……うん」
シンとした部屋で、律悠はDVDのパッケージを意味もなくじっと見つめながら話し出した。
「…今はすごく色んなことを知れるでしょ、それこそテレビとかで。その中には、なんていうか…自分の触れたくない話題もあったりしてさ、そういうのが目に入ってきちゃうとやっぱり…モヤモヤしちゃうんだよね」
「それって、例えばどんなこと?」
「まぁほら…僕達みたいなカップルが…その、子供を迎える方法、みたいなの」
「少し前まではそういうのを望む人たちは自分で調べたりして情報を得てたでしょ?でも今はニュース番組とかでもその関連の話題を取り上げたりするからさ、うん…精子提供とか、代理母とか、養子…とか。もちろんそれをきっかけに色々と考える人がいたり悩んでる人の助けになったり、周りの理解を深めるための良いツールの一つであるとは理解してるんだけど…でも僕はそういう話は…いや、僕自身が考えたくないってことじゃなくて…」
「こういう話を見聞きしたら玖はどう思うんだろうって考えちゃうっていうか…実は僕と違う考えを持ってたらどうしよう、とか…とにかく玖と僕自身の考えが合わなくなってたらどうしようって、それで気が重くなっちゃうんだよね」
ね、重い話でしょ?と苦笑いを浮かべつつ玖一と視線を合わせようとしない律悠。
玖一はそんな律悠に「…ね、悠はそういうことについてどう思ってるの?」と手を握りながらそっと問いかけた。
律悠の手は少し冷えていて、強張っているようでもある。
「悠の考えを俺に聞かせて?」
「え…い、嫌だよ」
「どうして?」
「だって僕が言ったら玖は僕に合わせちゃうでしょ?僕は玖に無理に同調してほしいわけじゃないんだ、玖は玖なりの考えを持っててほしいし…そうあるべきだとも思ってる。でも僕は玖の考えを聞くのが怖くて…」
「そう?俺は今、やっぱり俺と悠は同じ考えを持ってるんだなって確信してるよ。俺は悠がいればいいって思ってる。悠もそうでしょ?」
玖一は強張っている律悠の手を擦って少し開かせると、DVDを机の上に置かせてきちんとその両手を握り、真正面から向き合って言った。
「この際、俺の本心を言うね、悠。俺は本当に悠さえいてくれたらそれでいいんだよ。たしかに世の中には2人で子供を育てるための方法は沢山あると思う。それこそ同性カップルがどっちかの血を引く子を授かって育てたいって思うことも、養子を迎えたいって思うこともあるだろうし、パートナーとの間には授からなくてもこの地球のどこかに自分の血を引く子を残せたらって思う人だっているよね。そこには数え切れないほどの人やカップル達の決断があるはずだし、それはとても良いことだって思ってる。でも俺はさ、もし子供を育てるとしたら…やっぱりその子との輪の中には悠と俺とその子の他には誰にも入ってきてほしくないなって思っちゃうんだ」
「俺達は男同士だから、赤ちゃんを授かるには女の人の力を借りなきゃいけないよね。どうしたって女の人の協力が必要なんだよ。だからもし仮に海外とかでそういう方法をとって授かっても、その子には産みの母親や生物学的な母親がいるっていうことになる。いくら俺達が実の子として育てても生まれてきた子にはその母親との繋がりがあって、それは絶対に消えるものじゃないし、ないことにしていいものでもないと思う。もちろんそういう道を選ぶ人がいたって良いんだよ、だって自由だから。でも俺は…ごめん、変に思われるかもしれないけど…すごく嫉妬しちゃうからそれは絶対に嫌だ」
「たとえ生物学的上のことだとしても、俺は悠に他の人とそういう関係は築いてほしくないんだ。これが俺の考えだよ。悠は?悠はどう?」
玖一のまっすぐで真剣なその考えに、律悠は胸にこみ上げてくるものを何とか抑えながら聞いていた律悠は「僕も…僕もだよ」とほとんど涙声のようになりながら答えた。
「僕だって玖と一緒に子育てをしたらどんなだろうって考えたりするけど、でもやっぱり玖が僕とはどうしたって築けない特別な関係性を他の人と持つだなんて…考えただけでも耐えられない。僕も玖以外とはそういう繋がりをもつのは嫌、直接セックスをするわけじゃなくても嫌。絶対に嫌だ」
「うん。俺もおんなじだよ、悠」
「変な嫉妬みたいに思われるかもしれないけど、本当に嫌なんだ。そういうニュースとかを観るたびに『玖が精子提供したい』って言い出したらどうしようって…ずっと怖かった。僕はすごく嫌なのに、玖がそうしたいって言ったらそれを止めることもできないと思って…同じ考えかどうかを聞くのも怖くて怖くて……」
声が震えている律悠を、玖一はそっと優しく抱き寄せて背を擦る。
普段生活して愛し合っている時にはおくびにも出していなかったが、律悠はいつもそんな不安を抱えていたのだ。
玖一は律悠を抱きしめながら彼の耳のそばで話す。
「大丈夫。俺だって俺達の間にはそういうのはナシが良いって思ってるから」
「それに…前に俺、悠に言ったでしょ?『俺の心と体は全部悠のだよ』って。あれは冗談なんかじゃなくて本気で言ったことなんだ。つまり…俺の精子一匹だって、全部悠のってこと」
「俺には精子を提供しようとかしたいだとか、そんなつもりはないよ、そもそも悠が嫌だと思うことは俺だって嫌だから。それはちゃんと知っててね、悠」
玖一の言葉に「それって…なんかすごいセリフだね」と苦笑する律悠。
玖一も本当のこととはいえなかなか思い切ったことを言ったなと自分で思ったのだが、しかし律悠からは「…ありがとう」という言葉がかけられた。
2人の穏やかな甘い雰囲気が戻ってきたことを感じ取って体を離してみると、律悠はほっとしたような表情を浮かべていて、玖一はその表情の美しさに見惚れながら頬に手を添えてさらに話す。
「…ねぇ、悠」
「うん?」
「俺達…さ、親バカじゃなくて叔父バカになろうよ」
「…叔父バカ?」
「うん。俺達には可愛い甥っ子や姪っ子が沢山いるじゃん?2人で甥っ子や姪っ子達の良い叔父さんになるの。どう?」
玖一からのそんな提案を受けて、律悠は思わずクスクスと笑ってしまう。
「叔父バカって…ははっ、いいね、それ」
「でしょ?」
「そうだね、そうしよっか…2人でなろうよ、その叔父バカに」
語感か玖一の言い方のせいか、とにかく何かがツボにはまったらしくクスクスと笑い続ける律悠。
元々控えめに笑う彼の笑顔が好きな玖一なのだが、律悠は先ほどまで涙声になっていた影響もあるのか目元や耳元をほんのりと紅に染めていて妙に艶かしくもあり、その笑顔を見ているとにわかに欲が首をもたげてくる。
気づいたときには玖一は律悠の唇を奪っていた。
「…ごめん、なんか俺…すごくえっちな気分になってきちゃった」
ごく小さく囁くようにしていった玖一の声は少し掠れていて、それに耳をくすぐられた律悠も「…ラザニア、そろそろ焼かなきゃいけないのに」と同じく囁いて応える。
「ラザニアはもう少し置いたって大丈夫だよ」
「……僕、準備してない」
「俺もしてない。だから…こっちで、ちょっとだけ……」
律悠をソファの上に押し倒した玖一は膨らみつつある下の存在感を知らせるかのようにぐいっと腰を動かした。
あからさまに誘うその動きに熱い吐息を漏らす律悠。
彼はその次の瞬間には玖一のズボンの留め具に手をかけて、下着と一緒に太ももの辺りまで下ろしながら少し弓なりに反って勃っている肉棒を露わにさせた。
「玖ってほんとにお盛んだね…いつも元気なんだから」
「それは悠もでしょ?押し倒されただけでこんなに勃っちゃってるじゃん」
「あっ……」
同じように勃起した律悠のものと自分のものをどちらも手の中に収めながら、玖一はゆっくりとそれを扱い、先端から滲みだす透明な液を塗り広げていった。
ーーーーー
彼らはリビングにあるソファのそばにはローションなどの類のグッズは置いておらず、突然始まった肉棒の擦り合いに役立ちそうなものも一切ない。
しかし2人分の先走り液はそういったものを必要としないほど2本の熱く硬い棒をぬらぬらと濡らしていったため、ローションは必要なく、むしろ玖一も律悠もローションなしでこれほど滑らかにことが進んでいるということに興奮していた。
完全に2人だけの世界で、彼らは快感を追いかけている。
それによって滾る思いは早々に射精感をもたらし、それからそう時も経たないうちに揃って激しく射精した。
律悠の下腹部に散らばった2筋の白濁を少し興奮が収まるのを待ってから数枚取ったティッシュで拭う玖一。
白濁は混ざり合っていて、どちらがどちらのものかも分からない。
絶頂を迎えた直後のトロンとした瞳でそれらを見つめながら律悠は言った。
「…これで僕達2人の子供ができたらいいのに」
「これで?」
「うん…前に読んだ創作小説でね、2人のをこうやって混ぜたら精霊が生まれて…っていうのがあったんだ。それも神様の世界の話だったから ありえないことに違いはないんだけど…でも実際は結局こうやって拭うしかないのが、なんか…ちょっと寂しい、かも」
「中に出しても掻き出さなきゃいけないし」と本当に寂しそうに笑う律悠の姿を目にした玖一。
彼はすっかり律悠の腹を綺麗にし終えると、なんとそれから「…ねぇ悠、もっかいできる?」とだけ言って律悠の股の間に顔を埋めた。
「あっ…あっ、玖、むりっ、そんな……今、射精したばっかりなの…に……っ」
「ん…でも、もっかいだして」
「あっ……イッ……イッちゃ……また、イッちゃう…ぅ……っ」
苦しげに足を曲げ伸ばししたり、玖一の肩を掴んだり、息を止めて耐え忍ぼうとする律悠だったが、しかし律悠のいいところを知り尽くしている玖一が行う 舌を巧みに利用した口での愛撫には勝てるはずもなく、真昼間でありながらも今日2度目の射精を果たしてしまう。
口内に熱く広がる律悠の白濁を、玖一はすべて飲み込んだ。
ハァハァと肩で息をする律悠に玖一は言う。
「…こうしたら、ずっと俺の中に悠のを入れておけるでしょ?掻き出すことはないし、拭いて捨てちゃうこともないからね」
柔らかな玖一のその声音に目を潤ませながらふふっと微笑んだ律悠は、額に口づけを落とされた後に「…僕も」と体を起こす。
「僕も玖のを、する」
「おんなじことしてくれるの?」
「うん」
「じゃあ…」
「んんっ……」
ソファの前に立った玖一のズボンと下着を思いっきり下の方まで下げた律悠は、眼前に反り勃っている肉棒を何の躊躇いもなく口に含み、鼻先が下腹部に触れるほど奥深くにそれを呑み込んでせっせと頭を動かし始めた。
時折上目遣いになって「んっ…んっっ…」と喉から声を漏らす律悠の髪や頬を愛おしく撫でていると、玖一も堪らずすぐに強い射精感が込み上げてきて、乱暴にならないようにと気をつけながらも律悠の喉奥に自身のそれを突きつける。
熱く濡れた舌が裏筋をなぞったことによるゾワゾワとした感覚に誘われて、玖一も2度目の濃い射精を果たした。
もちろんその白濁はすべて律悠の喉の奥へと消えていく。
味がどうだとかは一切関係ない。
互いの息の荒さまでもが愛の深さを表しているようで、彼らは吸い寄せられるようにしてどちらからともなく熱烈に口づけ合った。
「これから…ご飯にするのに」
困ったように眉根を寄せて言う律悠の額に口づけた玖一。
彼はふふっと笑いながら「…シャワー浴びに行こ、悠」と律悠の手を取った。
「これからラザニアを焼いて、その間にシャワーを浴びれば全部ちょうどいいでしょ?それで一緒にご飯食べて映画観て…夕方また2人で一緒にお風呂入ろ」
「…一緒に入ると色々できないからダメ」
「んー?俺は気にしないよ、むしろ手伝いたいけど」
「っ、とにかくそれはダメ!今は一緒に入っていいけど…夕方は1人で入らせて」
「じゃあ夜は一緒に入っていいよね?」
「……………うん」
彼らはそんな話をしながらオーブンのタイマーをセットし、2人一緒にシャワー浴びるため浴室へと向かった。
焼き上がったラザニアは本当に美味しく良く出来ていて、すっかり冷めてしまっていた紅茶と共に映画鑑賞のいいお供となる。
まったりしながらメイキングなどの特典映像まですべて観た玖一と律悠の手はその間中もずっと指と指を絡めた形でしっかりと握られていて、ほとんど離れることがない。
どれだけ近くに居続けても彼らの欲と熱は冷めることがなく、それは夜になってもまったく変わっていないのだった。
彼らは元々隣り合った部屋に住んでいたのだが、結婚報告をした際に知り合いでもある大家から『壁を一部壊して2部屋つなげれば良い』と提案された(というよりも半ば強引に決められた)ため、今ではどちらの部屋も中で自由に行き来が出来るという環境での生活を送るようになっている。
かなり贅沢なようだが、実はこれが彼らにとっては結構便利なのだった。
それまでは彼らがどちらかの部屋まで来るのにはいちいち外の扉(つまり玄関)を利用しなければならなかったのだが、それがリビングを繋ぐ扉をくぐるだけで済むようになり、基本的に自宅でPCに向かって作業をするのが仕事の玖一達はそれぞれの仕事部屋を確保しながらも生活空間を同じにすることできるようになったので、格段にコミュニケーションが取りやすくなったのである。
慣れた部屋や動線がそのままであるというのも とても便利で良いものだ。
それに、これまでにも忙しい互いのために時間に余裕のあるどちらかが食事などを用意しておくなどしていたのだが、そうした声がけも直接しやすくなったことで忙しい仕事の最中にメッセージのやり取りをする必要がなくなり、地味に仕事の効率も上がっている。
仕事を早く集中して切り上げられるようになればその分2人で過ごす時間も増えるというもので、彼らはそれ以前よりもより一層『一緒に生活している感』を味わえるようになった。
あまりショッピングやレジャーなどには興味がない2人は、この部屋で休日をまったりと過ごすなどしている。
ーーーーー
休日の昼前のこと。
玖一と並んでキッチンに立つ律悠は、使い終えた調理器具を洗いながら「なんか久しぶりだね、こうやって2人でゆっくり料理したりするの」とにこやかに言って隣に目を向けた。
「僕達最近忙しかったからさ、今日はどうしても玖と料理がしたかったんだ」
律悠のなんとも嬉しそうな声に、玖一も「俺もだよ~!早く悠とゆっくりしたかったんだ こうやって」と答えて和やかな空気を作り出す。
「2人で料理する時間がさ、俺、すごく楽しくて好きなんだ。しかも今日のメニューはラザニアじゃん?やっぱりラザニアって美味しいよね!いつもこれ作るといっぱい食べちゃうんだよ」
「うん。しかも残ったこのミートソースはなんにしても良いから便利なんだよね。明日はこのミートソースでパスタにしよっか」
「あぁっ、もう絶対美味しいやつ…っ!ぜったいそうしよ」
そんな風に話しながら2人は洗い物をすべて片付けていく。
今日は朝食をごく軽く済ませた後にこうして一緒にラザニアを作り、そして昼食に出来立てアツアツのラザニアを沢山食べようということになっていた。
実家が洋食屋である玖一にとってはホワイトソースを一から作るのだってなんら難しいことはないため、玖一がホワイトソース、律悠がひき肉とトマトたっぷりのミートソースとそれぞれ分担して用意をしたのだが、玖一がバターと小麦粉をフライパンで熱しながら練り、少しずつ牛乳を加えてなめらかな舌触りのホワイトソースを作るところを眺めるのが好きな律悠は、特にグラタンやこのラザニアを作る時間を楽しみにしている。
2人で作った2種類のソースとラザニアのパスタを交互に耐熱容器の中へ重ねていく時間もなかなか良いものだ。
その他にも、大きなシート状のパスタが肉汁を吸い込むまで待つ時間、そしてラザニアが焼きあがるまでの時間、オーブンから出したてのラザニアにナイフを入れて切り分ける時間…と、とにかくどの瞬間もなんだか楽しみに満ちていて、それらはただの待ち時間というわけではなく2人にとってはすべてが特別なのである。
そわそわとしながらキッチンをすっかり綺麗に片付けた律悠。
彼が玖一に「まだラザニアを焼くまでに時間があるからさ、テレビかなんか観て一息つこうよ」と持ちかけると、玖一もそれに賛同してテレビの電源を付け、今の時間帯で放送している番組に一通り目を通し始めた。
だがあまり2人の関心を引くような番組がちょうどなかったらしく、玖一は「う~ん…」と今度はDVDプレーヤーの電源を入れる。
「あんまりいい番組やってないかも、映画にしても良い?」
「うん?もちろん。玖が観たいやつを選んで入れといて、今お茶淹れるね」
「ありがと」
律悠はさっそく湯を沸かして淹れる茶を紅茶にしようか緑茶にしようかと悩み始めたのだが、玖一の方もテレビ横の棚にズラリと並んだ映画のDVDの背表紙を眺めたり、手にとってパッケージを詳しく確かめてみたりするなどして悩んでいる。
だが、そうしてしばらく経ってから玖一は何気なく話し始めた。
「昔はさ、俺も好きなバラエティ番組とかがあってよくテレビを観てたんだけど…最近はニュースを見る時かこういうプレーヤーに繋いで映画観る時ぐらいしか使わなくなってる気がする。それこそ学生時代とかは宿題かテレビか、みたいな感じで嫌々部屋に帰ったりしてたのに」
「あはは、そうだね、僕もそうだったな」
「悠も?」
「うん。勉強もしなきゃと思いつつ家族で観るクイズ番組とかが面白くてついついリビングにいちゃったりしてさ」
「へぇ…悠もそういう番組とか観てたんだね、勉強一筋かと思ってた」
「まさか~!夕飯のときとかはみんなでそうやってテレビを観たりしてたよ」
「そうなんだ…なんか意外な感じがする」
「え~?そう?」
子供の時の話などをしつつ茶を淹れる支度をしたり、観る作品の目星をつけたりする2人。
ふと、玖一は話し出した。
「でもほんとに…最近は前よりもすごく主張が強くなった気がして、テレビ観るのが苦手になっちゃったんだよね、俺。声高に言う人が苦手…っていうのかな。どういうのが正しくてどういうのか悪なのかって…声を上げる人がいるのは良いことだし、声を上げてる内容も正しいことなのかもしれないけど、でも物事には2つの側面があると思うからその一方ばかりを悪と決めつけて話すのは違うのかなって思ったりして。そりゃもちろん犯罪とかはダメに決まってるんだけどさ。でも…なんかモヤモヤすることが増えた気がするんだ、昔よりもね」
あはは、と少し寂し気に笑いながらまた手に取っていた一本の映画を棚に戻す玖一。
律悠はそんな玖一にかける言葉を探しながら淹れたばかりの紅茶が入ったマグカップ2つを持ってテレビ前のソファに腰掛けた。
「うん…玖がそう思うのも無理はないと思うよ。玖は物事を多角的に捉えようとする人だから、一方の意見ばかりを聞いたりするのは違うって思うんだよね。僕もそう思うタイプだからよく分かるよ」
「そう?」
「うん。しかも同じ内容でもさ、言い方によって印象って変わるでしょ?他の意見を挟ませないというか、圧倒して封じ込めるような言い方をされると…どうしたって賛同しづらくなるものだよね。…でもね、玖。そういうことで玖が苦しい思いをする必要はないんだよ」
振り向いてソファに目を向けた玖一に、律悠は言う。
「…僕、前に心理学でね、こういう話を聞いたんだ。『人は自分の心を守るためにその時経験したことや感じたことを良いように操作することがある』って。例えば…例えばさ、AとBのチームに分けた何人かずつにすっごくつまんない単純な作業を延々とさせるっていう実験があるんだ。Aの人達には少ない報酬、Bの人達には高い報酬でね。で、そしたらその後、作業をした人達にアンケートを取ってみるの。『今の作業はどれくらい面白かったですか』みたいなのを。そうすると結果は…どうなると思う?」
「え…そりゃあつまんないことさせられてたんだから面白かったとは答えないでしょ」
「そう、そうなんだよ。ほとんどの人がつまらなかったって答えるの。でもそれと全く同じ作業をした後に今度は『次にこの作業をする人に〚面白い作業だ〛と期待してもらえるように、あなたの作業内容を説明してください』って伝えて実践してもらうのね。で、そうやって他人に説明をするっていう段階をいれた後にアンケートを取ってみると、不思議なことにAの報酬が少なかったチームの人達は『作業が面白かった』って答えるようになったんだって。作業内容はまったく同じなんだよ?だけどアンケートの結果が変わるんだ」
内容の奇妙さに玖一が首をかしげると、律悠は「僕もこの話を聞いた時にすごく不思議に思ったよ」と困ったように微笑んだ。
「その現象は心理学的にもきちんと考察がされてるんだ。それが『人間は自分が体験したこととその結果の両方が釣り合うように心を操作する』ってことなんだって。そのつまらない作業を『つまらない』と思ったのは事実だったけど、でもその後に『作業が面白かった』っていう嘘をついたことで心の中に体験とその結果の間のズレが生じて『実際は作業は面白いものだった』って思い込もうとしたってことだよ。つまりこの実験のミソは自分はつまらないと思ったのに、他の人に対しては『面白いっていう嘘』をついたってところなんだ。嘘をついて面白いと言った事実…他人を巻き込む嘘をついたことはもう取り返せない、なかったことにできない、どうしようもないことでしょ。だから自分が感じた『つまらなかった』っていうその時の感情を捻じ曲げて『面白かった』って思い込むことで、『自分は嘘をついたわけじゃない』っていう風に心を守ろうとするって。まぁ、つまりはそう錯覚するってことかな。ちなみにBの報酬が高かったチームの人達も同じように嘘をついたわけだけど、マイナスなそういう思いよりも『報酬が高かった』っていうプラスの結果の方が上回ったからアンケート結果は大して変わらなかったみたい。作業を面白いと思い込む必要がなかったってことだね。『嘘はついたけど、でもこんなに報酬もらったから』って」
律悠から聞いた思いがけない話に「へぇ…」と感心してしまう玖一。
するとさらに律悠は話す。
「こういう風に人間って記憶や考えを簡単に都合のいいように変えちゃうものなんだって。他にも色んな心理学の実験があるらしいよ。例えば家財をすべて売り払ってまで何かに熱中したとするでしょ?じゃあ売るものがなくなって手元に何も残らないすっからかんの状態になったらその熱中してたものへの熱が冷めるかってというとそうじゃなくて、その反対にもっと熱を上げたりするんだって。それも『自分がそれまでつぎ込んできたことは無駄じゃない』って思いたいからみたい。あとは…小さい時に迷子になったことなんかないのに、『おまえが小さい時にショッピングモールで迷子になったことがあっただろ?』って何度も聞かれると、そのうちありもしない迷子になった記憶を話し出す、とかね」
「…え?でも迷子になったことはないんでしょ?」
「うん。ほんとは本当に迷子になんかなったことはないんだよ。だから初めは迷子になったことがあるだろって聞かれても『そんなことなかったよ』って答えるんだ。でも何度もそうやって訊くと次第に本当は迷子になったことがあるような気がしてきて、ついにありもしないその記憶をでっちあげて話し出しちゃうんだよ。中にはその時助けてくれた店員さんのエプロンの色まで詳細に話し出した人もいたみたい。何回も『そういうことがあったっけ』って考えてると勝手に記憶を作り出しちゃうこともあるってことは…もしかしたら僕達がずっと引きずってる昔の嫌な体験とかも、何回も思い出してるうちに『自分で思い出に脚色をして 実際よりももっと嫌な思い出に仕立て上げてる』ってことだったりするのかもね」
不思議な人間の心理に関連した錯覚の話にすっかり聞き入っていた玖一。
律悠は「とにかく、そういうことから考えてみると『なにか1つの物事について強い主張をしている人』っていうのは、もしかしたらそういう色んな心理的な作用が働いてて…過去の自分から身を守ろうとしている人かもしれないと僕は思うんだ」とゆったり話した。
「今話したように、人間は自分の経験したことがあまりにも辛かったり結果と違ったりすると、無意識のうちに記憶や感情を捻じ曲げちゃうことがある。それこそ『辛い思いをしたけどそこに至るには自分にも非があった』っていうようなことがあると、自分が悪かったんだって思いつめちゃう人もいるだろうけど、中には『自分は絶対に悪くない!』って他の要因を敵にすることで過去の自分の後悔や罪悪感から逃れようとする人だっているんだ。これはそれが良い事か悪い事かって問題じゃなく、その人なりの心を守ろうとする自己防衛策なんだよね。だから僕はそういう刺々しい言い方や物事のどちらか一方ばかりを強く否定したりする人のことは『そうすることで身を守ってる人なんだな』って思うようにしてる。そういう人の言うことにも一理あるかもしれないけど、でもだからってそれを真に受けて悩んだりすることはないんだよ。物事を公平的な視線で見るってことはとても重要で大切なことなんだから」
律悠は玖一がテレビなどの媒体で情報を目にする上で思い悩んでいたということを優しく受け止めながら言葉で解きほぐし、優しく包み込んでいく。
物事をはっきり白と黒に分けなければならないというような強い主張を聞く度にモヤモヤとした気分になっていた玖一は少し心が軽くなったが、それでも「せっかく声をあげてる人のことをそういう風に思ってもいいのかな…なんていうか、同情?みたいな」と胸中を吐露する。
するとさらに律悠は言ったのだった。
「たしかにそうかもしれないね。でも僕は玖が辛い思いをする方が嫌だよ」
「玖は優しくて、どんなことでも双方の意見を聞こうって考えられる人だ。だから強い主張の人のことも平等にその話を聞かなきゃいけないって思うんだね。でももっと『そういう風に言ったり考えたりする人もいるんだな』くらいの軽い受け止め方をしたって大丈夫だよ。それはけっして罪なことじゃないんだから」
律悠の微笑んだ表情には安心感を与える何かがあって、心が軽くなった玖一は「…そっか」と同じようにはにかみながら1本の映画を手にしてソファのところへと戻ってきた。
玖一が持ってきたのは少し長めの名作映画で、2人とも大好きな作品だ。
もう何度も観たことがあるものだとはいえ、律悠も「あっ、良いの選んだな~パッケージ見たら久しぶりにすごく観たくなってきた」と嬉しそうに言う。
玖一は律悠にDVDを手渡しながら「ありがとう、悠」と心からの想いを込めた。
「悠はいつも俺のことを助けてくれるね。本当に…ありがとう」
「ん~?そんなたいしたことはしてないよ」
「ううん、俺は悠に何度救われてきたことか」
あらためてまっすぐにそう言われるとどうにもくすぐったくて堪らず、律悠は「僕もテレビとか観てて色々思うことがあるから、玖と一緒だよ」と困ったように眉をひそめて笑う。
「じゃあ映画観よっか、後でメイキングも観なきゃね!やっぱりエンドロールの後とメイキングはちゃんと…」
「悠はどんなことでモヤモヤしたりするの?」
「えっ」
映画のディスクを取り出そうとしていた律悠は、玖一からの問いに一瞬その手を止めて目を瞬かせる。
玖一はさらにもう一度「悠もモヤモヤしたりするんでしょ?それは…どういうことで?」と律悠に訊ねた。
「俺には話してくれないの?」
「え、いや、そうじゃないけど…でも大丈夫だよ、ちょっと話が重たくなりすぎるから!それよりほら映画観ようよ、ね」
「………」
まさか今度はこうして自分が話す流れになるとは思いもしていなかった律悠は玖一の視線から逃れるようにしてわざとらしく映画に話を振ろうとしたが、しかし玖一も「…健やかなる時も病める時も、ってやつじゃないの?」と引き下がろうとはしない。
きっと玖一は本当に律悠が言いたくないというような風であればそれ以上は追及しなかったに違いない、のだが…
「…ほんとに、ちょっと重い話になっちゃうから話したって何にも…」
「どんな話だって俺は聞きたいよ、悠」
「……うん」
シンとした部屋で、律悠はDVDのパッケージを意味もなくじっと見つめながら話し出した。
「…今はすごく色んなことを知れるでしょ、それこそテレビとかで。その中には、なんていうか…自分の触れたくない話題もあったりしてさ、そういうのが目に入ってきちゃうとやっぱり…モヤモヤしちゃうんだよね」
「それって、例えばどんなこと?」
「まぁほら…僕達みたいなカップルが…その、子供を迎える方法、みたいなの」
「少し前まではそういうのを望む人たちは自分で調べたりして情報を得てたでしょ?でも今はニュース番組とかでもその関連の話題を取り上げたりするからさ、うん…精子提供とか、代理母とか、養子…とか。もちろんそれをきっかけに色々と考える人がいたり悩んでる人の助けになったり、周りの理解を深めるための良いツールの一つであるとは理解してるんだけど…でも僕はそういう話は…いや、僕自身が考えたくないってことじゃなくて…」
「こういう話を見聞きしたら玖はどう思うんだろうって考えちゃうっていうか…実は僕と違う考えを持ってたらどうしよう、とか…とにかく玖と僕自身の考えが合わなくなってたらどうしようって、それで気が重くなっちゃうんだよね」
ね、重い話でしょ?と苦笑いを浮かべつつ玖一と視線を合わせようとしない律悠。
玖一はそんな律悠に「…ね、悠はそういうことについてどう思ってるの?」と手を握りながらそっと問いかけた。
律悠の手は少し冷えていて、強張っているようでもある。
「悠の考えを俺に聞かせて?」
「え…い、嫌だよ」
「どうして?」
「だって僕が言ったら玖は僕に合わせちゃうでしょ?僕は玖に無理に同調してほしいわけじゃないんだ、玖は玖なりの考えを持っててほしいし…そうあるべきだとも思ってる。でも僕は玖の考えを聞くのが怖くて…」
「そう?俺は今、やっぱり俺と悠は同じ考えを持ってるんだなって確信してるよ。俺は悠がいればいいって思ってる。悠もそうでしょ?」
玖一は強張っている律悠の手を擦って少し開かせると、DVDを机の上に置かせてきちんとその両手を握り、真正面から向き合って言った。
「この際、俺の本心を言うね、悠。俺は本当に悠さえいてくれたらそれでいいんだよ。たしかに世の中には2人で子供を育てるための方法は沢山あると思う。それこそ同性カップルがどっちかの血を引く子を授かって育てたいって思うことも、養子を迎えたいって思うこともあるだろうし、パートナーとの間には授からなくてもこの地球のどこかに自分の血を引く子を残せたらって思う人だっているよね。そこには数え切れないほどの人やカップル達の決断があるはずだし、それはとても良いことだって思ってる。でも俺はさ、もし子供を育てるとしたら…やっぱりその子との輪の中には悠と俺とその子の他には誰にも入ってきてほしくないなって思っちゃうんだ」
「俺達は男同士だから、赤ちゃんを授かるには女の人の力を借りなきゃいけないよね。どうしたって女の人の協力が必要なんだよ。だからもし仮に海外とかでそういう方法をとって授かっても、その子には産みの母親や生物学的な母親がいるっていうことになる。いくら俺達が実の子として育てても生まれてきた子にはその母親との繋がりがあって、それは絶対に消えるものじゃないし、ないことにしていいものでもないと思う。もちろんそういう道を選ぶ人がいたって良いんだよ、だって自由だから。でも俺は…ごめん、変に思われるかもしれないけど…すごく嫉妬しちゃうからそれは絶対に嫌だ」
「たとえ生物学的上のことだとしても、俺は悠に他の人とそういう関係は築いてほしくないんだ。これが俺の考えだよ。悠は?悠はどう?」
玖一のまっすぐで真剣なその考えに、律悠は胸にこみ上げてくるものを何とか抑えながら聞いていた律悠は「僕も…僕もだよ」とほとんど涙声のようになりながら答えた。
「僕だって玖と一緒に子育てをしたらどんなだろうって考えたりするけど、でもやっぱり玖が僕とはどうしたって築けない特別な関係性を他の人と持つだなんて…考えただけでも耐えられない。僕も玖以外とはそういう繋がりをもつのは嫌、直接セックスをするわけじゃなくても嫌。絶対に嫌だ」
「うん。俺もおんなじだよ、悠」
「変な嫉妬みたいに思われるかもしれないけど、本当に嫌なんだ。そういうニュースとかを観るたびに『玖が精子提供したい』って言い出したらどうしようって…ずっと怖かった。僕はすごく嫌なのに、玖がそうしたいって言ったらそれを止めることもできないと思って…同じ考えかどうかを聞くのも怖くて怖くて……」
声が震えている律悠を、玖一はそっと優しく抱き寄せて背を擦る。
普段生活して愛し合っている時にはおくびにも出していなかったが、律悠はいつもそんな不安を抱えていたのだ。
玖一は律悠を抱きしめながら彼の耳のそばで話す。
「大丈夫。俺だって俺達の間にはそういうのはナシが良いって思ってるから」
「それに…前に俺、悠に言ったでしょ?『俺の心と体は全部悠のだよ』って。あれは冗談なんかじゃなくて本気で言ったことなんだ。つまり…俺の精子一匹だって、全部悠のってこと」
「俺には精子を提供しようとかしたいだとか、そんなつもりはないよ、そもそも悠が嫌だと思うことは俺だって嫌だから。それはちゃんと知っててね、悠」
玖一の言葉に「それって…なんかすごいセリフだね」と苦笑する律悠。
玖一も本当のこととはいえなかなか思い切ったことを言ったなと自分で思ったのだが、しかし律悠からは「…ありがとう」という言葉がかけられた。
2人の穏やかな甘い雰囲気が戻ってきたことを感じ取って体を離してみると、律悠はほっとしたような表情を浮かべていて、玖一はその表情の美しさに見惚れながら頬に手を添えてさらに話す。
「…ねぇ、悠」
「うん?」
「俺達…さ、親バカじゃなくて叔父バカになろうよ」
「…叔父バカ?」
「うん。俺達には可愛い甥っ子や姪っ子が沢山いるじゃん?2人で甥っ子や姪っ子達の良い叔父さんになるの。どう?」
玖一からのそんな提案を受けて、律悠は思わずクスクスと笑ってしまう。
「叔父バカって…ははっ、いいね、それ」
「でしょ?」
「そうだね、そうしよっか…2人でなろうよ、その叔父バカに」
語感か玖一の言い方のせいか、とにかく何かがツボにはまったらしくクスクスと笑い続ける律悠。
元々控えめに笑う彼の笑顔が好きな玖一なのだが、律悠は先ほどまで涙声になっていた影響もあるのか目元や耳元をほんのりと紅に染めていて妙に艶かしくもあり、その笑顔を見ているとにわかに欲が首をもたげてくる。
気づいたときには玖一は律悠の唇を奪っていた。
「…ごめん、なんか俺…すごくえっちな気分になってきちゃった」
ごく小さく囁くようにしていった玖一の声は少し掠れていて、それに耳をくすぐられた律悠も「…ラザニア、そろそろ焼かなきゃいけないのに」と同じく囁いて応える。
「ラザニアはもう少し置いたって大丈夫だよ」
「……僕、準備してない」
「俺もしてない。だから…こっちで、ちょっとだけ……」
律悠をソファの上に押し倒した玖一は膨らみつつある下の存在感を知らせるかのようにぐいっと腰を動かした。
あからさまに誘うその動きに熱い吐息を漏らす律悠。
彼はその次の瞬間には玖一のズボンの留め具に手をかけて、下着と一緒に太ももの辺りまで下ろしながら少し弓なりに反って勃っている肉棒を露わにさせた。
「玖ってほんとにお盛んだね…いつも元気なんだから」
「それは悠もでしょ?押し倒されただけでこんなに勃っちゃってるじゃん」
「あっ……」
同じように勃起した律悠のものと自分のものをどちらも手の中に収めながら、玖一はゆっくりとそれを扱い、先端から滲みだす透明な液を塗り広げていった。
ーーーーー
彼らはリビングにあるソファのそばにはローションなどの類のグッズは置いておらず、突然始まった肉棒の擦り合いに役立ちそうなものも一切ない。
しかし2人分の先走り液はそういったものを必要としないほど2本の熱く硬い棒をぬらぬらと濡らしていったため、ローションは必要なく、むしろ玖一も律悠もローションなしでこれほど滑らかにことが進んでいるということに興奮していた。
完全に2人だけの世界で、彼らは快感を追いかけている。
それによって滾る思いは早々に射精感をもたらし、それからそう時も経たないうちに揃って激しく射精した。
律悠の下腹部に散らばった2筋の白濁を少し興奮が収まるのを待ってから数枚取ったティッシュで拭う玖一。
白濁は混ざり合っていて、どちらがどちらのものかも分からない。
絶頂を迎えた直後のトロンとした瞳でそれらを見つめながら律悠は言った。
「…これで僕達2人の子供ができたらいいのに」
「これで?」
「うん…前に読んだ創作小説でね、2人のをこうやって混ぜたら精霊が生まれて…っていうのがあったんだ。それも神様の世界の話だったから ありえないことに違いはないんだけど…でも実際は結局こうやって拭うしかないのが、なんか…ちょっと寂しい、かも」
「中に出しても掻き出さなきゃいけないし」と本当に寂しそうに笑う律悠の姿を目にした玖一。
彼はすっかり律悠の腹を綺麗にし終えると、なんとそれから「…ねぇ悠、もっかいできる?」とだけ言って律悠の股の間に顔を埋めた。
「あっ…あっ、玖、むりっ、そんな……今、射精したばっかりなの…に……っ」
「ん…でも、もっかいだして」
「あっ……イッ……イッちゃ……また、イッちゃう…ぅ……っ」
苦しげに足を曲げ伸ばししたり、玖一の肩を掴んだり、息を止めて耐え忍ぼうとする律悠だったが、しかし律悠のいいところを知り尽くしている玖一が行う 舌を巧みに利用した口での愛撫には勝てるはずもなく、真昼間でありながらも今日2度目の射精を果たしてしまう。
口内に熱く広がる律悠の白濁を、玖一はすべて飲み込んだ。
ハァハァと肩で息をする律悠に玖一は言う。
「…こうしたら、ずっと俺の中に悠のを入れておけるでしょ?掻き出すことはないし、拭いて捨てちゃうこともないからね」
柔らかな玖一のその声音に目を潤ませながらふふっと微笑んだ律悠は、額に口づけを落とされた後に「…僕も」と体を起こす。
「僕も玖のを、する」
「おんなじことしてくれるの?」
「うん」
「じゃあ…」
「んんっ……」
ソファの前に立った玖一のズボンと下着を思いっきり下の方まで下げた律悠は、眼前に反り勃っている肉棒を何の躊躇いもなく口に含み、鼻先が下腹部に触れるほど奥深くにそれを呑み込んでせっせと頭を動かし始めた。
時折上目遣いになって「んっ…んっっ…」と喉から声を漏らす律悠の髪や頬を愛おしく撫でていると、玖一も堪らずすぐに強い射精感が込み上げてきて、乱暴にならないようにと気をつけながらも律悠の喉奥に自身のそれを突きつける。
熱く濡れた舌が裏筋をなぞったことによるゾワゾワとした感覚に誘われて、玖一も2度目の濃い射精を果たした。
もちろんその白濁はすべて律悠の喉の奥へと消えていく。
味がどうだとかは一切関係ない。
互いの息の荒さまでもが愛の深さを表しているようで、彼らは吸い寄せられるようにしてどちらからともなく熱烈に口づけ合った。
「これから…ご飯にするのに」
困ったように眉根を寄せて言う律悠の額に口づけた玖一。
彼はふふっと笑いながら「…シャワー浴びに行こ、悠」と律悠の手を取った。
「これからラザニアを焼いて、その間にシャワーを浴びれば全部ちょうどいいでしょ?それで一緒にご飯食べて映画観て…夕方また2人で一緒にお風呂入ろ」
「…一緒に入ると色々できないからダメ」
「んー?俺は気にしないよ、むしろ手伝いたいけど」
「っ、とにかくそれはダメ!今は一緒に入っていいけど…夕方は1人で入らせて」
「じゃあ夜は一緒に入っていいよね?」
「……………うん」
彼らはそんな話をしながらオーブンのタイマーをセットし、2人一緒にシャワー浴びるため浴室へと向かった。
焼き上がったラザニアは本当に美味しく良く出来ていて、すっかり冷めてしまっていた紅茶と共に映画鑑賞のいいお供となる。
まったりしながらメイキングなどの特典映像まですべて観た玖一と律悠の手はその間中もずっと指と指を絡めた形でしっかりと握られていて、ほとんど離れることがない。
どれだけ近くに居続けても彼らの欲と熱は冷めることがなく、それは夜になってもまったく変わっていないのだった。
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