悠久の城

蓬屋 月餅

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【一石三鳥…?】

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 築6年、5階建てのモダンなアパート。
 その最上階の角部屋が穏矢しずなおの家だ。
 新築時から住んでいるその部屋は1人暮らしをするにはほんの少し広い造りになっているが、仕事のための資料(インテリアや建築関連の書籍)を多く持っている彼にとってはそれぐらいがちょうどよく、仕事の構想を練るのにも適した環境となっている。
 インテリアデザイナーを始めとするデザイン系の仕事が天職である彼は ストイックに打ち込む性格をしていることも手伝ってか、自分の部屋全体がそのように仕事の道具などでいっぱいになっていてもストレスを感じないらしい。
 そのため彼の家の中で仕事関連のものがない場所といえばリビング横にある寝室になっているのだった。
 だが…その寝室は最近、金曜日の夜から日付が変わる頃にかけてあらぬ熱気に包まれることがある。


ーーーーー


「あっ、ああっ、んうぅっ…うっんんッ!」

 大して光量が落とされていないベッドサイドランプの明かりが照らす温かみのある木製ベッド。その上では激しい素肌の触れ合いが繰り広げられている。
 すでに一糸纏わぬあられもない姿の真祐さねまさ穏矢しずなおは、今晩もどちらからともなく手を伸ばして互いの体を愛撫し合い、そして情事にふけっていた。
 6年もの歳月を経て以前よりも多少は自身の欲を制御できるようになった彼らだが、しかしだからといって行為が淡白なものになっているかというとそうではなく、むしろしっとりとした まさに『絡み合う』という表現そのものであるというような触れ合いで気分を高め合っている。
 しつこく、ねちっこく。
 この情事を簡単には終わらせまいとして執拗に快感をむさぼり植えつけ合うそれは、乱暴に尻と腰とをぶつけ合うようなものとは比べ物にならないほどはるかに刺激的でめくるめく官能に満ちている。
 およそ20代にはできないであろうという、大人による濃密な情事だ。

「はぁぁっ、あぁっ…ッく…イック……っ!」

 上半身をぺたりとベッドに伏せ、高く掲げた尻を背後から奥深くまで突かれていた穏矢は 手当たり次第に掴んだシーツをシワだらけにしながらきつく目を閉じて声を漏らした。
 彼の熟れきった柔らかな秘部は真祐のイキり勃った極上の陰茎を根元の袋が触れるほどしっかりと咥え込み、挿入時に使用した潤滑ゼリーがフチから下へ伝ってトロトロと流れ出してしまうほど少しの隙間もなく迎合している。
 もちろんそれらは彼の後ろにいる真祐の目にもはっきりと映っていて、腰を動かして抽挿する度に少し捲れて内側の紅が見え隠れするその様は言い表しようのない卑猥さでいっぱいだ。
 熱く濡れた穏矢の体内が蠢き、一層キツく締まったのを敏感に感じ取った真祐は、抽挿を止めると穏矢の胸元を抱きしめてそのまま上体を起こした。

「もう?だめだよ穏矢…まだイかないで、まだいっぱいシようよ、な?」
「うぅっ!いっ、イかせて…イきたい、イき…っ」
「まだダメだってば…もっと穏矢とこうしてたいんだから、まだバテないでくれ…」

 体を後ろに仰け反らされている穏矢は果てそうで果てないという微妙なところを彷徨わされて苦悶の表情を浮かべる。
 上体を後ろに反らされているせいで腹側がグッと伸び、体内では真祐の亀頭が穏矢のイイところを押しつぶしている。
 擦られていないために快感の波が訪れることはない。ひたすらに食いしばって耐えるしかないのだ。
 さらにその上、真祐が下腹部に置いた手で外側からも刺激しだしたので、穏矢は反射的に秘部をキツく締める。

「はぁ…すごい、締まってる…」
「さね…さねまさ、も…も、むり……」
「ん…それじゃ……」

 真祐は穏矢のうなじや首筋などいたるところに口づけて、そして抱きしめていた腕を緩めた。
 穏矢が倒れ込みそうになりながらもベッドのヘッドボードを掴み、変わらず尻を突き出してさらなる交わりを求めると、彼の腰を掴んだ真祐はそのまま きわめてゆっくりじっくりと腰を動かして攻め始める。
 じわじわと体の奥底から湧き上がってくる大きな快感を、穏矢はうつろに真祐へと伝えた。

「イく…イク…ぅ…」

 それにしたがって彼の胸や腹へと愛撫を繰り返す真祐。
 穏矢は静かに体をビクつかせて絶頂した。
 ゾクゾクという肌が粟立つような感覚が全身を駆け巡る。
 しかし、彼のコンドームを装着した陰茎は白濁を放っておらず、勃起したままだ。

「しずなお…」
「あっ…あぁっ、ま、まって、いまイッたばっか…ッ!」

 真祐は抽挿を止めることなく攻め続け、そしてあろうことか勃起している穏矢の陰茎をも手で擦って扱い始める。
 それはもはや拷問というに等しいくらいのもので、穏矢は苦しげに喘ぎながらにヘッドボードを握る手に力を込めた。
 そうやって手に力を込めでもしていないと本当に体が壊れてしまいそうな気がして、彼は体を揺さぶられながら夢中になってヘッドボードを掴み、強制的に絶頂へと追いやられていく。

「しずなお…しずなお…っ!」
「~~~っ!!」

 瞳を潤ませながら立て続けに絶頂し、穏矢は今度こそ射精まで果たした。
 中と外での2種類の快感を同時に何度も与えられた彼はさすがにぐったりとして はぁはぁと息をつくが、後ろから抱きしめてくる真祐は未だに熱が収まっていないようで、鼓動や息遣いから未だ収まらぬ興奮の様子がはっきりと伝わってくる。
 穏矢がははっと笑いながら「お盛んだな、まだ足んないのか…」と後ろに伸ばした手で体を撫でると、真祐は耳元を愛撫するように口づけてきた。

「はぁ…この絶倫め…相手にするのは骨が折れるよ、ほんと………」

 まんざらでもなくそう呟いた穏矢は後ろにいる真祐の唇を食もうと顔を後ろに向ける。
 …だがそのとき、彼は何かがおかしいことに気が付いた。
 体の支えとして掴んでいるヘッドボードが、やけに手前に傾いてきたのだ。

「え…?」

 まさかと思いながらヘッドボードを前後に何度か揺すってみると、たしかにこれまで以上に遊びができている。
 さらにそれだけではなく、膝立ちになっている足を少し動かしただけでベッドが揺らぎ、大きく軋む音を立てた。
 明らかにそれまでとは違う様子のベッド。
 穏矢は呆気に取られてしまってヘッドボードから手を離すことができない。
 だが、なんと真祐はそんな穏矢に対して再び抽挿を行い始めた。
 「えっ…ちょっと、ちょっと待って、ベッドが…」と止めようとする穏矢だが、真祐はしっかりと穏矢の体を抱きしめて離さず、ゆさゆさとベッドを揺らす。

「わるい、しずなお…今はまだ……止めらんない」
「さっさねまさ…っ」

 2人はまだ比較的安定感が保たれているベッドの足元の方へと移動しながら、さらに互いを求めて熱烈に抱き合った。
 真祐が仰向けにさせた穏矢の 従順に開いている両足の間を絶え間なく攻めると、穏矢は四肢のすべてを使って全力でしがみつき、吐息の混ざった艶っぽい喘ぎ声をもらす。
 その間も、ベッドはギシギシというやたらとうるさい音を立てていた。


ーーーーー


「いやぁ~、本当にベッドが壊れることってあるんだな」
「………」
「漫画みたいだよな」

 ベッドの足回りを覗き込みながら なぜか感心したように言う真祐と、そして愕然とする穏矢。
 ひとしきり愛し合った後にようやく落ち着きを取り戻した彼らは、それからすぐにベッドの様子がおかしくなった原因を突き止めていた。
 ヘッドボードを構成していた木製の板が根元から折れていたのだ。
 穏矢が手前に奥にと激しく揺さぶったせいで折れたのだろう。
 ヘッドボードはベッド本体の一部としてしっかりと組まれていたらしく、それが根元から折れてしまったことで土台にも影響を及ぼし、結果として全体を傷めつけていた。
 木には亀裂が入っている部分すらあって、ベッドが軋んでいたのもこれが原因だろうとすぐに分かる。
 つまり、このベッドはもう使用不可の状態だ。
 ヘッドボードなしにしても、たとえ修復したとしたって、安全性の面からもう使用しない方がいいのは明らかである。
 「嘘だ、ベッドが…」と呟く穏矢に真祐は「まぁ、とりあえず…明日ベッドを見に行くか?」と提案した。

「元々 明日は2人でどっか出かけようかって話になってただろ。穏矢が大丈夫そうなら新しいベッドを見に行くのもいいんじゃないか?インテリアショップにでも行ってさ」
「…うん」
「じゃあそうしよう。とりあえず今日はもう休まないとな」

 真祐と共にベッドの足回りを覗き込んでいた穏矢は立ち上がる。
 どうやら穏矢はおおよそ破損しそうにないこのしっかりとした造りのヘッドボードを他でもない自らの手で折ってしまったということがにわかに信じられないらしい。
 折れたヘッドボードを見つめながら「粗大ゴミの日って…いつだっけ」と呟く穏矢のなんともいえない表情が可愛く思えて、真祐は思わずぎゅっとその肩を抱いた。


ーーーーー


 真新しい家具を前にすると、それらが自らの生活に加わった風景や暮らしを想像してなかなかに楽しい思いをするものだが、しかしいざ家具を購入するとなるとすんなりとは購入が決まらないのが常であろう。
 設置する場所との兼ね合いもあり、ただ単に気に入ったものを購入すればいいというわけではないからだ。
 往々にして気に入ったものはそれを設置する場所には大きさなどが不適当であり、設置するのに適したものはあまり気に入るようなものではないことがほとんどで、ちょうどいいものに出会えるのはごく稀なことなのである。
 それこそ妥協点を探すか 色々な店などを見て回って納得のいくものを探し続けるかしかない。
 …早い話が穏矢の新たなベッドは一日では見つからなかった。
 真祐と2人で大きな家具屋を数店舗見て回った穏矢は当初それなりのものを見つけ次第即購入するつもりでいたのだが、結局『これだ』というものを見出すことが出来ずその日の購入を断念したのだ。
 なんというか、こういった場合は歩いた距離以上の疲れを感じてしまうものである。
 何かを購入しようと息巻いて出掛けたにもかかわらず、散々歩き回った挙句なにも購入することが出来なかったとなると、散財はしなかったにしても妙に気疲れしてしまうのだ。
 『納得のいかないものを買うよりは』と思いつつ、これからも まだ『あぁでもない こうでもないと探し続けなければならないのか』とうんざりして、ため息の一つや二つもでてしまう。
 夕方まで新たなベッドを探して家具屋を点々としていた穏矢はまさにそんな感じになりながら、真祐と共に当初から行く予定になっていた小料理屋へと向かった。
 2人のことをよく知る人が店主をしている、あの小料理屋だ。


「2人揃ってきてくれるなんて、ほんと夢みたいだよ~…!」

 上機嫌でお茶を出す【月の兎】の店主、佐々田紹人つぎと
 普段はきちんと店主として振る舞っている彼だが、今日は店が休みである上にカウンターに座っているのも身内だということで、素の『三兄弟の末っ子感』を隠そうともせず気楽に話している。
 そんな弟の嬉しがりようを見た穏矢は「まったく…なにをそんなにはしゃいでるんだか」と眉根を寄せた。

「ご飯食べに来てって言ったのは紹人なのに。そんなんでちゃんと料理できるの?手とか気をつけてよ ほんとにもう」
「大丈夫だってば!僕は一応料理人だよ?料理するときはその一品に集中するもん。でも…でも嬉しいんだよ、すごく!だってしず兄と真祐兄ちゃんのことが大好きだから……いつかこうやってこの【月の兎】のカウンターに並んで座ってくれたらいいなって思ってたし」

 口を尖らせながら言った紹人は穏矢の隣に座る真祐にも目を向けて肩をすくめる。
 初めて会った時からの変わらぬ愛嬌に満ちたその姿に、真祐も自然と頬が緩んだ。

 紹人は穏矢と真祐が再び付き合い始めたことを知ってからというもの、ぜひこの【月の兎】へ2人で来てほしいと穏矢に言っていたのだが、ようやくそれが叶ったので嬉しくてたまらないらしい。
 そわそわとしながら「今日はいいお刺身を用意しておいたんだ、これで海鮮丼なんてどうかな?酢飯にして大葉と、あとそれから…あっ、それとも普通にお刺身とご飯にする?汁物は海老の真薯にしたんだ、2人とも好きでしょ?茶碗蒸しはまだ蒸しあがるまでにもうちょっと時間が欲しいんだけど…」と話す紹人。
 なんだかせわしないような彼にそのまま料理をさせるのは心配だったのか、穏矢は「そういえばさ、紹人」と口を開く。

「前、僕に話があるって言ってたけど。話って何だったの?なんか相談したいことがある風じゃなかったっけ」

 穏矢が話を差し向けると「あっ、そうそう、そうなんだよね」と紹人は眉をひそめた。
 さらに穏矢が「どうしたの?今じゃない方が良ければそれでもいいけど」と訊ねると、彼は話し出す。

「いやぁ…実は今僕が住んでるアパートが近々建て壊されるらしくてさ、どっか他に移れる人からどんどん退去してほしいって言われてるんだよね」
「え?そうなの?」
「うん。なんかの店舗になる予定みたい。うちのアパートは見た目こそ綺麗で新しいっぽいけど、実際は建ってから結構経ってるアパートだし、ここらで建て替えちゃった方が良いってなったんじゃないかな?」
「へぇ…」
「だから住む場所探してるんだ、今」 
「え?」

 何気なく聞いていた穏矢は嫌な予感がして顔を上げる。

「ねぇ、ちょっとの間だけでもいいからさ、穏兄のところに居候させてもらえないかな?僕本当に困ってるんだよ、部屋探しが苦手で。今のところだって当時すごく苦労して見つけたのに…」

 目を丸くする穏矢。唐突にもたらされた話の内容に彼はしばしの間ぼぅっとして…それから「いや!?だめだよ」と首を横に振った。

「なんで僕のところに?実家に帰ればいいじゃん、近いんだし!」
「でもあの家にはもう僕の部屋がないんだよ、姉さんと義兄さんと子供達がいるもん。それに穏兄のところってアクセスが良くてこことの行き来にも便利だなって」
「だからってそんな…」
「ねぇ、だめ?どうせあの立派なキッチンも使ってないんでしょ?宝の持ち腐れだよ、もったいないって!僕がご飯作るからさ、それでどお?」
「…いや、仕事で料理して家でも料理するつもり?」
「当たり前じゃん!僕にとっては料理は趣味みたいなものだからね」
「それは…まぁ、そうか…」
「ねぇ、どうしてもだめなの?絶対にだめ?本当に?」
「……………」

 沈黙に包まれる【月の兎】。
 頑として首を縦に振りそうにない穏矢を見て、紹人は小さくため息をついた。

「それなら…諦めるよ、そりゃあ僕だって2人の邪魔はしたくないしさ…」
「えっ」
「僕がいたら困るもんね…せっかく2人でまた一緒に過ごそうってなってるのにさ……」

 すっかりしょげかえって肩を落とす紹人。
 穏矢は『2人の邪魔はしない』と言われたことに動揺しているらしく、まだ少し熱い茶をふぅふぅと吹き冷ましながら多少強引に飲もうとしている。
 誰もが黙りこくってシンと静まり返る店内…そんな中で真祐はおもむろに口を開いた。

「じゃあさ、穏矢が俺の家に引っ越しておいでよ」

「で、空いた部屋に紹人が住んだらいいんじゃない?」

 真祐に2人の視線が一気に向けられる。

「それって、良いの?」

 一瞬でパッと表情が明るくなった紹人が訊ねると真祐は「ちゃんと不動産屋と大家さんに話せば大丈夫だろ」と考えながら話す。

「名義が穏矢のままで『穏矢が紹人に貸す』みたいな感じになっちゃうと又貸しになるからだめだけど。でも新規契約の手続きをして名義を紹人に移せば何も問題ないしさ、むしろ大家さんとかも入居審査とかがやりやすいんじゃないか?…あ、俺の家のこと?それはもちろんいいよ、穏矢のための部屋も用意できるから。物置みたいになってる部屋を片付ければすぐだよ」

 真祐のしっかりとした具体的な話ぶりに紹人は前のめりになって「それすごくいいじゃん!ね、そうしなよ穏兄!」と瞳を輝かせる。

「2人一緒に暮らしたら僕も部屋探ししなくていいし、万事解決だ!真祐兄ちゃん天才すぎる~!」
「いや…待て紹人、それは…」
「もー、何がだめなの?いいじゃん、同居しなよ そうしなよ!」

 紹人に押され気味の穏矢は戸惑いの表情を見せながら「…でも僕は荷物が多いんだよ、製図台もあるし資料の本とかも全部取っておきたいからそんな引っ越しとかは…」とあれこれ並びたてるが、真祐はそれすらも「心配しなくても全部うちに持ってこれるよ」と全く意に介さない。

「元々俺の荷物はそんなに多くないだろ、部屋も使いように困って物置にしてるくらい持て余してるんだ。だから穏矢が引っ越してくるならその部屋は丸々資料室みたいにしていいし」
「でも製図台が…」
「うん、リビングに置きたいんだろ?少しソファとかの配置を変えれば置けると思うから好きに移動させていいよ。穏矢が使いやすいように、住みやすいように色々変えていいからさ」

 実際それは穏矢にとってかなりの好条件であり、彼の心は大きく傾いている。
 しかしそうかといってすぐには首を縦に振ることができないのは…彼の中で『同居』や『同棲』という2字がやたらと重く存在感のあるものとして捉えられているからだろう。
 思い悩む穏矢。
 だが真祐や紹人には穏矢がすぐにはっきりと断らなかった時点でよく分かっていた。この後には彼が「まぁ…そう、だな…」と承諾するということを。

「……引っ越しか…それも悪くない、かも」
「ほ、本当っ!?」
「でもまずは不動産屋に相談してみないと…」
「本当!?」
「もし審査が通って部屋の名義を移すことができたら、うん…それでいいんじゃないの」
「えーっ!本当ぉ!?」

 大喜びで「ありがとう穏兄!一石二鳥って本当にあるんだね!」などとはしゃぐ紹人を見て穏矢はふと笑みをこぼす。
 引っ越し先を見つける、という悩み事が解決してすっかり明るくなった紹人は「あっ、そろそろ茶碗蒸しが!待っててね、今すぐご飯にするから!」と厨房の方へウキウキで下がっていった。
 2人きりになったカウンター席で真祐は「一石二鳥、か」と呟く。

「実際は一石三鳥かもな」
「え?」
「う~ん?」

 なにが『三鳥』なのかと目を瞬かせる穏矢に、真祐は声を潜めて言った。

《俺の家のベッドは穏矢のお眼鏡にかなってるんじゃないかと、思うんだけど》
《っ!》
《…頑丈だろ、俺の家のは》

 一気に穏矢の頬や耳元が真っ赤に染まる。
 今夜は元から真祐の家で過ごすことになっていたので、2人でそのまま引っ越した後のイメージをするのにも役立つに違いない。
 真祐は自らの手を穏矢の手に重ね合わせ、そして改めてきちんと言った。

「俺と一緒に暮らそう、穏矢。俺の家に来てくれ」

 学生時代からの付き合いでありながら、ようやく同居に踏み切ることになった2人。
 穏矢は小さく頷くと、言葉で答える代わりに真祐と指と指を絡め合い、しっかりとその手を握ったのだった。
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