350 / 396
番外編20 季節ものSS
帰省するお二人と一匹 八 うちの子
しおりを挟む三日目。朝。
美味しい朝食をいただいて、犬たちの散歩もして、いい時間。
「のんびりしたし、そろそろ帰ろうか」
「はい」
「えー! もう帰っちゃうの!?」
とお母さん。
リビングのソファでくつろぐお母さんのお膝の上には大和。
「大和お気に入りだねー」
「タロジロは双子だからさー。二人が仲良しなのよね。人間は二の次なの。でもほら、大和は人間が好きみたい」
うちは男所帯なので、女の人に抱っこされることが少ない。お客様だけ。前の家族は夫婦だったそうだから、女性が懐かしいんだろうな。
「大和、うちの子になろうよ。ね?」
と大和に話しかけている。大和は嬉しそうにふんふん鳴いてる。
俺は寂しい。
でも、このおうちなら、うちよりもはるかに広くて、いいものを食べられる。
タロとジロもいて、瑞穂さんは常に家にいて、お母さんも週三で働く以外はずっと家にいてくれる。お父さんもいて、のんさんと旦那さんも定期的に来て、太郎お兄さんも時々来て、コーギーもいるみたいだし、遊び相手には事欠かない。
お金も時間も愛情もたっぷりの場所にいるほうが、大和にとって幸せなのかな。
そんなことを考えたりもしてる。
和臣さんは言った。
「なーに言ってんの。ほら大和、東京帰るぞ」
和臣さんはリードを持って、お母さんの膝上の大和の頭を軽くぽんぽん。
大和は膝をおりて、和臣さんの足元で待機。
お母さんは羨ましそう。
「柴ちゃんいいな~」
「次郎兄さんに、今度ちょうどいい犬がいたらお母さんに連絡するように言っておくよ。また調停で夫婦の押し付け合いになったら、請け負っちゃうんじゃない」
「大和、そんな経緯であなたたちのとこに来たの?」
「そうなんです」
「バカだよね。次郎兄さん」
「そのときに次郎がわたしに聞いてくれたら、大和はうちの子だったのに」
リードをつけられた大和は、和臣さんの足元で、急に凛々しい顔つきになってる。
「うちに来る運命だったんでしょ。ここの暮らしに馴染むとうちが辛いぞ、大和。東京のド真ん中の手狭なマンションですからね」
「『三郎』飼おうかな~。柴にするか……でもラブ好きなのよ。三匹目はチョコレートかしら。非公式の色もいるんだったわね」
「どの犬種もお色も、可愛らしいですわね」
「また連れてくるよ。多紀くん帰ろうか」
「はい」
用意した荷物をレンタカーに積み込んで、お土産とかもたくさんもらったり買ったりして、和臣さんは大和を後部座席のカーシートにいれたケージにin。
「大人しくしておけよ。そうしたら、那須高原あたりで仙台牛か山形牛のジャーキーをごちそうしてやる」
ワンッと大和は鳴いた。
「高速に入るまでは俺が運転するよ。多紀くん後ろに乗って。大和の様子みてて」
「はい」
車に乗り込んで、運転席と後部座席の窓を開けて、見送りのお母さんと瑞穂さんに挨拶。
「大和、車は乗り慣れてるわよ。買い物に行くときも散歩に行くときも、呼んだら飛び乗ってきたし、うちのシートベルトをつけるときに大人しくしてたわ。前の飼い主が乗せてたんでしょうね」
「なんだ。そうだったの」
「また来てね。多紀ちゃん、大和」
「はいっ! ありがとうございました!」
「あれ? 俺は?」
「和臣もね。伯父さんにしっかり言えるようになったし、もう帰省できるわね」
「思ったより何も言われなかったね。なにか嫌なこと言われるかと思った」
「『それならそれで早く言わんか』って怒鳴ってたわよ。あのひとも、あんたのためを思ってたところもあるんじゃない。田舎ジジィのお節介で」
「余計なお世話だ……。じゃあ、また来るね」
「お世話になりました!」
「じゃあね。またね」
「お気をつけていってらっしゃいまし」
俺は手を振り、和臣さんは発進。
大和はワンッと一声鳴いて、あとは涼しい顔をしていた。
420
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる