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番外編21 和臣の妄想Ⅰ
二 先週の話
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二
店に入って、二階に通された。二階は個室になっていて、雰囲気がいいんだ。
天丼をふたつ注文して、湯呑みのお茶を飲みつつ。
「先週大変だったんですよー。出張先でホテルとるの忘れてて」
「え、大丈夫だったの?」
「豊橋だったんですけど、他のホテルもいっぱいで、名古屋まで行ってカプセルホテルとりました」
「大変だったね。お疲れ様」
「寒かったし散々ですよー! カズ先輩は最近どうですかー?」
そういえば、大事な話があるんだったな。
水を向けると、カズ先輩も近況を話し始めた。
「実は……、先週、お見合いしたんだ」
「え、えー! おっ、お見合い!」
俺はお茶を噴いた。
慌てて手拭きを取る。
「すみませんっ!」
「タキくんに、そんなに驚かれるなんて……」
「驚きますって」
いや、よく考えたら驚くことでもないかな?
自分の世界には起こらない出来事だからびっくりした。でもカズ先輩なら有り得るな。
お見合いパーティーじゃなくて、料亭の和室でおこなわれる、上流階級なテイストの、由緒正しきTHEお見合い。
カズ先輩って、女は日替わり七人いてパンツを履く暇がない、と冗談で言われても「ですよね……」と答えてしまいそうなほどモテるだろうし、実は大学時代から長年交際している大切な恋人に結婚願望が芽生えるの待ちの超恋人一筋です、といわれても、「なるほど」感。
どんなふうにいわれても妙に納得するというか。
透明感のなせるわざなのか、状況や本心が見えなくて謎めいてる。俺にわかるのは女性がカズ先輩を放っておくはずがないってことだけ。
手拭きで口周りをざかざか拭いて、俺は質問。
「職場関係ですか?」
「あ、うん」
たかだか時々メシ行く程度の後輩の俺に大事なお見合いのことを話す……ってことは、どうやら本決まりなんだろうな。
そうか、カズ先輩が結婚か。
だいじな話、そしておおごとな話だ!
俺は頭を下げる。
「おめでとうございます!」
俺たちの付き合いは高校生のときから、十年近く。まさかこんな節目に立ち会うとは……。
格差が……さらに……広がっている……!
「……あのね」
「はい」
顔を上げるとカズ先輩はなんだか複雑そうに眉を寄せ、視線を泳がせている。どうしたんだろ。
そのとき天丼が来た。揚げたての天ぷらがいっぱいのった、あつあつのやつ。
「……いただこうか」
「はい!」
元気よくお返事。
でも心中は、少し複雑。今後はこういうふうに頻繁には食事に行けなくなるんだろうな……。
もちろん寂しい。他に、こんなに気軽にメシ食える相手いない。
けれど、カズ先輩には、家庭を大事にしてほしい。家族をかえりみてくれなかった父親を持つ俺としては。
でも俺がそんなことをわざわざ願わなくても、カズ先輩はちゃんと家庭をいちばん大切にできるひとだと俺は思う。
天丼を食べながら、
「結婚、いいですね!」
と言ってみる。
憧れるし羨ましい。身近なひとが結婚すると俺の独身心もちょっと揺らぐなぁ。
中身長低学歴低収入平凡地味顔でモテと無縁の俺は、彼女が欲しいといいつつも、行動には移したことがない。彼女いない歴年齢。
正直、責任とれないし。彼女できないのは俺が求めてないからだし。いや、強がりじゃないし。責任とる能力がないんだもん。
俺だけが一生このままなのかな、と思うとうんざりするけど、不幸なひとは少ないほうがいいよな。
あっという間に天丼を食べ終えた。美味しかったー! と手を合わせてごちそうさまでした。
「……あのね」
カズ先輩は、なにか言いたそうにしてる。
でも迷っているみたいだ。どうしたんだろ。
店に入って、二階に通された。二階は個室になっていて、雰囲気がいいんだ。
天丼をふたつ注文して、湯呑みのお茶を飲みつつ。
「先週大変だったんですよー。出張先でホテルとるの忘れてて」
「え、大丈夫だったの?」
「豊橋だったんですけど、他のホテルもいっぱいで、名古屋まで行ってカプセルホテルとりました」
「大変だったね。お疲れ様」
「寒かったし散々ですよー! カズ先輩は最近どうですかー?」
そういえば、大事な話があるんだったな。
水を向けると、カズ先輩も近況を話し始めた。
「実は……、先週、お見合いしたんだ」
「え、えー! おっ、お見合い!」
俺はお茶を噴いた。
慌てて手拭きを取る。
「すみませんっ!」
「タキくんに、そんなに驚かれるなんて……」
「驚きますって」
いや、よく考えたら驚くことでもないかな?
自分の世界には起こらない出来事だからびっくりした。でもカズ先輩なら有り得るな。
お見合いパーティーじゃなくて、料亭の和室でおこなわれる、上流階級なテイストの、由緒正しきTHEお見合い。
カズ先輩って、女は日替わり七人いてパンツを履く暇がない、と冗談で言われても「ですよね……」と答えてしまいそうなほどモテるだろうし、実は大学時代から長年交際している大切な恋人に結婚願望が芽生えるの待ちの超恋人一筋です、といわれても、「なるほど」感。
どんなふうにいわれても妙に納得するというか。
透明感のなせるわざなのか、状況や本心が見えなくて謎めいてる。俺にわかるのは女性がカズ先輩を放っておくはずがないってことだけ。
手拭きで口周りをざかざか拭いて、俺は質問。
「職場関係ですか?」
「あ、うん」
たかだか時々メシ行く程度の後輩の俺に大事なお見合いのことを話す……ってことは、どうやら本決まりなんだろうな。
そうか、カズ先輩が結婚か。
だいじな話、そしておおごとな話だ!
俺は頭を下げる。
「おめでとうございます!」
俺たちの付き合いは高校生のときから、十年近く。まさかこんな節目に立ち会うとは……。
格差が……さらに……広がっている……!
「……あのね」
「はい」
顔を上げるとカズ先輩はなんだか複雑そうに眉を寄せ、視線を泳がせている。どうしたんだろ。
そのとき天丼が来た。揚げたての天ぷらがいっぱいのった、あつあつのやつ。
「……いただこうか」
「はい!」
元気よくお返事。
でも心中は、少し複雑。今後はこういうふうに頻繁には食事に行けなくなるんだろうな……。
もちろん寂しい。他に、こんなに気軽にメシ食える相手いない。
けれど、カズ先輩には、家庭を大事にしてほしい。家族をかえりみてくれなかった父親を持つ俺としては。
でも俺がそんなことをわざわざ願わなくても、カズ先輩はちゃんと家庭をいちばん大切にできるひとだと俺は思う。
天丼を食べながら、
「結婚、いいですね!」
と言ってみる。
憧れるし羨ましい。身近なひとが結婚すると俺の独身心もちょっと揺らぐなぁ。
中身長低学歴低収入平凡地味顔でモテと無縁の俺は、彼女が欲しいといいつつも、行動には移したことがない。彼女いない歴年齢。
正直、責任とれないし。彼女できないのは俺が求めてないからだし。いや、強がりじゃないし。責任とる能力がないんだもん。
俺だけが一生このままなのかな、と思うとうんざりするけど、不幸なひとは少ないほうがいいよな。
あっという間に天丼を食べ終えた。美味しかったー! と手を合わせてごちそうさまでした。
「……あのね」
カズ先輩は、なにか言いたそうにしてる。
でも迷っているみたいだ。どうしたんだろ。
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