時の宝珠~どうしても死んだ娘に会いたい~

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14、脱出

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獣人族の王・パラダス、人族の王・アプスタット
両雄は、人族の街・チャオを背にし、ただ悠然と立っていた。
その周りには、人族25,000人 獣人族27,000
すべての目が、この2人に向けられていた。

アプスタっとは、右手の大剣を自然体の構えで下げていた。
まだ、鞘に収まったままだ、マントは風になびき、威風堂々とした佇まい。
かたや、パラダスの目を赤く血走り、息遣いは荒いが、アプスタッドを恐れている様子はない。
周りの人間、獣人たちは、息をひそめて見守っている。
不気味な静けさが、辺りに漂っていた。
そう、嵐の前の静けさ・・

先に仕掛けたのは、パラダス。
首を一度横に振ると、両手の爪が伸び、アプスタッドを見据えて、走り出す。
アプスタッドは、鞘から剣を抜き、鞘を投げ捨て、右手に剣を持ち、
こちらも走り出す。
剣と爪が激しく当たり、両種族の命運をかけた戦いが始まった。


人族8,000人が、ここへ向かって来ている。
率いるのは、宰相マルーン

「今、エルフの民で戦えるのは、どのくらいいるんだい」
俺が尋ねると、

一人の若いエルフが、
「2,000人程でしょう、だが、われらは森の民、この森の地を利用すれば、
そう簡単には負けないと思います」

「マルーンと8,000人か、いくら森の中でエルフ有利とはいえ、厳しい戦いになるな」

そう俺が呟いていると、
マルーンの襲来を知らせに来たエルフが、
「シュウ殿、どうかバルチャーム姫を連れて、この地からお逃げください
もし、貴方たちが捕まれば、希望はすべてなくなってしまいます」

「確かにそうだが、貴方たちを見捨てるというのは、俺の意思に反すんだよな」
「俺は嫌いなんだよ、力を持つものが、弱者をいたぶるのが」

「シュウ殿、それは違いますぞ。 我々エルフは森の民、この地であれば弱者ではありません。森が私たちに味方してくれます。戦えないものは、森の奥に分散して避難させましょう。 それよりもシュウ殿と姫が捕まってしまうと、全てが終わります ここはどうか私たちを信じてお逃げください」

白髪の年老いたエルフは、シュウに語りかけた。

「わかった、姫はそれでいいのかい?」

バルチャーム姫は、無言でうなずいた。

「じいさん、貴方たちを信じるよ、だが、けして無理はしないでくれ
出来るだけ戦わずに逃げるんだぜ。じいさんの名前はなんていうんだい?」

「私は、エルフの長老をしています、ヨークといいます
シュウ殿、姫を頼みますぞ」

俺はしっかりと頷いた。

「だが、どうやって逃げる?」

ヨークは、
「ここは森の中、霧を発生させ、奇襲をかけます。その隙をついてお逃げください」
「シュンバよ、2人を案内するのだ、わかっているな」

金髪、短髪の一人の若いエルフが前に出てきて、跪き
「シュンバといいます、私が案内します」

ヨークは、
「さあ、時間がない、皆の者、すぐに動くのだ」

俺と、姫、ルトとセレティスは、シュンバの後に続いた。

暫くすると、エルフの森を霧が囲い、何も見えなくなった。

シュンバは、
「さあ、私に付いて来てください」
と言い、迷うことなく先導していく。

「この霧の中で、よく方向がわかるな」
俺が尋ねると、

シュンバは、
「私は探知のスキルを持っています、それに、ここはエルフの森、その位わかりますよ」

俺は、そんなもんかねと感心していると、

シュンバが右手をあげ、俺たちを止めた。

「ここで、しばらく待ちましょう、皆が敵を陽動してくれるはずです」

暫くすると、大きな歓声と爆発音が聞こえてきた。

「あの爆発音は何だい」

「あれは、多分、人族がスクロールを使って、魔術を使用しているのでしょう
さあ、東の方が、今なら抜けれます」

そう言うと、シュンバは、また、俺たちを先導し始めた。

小一時間も進むと、森のはずれについた。

シュンバが、胸に下げていた笛を吹いた、音はしなかったが。
暫くすると、馬が2頭天から降りてきた。
背には羽が生えており、

「これって、もしかするとペガサス?」

「そうです、昔から、この森は、幼獣たちの住処でもあります」
「さあ、早く、この馬でお逃げください、時間がありません」

「わかった、姫さんは、ルトと乗ってくれ、俺は、セレティスは抱いて乗るよ」
そう言って、ペガサスに乗ろうとしたとき、

俺たちの目の前に、黒い靄が現れ、一人の黒いローブをまとった男が現れた。
右手には、鞘から抜いた長剣を持っている。

眼光は黒く濁り、禍々しいオーラを発していた。

「バルチャーム姫、私と一緒に来てもらいます」
低く、冷たい声が、その場に投げかけられた。

「お前は、誰だ」
俺の問いかけに、

「俺に名はない、ただ、昔はリーンと名乗っていた
邪魔をするなら、切り捨てる」

「お前は、マルーンの配下だね、俺の身体に伝わってくるよ」
「残念だが、姫さんを渡すわけにはいかない」
そう言うと、俺は、右手に、混合した神木を出し、刀にかえた。
多分、普通の武器じゃ、あいつは切れない。
この刀でないと無理だ、俺は確信した。
逆にいうと、あいつの剣でも、俺を殺せるということだな。
俺は覚悟を決めた。
この人族の男を切ると、いや、もう人ではないかもしれないが。
香織の時のように、誰かを失うのは、もう嫌だ。
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