レディース総長がクソゲー悪役令嬢に強引転生させられた挙句、王子様に恋しました。

篠山猫(ささやまねこ)

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19:虐められるジュリーと麻薬(仮題名)

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1回目の講義が終了すると講堂は閑散とした。
テリーゼは気晴らしにコートまで出向いていた。

そこには虐められているジュリーの姿があった。
数日前とは別の女性陣から囲まれている。
ジュリーの容姿は凡そ16歳頃で冴えない顔、特徴という特徴が殆ど無い。
マッシュショートの髪型と顔のそばかすくらいが印象に残る程度の地味な姿だ。

「この麻薬令嬢!内は困ってますのよ。」
「麻薬で稼ぐなんて最低ですわ。」
「そんなのデタラメです、通行料は頂いていますが麻薬で稼ぐなんて!」
「なら、貴方の領地から麻薬が配られている理由くらい説明しなさいよ。」
「そんな、説明できません・・・」
「貴方、王都に近い中心地に構えていらっしゃるのに?」
「何を寝ぼけた事を仰るのかしら。」

先日、ウィリアムが顔を出して聞いた話と同じだ。
そこに通りがかったオリビアが割って入った。
容姿は長い金髪を纏めた清楚な女性、貴族の女剣士のような凛々しい表情をしている。
しかし魔法で女装しているだけで中身はこの国のレオン王子、宮廷従者を除けば誰にも素性を知られていない。

「ごきげんよう、ジェーン様、キャロライン様、アンナ様。物騒ですわよ。」
「オリビア様、ごきげんよう。」

オリビアが先にスカートをつまんで一礼すると、3名はオリビアに浅く一礼した。

「ごきげんよう、ジュリー様。まずは貴方の立場で仰って頂けないかしら。」
「麻薬取引に利用されているのです、これ以上は説明できません。」
「ジュリー様、何か弱みを握られていらっしゃいません事?」
「・・・」

ジュリーはオリビアの質問に俯いて返答できない。
この様子を見た3名の令嬢がそれみた事かという顔をする。

「言えない闇をお持ちなのかしら?」
「毒ですわよ。」

3名の令嬢は言いたい放題だ。
ここにオリビアはキッパリとした口調で牽制する。

「ではジェーン様、キャロライン様、アンナ様。ジュリー様に非があるという事実をお示し戴けません事?」
「麻薬が流れているのは事実ですわ。」
「ジュリー様の領地の何処からでしょう?」
「そんなのは存知致しませんわ。」
「ではなぜ、ジュリー様と断定されたのでしょう?」
「それは内の領内の執事やお父様が仰っての事、間違いありませんわ。」
「その情報に偽りはありません事?」
「・・・」

3名の令嬢はぱったりと口をつぐんだ。
確たる証拠は何もない。

「口が過ぎましたわ。失礼致します。」

3名の令嬢は口惜しさを滲ませた顔をすると一礼して引き下がった。
貧乏令嬢で虐められて薬物令嬢とまで罵られる、ヒロインの役回りはこれほどに貧乏くじなのだろうか。

「ジュリー様、お加減は如何でしょう?」
「助かりましたわ、オリビア様。」

このように二人は言葉を交わすとそれ以上の話は無く、お互いに一礼してその場を離れる。
テリーゼはオリビアに尊敬の目を向けながらも、この一連の経緯を傍観する以外に術はなかった。

暫くすると教会の鐘の音が鳴り響いた。
テリーゼが座った席の隣には綺麗なストレートで黒の長髪を持つ、落ち着いた雰囲気の男が座っている。
体系は細く切れ長の目、若干オリエンタル風の知的な顔をしている。
例えるなら賢者の様なものだろうか。
テリーゼは横の男性に小さく挨拶をすると、男性も同様に返した。

その更に隣にはジュリーが座っていた。
ジュリーは殴られた事をまだ根に持っている様だ。
テリーゼに気付いた彼女は余り良い顔をしていない。

ジュリーは講義についていけていない様だ。
すると隣の黒髪の男は彼女へ無言で横からすっと答えを差し出す。

ジュリーは小声で礼を言うと、黒髪の男は無言で軽く頷いて答えた。
どうやら法律学の講義をしている様だがテリーゼにもサッパリわからない。
本来のテリーゼ本人なら恐らくは理解しているだろう。

黒髪の男はテリーゼの顔を知らない様だ。
少しテリーゼの顔の様子を伺った後に無言で何事もなく講義に耳を傾けている。
テリーゼはその視線に反応して黒髪の男をチラ見してしまった。
するとアディラもテリーゼの様子を少し伺ってまた講義に耳を傾ける。
時間の間隔を開けてお互いに理解できない視線を交互に繰り返してしまう。

黒髪の男は見兼ねて小声で問いかけた。

「アディラと申します。お名前を頂いて宜しいですか?」
「テリーゼと申します。」
「気兼ねなく仰ってくださいね。」

アディラはテリーゼに優しく返答すると、元通り講義に耳を傾けている。
ジュリーは無言だがアディラを取られたような顔をして不服そうだ。

こうしてテリーゼは講義内容を理解できないまま終了するのだった。
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