レディース総長がクソゲー悪役令嬢に強引転生させられた挙句、王子様に恋しました。

篠山猫(ささやまねこ)

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20:エドワードが仕掛けた強引な結婚(仮題名)

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講義を終えると昼休みに入った。
講堂から少し離れた所のオープンスペースは複数人が集まって会話をしている。

通りがかったのはレイチェルだった。
ボブカットされた青色の髪に丸顔でくりくりとした目。
精々12歳くらいの可愛らしい姿と可愛らしい声をしている。

「よ、テリーゼ。」

軽く挨拶をしたレイチェルはそのまま素通りしようとした。

「ごきげんよう、レイチェル。少しお話しませんこと?」
「なんだよ気持ちわりぃな・・・きどりやがって。」
「訳がありましてよ、オッホッホ・・・」

久々、真面目に乙女メータを確認すると棒グラフは100%を指している。
レイチェルは煙たそうな顔をした。

「訳ってなんだよ。」
「コールド魔法を教えて頂けないかしら。」
「んなもん、自分で精進しろぃ。」
「精進出来たら頼まねぇーよ。」
「・・・後でコートに来な。」

少し不機嫌な顔をしたレイチェルだが付き合っては貰える様だ。
暫くするとレイチェルはコートにやってきた。

「取り合えず唱えてみろや。」
「アイス!」

氷は出来たが雪の様に舞って直ぐに溶けた。
レイチェルが片手を天に伸ばして唱えると直ぐにダイヤモンドの塊の様な形をした巨大な氷が出来る。
そしてテリーゼの頭上に落ちようとしている。

「グレートフローズ!」
「てめぇ俺を殺す気かっ!」
「だったら死ぬ気でやれ。♡」

レイチェルは柄にもなくピースした指を目元に当てて決めポーズする。
テリーゼは必至な顔で真上から落ちてくる巨大な氷に対抗する。

「グレートファイヤー!」

半分くらいが解けた後、頭上に落ちてくる。
辛うじて逃げ切ったテリーゼは直ぐに唱える。
大きな氷にはならなかったが、この氷がレイチェルに向けて飛んだ。

「グレートフローズ!」
「スーパーグレートフローズ!」

レイチェルは更に巨大な氷を作った様だ。
ここで講義を受け持つ年配の人が出て怒鳴り声が聞こえるとレイチェルは即座に二つの魔法を消した。

「貴方たちは何をしているのですか、やめなさい!!コートを壊す気ですか!」
「テリーゼ、あと宜しくな。」

レイチェルは片手を後ろに回してバツの悪そうな顔をした後、テリーゼにウインクを投げるとダッシュで去っていく。
テリーゼは「くそっ」と内心、悪態をつきつつもレイチェルの後を追う。

そして気になって確認したテリーゼの乙女メータはついに0%に降下。
テリーゼは感情論で我慢できず、3回タップしてネクストAIを呼び出す。

「オイ、ネクスト。乙女メータおかしくね?」
「いえ、意図通りです。一定ラインでお嬢様言葉をクリアすると更に少しづつハードルが上がっていく様に設定されています。」
「そんな話は聞いてねぇぞ、オイ!」
「では頑張ってください。」
「何のジョークかよ!!マジ、お前ポンコツかよ?!」

ネクストAIは反応しなくなったのでどうにもならない。
質の悪いクソゲーをやっている気分だ。
コンソールを閉じる。

講堂に戻ろうとしたテリーゼは、いきなりエドワードと遭遇した。
あまりに出来過ぎた光景、無茶苦茶すぎる。
エドワードはツカツカとした歩き方でテリーゼに近寄る。
そしてテリーゼの右手を引っ張り、コート裏の影まで強引に引き寄せた。
エドワードはいつもの爽やかなイケメン顔ではなく、獣が襲うかのような顔をしている。

「もう我慢できない。僕は明日、ヨーゼフ様に君との結婚を申し伝えるよ。」
「・・・何のご冗談を?」

元から婚約状態とはいえ唐突な展開。
しかも押し倒されそうな勢いでテリーゼを壁側に引っ張り込む。
テリーゼは侵されそうな体制になっても成すがままで動揺を隠せない。

「もし、君が断ると言うなら君の領地から買い受けている取引を全て破棄してやる。」
「そんな事が簡単に出来るかしら・・・」

目を逸らしたテリーゼは困惑して言葉が思いつかない。
しかし、なんとか振り絞って朝の光景を直ぐに思い出す。

「エルザ様とはどの様なご関係?」
「エルザの領地もテリーゼ、君の領地と同様に食料を生産しているんだよ、只のお付き合いだよ。」
「今日の朝の事、忘れていません事よ?」
「何の話かな・・・」
「あれだけ激しく愛を交わしておいて?」

エドワードは一瞬、気まずい顔をする。
続けてさらさらとしたミディアムウルフの茶髪を右手でかき上げると険しい表情を浮かべた。

「そこまで見ていたのなら話が早い。君の領地から買い受けていた食料は全てエルザの領地に切り替えさせて貰うよ。それで良いのかい?」
「・・・」

唐突にここまで言われるとは思わなかったテリーゼはその先からの判断はできない。
エドワードはテリーゼの耳元で窘めるようにもう一度囁く。

「それで良いのかい?」
「・・・貴方の言い分、受け入れますわ。」

エドワードの表情が少しいやらしい満足した様な顔に変化する。
この場では彼の方が上手だ。
今は引き下がるしかない・・・しかしこのまま引き下がれば結婚は確定だ。
彼の人差し指はテリーゼの顎下に入った後に少し持ち上げられる。
互いの顔が近い、襲われるようなキスをされても不思議ではない雰囲気。

「但し、数日待って頂けないかしら。」
「ダメだ、明日だ。」
「エドワード、貴方そんなに度量が小さい男だったかしら?」
「・・・」

何とか言い負かしが出来そうだ。
エドワードはテリーゼに接近していた顔を離すと少し不愉快な顔をして渋々受け入れた。

「良いだろう、3日以上は待てないよ。」

その時だった、偶然通りがかった宮廷従者のランスロットがこの光景を見過ごさなかった。
険しい顔をしたランスロットは横から介入してくる。
容姿はオールバックの髪型をした金髪にキリっとした目、少し日焼けしたような肌、すらっとした長身。
そして服を着ていても想像できる筋肉のつき方が印象的だ。
例えるならば剣士を彷彿させる様なものだろうか。

二人は口早に言い争いを始めた。

「エドワード殿、何かやましい事をされておりませぬか?」
「これはランスロット様、何もしていませんよ。」
「では、何故こんな陰に隠れた所でご令嬢と会話されておられるか?」
「ランスロット様に関係の無い事でしょう?」
「はぐらかしても得になりませぬぞ?」
「・・・」

エドワードは返す言葉が無くなり、一瞬会話が止まった時だった。
テリーゼが事情を説明しようとした所で教会の鐘の音が鳴り響いた。
次の講義が始まる時間だ。

「エドワード殿、一旦引きましょうか。」
「話せる物なんてありませんよ。」

エドワードは不服そうな顔をしているが、少なくともランスロットは何かを感じ取っている様だ。
消化不良のような形だが鐘の音は鳴り終えている。
3人はそれぞれのあるべき場所に戻るのだった。
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