ペイン・リリーフ

こすもす

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【3】セルフ・コンパッション

37 完全に恋

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 そんなことを悶々と何時間も考えているうちに、スマホの上部に新着メッセージの通知が表示された。
『もうすぐ着く』と文哉さんから連絡が入ったので、緊張してしまう。

 僕は服を脱ぎ、風呂に入った。
 シャワーで体の汗を流していたその時、玄関ドアの鍵が開く音がしたので、反射的に湯船の中に体を沈めた。
 足音が近付いてくるのを感じて、そっちに背中を向ける。

「琴。いま帰った」
「お、おかえり」声が裏返ってしまう。

「今日は先に入ってるのか」

 いつもはご飯→お風呂の流れだから、そう聞いたのだろう。

「うん、汗かいたから」
「そうか。冷やし中華買ってきたから、出たら一緒に食べよう」
「うんっ」

 文哉さんは、脱衣所から出ていったみたいだ。
 僕は顔の半分を湯の中につけて口をブクブクとさせる。
 変に思われただろうか。僕はいつも通り返事できただろうか。

 胸が高鳴って、体温が上昇していた。
 風呂のせいではなく、その低くて安心する声を聞いたからだった。

 昨日の夜まで、こんな風に文哉さんをあからさまに意識したことなんて無かったはずだ。
 だけど予兆はあった。優しくされたり触れられたりすると、胸があたたかく、ドキドキする感じ。

 もっと、相手のことを知りたい、笑っていてほしいという気持ち。
 これはもう、完全に……

 認めてしまうと、もうダメだった。
 自分の家なのに、ここから逃げ出したくなる。
 普通にしなくちゃ、普通に。

 熱々の湯船に長いこと浸かって悩んでいると、どんどん目の前が霞みがかってきて、頭がふわふわとしてきた。

 のぼせそうだけど、もう少し気持ちを整理してからじゃないと、文哉さんの前に普通に立てない。

 もう少し、あと少し。
 そうやっている間に意識が朦朧としてきた。ぐわんぐわんと脳が収縮しているのがわかる。

 湯気が全体に広がって白くなっている。
 換気をしていないから熱がこもり、暑くて気持ち悪い。
 吐きそうになってしまい、ふらっと頭が傾ぐ。

「琴。ずいぶん長いこと入ってるけど、どうかしたか?」

 本物か幻聴か、扉の向こうから低く穏やかな声がぼんやりと聞こえた。
 答えたいが、喉が干からびていて声が出せない。
 数秒後に浴室のドアが開き、文哉さんが顔を覗かせる。

「琴!」

 腕を引っ張られたところで、僕の目の前が膜に覆われた。
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