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【3】セルフ・コンパッション
57 好き
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そういえば、そんなふうにさっきも意味深に言っていた。大切にしたい、その時がくるまで、と。
さっきは情欲に流されて深く考えられなかったが、今は冷静に判断できる。
「それってつまり、もしも僕に恋人がいるって分かったら……?」
「そうしたら俺は、身を引くよ」
「待ってよ、そんな」
所詮その程度の気持ちなのかと、少し落ち込んでしまう。
文哉さんは「まぁ、そうなったら悲しいけどな」と取って付けたようにいうから、本音なのかは分からないが、身を引くというのは本気なのだろう。
「恋人なんていないよ。だって記憶喪失になってから1ヶ月は過ぎてるのに、それっぽい人なんて現れてないし」
「これから現れるかもしれないだろ」
「もしいたとしても、もういいよ」
僕は強い意志で文哉さんを見つめる。
これは揺るぎない答えだった。
例え、僕に10年付き合っている恋人がいたと発覚しても、今の僕に必要なのは文哉さんだ。
文哉さんだって、僕に恋人がいたとしても、自分を選んで欲しいと心の中では思ってるに決まっている。
そう思うのに、間を置いてから文哉さんは揺るぎなく答えた。
「そうもいかないだろ」
この人は僕が思っているよりも、相当な頑固者らしい。
あんな風に僕の体の隅々まで意地悪をした事実がすでにあるっていうのに、よく言うなと呆れてしまう。
僕はもう、文哉さんとは離れられないのに。
「じゃあいいよ。文哉さんがそう言うなら、そうしてあげる。もし恋人が現れた時はそっちに行くって前提で、僕たちはプレお付き合いってことにしとこうよ」
まぁ現れたとしても、行かないけどね。
余裕ぶって言うと、「なんだか偉そうだな」とデコピンをされたが、文哉さんも笑ってくれて嬉しくて、その大きな胸に腕を回してぎゅっとした。
「でもさ、やっぱり他の人にはいかないよ。僕、さっきの文哉さんの話聞いて確信した。相手がいるのに他の人に目がいくなんて、僕には理解できないし、文哉さんには寂しい思いをしてほしくない。万が一にでも、僕に恋人がいたって分かったとしても、僕はもう文哉さんがいいから」
もう、愛した人に裏切られたくはないはずだ。
文哉さんも、まるで僕を悪いものから守るみたいに力強い抱擁をしてきた。
当てた耳から、文哉さんのトクトクと鳴る鼓動を聞く。
「ありがとな、琴」
もう、抜け落ちた過去のことは正直、なんでも良かった。
文哉さんと以前に会った気がするとか、もしかしたら文哉さんが僕を階段から落としてしまったんじゃないかとか、悩むのも聞くのもやめた。
例えそれが真実でもそうじゃなくても、僕の気持ちは揺らがない。
僕の恋人はこんなにも優しくて、そして──
「今度デートしようよ、文哉さん。まずは遊園地とか」
「そうだな」
文哉さんの手が、僕の頭を撫でる。
あたたかくて、優しい。
何も心配はいらないと安心させるように動かされた手は、しばらくしたら緩慢な動きに変わっていた。
さっきは情欲に流されて深く考えられなかったが、今は冷静に判断できる。
「それってつまり、もしも僕に恋人がいるって分かったら……?」
「そうしたら俺は、身を引くよ」
「待ってよ、そんな」
所詮その程度の気持ちなのかと、少し落ち込んでしまう。
文哉さんは「まぁ、そうなったら悲しいけどな」と取って付けたようにいうから、本音なのかは分からないが、身を引くというのは本気なのだろう。
「恋人なんていないよ。だって記憶喪失になってから1ヶ月は過ぎてるのに、それっぽい人なんて現れてないし」
「これから現れるかもしれないだろ」
「もしいたとしても、もういいよ」
僕は強い意志で文哉さんを見つめる。
これは揺るぎない答えだった。
例え、僕に10年付き合っている恋人がいたと発覚しても、今の僕に必要なのは文哉さんだ。
文哉さんだって、僕に恋人がいたとしても、自分を選んで欲しいと心の中では思ってるに決まっている。
そう思うのに、間を置いてから文哉さんは揺るぎなく答えた。
「そうもいかないだろ」
この人は僕が思っているよりも、相当な頑固者らしい。
あんな風に僕の体の隅々まで意地悪をした事実がすでにあるっていうのに、よく言うなと呆れてしまう。
僕はもう、文哉さんとは離れられないのに。
「じゃあいいよ。文哉さんがそう言うなら、そうしてあげる。もし恋人が現れた時はそっちに行くって前提で、僕たちはプレお付き合いってことにしとこうよ」
まぁ現れたとしても、行かないけどね。
余裕ぶって言うと、「なんだか偉そうだな」とデコピンをされたが、文哉さんも笑ってくれて嬉しくて、その大きな胸に腕を回してぎゅっとした。
「でもさ、やっぱり他の人にはいかないよ。僕、さっきの文哉さんの話聞いて確信した。相手がいるのに他の人に目がいくなんて、僕には理解できないし、文哉さんには寂しい思いをしてほしくない。万が一にでも、僕に恋人がいたって分かったとしても、僕はもう文哉さんがいいから」
もう、愛した人に裏切られたくはないはずだ。
文哉さんも、まるで僕を悪いものから守るみたいに力強い抱擁をしてきた。
当てた耳から、文哉さんのトクトクと鳴る鼓動を聞く。
「ありがとな、琴」
もう、抜け落ちた過去のことは正直、なんでも良かった。
文哉さんと以前に会った気がするとか、もしかしたら文哉さんが僕を階段から落としてしまったんじゃないかとか、悩むのも聞くのもやめた。
例えそれが真実でもそうじゃなくても、僕の気持ちは揺らがない。
僕の恋人はこんなにも優しくて、そして──
「今度デートしようよ、文哉さん。まずは遊園地とか」
「そうだな」
文哉さんの手が、僕の頭を撫でる。
あたたかくて、優しい。
何も心配はいらないと安心させるように動かされた手は、しばらくしたら緩慢な動きに変わっていた。
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