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一話
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「お前とはもう婚約破棄だ、この浮気者!」
王太子夫妻の結婚一周年を祝うパーティーで、公爵令嬢オデットの婚約者エリオットは声を張り上げた。
突然のことにオデット・クラリスこと私は、モグモグと味わいながら食べていたケーキを口に入れたまま固まる。
浮気……?そんなことは微塵もしていない。相手もいないし。何のことだろう。
ぼんやりと考える私を、エリオットはまるで忌々しいものでも見るかのような目で睨みつけてくる。
「証拠は揃ってるんだ。言い訳は聞かない」
ケーキを飲み込んで、私はエリオットに向き直った。
せっかく美味しく食べていたのに、さっさと飲み込んでしまうことになって勿体ない。もう少し私のペースを尊重して欲しいところだけれど、まぁ無理よね。
それに明らかに貴族の話の種になりそうな話題に、周りの視線が嫌と言うほど集まっているのを感じる。あまり下手なことは出来ないと……もう手遅れのような気がするがけれど、私はとりあえずエリオットのペースに従うことにした。
「証拠とは……?」
「はっ、とぼけるつもりか。まぁ良い、もう言い逃れは出来ないのだからな」
「はぁ」
「公爵家の屋敷で、とある騎士と何度も密会していたそうじゃないか」
「とある騎士……?」
エリオットが失礼にも指さす方を見ると、そこには青ざめた顔をした騎士が一人立っている。
「ほら、あそこにいる王立騎士団の副騎士団長サイアスだ」
「まぁ、そうなんですか」
彼とは王城に来る時に挨拶したことしかない。密会なんてするはずも無いのだけれど……。
名指しされたサイアス様も覚えのない罪にあたふたしている。
たとえエリオットがデーラン公爵家の嫡男だとしても、身に覚えのない罪を着せるなんて彼は一体何を考えているのだろう。
ただの言いがかりだとは思えない。
最近、私に対して威圧的だったのもこれが理由だったのかしら。
「でもそんな事実はありませんわ」
「まだとぼけているのか?」
「身に覚えがありませんので」
「だが証言は取れているのだぞ?」
でっち上げの証言のことかしら。
エリオットがこれだけ自信満々なのもその証言とやらがあるからだろう。
エリオットいわく私は屋敷にいる時にサイアス様と密会したそうだから、証人もきっとうちの公爵家の者で、この出来事を得と考える者であるはず。
私は考えを巡らせる。
エリオットが起こしたこの騒動には私を陥れるための誰かの後ろ盾があって、それは十中八九……。
「わたくしの身内が本当に申し訳ございませんわ。お恥ずかしい限りです……」
今回のパーティーの主役でありこの国の王太子妃である私の姉の仕業だろう。
王太子夫妻の結婚一周年を祝うパーティーで、公爵令嬢オデットの婚約者エリオットは声を張り上げた。
突然のことにオデット・クラリスこと私は、モグモグと味わいながら食べていたケーキを口に入れたまま固まる。
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ぼんやりと考える私を、エリオットはまるで忌々しいものでも見るかのような目で睨みつけてくる。
「証拠は揃ってるんだ。言い訳は聞かない」
ケーキを飲み込んで、私はエリオットに向き直った。
せっかく美味しく食べていたのに、さっさと飲み込んでしまうことになって勿体ない。もう少し私のペースを尊重して欲しいところだけれど、まぁ無理よね。
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「証拠とは……?」
「はっ、とぼけるつもりか。まぁ良い、もう言い逃れは出来ないのだからな」
「はぁ」
「公爵家の屋敷で、とある騎士と何度も密会していたそうじゃないか」
「とある騎士……?」
エリオットが失礼にも指さす方を見ると、そこには青ざめた顔をした騎士が一人立っている。
「ほら、あそこにいる王立騎士団の副騎士団長サイアスだ」
「まぁ、そうなんですか」
彼とは王城に来る時に挨拶したことしかない。密会なんてするはずも無いのだけれど……。
名指しされたサイアス様も覚えのない罪にあたふたしている。
たとえエリオットがデーラン公爵家の嫡男だとしても、身に覚えのない罪を着せるなんて彼は一体何を考えているのだろう。
ただの言いがかりだとは思えない。
最近、私に対して威圧的だったのもこれが理由だったのかしら。
「でもそんな事実はありませんわ」
「まだとぼけているのか?」
「身に覚えがありませんので」
「だが証言は取れているのだぞ?」
でっち上げの証言のことかしら。
エリオットがこれだけ自信満々なのもその証言とやらがあるからだろう。
エリオットいわく私は屋敷にいる時にサイアス様と密会したそうだから、証人もきっとうちの公爵家の者で、この出来事を得と考える者であるはず。
私は考えを巡らせる。
エリオットが起こしたこの騒動には私を陥れるための誰かの後ろ盾があって、それは十中八九……。
「わたくしの身内が本当に申し訳ございませんわ。お恥ずかしい限りです……」
今回のパーティーの主役でありこの国の王太子妃である私の姉の仕業だろう。
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