聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい

カレイ

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二話

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 姉は誰が見ても美しいと褒め称えるだろうアメジスト色の瞳をうるうるさせて、エリオットの隣に立つ。サラサラの金髪が豪華なシャンデリアに照らされて天使の輪を作った。

「わたくしが証人です、皆様」
「実はメアリーが公爵家の実家に帰っている時に、妹君であるオデット嬢の密会現場を目撃したらしくてな」
「オーウェン様……」

 そう言って姉の肩を抱き寄せたのは、この国の王太子であり、姉の夫であるオーウェン・サンジスト様。
 王太子は涙目になって顔を俯かせる姉の背中を優しく撫でながら、私をギロリと睨みつけてくる。

「メアリーを泣かせる者は許さない。……例えそれが彼女の実の妹であろうとも」

 凛々しい碧眼が私を捉えた。
 けれど、このヒーロー気取りの金髪王太子、少し前に私にちょっかいをかけて相手にされなかった屈辱を、ここで晴らそうとしているようにしか思えない。
 そしてきっとあの副騎士団長のサイアス様も爽やかな容貌からしてみれば、完全に姉の好みである。黒髪に少し垂れた赤目、目の下の泣きぼくろ。うん、完全に姉の好みだ。きっと姉の誘惑を断った腹いせに、こんな茶番劇に巻き込まれることとなったのだろう。

「聞いているのか、オデット嬢!」
「あ、はい」 

 いけない、いけない。
 ぐるぐると頭の中で考えていたら、外の世界で話が進んでいたらしい。
 王太子に厳しい視線を向けられ、私は現実に戻る。

「君がやったことは許されることではない。しかし、まだ未婚だったことや、心優しいメアリーの慈悲によって、君の罪は幾分か軽くなるだろう。……メアリー、オデット嬢の処分は君に任せるよ」

 王太子は好き勝手に話を進めていく。
 話を振られた姉は、涙を堪えながら口を開いた。

「わたくし、本当は妹を罰するなんて耐えられないのですっ。しかしここは王太子妃……いいえ未来の王妃として、厳しい処分を下します」

 そう言うと姉は私に一歩一歩近づいてくる。慌てて周りが私が姉に危害が加えないよう壁を作るが、姉がそれを阻止して私の手を握った。 

「貴方に国外追放を命じます。きっと貴方とサイアス様は運命の相手なのよね。二人でこの国を出なさい。そして二度と帰って来てはいけませんよ。……これが、今の私に出せる精一杯の答えです」

 国外追放……。
 てっきり死刑とまではいかなくても、幽閉されたりするものかと思っていたけれど、思ったより私には好都合な処分だ。
 ……それにやっとあの子も連れ出せるわ。
 姉は私のことを心底嫌っているから、追い出せてスッキリしたいのだろう。
 上っ面だけは立派な姉だから、家族の前ですら私に対しては優しく接していたけれど、そのおかげもあってこうして上手いこと話が進んでいるんだろう。
 でもサイアス様は良いのかしら……私に巻き込まれてこんなことになったけれど、国外追放なんて嫌よね。
 そう思って彼を見れば、一瞬だけ、彼が密かにニコリと微笑んだ。
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