魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される

日之影ソラ

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2巻

2-3

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馬鹿野郎ばかやろう。これでも半分だ。街の防衛設備を整えるだけじゃ足りねぇ。俺たちの戦力強化も必須ひっすだろう」
「あ、そうだね。この前の悪魔も強かったなー」
「ああ、事前に備えられたからなんとか勝てたが、極大きょくだい魔法を撃たれた時は死ぬかと思ったぜ。お前のほうはどうだったんだ?」

 ガルドさんが尋ねてきたので、俺は、「え、俺は別に……」と口ごもってしまう。
 特に苦戦はしなかったけど。
 なんて本当のことを言っても、波風なみかぜは立たないだろうか。

「アスクは余裕そうだったぞ。一方的にボコボコにしてた! 遠くからだったけど、見ててスカッとしたぜ!」

 俺の代わりにバーチェが意気揚々いきようようと話してしまった。

「へぇ、そいつはすごいな」
「アスク君ってそんなに強いの? 私、戦ってみたい!」
「俺もぜひ手合わせ願いたいな。どうだ? この会議が終わったらうちの街に来ないか? でかいコロシアムがあるんだ」
「私も行く! ガルドさん、けは駄目だよ!」

 アリアとガルドさんは勝手に盛り上がっている。
 ギルドとしては問題ないのだろうか。俺はアトムさんに視線を向ける。

「構いませんよ。皆様の研鑽けんさんは、我々ギルドにとっても有益ですし」

 それを聞いて、ガルドさんとアリアは嬉しそうに立ち上がった。

「よし、おっさんの許しも得たし、やろうぜ!」
「おー!」

 俺は「勝手に決まっていく……」と呟くしかない。
 手合わせするのは俺なのに、口をはさむ間もなく話がどんどん進んでいくのだ。
 会議というよりは雑談だな。
 嫌な雰囲気じゃないし、堅苦しいのは苦手だからむしろ助かっているけど。
 それに、俺としても彼らの実力に興味はある。そろそろ他の街にも行ってみたいと思っていたことだしな。

「あなたが決めていいわよ」

 ルリアがそう言ってくれた。俺の気持ちを本当によくわかってくれる。

「じゃあ行くか。ちょっとした遠征えんせいだな」

 サラエの街にやってきて三ヶ月余り。
 俺は久々に、別の街に行くことになった。



  第二章 砂漠さばくの街


 サラエの街から東へ進む。森林地帯しんりんちたいを抜けて大きな岩がゴロゴロ転がる山道を進むと、広い道に出る。
 この道は、商人たちが物資の運搬うんぱんに使っている比較的安全な道だ。
 ここまで来れば魔物に襲われる心配はない。いて危険を挙げるなら盗賊とうぞくが待ち構えている可能性だが……

「おうこら、てめぇら! この大荷物は商人だろ?」
「荷物を全部置いてけ! じゃねーとぶっつぶしちまうぞ!」
「はぁ……またか」

 ため息一つ。
 これで盗賊の襲撃は三度目だ。今現在、十数人の武装した男たちが、馬車の前に立ちふさがっている。それに対し、三台あるうちの先頭の馬車から姿を見せたのは、見上げるほどの大男――ガルドさんだ。

「お前ら、覚悟はできてるんだろうな?」
「ひっ!」

 ガルドさんの見た目にビビりまくる盗賊たち。ついでにその後ろからアリアもひょこっと顔を出す。

「悪いことしちゃ駄目だぞー」
「このあたりにもいるんだな。盗賊って」

 無用だとは思ったけど、俺もそう言いつつ一応馬車から降りて、戦う準備をしておく。
 盗賊に同情する。俺たちは大所帯だが商人じゃないし、仮に金目の物を持っていたとしてもうばえまい。
 ここにはSランク冒険者が四人も揃っているのだから。


 二分後……。
 あたりには気絶した盗賊たちが転がっていた。
 ガルドさんは、疲れた様子もなくパンパンと手を叩きつつ、口を開く。

「ったく、盗賊なんてめてまともに働きやがれ」
「そうだぞー。ちゃんと働けばお金を貰えるんだからね!」
「それをしたくないから盗賊をしているのでしょうね。あわれだわ」
「セシリー、あんまり悪く言わないでよ。今は悪い人たちでも、今度会ったらいい人になってるかもしれないからさ!」

 そう言ってアリアは底抜けに明るく笑う。
 それを見て、セシリーは盛大にため息をこぼした。

「そんなだから、あなたはすぐ他人にだまされるのよ」
「え? 私、騙されてたっけ?」
「……もういいわ。さて、ギルドには連絡したから、この人たちはなわしばって放置しておきましょう。ここなら魔物も襲ってこないでしょうし」

 俺たちは盗賊を縛り上げると、それぞれの馬車に戻る。すると馬車の中で待っていたルリアが聞いてくる。

「大丈夫だったの?」
「ああ、ただの盗賊だった。このあたりは商人がよく使うし、多いのかもな」
「それは物騒ね」
「そうだな。でも、あと少しの辛抱しんぼうだ。まもなく到着するそうだぞ」

 俺たちは今、ガルドさんの拠点、バングラドの街へ向かっている。
 サラエ以外の街へ行くのは久しぶりで、俺は少しわくわくしていた。

「どんなところなんだろうな」
「サラエよりも少し狭いわよ」
「ん? ルリアたちは行ったことがあるのか」
「ええ、依頼で何度か来ているわ。南に広い砂漠があって、定期的に砂嵐すなあらしが街を襲うのが大きな特徴とくちょうね」
「砂漠かぁ」

 俺はこれまで一度も砂漠を見たことがなかった。
 サラエの街周辺に砂漠はないし、当然ながらマスタローグ家の領地にもない。
 ぜん、楽しみだ。
 そういえば、ルリアたちと出会ったばかりの頃、砂漠地帯を好むはずのグランドワームとサラエの街近郊で交戦したことがあった。
 もしかするとあいつが元々いたのはバングラドの方角だったのかもしれないな。


 それから少しすると、太陽たいようが西にしずみ始める。
 まばゆい光がオレンジ色に変わる一歩手前で、俺たちを乗せた馬車は目的地に到着した。

「ようこそ! ここが俺たちの街、バングラドだ!」

 ガルドさんの声を聞きながら馬車を降りると、そこにはサラエとは全く違った街並みが広がっていた。
 建物一つ一つの背が高い。そしてそれらは鉱物こうぶつ砂岩さがんでできていそうだ。
 更に最も特徴的なのが、全体的に丸みをびた建物が多いこと。

「変わってるだろ? ここは砂嵐が多いから、かどがすぐけずれちまう。だからある時期から、建築家が今の形で建てるようにしたんだとよ」
「なるほど。環境に合わせた作りなのか。考えられているなぁ」

 感心しながら街並みを眺める。するとその中に、街の景観をぶち壊すような木造の建物が目に入った。
 一目見ただけで、そこが何か理解できる。

「ギルドの外観はここでも一緒なのか……」
「どのギルドも、形や構造は全部一緒らしいぜ。砂嵐の時は魔法使いに頼んで、削れないようガードしてもらってるみたいだな」
「そこまでして外観を守りたいんですかね」
「何ものにも屈しないっつーイメージを守りたいんだろうな。信念があるのは嫌いじゃねーよ」

 信念というより過度なこだわりって感じだよな……
 それからガルドさんは、仲間たちに馬車を停めてくるように指示を出し、残った俺たちに言う。

「よーし、先に荷物を移動させるか。この先に俺が管理してる宿屋がある。今日はそこに泊まってくれ」
「え、ガルドさんって宿屋の経営もしてるんですか?」
「まぁな。他にも武器屋とか酒場とか……いろいろやってるぜ」
「すごいですね……」

 冒険者なのに、お店を経営してる……? それは、Sランクの特権なのか?
 俺はあまり常識を知らないから、わからない。確かめるように俺はアリアとセシリーを見た。

「ガルドさんが特殊なんだよー」
「基本的に冒険者でお店の経営をやりたがる方はいませんから。私が知る限りガルドさんだけですね」
「俺だってやりたいわけじゃねーよ。ただ、なんか成り行きでな。老夫婦がやってる店なんかを、ぐやつがいないからって俺が買い取る、みたいなことをしてたらこうなったんだよ」
「それって……」

 俺はアリアたちと視線を合わせる。
 アリアがニコリと笑う。

「お人好ひとよしなんだよ、この人!」
「みたいだな」

 見た目は大きくて怖いけど、やっぱりいい人なんだな。


  ◇◇◇


 俺たちはガルドさんの案内で宿屋を訪れる。宿屋は他の建物と同じく丸っこい外観だが、中はサラエの街の宿と大差ない。
 ただ、かなり大きくて、結構な数の部屋があるらしい。
 ガルドさんいわく、普段から来客だったり、他の街から来た冒険者だったりがよく利用するそうだ。
 さすがに一人一部屋使うのは、他のお客がたくさん来た時に申し訳ない。ということで俺、ルリアとバーチェ、リズとラフラン、アリアとセシリーという部屋分けになった。
 荷物を置いたら全員で宿を出る。そして向かったのは……

「ここがコロシアムだぜ」
「でかい……」

 案内されたのは、見上げるほど巨大なドーム型の建物。
 おそらく街で一番大きな建造物だろう。街の中心に堂々とそびえたっている。
 驚く俺の前に、アリアがひょこっと顔を出して言う。

「ここもガルドさんが作ったんだよ」
「そうなのか。Sランク冒険者って貴族より財力があるのか?」
「稼げる人は稼げるよ! 夢があっていいよね、冒険者! ま、私はお金はあってもなくてもいいんだけど!」
「じゃあ何のために依頼を受けてるんだ?」
「それはもちろん、困っている人を笑顔にしたいからだよ!」

 そう言って彼女は満面の笑みを見せる。綺麗ごとにも聞こえるセリフだが、彼女の表情からはうそを感じない。心の底からそう思っているのだとわかる。
 アリアが見せる底抜けに明るい表情は、彼女の心をそのまま映しているのだろう。

「さ、中に入ってくれ! 戦いたくて、ウズウズしてるんだ」

 ガルドさんが好戦的な視線を俺に向け、握り拳を掲げながらそう言ってきた。
 そんなに期待のこもった眼差しを向けられると、なんだか緊張する。
 俺たちはガルドさんのあとに続き、コロシアムの中に入った。中は広く、天井は抜けている。
 周りを囲むように観覧席が用意されていて、ベーシックなコロシアムといった内装だった。

「普段は演舞えんぶだったり、大会だったりで使うんだがな。今の時期は何もなくて使ってないんだ。要するに使いたい放題ってやつだな」

 話しながらガルドさんは屈伸運動をしたり、手足を入念に回したりしている。
 既に戦う気満々なご様子だ。

「さ、やろうぜ」

 そこに不満げな顔のアリアが割り込んでくる。

「あー! 待ってよ! 私だってアスク君と戦ってみたいのに!」
「早い者勝ちだ。そもそも発案者は俺だろ? 順番は俺からだ」
「うぅ……すぐ終わらせてよ! 待てなくなったら、乱入するからね!」
「邪魔してくれるなよ……」

 プンプン怒って文句を言いながらもアリアは一番手をガルドさんにゆずった。

「本当に戦う流れなのね」
「いいんすか?」

 俺の隣で呆れた顔をするルリアと、心配そうに尋ねてくるリズ。俺はリズの頭を撫でながら答える。

「ああ。俺も彼らの力は見ておきたかったから、ちょうどいい」
「アスクさんも結構好戦的ですね」

 ラフランにそんなことを言われるとは思わなくて、思わずドキッとする。
 すると、バーチェが嬉しそうに言う。

「オレたち悪魔と一緒だな!」

 悪魔と一緒くたにされるのは心外なんだが……
 まぁ、好戦的であることは認めざるをえないか。
 最近、全力を出せる機会が極端に減って、ストレスが溜まっている。サラマンダー先生の言葉をきっかけに、そのことを自覚したところだしな。
 皆の前だから全ての能力は使えないけど、思いっきり身体を動かすだけでも気晴きばらしになる。

「始めましょうか。ガルドさん」
「おう! ルールは特に決めなくて平気か?」
「はい。そちらが満足するまで戦いましょう。もちろん手加減は不要です」
「余裕だな。そんじゃ遠慮なくやらせてもらうぜ」

 ガルドさんは背中にかついでいた大剣を抜き、構える。
 大剣には特徴的な文様が描かれている。
 更に、魔力をまとっている。おそらく普通の剣ではないだろう。
 対する俺が構えるのは、ノーム爺の力で作った剣。ずっと使っているから愛着があるし、握り心地もしっくりくる。

「そんじゃ行くぜ!」

 そう言うなり、ガルドさんは地面をって接近してくる。予想よりずっと速い。ただし速度だけであれば、リズのほうが上だろう。
 ならば筋力はどうか。俺は試すようにガルドさんの大剣を剣で受ける。が、これが間違いだった。
 刃同士が触れ合った瞬間、異様な金属音がひびき、俺の剣にひびが入るのが見えた。

「――!」

 とっに後ろにぶのと同時に、こちらの剣が完全に折れる。
 ガルドさんの大剣はそのまま俺が立っていた場所を直撃し、地面を粉々こなごな粉砕ふんさいした。

「これは……振動?」
「さすがだな! 一発で気づいたのか!」

 俺は折られた自分の剣を見る。受け止めた瞬間、両手に激しい振動を感じた。その振動にあらがうように力を込めたが、気づけば刃が砕かれていた。地面の削れ方も普通じゃない。

「……刃先が高速振動しているのか」
「正解だ! このグランドイーターは、斬るんじゃなくて削る! ただの剣じゃ防御できないぜ」
「なるほど……」

 やっぱり、特殊な能力を持つ魔剣だったか。
 お気に入りの剣だったのに、折られてしまったな。

「気にするでない、アスクぼう。刃などいくらでも作り直せる」
「ありがとうございます、ノーム爺」

 今ので理解した。剣での攻防はこちらが不利。仮に刃を作り直しても、打ち合えばまた折られるだけだ。だったら……

「ん? 剣は使わないのか?」
「ええ、こっちのほうが戦いやすそうなので」

 俺は剣を鞘にしまい、無手むてで構えをとる。

「素手もいけるのか!」
「なんでも使えますよ。身体能力には、昔から自信があるので」

 俺は魔力を持たない代わりに、普通の人間よりも身体能力が高い。
 王様たちとの出会いをきっかけに自身の肉体の異常性を知った俺は、器としての強度を高めるため、更に鍛錬を続けた。
 より強い力を行使するためには、高い強度の器が必要になる。
 王様たちの強大な力を使い熟せるように、彼らの力を受け止められるだけの肉体を手に入れようと思ったのだ。
 その過程で俺は、様々な武器や武術の訓練を取り入れた。当然、無手での戦闘法もお手の物だ。

「行きますよ」
「――!」

 さっきの攻防でガルドさんの速度はあくした。俺よりは遅い。
 地面を蹴り、正面から攻撃する――と見せかけて身をひるがえし、ガルドさんの右側面に回る。
 そして彼が反応するよりも早く、こぶし脇腹わきばらに叩きこんだ。

「おうっと!」
「――!」

 ガルドさんは横に吹き飛ぶが、空中でくるりと体勢を整え、危なげなく着地する。
 派手に吹き飛んだものの、本人にダメージは少ないようだ。

「さすがに速いな。一瞬で見失ったぜ」
「……」

 俺は自分の拳に視線を向ける。
 今の攻撃では、手加減こそしたがそれなりの力を込めていた。だけど拳に伝わった感触が不自然に軽い。
 まるで中身が空っぽなふくろを殴り飛ばしたような……
 どう考えても、普通に人の身体を殴った感覚じゃなかった。

「不思議か? 俺の身体が。……けど、種明かしはしねーぞ」
「大丈夫です。戦いながら考えるので」
「そうか? そんな余裕があるといいな!」

 ガルドさんは大剣を地面に叩きつける。
 その衝撃でひび割れ、浮き上がった石の破片を大剣ですくいあげ、俺に向けて投擲とうてきしてくる。
 この程度では俺にダメージを与えられないことは、ガルドさんもわかっているはずだ。これは、おそらく目くらまし。
 その予想通り、思わず目を細めてしまった瞬間、ガルドさんの姿が消えた。
 気配を頼りに上を見ると、ガルドさんが剣を振り下ろすところだった。
 受ける剣がない今、俺の選択肢は回避のみ。

「――!」


 しかし、唐突に足が重たくなる。否、足だけではなく全身がずしっと重い。まるで身体中になまりを巻きつけられたように。

「そらよ!」

 すかさずガルドさんが大剣を振り下ろした。
 一瞬の遅れのせいで、回避は不完全。仕方がなく俺は素手で大剣の腹に触れ――攻撃を側面から弾く。

「――! 今のを弾くのかよ」
「……」

 使うつもりのなかった、シルの能力。
 高速で振動している刃に素手で触れたら、側面であれ大変なことになっていただろう。だから手掌しゅしょうの周りの空気を圧縮して、大剣に触れる瞬間、一気に拡散させて弾き飛ばしたのだ。
 大剣の軌道がそれ、地面を抉る。
 攻撃はなんとか防げたが、まだ身体が重い。

「重力か」
「気づいたか。正解だ」

 一定領域内の重力を操る魔法、グラビティースペース。
 それを使えば、任意の一定範囲内の重力を操作し、対象を押しつぶしたり動きを抑制したりできる。
 俺の初撃を防いだのはその応用。効果範囲をあえて自分だけに限定することで魔力を集中させ、効果を底上げした。そして、自分を軽くすることでダメージを逃がしたのだろう。
 それだけじゃない……

「触れたものにかかる重力を自動で軽くしているんですね」
「理解が早いな。自分が軽くなるだけじゃ吹っ飛ぶだけだからな。俺に触れた物体が軽くなるよう、身体に魔法効果を付与していたのさ」
「器用ですね。見かけによらず」
「よく言われる。けど、俺は大胆なほうが好きだぜ! こんな感じになぁ!」

 空気が、地面が波打つように振動する。一瞬にして押しつぶされるような重力を全身に感じる。
 繊細せんさいな操作を捨てることで効果範囲を一気に広げ、あたり一面に重力場を形成した。

「種明かしもされちまったしな! こっからは出し惜しみなしだぜ」
「っ! 中々これは――」
「きついだろ? 並の人間なら立っていられないほどの重さなんだが……よくまだ構えてられるな」

 体感的には普段の十倍かそれ以上に身体が重い。ガルドさんは感心しているが、立っているので精一杯だ。
 俺も、腹をくくろう。この人は強い。俺が前に戦った悪魔よりも一段上の実力者だ。

「……使わずに勝つのは無理だな」

 俺は大きく拳を振るう。ただしガルドさんにではなく、自分の足元に向かって。


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