没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ

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エルフの里①

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「えぇ! 先生が犯人だったんですか!」
「こ、声が大きいですよ」
「すみません! つい……」

 後日、二人に事の顛末を説明した。
 公にはまだ発表されておらず、犯人についても憶測が飛び交っている。
 彼らには知る権利があると、殿下から許可を貰ってここにいる。
 フィーナが驚くのも当然だ。
 ジーナス先生は生徒から信頼されていた。
 特に位を気にせず、才ある者に敬意を表する姿勢が好印象だったという。
 今覚えば、あれは品定めだったのだろう。

「人は見かけによらない、ということか」
「信じられない……あの先生が……」
「二人のことも狙っていたのかもしれません。間に合ってよかったです」

 気づくのが遅れていたら、二人も同じ目にあっていたかもしれない。
 未然に防げたことは喜ばしい。
 
「その報告がしたくて今日はきました。ご協力感謝します」
「役に立てたならよかったです!」
「ミスティアさんはもう学園には来ないんですか?」
「はい。仕事でもない限りは」
「ええ! せっかく友達になれたのに!」
「友達……」
「おい、ずうずうしいぞ」
「何が? お友達って思うのはいけないことなの?」

 がみがみと言い合う二人。
 友達という響きに、余韻に私は浸っていた。
 騎士団の皆は仲間や家族に近い。
 友人と呼べる相手は……今までいなかった。
 最近だとステラがそれに近いけど、彼女とは仕事仲間という感じだし。
 なんというか……。

「嬉しいです」
「ほら!」
「ミスティアさんがそういうなら」
「ミスティアさん! また遊びにきてくださいね!」
「何かあれば手伝います! 相談してください」
「はい。ありがとうございます」

 短い期間だったけど、ここに来られてよかった。
 仕事以外で関わる友人ができたこは、私の人生に大きな潤いを与えるだろう。

  ◇◇◇

「学園で何か不審なことがあったら、二人から教えてもらえることになりました!」
「そうか。友人ができてよかったな」
「はい!」
「素直だな。まぁいいが、これから忙しくなるぞ」

 殿下の執務室で集まり、テーブルの上には資料が並んでいる。
 ここ最近で起こっている事件や、野盗などの組織についてまとめられたものだ。
 その中に、見覚えのある花のマークがある。

「これは……あの男性が身につけていたローブにあったマークですね」
「ラプラスの花。花に込められた意味は復讐だ」
「復讐……」
「最近になって貴族の屋敷を狙ったり、あちこちで名を聞くようになった組織で、この花にちなんでラプラスと呼称している。奴らの目的は今のところ不明だ」

 私は殿下と一緒に報告書に目を通す。
 確認されている事件は三つ。
 どれも貴族の屋敷を襲い、金品を強奪し、屋敷にいた貴族だけを殺害している。
 使用人たちの数名は、ラプラスに拉致されたようだ。
 現在も行方を捜索している。

「やっていることは盗賊ですね」
「ああ。だからこれまで軽視していた。そこまで重要な存在ではないと……だが、今回の一件に関わっているのなら話は別だ」
「はい」

 ラプラスの手は、王都の中心部にまで届いていた。
 学園はには多くの生徒が通っている。
 将来有望な魔法使いの学び舎に、野蛮な組織の手が入り込んでいたなどあってはならない。
 今後、警備や職員の採用はより厳しくなるだろう。

「学園のことは学園と、父上に任せるとして」
「私たちは、あの男の捜索ですね」
「そうだ。あの強さ、放置すれば厄介なことになる。問題は情報が足りないことだな。ここのある情報が現状全てだ」

 すでに目は通してある。
 ラプラスについては、構成員の情報から目的まで、何もわかっていない。
 手掛かりがなかった。
 唯一の手掛かりのジーナスは殺され、研究施設もラプラスに繋がるものは残されていなかった。

「何か手掛かりがあればな」
「手がかり……」

 私は交戦したラプラスの男を思い出す。
 何か引っかかる。
 あの動き……およそ人間の動きではなく、まるで……。

「獣」
「どうかしたか?」
「あの男の動きに見覚えがあります」
「本当か?」
「はい。確かではありませんが、獣人の動きに似ていました」
「獣人か……」

 この世界には人間以外に多くの種族が存在する。
 人の形をしながら、人にはない様々な特徴を持つ彼らを区別するため、亜人種と呼ぶ。
 獣人はその名の通り、獣の特徴を持つ種族だ。
 獣人の中にも種類はあるが、彼らは人間より優れた五感と身体能力を有する。
 
「私は以前、騎士団で見習いをしている時に、獣人の盗賊と交戦したことがあります。その動きはまるで獣で、人間のそれではありませんでした。とても戦いにくかったです」
「戦闘経験からの推測か」
「はい。感覚なのであまり参考にならないかもしれませんが……」
「いいや、お前らしい視点だ。一先ずラプラスに獣人が関わっていると仮定しよう」
「はい! でも仮定したとして、どう探しますか?」

 手掛かりがないことは変わらない。
 獣人の知り合いでもいれば、何か情報があるだろうか?
 私にはそんな知り合いはいない。
 そもそも、盗賊との戦い以外で、亜人種と会ったこともなかった。
 彼らは隠れて生活している。
 その理由は、人間からの迫害を避けるためだ。

「獣人に心当たりはないが、エルフなら知っている」
「エルフ? あの澄明な種族ですか?」
「ああ。今から会いに行くぞ」
「……え?」

 今から?
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