没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ

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エルフの里③

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 里長に連れられ、私たちはエルフの里に入る。
 森の木々に隠されていた村は、私たち人間の暮らしとは大きく異なっていた。
 彼らは森と共存している。
 建物は森の木々に沿うように建てられ、村全体が立体的だ。
 人々の生活を魔導具が支えているのに対して、彼らは極めて原始的な生活基盤を持っている。
 見るものすべてが新しい。

「あまりキョロキョロするな。田舎者みたいだぞ」
「うっ……すみません」
「はっはっはっ、構いませんよ。人間にはちと珍しい景色でしょうからな」

 里長は笑いながらそう言ってくれた。
 やれやれと呆れる殿下。
 怖い雰囲気は一切なく、落ち着いた様子の里長に対して、エルフたちがお辞儀をしていく。
 里長は人類でいうところの王族に等しい存在なのだ。
 彼らは皆、里長に敬意を表する。
 エルフたちの私たちへの視線は独特だった。
 怯えているようにも見えて、興味を示している気配もある。
 物珍しさか。
 
 里長に案内されたのは、村の中心にある大きな木造建築だった。
 その建物は村でも一番大きな木の根に守られているように建てられていた。
 ここは王城のような場所らしい。
 里長が席につき、テーブルを挟んで殿下が座る。

「そちらの方もお座りください」
「いえ、私は……」
「こいつは俺の専属騎士だ。護衛が任務なので、このままで問題ない」
「そうでしたか。王子の護衛を任されるとは、さぞ優秀な騎士なのでしょう」

 褒められた私は照れる。
 じとっとした殿下の視線から、気を抜くなと注意されたように感じた。
 里長の左右にエルフが二人。
 リズと呼ばれていた少女は、入口付近で立っていた。
 私が視線を向けると、気づいて目を逸らす。
 彼女は人間が嫌いなのだろうか。

「人間がこの地に訪れるのは実に七十年ぶりです」
「最後は王族か?」
「ええ。あなたの祖父に当たるお方です。私と彼は友人でしたので」
「ほう」

 殿下のお爺さんと、里長さんが友人?
 王族がエルフの交流を持っていたこと自体が知られていない。
 それも当然だろう。
 相手はエルフなのだ。
 亜人種がこの世界において、どういう扱いを受けているか、知らぬものなどいない。

「わざわざ王子がこちらに来られたのです。相応の理由がございましょう。何かご用ですか?」
「長い話は好かん。単刀直入に聞かせてもらおう。お前たちは、ラプラスの花を旗印にした組織に心当たりはないか?」

 殿下が尋ねた。
 僅かに、里長が反応したように見える。
 殿下もそれを見逃さなかった。

「知っているんだな」
「……ラプラス、黒い花の紋章……話に聞いたことがございます」
「詳しく聞かせてもらおうか?」
「私もあまり詳しくは存じ上げておりません。ただ、彼らは国家転覆を企てております」
「――!」

 国家転覆?
 そんな大それたことを目的にしている組織だったの?
 予想はしていたけど、ただの盗賊じゃない。

「構成員の中に獣人がいるな」
「――! よくご存じですね」
「つい最近、うち一人と交戦した。顔は見えなかったが、獣人の特徴に近いものを感じたのでな」

 私が、ですけどね。
 と、心の中で呟く。

「なるほど。確かにいるはずです。彼らの構成員の大半は、我らと同じ亜人種です」
「やはりそうか。ならば、獣人以外にもいるな」
「おそらくは」

 殿下は納得したようにうなずく。
 私もこの時点で察した。
 ラプラスがなぜ国家転覆を企てているのか。
 構成員が亜人種だというなら、その理由もわかりやすい。
 この世界……この国は、彼らにとってあまり住みやすい環境ではないだろう。

「一つ問う。なぜ構成員が亜人種だと知っている?」
「それは……」
「詳しくないと言った割には、それなりに情報を持っているじゃないか」

 確かに……。
 噂と前置きをしていたけど、思った以上に情報を持っていた。
 私は警戒する。

「……実は一度、ラプラスを名乗る者たちが、この里に訪れました」
「――! 目的は勧誘だな」
「はい。我らも亜人種です。志を共にするならば、協力してほしいと」
「……で?」

 緊張が走る。
 もし、彼らがラプラスに協力的であるなら、戦いは避けられない。
 私は剣に触れていた。

「ご安心下さい。我々はそれを拒否しました」
「なぜだ?」
「我々は今の生活に満足しております。なんの不自由もしておりません」
「……」
「それに、先ほどもお伝えした通り、私と先々代国王は友人でございました。友の国を脅かそうなどと考えるはずもありません」

 里長は優しく微笑んだ。
 過去を懐かしむように柔らかな表情に、緊張がゆるむ。
 殿下は小さくため息をこぼす。

「失礼な質問だった。忘れてくれ」
「いえ、王子のご懸念は当然のことです。我々が持っている情報は以上になります。他に何かございますでしょうか?」
「いいや、聞きたいことは聞けた。邪魔をしたな」

 殿下が立ち上がる。

「もう帰られるのですか?」
「俺たちがいては邪魔だろう?」
「そんなことはございません。せっかくお越しになられたのです。よければご一緒に食事でもいかがですか? 七十年ぶりの交流にぜひ」
「……いいだろう。エルフには俺も興味がある」
「それはよかった」

 二人とも笑顔だった。
 けれど、目に見えないヒリつきを感じて、背筋がぞわっとする。
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