気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します

風見ゆうみ

文字の大きさ
48 / 52
第二部

第19話 相談する

しおりを挟む
 結局、ボートワールたちのせいで、デートどころではなくなってしまった。

 あまりにも傍若無人な態度が許せなくて、今日のことを報告するために、哲平の実家であるイッシュバルド邸に向かった。

 ボートワールが本気なら、近いうちにイッシュバルド家に婚約者の交換の連絡がいくかもしれない。
 先に伝えておいたほうが良いだろうし、何より文句を言いたい。

 ボートワールたちの親がまともなら娘の暴走を止めてくれると思うんだけど、期待は持てない。

 アポなしだったため、頼りになるラス様は屋敷にはいなかった。
 イッシュバルド家の侍従が私たちの来訪を、ラス様の職場まで伝えに行ってくれている間、私と哲平がこの世界に来て初めて出会ったバルコニーでお茶をしながら待つことになった。

「婚約者の交換なんてありえんのか?」
「なんでもありの世界ならありえるんじゃない? だけど、この国は貴族のパワーバランスを重視してるっぽいから、そう簡単には無理だと思うけど」
「大体、俺は次男とはいえ、血がつながってないから、ラス兄さんに何かあっても、爵位の継承権はないんだよな。もう一人の弟にいくから」

 この国の貴族社会では、大体は長男が父の爵位を継ぐことになっている。
 長男以外は、長男が爵位を継いでしまったあとは、公爵家の令息の肩書はなくなってしまう。
 だから、長男の世話になるか、自分で爵位を得る、もしくは父親から爵位を譲ってもらわないないと、ただの平民扱いになってしまうらしい。
 
「私の場合、キュレル家は長男が継ぐから、私自身も肩書はなくなっちゃうんだけど、私とあんたが結婚すると平民扱いになるのかしら?」
「その点なんだけどよ、弟は王家直属の騎士団に入ってるから、騎士という爵位が与えられてるんだと。で、俺もそれを目指そうかと思ったんだが、どうやら、公爵は王都周辺以外の領土も持ってるらしくて、そこでは伯爵扱いらしい」
「えっと、今の公爵の地位は家督だけど、自分自身で伯爵の地位も手に入れたってこと?」
「そういうことだな。で、ラス兄さんは公爵家を継ぐから、伯爵の爵位は俺に継がせるって言ってた」

 ふんふん。
 公爵なのに伯爵という爵位も持ってるから、あまったものを哲平に継がせるってことであってるわよね。

「ということは、あんたは伯爵になるってこと?」
「そうなるな」
「じゃあ、私は伯爵夫人になるのね」
「だろうな」

 伯爵夫人。
 なんかいい響きのような気がする。
 ちょっと偉い人になった気分ね。

「ということは、ボートワールは婚約者が、あんたのほうが得にはなるのよね。だって、イッシュバルド家に繋がりがあるんだから」
「まあそうなんだろうけど、そんなもん俺がお断りだ」

 哲平が心底、嫌そうな顔をして言った。

 ボートワールは権力云々より、ただ、人のものが欲しいだけで、ホットラードは虐げられるのが好きなのかもしれない。
 そういう趣味の人がいても、おかしくはないものね。

 というか、そうじゃないと、婚約者を交換したいと言い出す意味がわからない。

 そんな話をしている間に、出かけていたラス様が戻ってきてくれた。
 今日の出来事と、まだ話をしていなかった、カイルの話をしてみた。

「どうしてそんな訳のわからないことになってるんですか」

 話を聞いてくれたラス様は、呆れた表情で私を見つめた。

「私のせいじゃないですよ。ボートワールとホットラードが言ってきたんです」
「ボートワール男爵令嬢とホットラード卿ですね?」

 ラス様の顔は笑っているけど、明らかに言い直すように圧力をかけてきているのがわかった。
 イケメンだからこそ、威力があったりするのよね。

「はい。ボートワール男爵令嬢とホットラード卿です」

 ラス様って私の実年齢より年下なのに、どうしえこんなに落ち着いてるのよ。
 実はサバをよんでいたりするのかもしれない。

「えらく大人しいな」
「うるさいわね」

 哲平が小声で茶々を入れてくるので、テーブルの下で足を思い切り踏みつける。

「いってぇな!」
「あなたたちは本当に相変わらずですね」

 はあ、とラス様はため息を吐いたあとに続ける。

「その二人の家には連絡を入れておきます。今回の件は寛大に対処しますが、次はない、と伝えましょう」

 冷たい眼差しで言うラス様に、少し焦って問いかける。

「もしかして、ご迷惑かけてますか?」
「いいえ。イッシュバルドの名をなめてかかるような真似をされているのが嫌なだけです。テツは次男とはいえ、婚約者を他家からどうこう言われる筋合いはありません」
「「すみませんでした」」

 私と哲平は声を揃えて謝罪の言葉を述べて、頭を下げた。

「別にあなたたちを責めている訳ではないと言っているでしょう。それより、小瓶を手配した人物がわかったと、手紙には書いてありましたがどうなりましたか」
「あ、そうでした」

 途中で誰かの手に渡ったりするようなことがあってはいけないから、犯人の名前は書かずにいた。
 だから、犯人と思しき名前を伝えると、ラス様は眉間のシワを深くした。

「どうかしたんすか?」
「テツ」
「あ、どうかされましたか?」

 違うことを考えていたラス様だけど、哲平の言葉遣いを直すことは忘れない。

 それにしても、イケメンって悩んでる姿も絵になるわね。
 癒やされるわぁ。

「いえ。今まで派閥に属さず、中立を保っていた家系ですので、この件に関しては令嬢の独断かと考えていたんです」
「たぶん、そうだと思いますけど」
「危険な芽は摘み取っておきたいですね」

 ラス様は口元に手を当て、冷たい笑みを浮かべた。

 
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

婚約者の命令で外れない仮面を着けた私は婚約破棄を受けたから、仮面を外すことにしました

天宮有
恋愛
婚約者バルターに魔法が上達すると言われて、伯爵令嬢の私シエルは顔の半分が隠れる仮面を着けることとなっていた。 魔法は上達するけど仮面は外れず、私達は魔法学園に入学する。 仮面のせいで周囲から恐れられていた私は、バルターから婚約破棄を受けてしまう。 その後、私を恐れていなかった伯爵令息のロランが、仮面の外し方を教えてくれる。 仮面を外しても魔法の実力はそのままで、私の評判が大きく変わることとなっていた。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

婚約破棄された私。大嫌いなアイツと婚約することに。大嫌い!だったはずなのに……。

さくしゃ
恋愛
「婚約破棄だ!」 素直であるが故に嘘と見栄で塗り固められた貴族社会で嫌われ孤立していた"主人公「セシル」"は、そんな自分を初めて受け入れてくれた婚約者から捨てられた。 唯一自分を照らしてくれた光を失い絶望感に苛まれるセシルだったが、家の繁栄のためには次の婚約相手を見つけなければならず……しかし断られ続ける日々。 そんなある日、ようやく縁談が決まり乗り気ではなかったが指定されたレストランへ行くとそこには、、、 「れ、レント!」 「せ、セシル!」 大嫌いなアイツがいた。抵抗するが半ば強制的に婚約することになってしまい不服だった。不服だったのに……この気持ちはなんなの? 大嫌いから始まるかなり笑いが入っている不器用なヒロインと王子による恋物語。 15歳という子供から大人へ変わり始める時期は素直になりたいけど大人に見られたいが故に背伸びをして強がったりして素直になれないものーーそんな感じの物語です^_^

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

処理中です...