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第二部
第19話 相談する
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結局、ボートワールたちのせいで、デートどころではなくなってしまった。
あまりにも傍若無人な態度が許せなくて、今日のことを報告するために、哲平の実家であるイッシュバルド邸に向かった。
ボートワールが本気なら、近いうちにイッシュバルド家に婚約者の交換の連絡がいくかもしれない。
先に伝えておいたほうが良いだろうし、何より文句を言いたい。
ボートワールたちの親がまともなら娘の暴走を止めてくれると思うんだけど、期待は持てない。
アポなしだったため、頼りになるラス様は屋敷にはいなかった。
イッシュバルド家の侍従が私たちの来訪を、ラス様の職場まで伝えに行ってくれている間、私と哲平がこの世界に来て初めて出会ったバルコニーでお茶をしながら待つことになった。
「婚約者の交換なんてありえんのか?」
「なんでもありの世界ならありえるんじゃない? だけど、この国は貴族のパワーバランスを重視してるっぽいから、そう簡単には無理だと思うけど」
「大体、俺は次男とはいえ、血がつながってないから、ラス兄さんに何かあっても、爵位の継承権はないんだよな。もう一人の弟にいくから」
この国の貴族社会では、大体は長男が父の爵位を継ぐことになっている。
長男以外は、長男が爵位を継いでしまったあとは、公爵家の令息の肩書はなくなってしまう。
だから、長男の世話になるか、自分で爵位を得る、もしくは父親から爵位を譲ってもらわないないと、ただの平民扱いになってしまうらしい。
「私の場合、キュレル家は長男が継ぐから、私自身も肩書はなくなっちゃうんだけど、私とあんたが結婚すると平民扱いになるのかしら?」
「その点なんだけどよ、弟は王家直属の騎士団に入ってるから、騎士という爵位が与えられてるんだと。で、俺もそれを目指そうかと思ったんだが、どうやら、公爵は王都周辺以外の領土も持ってるらしくて、そこでは伯爵扱いらしい」
「えっと、今の公爵の地位は家督だけど、自分自身で伯爵の地位も手に入れたってこと?」
「そういうことだな。で、ラス兄さんは公爵家を継ぐから、伯爵の爵位は俺に継がせるって言ってた」
ふんふん。
公爵なのに伯爵という爵位も持ってるから、あまったものを哲平に継がせるってことであってるわよね。
「ということは、あんたは伯爵になるってこと?」
「そうなるな」
「じゃあ、私は伯爵夫人になるのね」
「だろうな」
伯爵夫人。
なんかいい響きのような気がする。
ちょっと偉い人になった気分ね。
「ということは、ボートワールは婚約者が、あんたのほうが得にはなるのよね。だって、イッシュバルド家に繋がりがあるんだから」
「まあそうなんだろうけど、そんなもん俺がお断りだ」
哲平が心底、嫌そうな顔をして言った。
ボートワールは権力云々より、ただ、人のものが欲しいだけで、ホットラードは虐げられるのが好きなのかもしれない。
そういう趣味の人がいても、おかしくはないものね。
というか、そうじゃないと、婚約者を交換したいと言い出す意味がわからない。
そんな話をしている間に、出かけていたラス様が戻ってきてくれた。
今日の出来事と、まだ話をしていなかった、カイルの話をしてみた。
「どうしてそんな訳のわからないことになってるんですか」
話を聞いてくれたラス様は、呆れた表情で私を見つめた。
「私のせいじゃないですよ。ボートワールとホットラードが言ってきたんです」
「ボートワール男爵令嬢とホットラード卿ですね?」
ラス様の顔は笑っているけど、明らかに言い直すように圧力をかけてきているのがわかった。
イケメンだからこそ、威力があったりするのよね。
「はい。ボートワール男爵令嬢とホットラード卿です」
ラス様って私の実年齢より年下なのに、どうしえこんなに落ち着いてるのよ。
実はサバをよんでいたりするのかもしれない。
「えらく大人しいな」
「うるさいわね」
哲平が小声で茶々を入れてくるので、テーブルの下で足を思い切り踏みつける。
「いってぇな!」
「あなたたちは本当に相変わらずですね」
はあ、とラス様はため息を吐いたあとに続ける。
「その二人の家には連絡を入れておきます。今回の件は寛大に対処しますが、次はない、と伝えましょう」
冷たい眼差しで言うラス様に、少し焦って問いかける。
「もしかして、ご迷惑かけてますか?」
「いいえ。イッシュバルドの名をなめてかかるような真似をされているのが嫌なだけです。テツは次男とはいえ、婚約者を他家からどうこう言われる筋合いはありません」
「「すみませんでした」」
私と哲平は声を揃えて謝罪の言葉を述べて、頭を下げた。
「別にあなたたちを責めている訳ではないと言っているでしょう。それより、小瓶を手配した人物がわかったと、手紙には書いてありましたがどうなりましたか」
「あ、そうでした」
途中で誰かの手に渡ったりするようなことがあってはいけないから、犯人の名前は書かずにいた。
だから、犯人と思しき名前を伝えると、ラス様は眉間のシワを深くした。
「どうかしたんすか?」
「テツ」
「あ、どうかされましたか?」
違うことを考えていたラス様だけど、哲平の言葉遣いを直すことは忘れない。
それにしても、イケメンって悩んでる姿も絵になるわね。
癒やされるわぁ。
「いえ。今まで派閥に属さず、中立を保っていた家系ですので、この件に関しては令嬢の独断かと考えていたんです」
「たぶん、そうだと思いますけど」
「危険な芽は摘み取っておきたいですね」
ラス様は口元に手を当て、冷たい笑みを浮かべた。
あまりにも傍若無人な態度が許せなくて、今日のことを報告するために、哲平の実家であるイッシュバルド邸に向かった。
ボートワールが本気なら、近いうちにイッシュバルド家に婚約者の交換の連絡がいくかもしれない。
先に伝えておいたほうが良いだろうし、何より文句を言いたい。
ボートワールたちの親がまともなら娘の暴走を止めてくれると思うんだけど、期待は持てない。
アポなしだったため、頼りになるラス様は屋敷にはいなかった。
イッシュバルド家の侍従が私たちの来訪を、ラス様の職場まで伝えに行ってくれている間、私と哲平がこの世界に来て初めて出会ったバルコニーでお茶をしながら待つことになった。
「婚約者の交換なんてありえんのか?」
「なんでもありの世界ならありえるんじゃない? だけど、この国は貴族のパワーバランスを重視してるっぽいから、そう簡単には無理だと思うけど」
「大体、俺は次男とはいえ、血がつながってないから、ラス兄さんに何かあっても、爵位の継承権はないんだよな。もう一人の弟にいくから」
この国の貴族社会では、大体は長男が父の爵位を継ぐことになっている。
長男以外は、長男が爵位を継いでしまったあとは、公爵家の令息の肩書はなくなってしまう。
だから、長男の世話になるか、自分で爵位を得る、もしくは父親から爵位を譲ってもらわないないと、ただの平民扱いになってしまうらしい。
「私の場合、キュレル家は長男が継ぐから、私自身も肩書はなくなっちゃうんだけど、私とあんたが結婚すると平民扱いになるのかしら?」
「その点なんだけどよ、弟は王家直属の騎士団に入ってるから、騎士という爵位が与えられてるんだと。で、俺もそれを目指そうかと思ったんだが、どうやら、公爵は王都周辺以外の領土も持ってるらしくて、そこでは伯爵扱いらしい」
「えっと、今の公爵の地位は家督だけど、自分自身で伯爵の地位も手に入れたってこと?」
「そういうことだな。で、ラス兄さんは公爵家を継ぐから、伯爵の爵位は俺に継がせるって言ってた」
ふんふん。
公爵なのに伯爵という爵位も持ってるから、あまったものを哲平に継がせるってことであってるわよね。
「ということは、あんたは伯爵になるってこと?」
「そうなるな」
「じゃあ、私は伯爵夫人になるのね」
「だろうな」
伯爵夫人。
なんかいい響きのような気がする。
ちょっと偉い人になった気分ね。
「ということは、ボートワールは婚約者が、あんたのほうが得にはなるのよね。だって、イッシュバルド家に繋がりがあるんだから」
「まあそうなんだろうけど、そんなもん俺がお断りだ」
哲平が心底、嫌そうな顔をして言った。
ボートワールは権力云々より、ただ、人のものが欲しいだけで、ホットラードは虐げられるのが好きなのかもしれない。
そういう趣味の人がいても、おかしくはないものね。
というか、そうじゃないと、婚約者を交換したいと言い出す意味がわからない。
そんな話をしている間に、出かけていたラス様が戻ってきてくれた。
今日の出来事と、まだ話をしていなかった、カイルの話をしてみた。
「どうしてそんな訳のわからないことになってるんですか」
話を聞いてくれたラス様は、呆れた表情で私を見つめた。
「私のせいじゃないですよ。ボートワールとホットラードが言ってきたんです」
「ボートワール男爵令嬢とホットラード卿ですね?」
ラス様の顔は笑っているけど、明らかに言い直すように圧力をかけてきているのがわかった。
イケメンだからこそ、威力があったりするのよね。
「はい。ボートワール男爵令嬢とホットラード卿です」
ラス様って私の実年齢より年下なのに、どうしえこんなに落ち着いてるのよ。
実はサバをよんでいたりするのかもしれない。
「えらく大人しいな」
「うるさいわね」
哲平が小声で茶々を入れてくるので、テーブルの下で足を思い切り踏みつける。
「いってぇな!」
「あなたたちは本当に相変わらずですね」
はあ、とラス様はため息を吐いたあとに続ける。
「その二人の家には連絡を入れておきます。今回の件は寛大に対処しますが、次はない、と伝えましょう」
冷たい眼差しで言うラス様に、少し焦って問いかける。
「もしかして、ご迷惑かけてますか?」
「いいえ。イッシュバルドの名をなめてかかるような真似をされているのが嫌なだけです。テツは次男とはいえ、婚約者を他家からどうこう言われる筋合いはありません」
「「すみませんでした」」
私と哲平は声を揃えて謝罪の言葉を述べて、頭を下げた。
「別にあなたたちを責めている訳ではないと言っているでしょう。それより、小瓶を手配した人物がわかったと、手紙には書いてありましたがどうなりましたか」
「あ、そうでした」
途中で誰かの手に渡ったりするようなことがあってはいけないから、犯人の名前は書かずにいた。
だから、犯人と思しき名前を伝えると、ラス様は眉間のシワを深くした。
「どうかしたんすか?」
「テツ」
「あ、どうかされましたか?」
違うことを考えていたラス様だけど、哲平の言葉遣いを直すことは忘れない。
それにしても、イケメンって悩んでる姿も絵になるわね。
癒やされるわぁ。
「いえ。今まで派閥に属さず、中立を保っていた家系ですので、この件に関しては令嬢の独断かと考えていたんです」
「たぶん、そうだと思いますけど」
「危険な芽は摘み取っておきたいですね」
ラス様は口元に手を当て、冷たい笑みを浮かべた。
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