気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します

風見ゆうみ

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第二部

第20話 相談される

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 こ、これは怖いわね。
 まったくもって癒やされない。

「といっても、こちらから動くと、あなたたちが危険かもしれませんし、今は慎重に動くようにしますが」
「どういうことっすか? ……じゃなくて、どういうことですか?」

 気を抜くと砕けた話し方になってしまうようで、ラス様に睨まれた哲平は言い直した。

「……下手に動けば、ミシュガン男爵家のように命を狙われる可能性が出てきます」
「まだ、死にたくないですし、サリアナに殺されるのは嫌ですね。殺されるくらいなら……」

 アリスを殺した黒幕に私がまた殺されるのは御免だわ。

 最後は言葉を濁したものの素直に答えると、ラス様が頷く。

「そうならないように、あなた達は感情的に動かないようにして下さい。挑発しては危険です」
「わかりました」

 哲平と一緒に返事をしたのはいいものの、感情的に動かないか、と、言われると自信はなかったりする。

 だって、そんな時って、自分で止められるものでもないじゃない?

「あ、アリスさん」
「はい?」

 心の中が見透かされたのかと思って、焦りながら聞き返すと、ラス様はにっこり笑って言った。

「覚えていただきたい魔法があります。私が教えますので、少しだけお時間をいただけませんか?」
「もちろんです!」

 どんな魔法かわからないけど、教えてもらえるんなら、喜んで覚えるわ!



******



 それから数日後、ロングホームルームの時間に面倒な行事があることを知らされた。
 なんと一ヶ月後に、学園内でダンスパーティーが開かれるらしい。

 この学園は平民も通って入るけれど、多くの学生は貴族だ。

 そのためか年に一度、夜会に出席する際のマナーの授業も兼ねて、学年ごとにダンスパーティーが開かれているらしい。
 平民も参加可能で、美味しい食事が出るらしいからとか、就職後に役立ちそうだから行く、という声が聞こえてきた。
 ダンスパーティといっても、平民のように踊れない人間も多い。だから、ダンスは踊りたい人間が踊るだけで良いという緩いものだった。

 学年という縛り以外、パートナーについての制限はないらしく、他校の生徒でも良いというのは、婚約者がいる人への配慮だろう。

 私にとっては面倒だし、行かなくて良いなら行きたくないけど、やっぱり行かないといけないのよね。
 たしか、アリスの日記では、毎年、ダンスパーティの日は誰かと踊ることもなく、ノアと時間をつぶしていた、と書いてあった気がする。

 よし。
 ノアが参加するなら私も参加しよう。
 私のパートナーは哲平でいいだろうし、ノアもキースというパートナーがいるのだから、その辺の心配はいらないものね。

 授業が終わり、帰り支度をしていたところ、ノアが近づいてきて笑顔で尋ねてくる。

「アリス! 今日はテツくんと帰る?」
「ノアとキースと一緒に帰ろうと思ってたけど、なんで?」
 
 ノアとはダンスパーティの話をしたかったし、どうせなら四人揃った時に話そうと思っていたので、素直に伝えてみた。

「え? 私と一緒に帰ってくれるの?」
「正確にはテツとキースも一緒だけど」

 ノアが嬉しそうにするので、小首を傾げる。

「どうしたのよ」
「いや、ちょっと相談したいことがあって……」
「ダンスパーティーの話? 今年も壁の花をしてからさっさと帰らない? その後、良かったらうちの家でお泊りなんてどう?」
「え!! いいの?!」

 ノアがそれはもう嬉しそうに微笑んだ時、ノアの背後にシエルが現れて、彼女に話しかけた。

「ノア。さっきの話なんだけど」
「あ……」
 
 例の小瓶を用意した相手の意中の人物と思われるのが彼だ。
 身長はクラスの男性の中では低いほうで、茶色の柔らかそうな髪に同じ色の大きな瞳。
 女性的な雰囲気で整った顔立ちをしている。
 シエルは可愛らしい顔が母性本能をくすぐるのか、女子生徒に人気がある。

 笑顔で話しかけてきたシエルに対し、ノアの表情が凍りついたように見えたので、シエルの邪魔をするために勢いよく立ち上がる。

「シエル、悪いけど急いでるの。話なら明日にして。行くわよ、ノア」
「え、あ、うん! じゃあ、また明日ね!」

 シエルの返事など待たずに、ノアを促して歩き出すと、ノアは文句も言わずに付いてきてくれた。

「ごめんね? 嫌な態度をとっちゃって」

 教室を出て、並んで歩きながら謝ると、ノアは首を大きく横に振る。

「そんなことないよ! 助けてくれてありがとう!」
「……シエルと何かあったの?」
「それがね」

 ノアが話しだそうとした時に、キースたちと合流したため、話が中断してしまった。
 キースや哲平に聞かれても良い話だというので、食堂でお茶をしながら話を聞くことにしたのだった。
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