気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します

風見ゆうみ

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第二部

第21話  心配される

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 その日の晩、お風呂やご飯を済ませ、明日までの宿題を終わらせてから、ベッドに横になった。

 目を閉じて、ノアの話を思い出す。

 ノアの相談内容は、厄介なものだった。

 シエルがノアにダンスパーティのパートナーになってほしい、とお願いしたらしい。
 ノアがキースと付き合ってる、という噂を聞いて、諦めたかに見えたシエルだったけど、二人の仲を疑い始めているみたいだ。
 
 ノアがずっと否定し続けていたのに、いきなりの交際宣言だから、疑いたくなるのも無理はない。

 ……とっととキースが告白しないからそうなるんじゃないの!

 って文句を言いたくなる。

 ノアは告白されたのはシエルが初めてだったから、とても嬉しそうにしていた。
 だから、キースと付き合うという嘘をつかせる点については気の毒に思う。
 でも、私の希望としては、ノアにはシエルと付き合ってほしくないと思ってしまう。

 このまま、キースと上手くいってほしい。

 私がノアの立場なら『余計な御世話よ!』っていいたくなる状況だから、さすがにノアには言えない。

「ありす、起きてるか?」

 ノックのあと、哲平の声が聞こえてきたので、ベッドの上で上半身を起こして返事をする。

「起きてるわよ」
「話したいことがあんだけど」

 寝間着だけど、婚約者相手ならいいでしょ。
 日本では風呂上がりにタンクトップ姿で歩いていたしね。

「かまわないわよ。鍵は開いてるから中に入って」

 促すと、白シャツと黒のハーフパンツ姿の哲平が中に入ってきた。

「……貴族がそんな格好でいいの?」
「家の中くらい楽にさせてくれ」
 
 哲平に割り振られた公爵家からのお金は結構なものだ。オーダーメイドでハーフパンツなどを作ってもらったらしい。

 たまにスウェット姿の時もあるからか、ふと、両親のことを思い出してしまった。

 お父さん、お母さん。
 私たち二人が突然いなくなって、悲しんだわよね。
 辛い思いをさせて、本当にごめんね。
 
「おい」
「うわっ!」

 呆けていた私の目の前に、哲平の顔があって、思わず後ろにのけぞる。
 哲平は眉間に皺を寄せたあと、ベッドの端に座った。

「化け物を見たみたいな反応すんな」
「ごめん。……って、そういえば、あんた、私があんたの部屋に入って、ベッドの上に座ろうとしたら文句言ってなかった?」
「そん時はそん時だ。つーか、あぐら組むな」
「中は見えないようにするわよ」
「馬鹿、そういう問題じゃねぇ」

 べしん、と私の頭を叩くと、哲平は話題を変える。

「サリアナの件だけどよ」
「うん」

 レイラ・サリアナ伯爵令嬢。
 私が小瓶の黒幕だと思っている人物の名前だ。
 私と同じクラスで、副委員長をしており、誰かに教えてもらわなくてもわかるくらいにシエルにぞっこんだ。

「ラス兄さんから連絡があって、そいつには気をつけろってよ」
「ラス様から? ラス様はなんて彼女のことをなんて言ってたの?」
「どうやら、グローゼルと頻繁に外で会ってるらしい」
「シエルと?」

 聞き返してから、ため息を吐いた。
  
 わざわざ学園内じゃなくて外で会ってるという事は、周りに悟られたくないからでしょう。
 シエルはサリアナとの関係をあまり他の人に知られたくないっていうのもあるのかもしれないんでしょうね。

「ただのデートってことはないわよね」

 にこりと笑ってから聞くと、哲平は首を横に振る。

「残念ながらな。あと、サリアナ家はグローゼルに娘と婚約してほしいってお願いしてるみてぇだ」
「わお。逆プロポーズみたいなもんね」
「もしかすると、サリアナはグローゼルから婚約を考えてやるから、邪魔な奴を排除しろ、とか言われてんのかもな」
「邪魔な奴ってのは?」

 誰だかわかってはいるけれど、笑顔で聞いてみると、哲平は呆れた顔で答える。

「お前だよ」
「だと思った」

 あはは、と声を上げて笑ってから続ける。

「私はシエルとノアの仲を邪魔しまくってるからね。サリアナが憎いのはノアだけど、シエルが憎いのは私よね」
「おい。笑いごとじゃねぇぞ。真剣に考えろ」
「わかってるわよ」

 笑みを消して頷いてから考える。

 シエルへの嫌がらせは、あまりやりすぎないようにしたほうが良さそうね。
 だって、今のところ、私自身があいつに何かされたわけじゃないんだもの。

 でも、サリアナの標的をノアから私に変えたほうが良さそうね。
 ノアを巻き込まずに、私はありすではなく、アリスとして、サリアナへの復讐を終えたい。

「さて、どうしたもんかしらね」
「ほとぼりが冷めるまで自粛するつもりはないんかよ」
「あら、馬鹿にしないでよ。多少はするに決まってるじゃない。多少は」

 笑顔で答えると、哲平は苦虫を噛み潰したような顔になった。
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