転生した俺、金髪美少女に拾われて旅を始めます

ピコサイクス

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第8話 森の魔獣と約束の矢

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討伐から三日後。
 ギルドから「追加調査」の依頼が届いた。
 例のイノシシ魔獣の“巣”が発見されたらしい。
 報酬は倍。危険度も倍。

「また森ですか……」
 リリアがげんなりとした声を出す。
「もう靴が泥だらけですよ」
「でも、セレスの弓も慣れてきたし、ちょうどいい訓練になるな」
「ま、悪くないわね」
 セレスは軽く肩を回し、微笑んだ。
 大人の余裕――というやつだ。
 風で髪が揺れるたび、なぜかリリアがむすっとする。

「……カイさん」
「なに?」
「見惚れてません?」
「見惚れてない!」
「ほんとに?」
「ほんとだって! ……たぶん」
「“たぶん”ってなんですか!!」
 今日も平和である。

 森の奥、湿地帯のさらに先。
 そこに“巣”はあった。
 地面が崩れた穴の中で、複数の魔獣が蠢いている。
 イノシシのような形をしているが、背中から骨のような突起が伸びていた。
 数は五体。
 セレスが素早く弓を構える。

「風、右から。距離三十メートル。狙いは首筋」
 矢が放たれる。鋭く、正確に――だが。

 ビュッ。
 強風が横から吹き、矢は逸れた。
 硬い岩に弾かれて地面に落ちる。

「しまっ……!」
 その音で魔獣たちがこちらに気づいた。
 地鳴りのような咆哮。

「来るぞ!」
「セレス、下がって!」
 リリアが詠唱を始めるが、詠唱の前に一体が突進してくる。
 セレスが足を滑らせた。

「きゃっ――!」
 ぬかるみに足を取られ、尻もち。
 魔獣の牙が目前まで迫る。

 考えるより早く、体が動いた。
 俺はセレスの前に飛び込み、剣を構えた。
 模倣スキルを発動――「鉄壁の盾」。
 以前見た冒険者の防御姿勢を再現する。
 突進がぶつかり、衝撃が全身に走る。

 ぐわん、と音が耳に響いた。
 腕が痺れる。それでも――倒れない。

「カイ……っ!」
 リリアの声。
 俺は歯を食いしばりながら踏ん張り、魔獣を横へ弾いた。
 その瞬間、セレスの矢が再び放たれる。
 矢が魔獣の喉元に突き刺さり、巨体が崩れた。

 息が切れた。膝が震える。
 でも、立っている。俺は。

「大丈夫?」
 セレスがすぐに駆け寄ってきた。
 距離が近い。彼女の指先が俺の頬をなぞる。
「血……少し切れてるわ」
「平気だよ」
「無茶するんだから」
 セレスが小さく笑う。
 その声は驚くほど優しかった。

「ありがと。助かった」
「いや、こっちこそ――」
「……かっこよかったわよ、カイ」
 その一言が、不思議と胸に響いた。
 淡々として、でも本心からの声。
 照れも笑いもない。
 まるで“信頼”の証みたいだった。

 横でリリアが少しだけ俯いた。
「……ほんと、バカみたいに突っ込むんですから」
「ごめん」
「でも……その、ちょっとだけ……かっこよかった、です」

 その声は小さく、蚊の鳴くような音。
 顔を真っ赤にしてそっぽを向いている。
 セレスがそれを見て、ふっと笑った。

「リリアちゃんも素直じゃないわね」
「す、素直とかそういう問題じゃ!」
「はいはい。――でも、そういうところ、かわいいわよ」
「な、なにを言ってるんですか!」
 リリアがさらに赤くなり、杖で地面を突く。
 コツン、と乾いた音。

 俺は二人の様子を見ながら、なんとも言えない気持ちになった。
 温かくて、居心地がいい。
 だけど同時に――どこかくすぐったい。

 残りの魔獣は、三人の連携であっという間に片付いた。
 セレスの射撃は完璧。
 リリアの魔法も的確。
 俺はその間を縫って立ち回り、何度もカバーに入る。

「カイ、右!」
「了解!」
「リリア、左の個体は任せて!」
「ええ、頼みました!」

 息が合っていた。
 まるで長く旅をしているチームのように。
 最後の一体が倒れたとき、森の中に静けさが戻る。

「ふぅ……終わったか」
「ええ。上出来です」
 リリアが微笑む。その顔は誇らしげだった。

 セレスが矢筒を背に戻しながら言う。
「私、最初にミスしたくせに……最後は助けられちゃったわね」
「誰にでもあることだろ」
「でも、あの動き……ほんとに危なかったのよ?」
「まぁ、ちょっと熱くなっただけ」
「ふふ、男の子ね」
 セレスが肩をすくめ、リリアの方を見る。
「ねえリリアちゃん。彼、かっこよかったわよね?」
「な、なにを……! し、仕方ないですよ、あれは……! あんなの……」
「でも顔、真っ赤よ?」
「うるさいです!」

 リリアが顔を覆って歩き出す。
 セレスは笑いを噛み殺しながらついていく。
 俺はというと、二人の間を歩きながら頭を掻いた。

(……こういうの、悪くないな)

 夕暮れ、森を抜ける。
 街の屋根が遠くに見えた。
 セレスが弓を肩にかけたまま、空を見上げる。

「ねえ、カイ」
「ん?」
「今度、本気で私と弓の勝負しない?」
「勝負?」
「あなたの“模倣”スキル。あれ、弓にも使えるんでしょ?」
「あー……まぁ、理論上は」
「ふふ、じゃあ練習しておいて。私、手加減しないから」

 挑発的な笑み。
 リリアがその横でぼそっと言う。
「また、勝手に約束して……」
「いいじゃん。強くなるのは悪いことじゃない」
「……まぁ、そうですけど」
 リリアは呆れ顔で、けれど少し笑っていた。

 セレスが小さく呟く。
「“誰かを守るためなら戦ってもいい”……それ、あなたが教えてくれたのよ」
「俺が?」
「ええ。だから、ありがとう。――カッコよかったわ」

 リリアの肩がびくっと動いた。
「またそれ言うんですか……!」
「事実を言ってるだけよ」
「むぅぅ……!」

 リリアが頬を膨らませ、セレスは楽しそうに笑う。
 俺はその後ろで頭をかきながら、どこか温かい気持ちで二人を見ていた。

 森を抜ける風が、まるで笑い声のように心地よく吹き抜けた。
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