転生した俺、金髪美少女に拾われて旅を始めます

ピコサイクス

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第10話 汚名と挑戦

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翌朝の王都は、昨日の剣技大会の余韻でまだ騒がしかった。
 通りの屋台では“黒髪の剣姫”の名があちこちで飛び交っている。

「いやぁ、あの一撃は見事だった!」
「でもよ、所詮は貴族の茶番じゃねぇか?」
「グランディール家の娘だろ? 金で審判を買ったって噂だ」

 その言葉に、俺の足が止まった。
 横を歩いていたリリアも眉をひそめる。
「……今の、聞き捨てなりません」
「ほんと。あの試合を見て“出来レース”とか言える神経がすごいわ」
 セレスもあきれ顔でため息をつく。

 けれど、通りの一角では数人の冒険者たちが堂々とそう言いながら酒を飲んでいた。
 どうやら彼らが噂の発信源らしい。

「なぁ、さっきの話、撤回しないか?」
 気づいたら、俺は口を開いていた。
 リリアの顔が真っ青になる。
「カイさん!? また無茶を!」

「なんだぁ、兄ちゃん?」
「昨日の試合、見てたんだろ? あれを“茶番”だなんて、どんな目してんだ」
「おいおい、貴族の取り巻きか? 俺たちの自由に文句つける気かよ」
「自由に嘘を言うのは違うだろ」
 胸の奥が熱くなる。
 強さを貶すような言葉が、どうにも我慢できなかった。

「なに言ってやがる!」
 男が胸ぐらを掴みかけたそのとき――

「やめなさい」

 低く、よく通る声が響いた。
 人垣の向こうから、あの黒髪が風を切って現れる。

 黒髪の剣姫――エレナ=グランディール。
 昨日の闘技場と同じ、凛とした佇まい。
 背筋はまっすぐで、どんな視線も受け止める強さがあった。

「……お前が“出来レース姫”か?」
 男たちのひとりがニヤつく。
「名門のお嬢様は違うな。庶民の汗で稼ぐのが馬鹿らしくなる」

 その言葉に、エレナの瞳が鋭く光った。
「言葉でしか戦えないなら、あなたたちは剣士じゃない」

「……なんだと?」
「実力が信じられないなら――剣で確かめればいいでしょう?」

 場の空気が一瞬で変わった。
 周囲の人々が息をのむ。

「三日後。王立闘技場で模擬戦を行うわ。審判も観客も、誰でも構わない。
 私が勝てば、“出来レース”なんて言葉は二度と口にしないこと」

「へっ、いいぜ。こっちは三人で出てやる。女一人、泣かせてやるよ」
「好きにすれば」

 静かな言葉なのに、あたりの空気が凍りついた。
 彼女の冷たい瞳には怒りよりも“誇り”が宿っていた。

 男たちが去ったあと、エレナはふっと息を吐いた。
「……また面倒を増やしちゃったわね」

 俺は思わず声をかけていた。
「でも、かっこよかったです。誰も言い返せなかった」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
 わずかに口元が緩む。

「あなた、カイ……だったかしら?」
「は、はい!」
「昨日、観客席で見てたでしょ。庇ってくれてたのも聞こえてた」
「そ、それは……ただ本当のことを言っただけで!」
「ふふ……正直な人ね。――もしよければ、あなたに“立会人”をお願いしたいの」
「立会人?」
「ええ。私が実力で勝ったと証明するための、第三者の証人。
 あなたのような、偏見のない目で見てくれる人が必要なの」

 リリアが口を開く。
「え、えっと……カイさんが、ですか?」
「ダメかしら?」
「だ、ダメでは……ないですが……!」
 リリアの顔が微妙に引きつっている。

 セレスが腕を組んで笑った。
「ふふ、いいじゃない。あんた、そういうの向いてるわ」
「いや、いや、俺、そんな立派な役じゃ……」
「あなたでいいの」
 エレナがはっきりと言った。
「見届けてほしいのよ。私の“本当の戦い”を」

 その目を見た瞬間、言葉が出なかった。
 ただ頷くだけが精一杯だった。

 エレナが去っていく背中を見送りながら、セレスが口を開いた。
「……なかなか、筋の通った女ね」
「プライド高そうですけど」
 リリアが眉を寄せる。
「でも……強いです。信念がある人の目をしてました」
「ふぅん、認めるのね」
「そ、そんなつもりじゃ!」
「やれやれ。カイ、またややこしい女を引き寄せたわね」
「俺はなにもしてないからな!?」

 リリアのじと目が痛い。
 セレスは笑いながら肩を叩く。
「ま、見届けるって約束したんでしょ? なら、最後まで見てあげなさい」
「……ああ」

 胸の奥で、小さな火が灯ったような気がした。

 夕暮れ、王都の訓練場。
 エレナは一人、黙々と剣を振っていた。
 金色の光が黒髪を照らし、流れるような動きが空気を裂く。

「……グランディールの名で戦うのは、これが最後でもいい」
 彼女は小さく呟く。
「今度こそ、私自身の剣で勝つ」

 その眼差しは、ただまっすぐに明日の闘技場を見据えていた。
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