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第二章
エドワードの証言(グラニフ公サイド)
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屋敷に戻った私は、エドワードを部屋に呼び出した。ヘンリーが本当のことを言っているのなら、トマス・オービリーは不正な手段を使って、ヘンリーをオメガの奉公人にしようとしたということだ。オメガの奉公人を持つこと自体は、社会通念上まあ仕方ないと思う。しかし、それをこのようなおぞましい手段で行うというのは許しがたい。
部屋にやってきたエドワードは少し落ち着かない様子で、私の顔をまっすぐに見なかった。私はそのことになぜかイライラとした。
「座りたまえ」
エドワードは緊張した面持ちでソファに腰かけた。
「トマス・オービリーのことについて聞きたいんだが」
私がそう言うと、エドワードはパッと顔を上げ、やっと私の顔を正面から見た。その両手は固く握りしめられ、血の気を失って白くなっていた。
「は、はい……。どのようなことでしょうか?」
「トマス卿はお前以外にオメガの奉公人を持っていたか?」
「いえ、いませんでした。もちろん別宅に囲っているという可能性はありますが、それを私に隠す必要はありませんから、いなかったと思います」
「結婚後にオメガの奉公人を増やすというような計画を聞いたことは?」
「それも聞いたことはありません。トマス卿がシャーロット嬢と結婚した後に計画していたことについては……、以前反省文に書いた通りです」
エドワードにそう言われて、私はあのいまいましい反省文のことを思い出した。あくまで自分は悪くないと、おのれの行為を全て正当化して周りの人間に罪をなすりつける、エドワードの悪辣さを煮詰めたような文章だった。だが、あれに書かれていた、トマスがエドワードを番にすると言った話は本当なのかもしれない。トマスはかなりエドワードに入れ込んでいたようだから、あの男ならそれくらいのことはしかねない。
トマス・オービリーがエドワードに絡みつき、その首に歯を立てるところを想像して、私の頭にカッと血が上った。私のプレッシャーがエドワードにも伝わったらしく、エドワードが小さく震えた。
「トマスはどうやってお前を抱いたんだ」
聞いてしまってから、それは別に知らなくていいことだと思った。なぜ聞いてしまったんだろう。いや、トマスがエドワードをどのように扱ってきたかは重要なことだ。それは今後トマスが、彼の奉公人や、ひいては同じオメガであるシャーロットをどのように扱うかにつながってくるんだから。私はそう自分に言い聞かせた。
「お前はトマスにどのくらいの頻度で抱かれていたんだ。発情して、その甘いフェロモンで誘っていたのか?」
エドワードはふるふると首を振った。
「そんなこと、したことはありません。トマス卿は、……いつでも私を抱きました。私が発情していない時も」
「はん!」
私は鼻で笑った。同時に怒りで身震いがした。いつでもとはどういうことだ。そんなに頻繁にトマスはエドワードを抱いていたのか?
「発情していないと思っているのはお前だけだろう。お前はいつでも甘いフェロモンを垂れ流しているじゃないか。今だって……」
「え?」
エドワードはカッと頬を赤く染めた。エドワードからはいつもふんわり、甘い香りがただよってくる。今だってクッキーのような、香ばしいにおいがただよってくるのだ。
「そ、それはきっと、公爵様がいるから、です…」
その媚びるようなセリフに、怒りで目の前が真っ赤に染まった。
部屋にやってきたエドワードは少し落ち着かない様子で、私の顔をまっすぐに見なかった。私はそのことになぜかイライラとした。
「座りたまえ」
エドワードは緊張した面持ちでソファに腰かけた。
「トマス・オービリーのことについて聞きたいんだが」
私がそう言うと、エドワードはパッと顔を上げ、やっと私の顔を正面から見た。その両手は固く握りしめられ、血の気を失って白くなっていた。
「は、はい……。どのようなことでしょうか?」
「トマス卿はお前以外にオメガの奉公人を持っていたか?」
「いえ、いませんでした。もちろん別宅に囲っているという可能性はありますが、それを私に隠す必要はありませんから、いなかったと思います」
「結婚後にオメガの奉公人を増やすというような計画を聞いたことは?」
「それも聞いたことはありません。トマス卿がシャーロット嬢と結婚した後に計画していたことについては……、以前反省文に書いた通りです」
エドワードにそう言われて、私はあのいまいましい反省文のことを思い出した。あくまで自分は悪くないと、おのれの行為を全て正当化して周りの人間に罪をなすりつける、エドワードの悪辣さを煮詰めたような文章だった。だが、あれに書かれていた、トマスがエドワードを番にすると言った話は本当なのかもしれない。トマスはかなりエドワードに入れ込んでいたようだから、あの男ならそれくらいのことはしかねない。
トマス・オービリーがエドワードに絡みつき、その首に歯を立てるところを想像して、私の頭にカッと血が上った。私のプレッシャーがエドワードにも伝わったらしく、エドワードが小さく震えた。
「トマスはどうやってお前を抱いたんだ」
聞いてしまってから、それは別に知らなくていいことだと思った。なぜ聞いてしまったんだろう。いや、トマスがエドワードをどのように扱ってきたかは重要なことだ。それは今後トマスが、彼の奉公人や、ひいては同じオメガであるシャーロットをどのように扱うかにつながってくるんだから。私はそう自分に言い聞かせた。
「お前はトマスにどのくらいの頻度で抱かれていたんだ。発情して、その甘いフェロモンで誘っていたのか?」
エドワードはふるふると首を振った。
「そんなこと、したことはありません。トマス卿は、……いつでも私を抱きました。私が発情していない時も」
「はん!」
私は鼻で笑った。同時に怒りで身震いがした。いつでもとはどういうことだ。そんなに頻繁にトマスはエドワードを抱いていたのか?
「発情していないと思っているのはお前だけだろう。お前はいつでも甘いフェロモンを垂れ流しているじゃないか。今だって……」
「え?」
エドワードはカッと頬を赤く染めた。エドワードからはいつもふんわり、甘い香りがただよってくる。今だってクッキーのような、香ばしいにおいがただよってくるのだ。
「そ、それはきっと、公爵様がいるから、です…」
その媚びるようなセリフに、怒りで目の前が真っ赤に染まった。
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