Campus・Case(キャンパス・ケース)番外編追加しました!

紫紺

文字の大きさ
51 / 113

File No. 46 騒動の中で

しおりを挟む


「土屋さんの足音!?」

 興奮した僕は、思わず竜崎の太ももあたりに手を置き、ぎゅっと何かを掴もうと握る。生憎今日の竜崎はデニムを履いていたので爪を立てるのが精いっぱいだったが。

「いてっ。お、落ち着け、藍」
「あ、ごめん」

 僕は慌てて手を引っ込めたけど、そこに竜崎の大きな手が被さってきて。

「爪延びてるぞー。切っとけな」

 と、笑われた。

『爪延びてるぞー、切っとけな』……が、僕の脳内でやまびこのように鳴り響いたのは言うまでもない。わずか数秒だけど、固まってしまった。

「この波長だけ抜き出した音がこれだ」

 しかし、そんなやまびこに心奪われてる場合ではなかった。竜崎は僕の狼狽なんか気が付きもせず、粛々とマウスを動かす。
 コッコッコ……という、聞き覚えのある音がノートパソコンのスピーカーから聞こえてきた。

「これ、本当に土屋さんの靴音なのか。そりゃ、そんな気はするけど」
「それは後で判明するんだ。ま、とにかく検証を続けよう」

 まもなくやって来た警備員の二人が、『うわっ』という、悲鳴のようなものを上げ、その後竜崎を質問攻めにした。それから一人が、僕の横の内線から事務局とか色々な部署に電話をかけだし、大学の関係者の何人かが慌てた様子で部屋に駈け込んで来た。

『この部屋には入らないで。今、警察が来ますので』

 と、これは警備員さんかな。それでようやく、竜崎が僕の隣に戻ってきた。その後はお巡りさんを筆頭に警察関係者がわんさとやって来たんだ。

『丸山君、ここ写真撮って!』
『カーペットに足跡ついてないか?』
『検死医まだかよ』

 と、まあこんな感じの騒然とした音がしばらく続き……。

『なんの騒動ですか?』

 あ、これは能代さんの声だ。こんなに早く来てたとは気付かなかった。

『風見さん、こっちです』

 続いて田代さんの声、それに『おう』と、風見さんのやる気なさそうな声も聞こえた。

『死因は登山用のナイフによる刺殺。死後あまり経ってないようですね。第一発見者はここの学生二人です』
『二人? 土曜日のこんな時間に教授の部屋に何の用だよ』
『最初に現場に来た庄司巡査によると、教授に呼び出されたということですが』
『ふうん、かなり怪しいな。まあいい。まずは現場だ』

 なんと……。

「風見さん、めっちゃ僕らのこと疑ってたんだ」

 思わず僕がそうこぼすと、

「そりゃそうだよ。まあ、それよりもここだよ」

 あっさりと竜崎が言うので、僕も聞かなかったかのように先に進む。竜崎は
再び画面の波長を示した。

「さっきと同じ音がするから」

 録音データからは、相変わらず色んな人の声と人が動く音がしている。能代さんが刑事の誰かと話している声もした。そこに、突然花が咲いたような高音の声が響く。

「能代君、何事?」

 塩谷教授の助手、土屋さんの声だった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恋文より、先にレポートが届いた~監視対象と監視官、感情に名前をつけるまで

中岡 始
BL
政府による極秘監視プロジェクト──その対象は、元・天才ハッカーで現在は無職&生活能力ゼロの和泉義人(32歳・超絶美形)。 かつて国の防衛システムに“うっかり”侵入してしまった過去を持つ彼は、現在、監視付きの同居生活を送ることに。 監視官として派遣されたのは、真面目で融通のきかないエリート捜査官・大宮陸斗(28歳)。 だが任務初日から、冷蔵庫にタマゴはない、洗濯は丸一週間回されない、寝ながらコードを落書き…と、和泉のダメ人間っぷりが炸裂。 「この部屋の秩序、いつ崩壊したんですか」 「うまく立ち上げられんかっただけや、たぶん」 生活を“管理”するはずが、いつの間にか“世話”してるし… しかもレポートは、だんだん恋文っぽくなっていくし…? 冷静な大宮の表情が、気づけば少しずつ揺らぎはじめる。 そして和泉もまた、自分のために用意された朝ごはんや、一緒に過ごすことが当たり前になった日常…心の中のコードが、少しずつ書き換えられていく。 ──これは「監視」から始まった、ふたりの“生活の記録”。 堅物世話焼き×ツンデレ変人、心がじわじわ溶けていく、静かで可笑しな同居BL。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

処理中です...