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File No. 46 騒動の中で
しおりを挟む「土屋さんの足音!?」
興奮した僕は、思わず竜崎の太ももあたりに手を置き、ぎゅっと何かを掴もうと握る。生憎今日の竜崎はデニムを履いていたので爪を立てるのが精いっぱいだったが。
「いてっ。お、落ち着け、藍」
「あ、ごめん」
僕は慌てて手を引っ込めたけど、そこに竜崎の大きな手が被さってきて。
「爪延びてるぞー。切っとけな」
と、笑われた。
『爪延びてるぞー、切っとけな』……が、僕の脳内でやまびこのように鳴り響いたのは言うまでもない。わずか数秒だけど、固まってしまった。
「この波長だけ抜き出した音がこれだ」
しかし、そんなやまびこに心奪われてる場合ではなかった。竜崎は僕の狼狽なんか気が付きもせず、粛々とマウスを動かす。
コッコッコ……という、聞き覚えのある音がノートパソコンのスピーカーから聞こえてきた。
「これ、本当に土屋さんの靴音なのか。そりゃ、そんな気はするけど」
「それは後で判明するんだ。ま、とにかく検証を続けよう」
まもなくやって来た警備員の二人が、『うわっ』という、悲鳴のようなものを上げ、その後竜崎を質問攻めにした。それから一人が、僕の横の内線から事務局とか色々な部署に電話をかけだし、大学の関係者の何人かが慌てた様子で部屋に駈け込んで来た。
『この部屋には入らないで。今、警察が来ますので』
と、これは警備員さんかな。それでようやく、竜崎が僕の隣に戻ってきた。その後はお巡りさんを筆頭に警察関係者がわんさとやって来たんだ。
『丸山君、ここ写真撮って!』
『カーペットに足跡ついてないか?』
『検死医まだかよ』
と、まあこんな感じの騒然とした音がしばらく続き……。
『なんの騒動ですか?』
あ、これは能代さんの声だ。こんなに早く来てたとは気付かなかった。
『風見さん、こっちです』
続いて田代さんの声、それに『おう』と、風見さんのやる気なさそうな声も聞こえた。
『死因は登山用のナイフによる刺殺。死後あまり経ってないようですね。第一発見者はここの学生二人です』
『二人? 土曜日のこんな時間に教授の部屋に何の用だよ』
『最初に現場に来た庄司巡査によると、教授に呼び出されたということですが』
『ふうん、かなり怪しいな。まあいい。まずは現場だ』
なんと……。
「風見さん、めっちゃ僕らのこと疑ってたんだ」
思わず僕がそうこぼすと、
「そりゃそうだよ。まあ、それよりもここだよ」
あっさりと竜崎が言うので、僕も聞かなかったかのように先に進む。竜崎は
再び画面の波長を示した。
「さっきと同じ音がするから」
録音データからは、相変わらず色んな人の声と人が動く音がしている。能代さんが刑事の誰かと話している声もした。そこに、突然花が咲いたような高音の声が響く。
「能代君、何事?」
塩谷教授の助手、土屋さんの声だった。
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