【完結】どくはく

春風由実

文字の大きさ
17 / 28

祖母の確認③

しおりを挟む
 あらあら、私は疑われているのねぇ。
 そう思われても仕方がなかったかもしれないわ。

 でも本当に知らないのよ?

 あの頭の足りない嫁と孫娘が奇妙な話をしていたから。
 面白いことを言うわねって、私はそう伝えただけ。

 下の孫娘も同じように言っているのではないかしら?
 うふふ、分かるわよ。
 あの子は何でも正直に話したでしょう?

 それで夫は私も一緒に捨てることにしたのね。
 えぇ、分かっていたわ。
 あの人の中では子育ての全責任が私にあるの。
 
 上の孫娘の功績だけは、あの人のもの。
 あの子も祖父に可愛がられていたことは認めたかしら?


 あらまぁ。そうなの。決まったのね。

 そうね。もう私が何かする必要がないことは分かったわ。



 ねぇ、教えてくれないかしら?

 私だって分かっているのよ?
 息子に縁談が来たところからおかしいもの。

 連れてくる侍女がいることは分かっていたわ。
 けれど事務官までも、夫が素直に受け入れたときには、正気を疑ったわね。
 夫がそこまでの人なのだとよく分かる出来事だったわ。

 最初から高位の皆さまの高尚なお考えがあったのでしょう?
 きっと王家まで絡んでいるのではなくて?

 この家は覚えの良くないことをしてしまっていたのかしら?
 それともただの増え過ぎた貴族家の整理の一環?

 上の孫娘は、あの女公爵の孫として認められたのね?


 あらあら、私を高く評価してくださるのね。
 ふふふ。何も隠してなんていないわ。
 私だって高位貴族家に生まれた娘だもの。それなりの教育は受けてきたのよ。

 どうしてそのように振舞わないかって?
 私はね、義母にはよーく躾けていただいたの。

 ねぇ、知っていらして?
 伯爵家の妻は、愚かであればあるほどいいのですって。

 大事な大事な息子が、最後の当主として立派に後始末が出来たのだもの。
 あちらではご夫婦揃ってさぞお喜びなのではないかしら。
 きっと泣いていらっしゃるわね。

 まぁ、悲しくないかですって?

 息子に伯爵が務まらないことは分かっていたもの。
 期待が無ければ、感じるものはないわ。
 えぇ、そうね。可哀想なことだと思うわよ。

 夫に切り捨てられたこと?

 いずれこうなることは分かっていたもの。
 同じことよ。何も思うことはないわ。

 愛していたのではないかですって?

 ふふ。うふふふふ。

 あの家訓なら知っていたわよ。
 ご丁寧に義母が教えてくれていたもの。

 可哀想な人よねぇ、お義母さまも。

 私はいいのよ、あのとき有難く感じたことは本当だから。
 それに夫は言ったことを反故にはしなかったわ。
 だから私もあの人の望む妻で居続けることが出来たの。

 あら、どうしたのかしら?
 私はこの人生に満足しているのよ。

 夫とは、とても貴族らしい素敵な関係を築けていたと思わない?


 最後にあの子、上の孫娘の次の婚約者になる人を当ててみせましょうか?
 あら?聞きたくなさそうねぇ。残念だわ。

 随分と代替わりも進んで、良好な関係性を示したい頃でしょうし。
 それでも中枢には、入れたくはないでしょうからね。

 本家筋ではないあの子がちょうどいいのでしょう?
 理想的な孫娘を作るには、我が家はさぞ素晴らしい環境だったことでしょうね。
 あちらから出て行く先も整えられて。

 あらあら。
 高位貴族なんてものはね、プライドばっかり高い人間の集まりなのよ。
 あなたも覚えておくといいわ。


 それで私たちは、これからどこで暮らしていくことになるのかしら?
 夫も一緒なのでしょう?
 これからは二人で慎ましく生きていくわ。

 息子夫婦?
 もう孫もいる年齢なのよ?
 あの子たちはあの子たちで好きに生きて貰うわ。

 下の孫娘のこと?
 そういえば夫も奇妙なことを言っていたわね。
 あの子たちの結婚を、夫が好きに出来るはずなんてないでしょうに。
 とても可哀想に思うわ。えぇ、夫も、孫娘のこともね。

 侯爵家のあの子と責任を取る形で結婚はするのかしら?
 あの子もいいように使われてしまったのでしょうね。
 あちらも先代が随分と派手なお振舞いをされていたことは知っているわ。
 今のご当主さまもさぞご苦労なさってきていることでしょう。
 あれで無事にいられたのだもの、孫の件でとてもよく使えたということね。

 えぇ、そうね。
 どの子も自業自得。
 高尚な皆さまからすれば、利用されるような生き方をしていたことが悪いのでしょう。

 これからは時間だけはたっぷりとあるでしょうから、せめて二人の孫の行く末が少しは良くなるよう祈ろうかしらね。
 えぇ、とても心からの幸せを願うことなんて出来ないわ。

 酷い祖母かしら?
 でもそれが貴族家の娘に生まれた宿命だもの。
 あの子たちには受け入れて生きていってもらうしかないの。

 下の孫娘はあのままがいいのかもしれないわね。
 あの嫁のように、何も分からず生きていけるなんて、とても幸せなことでしょう。
 夫もそうね。息子もそうだわ。
 きっと分からないことは幸せなのよ。
 下の孫娘には、あの子らしい幸せを願ってもいいかもしれない。

 そうなると、上の孫娘だけが不憫ね。
 あの子は幸せになれないでしょう。

 間違いなく、私の孫ね。





しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

花嫁は忘れたい

基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。 結婚を控えた身。 だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。 政略結婚なので夫となる人に愛情はない。 結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。 絶望しか見えない結婚生活だ。 愛した男を思えば逃げ出したくなる。 だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。 愛した彼を忘れさせてほしい。 レイアはそう願った。 完結済。 番外アップ済。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

過保護の王は息子の運命を見誤る

基本二度寝
恋愛
王は自身によく似ている息子を今日も微笑ましく見ていた。 妃は子を甘やかせるなときびしく接する。 まだ六つなのに。 王は親に愛された記憶はない。 その反動なのか、我が子には愛情を注ぎたい。 息子の為になる婚約者を選ぶ。 有力なのは公爵家の同じ年の令嬢。 後ろ盾にもなれ、息子の地盤を固めるにも良い。 しかし… 王は己の妃を思う。 両親の意向のまま結ばれた妃を妻に持った己は、幸せなのだろうか。 王は未来視で有名な卜者を呼び、息子の未来を見てもらうことにした。 ※一旦完結とします。蛇足はまた後日。 消えた未来の王太子と卜者と公爵あたりかな?

そしてヒロインは売れ残った

しがついつか
恋愛
マーズ王国の住民は、貴賤に関係なく15歳になる歳から3年間、王立学園に通うこととなっている。 校舎は別れているものの、貴族と平民の若者が一か所に集う場所だ。 そのため時々、貴族に対してとんでもないことをやらかす平民が出てきてしまうのであった。 リーリエが入学した年がまさにそれだった。 入学早々、平民の女子生徒が男子生徒に次々とアプローチをかけていったのだ。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

処理中です...