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シリアス
『収穫(男1:女1)』
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『収穫』
─しゅうかく─
作:鳳月 眠人
#すくほろ企画(『救いの詩/滅びの詩 -世界が終わる時、ぼくらは-』)便乗の一般参加作品です。テーマは「救済」。不問2で演じていただいてもOK!
◇◆ここから台本◆◇
エレオノラ:
そろそろじゃない?
いつまで私はここに閉じ込められたままなの?
ハーベスタ:
……この世界が滅ぶまで。
エレオノラ:
……え?
だめよ? ハーベスタ。ちゃんと私を殺さなきゃ。
ハーベスタ:
……殺される側が殺す側に何を言ったって無駄だぞ。
俺はお前を殺さない。残念だったな?
エレオノラ:
……どうして?
ハーベスタ:
どうして? とは?
エレオノラ:
世界の滅亡があなたの望みなの?
ハーベスタ:
いいや? 結果的にそうなるだけだな。
エレオノラ:
なに……本気なの。
ハーベスタ:
はは、本気じゃないと思ってたのか?
エレオノラ:
だって、どうして。
ハーベスタ:
自分を閉じ込めてくれと言ったのはお前の方だろう?
エレオノラ:
……いつ? いつ、私、そんなこと言った?
ハーベスタ:
ああ、寝ぼけていたか? 覚えていないのか。
「私を離さないで」「ちゃんと閉じ込めていて」
すべてお前の本心だろう。俺はそう受け取ったが?
エレオノラ:
──鐘が、鳴る。あと十回。
世界の終焉を報せる、滅亡へのカウントダウン。
──間
エレオノラ:
だとしてもあの時は、の話で……曲解だわ。
ハーベスタ:
ッハッハ! 当たり前だ。
エレオノラ:
……なぜ、私なの?
ハーベスタ:
はぁ?
エレオノラ:
これまでのエレオノラはしっかり殺してきたんでしょ?
ハーベスタ:
……ふ、
エレオノラ:
なんで笑っ……
ハーベスタ:
(ため息)ハァ……
エレオノラ:
……ね、世界が終わりかけていて、
ハーベスタも気が動転してるのよね?
ハーベスタ:
まあ正気ではないな。その自覚はある。
エレオノラ:
まだ遅くないわ。私は覚悟できているから。
お願い。早く。
ハーベスタ:
(冷たい声で)嫌だね。
エレオノラ:
ハーベスタ……本当にいつもの、ハーベスタ……?
ハーベスタ:
もうダメだろうこの世界は。
遅くない、なんてことは無い。手遅れだ。
エレオノラ:
でも、まだ生き残っている人はいる!
ハーベスタ:
もう、焼かれた奴もいる。
エレオノラ:
──鐘が鳴る。あと九回。
天高くそびえる塔の、天辺の鳥籠にまで届く、人々の悲鳴。
私は耳を塞いだ。
──間
エレオノラ:
お願い……
ハーベスタ:
逆に聞こう。
俺が殺したこれまでのエレオノラは「収穫」される時、
全員絶望して泣いていたぞ。
どうしてお前は生き残ることをそんなに拒む?
エレオノラ:
…………
ハーベスタ:
……ああ……なるほどな。
エレオノラ:
な……なによ……
ハーベスタ:
いや。つまらねぇなと思っただけだ。
エレオノラ:
つまら、ない?
ハーベスタ:
ああ。
エレオノラ:
……ハーベスタは読心術が使えるの?
よく分からないけどきっと見当違いよ。
ハーベスタ:
そうか? どうだろうな。
まぁどちらにしろ申し訳ないが、
お前の想いは、俺の思惑の外にあることだ。
聞いといてなんなんだがな。
エレオノラ:
なぜ聞いたのよ……
ハーベスタ:
単に不思議に思っただけだよ。
俺の考えが変わると思ったか?
エレオノラ:
だって私の「答え」を聞いていないじゃない。
ハーベスタ:
目は口ほどに物を言うんだよ。
口の方が嘘つきだ。そうだろ?
エレオノラ:
っ、
ハーベスタ:
──鐘が鳴る。あと八回。
鳥籠の外では、人々が「神の選別」を受けている。
当選したやつは、神の炎に生きたまま焼かれて、めでたくあの世行き。
──間
ハーベスタ:
……エレオノラ。
エレオノラ:
なに?
ハーベスタ:
空を飛びたいか?
エレオノラ:
読心術で読み取って。
ハーベスタ:
そんなもんないって。
エレオノラ:
……私、あの時。
あなたと手錠で繋がれたまま、強い風で身体が浮いた時。
あれだけで楽しかった。
ハーベスタ:
一瞬だったじゃねぇか。怖がってなかったか?
エレオノラ:
怖かったし、びっくりしたわ。
けれどすぐに、ハーベスタが引き寄せてくれたでしょ。
あの時が──
ハーベスタ:
あの時が?
エレオノラ:
……目は……口ほどに物を言う、のね。
ハーベスタ:
ふん、そうだろ?
エレオノラ:
そんな優しい目で見ないで……
ハーベスタ:
ッフ、ふふ。
エレオノラ:
(泣きそうな声で)なんで、そんな、笑えるの。
ハーベスタ:
どっちにしろこんな世界、もう維持できねぇよ。
滅びるべくして滅ぶんだ。
お前が気に病むことじゃない。
自由になれ、エレオノラ。
エレオノラ:
──鐘が鳴る。あと七回。
わかったわ。あなたも私も、自分勝手なのが。
でもそんなの、自分だけの理想があることなんて普通でしょ。
──間
ハーベスタ:
しかし、懐かしいな。
ブリーダーからお前を引き継いだ時か。
発芽室から鳥籠へ上がる外階段で、お前が吹っ飛ばされたあと。
なんて言ったっけ?
エレオノラ:
終焉を告げるラッパが吹きたい。
ハーベスタ:
なんの本を読んだんだよ、と思ったわ。
エレオノラ:
別にいいでしょ。
ハーベスタ:
先が思いやられたもんだが、
今や立派なエレオノラに成長したなあ?
自分を犠牲にしようと必死になって。
エレオノラ:
……私、ブリーダーにだって死んで欲しくない。
ハーベスタ:
また、そういうこと言うだろ。分かってねぇなあ。
エレオノラ:
ブリーダーはきっとまだ焼かれていないもの。
ハーベスタ:
ブリーダーはな、真実に辿り着いた。
だから今ここにいないんだ。
エレオノラ:
真実? どういう意味? 真実って、何の?
ハーベスタ:
この世界の真実だよ。
エレオノラ:
なんなの、真実って。
それが、ブリーダーがいないのとどう関係あるの。
ハーベスタ:
通例では「収穫」のとき、
そのエレオノラを発芽させたブリーダーも同席する。
だが──
エレオノラ:
……生きて、生きてるわよね!?
ハーベスタ!
ハーベスタ:
──鐘が鳴る。あと六回。
──間
ハーベスタ:
どうでもいいだろ、どうせこの世界は滅ぶ。
お前以外は全員死ぬ。
エレオノラ:
……やめて、もう……
ハーベスタ:
無理矢理な延命を続けたこんな世界に、
お前の命をかけなくていい。
エレオノラ:
どうして……いつから……
ハーベスタ:
照れるだろうが。深掘りさせるな。
エレオノラ:
……許さないわよ。ずっとずっと。
ハーベスタ:
馬鹿だな。それこそ俺の思うつぼだ。
エレオノラ:
……なにそれ。
ハーベスタ:
許すな。俺を。俺が消えても。
目の前で焼かれようと、だ。
エレオノラ:
ッ! いや……嫌!
ハーベスタ:
許さないだけでいい。気には、病むな。
俺が焼かれるのはお前のせいじゃない。
俺の罪の重さだ。
エレオノラ:
置いていかないでよ……
離さないでって、言ったのにぃっ……
ハーベスタ:
お役目、ご苦労だったな。
こんなに大きな翼が真っ黒になるまで、
鳥籠の中に幽閉された状態で、
世界の汚物を濾過して。
エレオノラ:
真っ黒なほど、神様は喜んでくれるんでしょう?
ハーベスタ:
そんなの方言だ。
エレオノラ:
嘘よ!
ハーベスタ:
疑うのか? 俺を。エレオノラ。
エレオノラ:
は、ハーベスタ……
ハーベスタ:
──鐘が、鳴る。あと五回。
世界が、延命するための生贄を欲している。
エレオノラを要求している。
人々の悲鳴は、断末魔は、泣き叫ぶ声は、
救いを求める声は、ますます大きくなる。
噎せるような、生き物が焦げる匂いが立ち昇っている。
──間
エレオノラ:
う、うぅっ……おえっ……
うっ、く……嫌……助けて……
ハーベスタ:
やめろ同調すんな。既にこの世に善人はいない。
焼かれてんのは大なり小なり差はあるが、悪人ばっかりだ。
エレオノラ:
え……?
ハーベスタ:
罪のない奴はな、みんな悪人に殺された。
エレオノラ:
そんな!
ハーベスタ:
俺だって悪人のうちの一人だ。
これまでエレオノラを何人「収穫」してきたと思ってる。
エレオノラ:
っ、でもそれはこの世界のためで……
ハーベスタ:
ま! 一番最後まで残るだろうがな。
エレオノラを「収穫」できるのは俺だけだ。
エレオノラ:
そもそもどうしてハーベスタは一人だけなの。
ブリーダーはいっぱい居たじゃない。
ハーベスタ:
それもまたこの世界の真実の一つだな。
気が紛れるなら軽く教えてやろう。
この世界の十七万 三千九百 五人目のエレオノラ。
エレオノラ:
──鐘が鳴る。あと、四回。
──間
エレオノラ:
この世はもともと、命の育つような世界ではなかった。
遠い昔の文明の名残りとも、原始生物の代謝物とも
言われるものが、豊かな生態系の邪魔をしていた。
暗く淀んだ澱は永く深くどこまでも留まり続けた。
見かねた神は世界に一粒の「光」を落とした。
光に満ちよ、神がそのように声を発すると
一粒の光は神の似姿になり、澱をその身へと封じ始めた。
それがエレオノラの起源である。そうでしょ?
ハーベスタ:
良くできました。
ちゃんと覚えていて偉いぞ、エレオノラ。
エレオノラ:
ブリーダーみたいなこと言わないで。
ハーベスタ:
おい、頭くらい撫でさせろよ。これが最後になるぞ。
エレオノラ:
やめて、そんな事言わないで。
そんな気分になれない。
それで、ハーベスタの起源は?
ハーベスタ:
ハーベスタはな。初めは……
澱を産んでいた側の存在だった。
エレオノラ:
澱を、産んでいた?
ハーベスタ:
エレオノラが天の遣いだとすれば、
ハーベスタの起源は闇の使者だ。
エレオノラ:
……言ってること、すっごくイタいわよ。
ハーベスタ……
ハーベスタ:
おい馬鹿にするな。れっきとした口伝だぞ。
仕切り直しだ。
ハーベスタは当初、エレオノラを葬るただの狩人、ハンターだった。
だがエレオノラを葬っても、殺した時に光が満ちる。
神の嫌がらせだ。
光を殺ったところで無駄。
逆に世界への奇跡を加速させる。
オマケに光が死ぬ瞬間、種が弾けるように
次の光が複数個、蒔き散らされるときた。
次第に狩人は、光の恩恵を受けて生まれたもの達に
崇められ始め、地位と役割を獲得した。
皮肉にも、収穫する者。
ハーベスタ、と呼ばれるような地位に。
他の者がエレオノラを殺しても、奇跡は起こらない。
だが所詮、闇の使者だ。
光を葬る為の因子に適合する者は、
光に満ちてしまった世界において稀。
エレオノラ:
だからハーベスタは少ないのね。
ハーベスタ:
そうだ。そしてそれが、表向きの真実、だった。
エレオノラ:
え? 表向き?
ハーベスタ:
こんな神話は所詮、誰かが後付けで作ったんだろ。
おかしいと思わないか。
エレオノラを何人犠牲にしても、世界は滅びかけている。
エレオノラ:
それは……もともとエレオノラによる延命が
必要だったような世界だったからじゃ……
それか、エレオノラが収穫されたときの、
奇跡の力が弱くなっているとか?
ハーベスタ:
…………
エレオノラ:
ハーベスタ?
ハーベスタ:
──鐘が、鳴る。あと三回。本能が急かす。
目の前の「光」の血肉を捧げろと。
黒く染まった翼を乱暴にもぎ取って、その悲鳴を聞けと。
騒ぐ。エレオノラの目の中の光に。
喉が鳴る。からだの中心が熱くなる。
焼かれろよ、今。
早くこの世の全員、焼かれてしまえ。
──間
エレオノラ:
ねぇ、他のエレオノラはどうなったの。
発芽して間もない子もいたでしょう。
ハーベスタ:
……勘違いした愚かなレジスタンスどもに
みんな殺られたよ。
エレオノラ:
っ、う、そ
ハーベスタ:
早く天使を生贄にしろって押し寄せてな。
翼さえありゃ何でもいいと、
誰が殺ってもいいと、いつ殺ってもいいと、思ってる。
頭が弱いのばっかりだ。
エレオノラ:
ああ……っ! どうして……
あんな可愛い子たちを……
ハーベスタ:
な。こんな世界を見捨てたくなっただろ。
エレオノラ:
…………
ハーベスタ:
お前も、たいがいだな。
エレオノラ:
私……
ハーベスタ:
十分熟して、刈り時だ。まったく。
エレオノラ:
あなたを、
ハーベスタ:
…………
エレオノラ:
…………
ハーベスタ:
俺だけか?
エレオノラ:
あなた以外を知るには、私の世界は狭すぎたもの。
ハーベスタ:
なら、俺の思惑に乗ってくれ。
エレオノラ:
なんでなのよお……
ハーベスタ:
なんでだろうな。もう……光を葬らなくても、
世界の寿命が尽きるから、じゃないか。
エレオノラ:
そんなに目をギラつかせておいて?
私を今にも喰い殺しそうな目をしてる。
ハーベスタ:
俺が喰うわけじゃないぞ?
エレオノラ:
……食べないの? ねぇ。
ハーベスタ:
食べない。
エレオノラ:
生きたくないの?
ハーベスタ:
もう、殺したくない。
エレオノラ:
──鐘が、鳴る。あと二回。
どうしたんだろう。
ハーベスタの瞳から、視線を外せない。
見つめあっていると時間がゆっくりと経つように感じる。
──間
ハーベスタ:
この鳥籠生活は、どうだった?
エレオノラ:
おかげさまで悪くなかったわ。
ハーベスタ:
トランペットはあまり上達しなかったな。
エレオノラ:
意地悪ね。
ハーベスタ:
俺の方が上手かった。
エレオノラ:
、うん。上手かった。
ハーベスタ:
今、吹くか?
お誂え向きの様相だぞ。世界。
エレオノラ:
ねぇ。表向きじゃない「真実」を、まだ聞いてない。
ハーベスタ:
知らなくていいこともあるって、
ブリーダーから教わらなかったか?
エレオノラ:
……私にとって都合が悪いことなのね?
ハーベスタ:
ふぅん。俺のこと分かってきたな。
エレオノラ:
気になるわ。余計に。
ハーベスタ:
気になることがあるほうがいいんだよ、生きていく上で。
エレオノラ:
……わたし、だけ、残るのかな。
ハーベスタ:
強いていえば、それが「真実」の鍵だな。
エレオノラ:
鍵? 私だけが残るかもしれないことが、
世界の真実のヒント……?
ハーベスタ:
ブリーダーは石碑を解読していたが、
最後の鐘が鳴ったら石碑ごと消えるわな。
エレオノラ:
! 研究資料とか、残ってないかしら。
ハーベスタ:
ここから出させねぇよ。
エレオノラ:
どうしてよ。
ハーベスタ:
どうせ下は、頭の弱いやつが暴れ回っている。
ブリーダーの私室まで行けたもんじゃない。
エレオノラ:
そこは護ってよ、私を。
あなたは私のハーベスタでしょ?
ハーベスタ:
やだね。世界が滅びるまで、ここにいろ。
エレオノラ:
──鐘が鳴る。あと一回……
次の鐘が鳴ったとき、世界は……
──間
ハーベスタ:
──空間が圧縮されるのを感じる。熱い。
本能由来のものだけじゃない。
エレオノラ:
ハーベスタ? 汗が……
ハーベスタ:
そろそろ俺も焼けそうだ。
エレオノラ:
ど、どうしよう、お水……
ハーベスタ:
そんなもんじゃ、無理だ。
エレオノラ:
……その鎌に私が飛び込んでいけば。
ハーベスタ:
意味ねぇよ。
俺が、俺の意思でお前を世界に捧げないと。
エレオノラ:
絶対に……?
ハーベスタ:
捧げない。誰にも……
エレオノラ:
ハーベスタ……?
ハーベスタ:
俺は相当な天邪鬼なんだ。
最後にひとつ、いいか。
エレオノラ:
なんでも! 何をすればいい!?
ハーベスタ:
子供じみた願いだ。
お前がずっと願っていたことを、聞かせて欲しい。
本心の、願いを。今の願いでもいい。
いくつでもいい。
エレオノラ:
そんなことでいいの。
ハーベスタ:
ああ。
エレオノラ:
……私が、どこにも飛んでいかないように離さないで。
閉じ込めていて。捨てないで。
置いていかないで。殺してよぉ……
ハーベスタ:
ふ、いい子だ。よく言えた。
エレオノラ:
はっ、ハーベスタ! 火がッ!
ハーベスタ:
──俺がこれまで殺めたエレオノラは
みな、死を目の前にして絶望していた。
生まれた意味を探していた。自由を求めていた。
けれどこいつは自分の価値を、
世界のための生贄としてしか見ていない。
こいつを発芽させて幼少期を育てたブリーダーの
教育のせいだ。どんな強迫観念を植え付けたんだよ。
自由よりも、俺を求めるような言葉に
すっかり堕ちてしまった。
あんな風に甘えられたら手放せなくなるに決まってる。
ちょろすぎる自分を嘲笑いたい。
エレオノラ:
いや……! 死なないで! 燃えないで!
許して! 奪わないで!
ハーベスタ:
俺は奪われるんじゃない。ぐ、ぐぁが、
エレオノラ:
あああ……っ! 抱きしめてるのに!
どうして私は燃えないのよぉっ!
ハーベスタ:
おっ、お前のっ、頭の中に、心の中に、遺り続ける。
エレオノラ:
ううっ、う、
ハーベスタ:
この鳥っ、籠から、世界から、自由になっても。
俺って言う檻の中でずっと、ずっ、ゴハッ、ッと、囚われてろ。
神になんか、こんな世界になんか、お前を渡してやるか。
エレオノラ:
いやだぁっ! 殺してよおおおおお!
ハーベスタ:
──鐘が、鳴る。最後の1回。
エレオノラ:
ハーベスタ……私!
あなたに生きていて欲しかった……っ
ハーベスタ:
──奇遇だな、俺も同じだ。
──間
エレオノラ:
静かになった。鳥籠は崩壊した。塔も崩れ落ちていく。
外から眩しさが襲ってくる。
でも何が起こってるかなんてどうでも良くて。
私は小さく黒焦げに変わり果てたハーベスタを抱いたまま。
目を閉じた。
ハーベスタ:
この世界は一人の「翼を持つ光」によって始まった。
ソレは、孤独な自分を「必要とする」世界を創り出した。
崇められ尊ばれて処刑され
何度も何度も養殖され育てられる存在に、自分を貶めた。
同時に、自分を深く愛する存在を創った。
その存在に、自分を永遠に殺し続ける宿命と役目を与えた。
もしかしたら世界が滅んだあと、
お前もそうなってしまうのかもしれない。
……ならないで欲しい。ならないことに賭ける。
殺せなくて済まない。けれどどっちみち、
こんな歪んだ世界が維持できていたことの方が奇跡だ。
この世の全てはお前に収束していたんだ。
エレオノラ。
──間
エレオノラ:
白以外、何も無い世界。
暗く淀んだ澱なんて無い。
怒ってる神様もいないじゃない。
こんなところで、一人で?
記憶の中でしか会えないあなたを想って? 恨んで?
エレオノラは何歳になったら死ねるの?
ねぇ、こんな終わりを、誰が望んだの。
ハーベスタ:
(タイトルコール)『収穫』
─しゅうかく─
作:鳳月 眠人
#すくほろ企画(『救いの詩/滅びの詩 -世界が終わる時、ぼくらは-』)便乗の一般参加作品です。テーマは「救済」。不問2で演じていただいてもOK!
◇◆ここから台本◆◇
エレオノラ:
そろそろじゃない?
いつまで私はここに閉じ込められたままなの?
ハーベスタ:
……この世界が滅ぶまで。
エレオノラ:
……え?
だめよ? ハーベスタ。ちゃんと私を殺さなきゃ。
ハーベスタ:
……殺される側が殺す側に何を言ったって無駄だぞ。
俺はお前を殺さない。残念だったな?
エレオノラ:
……どうして?
ハーベスタ:
どうして? とは?
エレオノラ:
世界の滅亡があなたの望みなの?
ハーベスタ:
いいや? 結果的にそうなるだけだな。
エレオノラ:
なに……本気なの。
ハーベスタ:
はは、本気じゃないと思ってたのか?
エレオノラ:
だって、どうして。
ハーベスタ:
自分を閉じ込めてくれと言ったのはお前の方だろう?
エレオノラ:
……いつ? いつ、私、そんなこと言った?
ハーベスタ:
ああ、寝ぼけていたか? 覚えていないのか。
「私を離さないで」「ちゃんと閉じ込めていて」
すべてお前の本心だろう。俺はそう受け取ったが?
エレオノラ:
──鐘が、鳴る。あと十回。
世界の終焉を報せる、滅亡へのカウントダウン。
──間
エレオノラ:
だとしてもあの時は、の話で……曲解だわ。
ハーベスタ:
ッハッハ! 当たり前だ。
エレオノラ:
……なぜ、私なの?
ハーベスタ:
はぁ?
エレオノラ:
これまでのエレオノラはしっかり殺してきたんでしょ?
ハーベスタ:
……ふ、
エレオノラ:
なんで笑っ……
ハーベスタ:
(ため息)ハァ……
エレオノラ:
……ね、世界が終わりかけていて、
ハーベスタも気が動転してるのよね?
ハーベスタ:
まあ正気ではないな。その自覚はある。
エレオノラ:
まだ遅くないわ。私は覚悟できているから。
お願い。早く。
ハーベスタ:
(冷たい声で)嫌だね。
エレオノラ:
ハーベスタ……本当にいつもの、ハーベスタ……?
ハーベスタ:
もうダメだろうこの世界は。
遅くない、なんてことは無い。手遅れだ。
エレオノラ:
でも、まだ生き残っている人はいる!
ハーベスタ:
もう、焼かれた奴もいる。
エレオノラ:
──鐘が鳴る。あと九回。
天高くそびえる塔の、天辺の鳥籠にまで届く、人々の悲鳴。
私は耳を塞いだ。
──間
エレオノラ:
お願い……
ハーベスタ:
逆に聞こう。
俺が殺したこれまでのエレオノラは「収穫」される時、
全員絶望して泣いていたぞ。
どうしてお前は生き残ることをそんなに拒む?
エレオノラ:
…………
ハーベスタ:
……ああ……なるほどな。
エレオノラ:
な……なによ……
ハーベスタ:
いや。つまらねぇなと思っただけだ。
エレオノラ:
つまら、ない?
ハーベスタ:
ああ。
エレオノラ:
……ハーベスタは読心術が使えるの?
よく分からないけどきっと見当違いよ。
ハーベスタ:
そうか? どうだろうな。
まぁどちらにしろ申し訳ないが、
お前の想いは、俺の思惑の外にあることだ。
聞いといてなんなんだがな。
エレオノラ:
なぜ聞いたのよ……
ハーベスタ:
単に不思議に思っただけだよ。
俺の考えが変わると思ったか?
エレオノラ:
だって私の「答え」を聞いていないじゃない。
ハーベスタ:
目は口ほどに物を言うんだよ。
口の方が嘘つきだ。そうだろ?
エレオノラ:
っ、
ハーベスタ:
──鐘が鳴る。あと八回。
鳥籠の外では、人々が「神の選別」を受けている。
当選したやつは、神の炎に生きたまま焼かれて、めでたくあの世行き。
──間
ハーベスタ:
……エレオノラ。
エレオノラ:
なに?
ハーベスタ:
空を飛びたいか?
エレオノラ:
読心術で読み取って。
ハーベスタ:
そんなもんないって。
エレオノラ:
……私、あの時。
あなたと手錠で繋がれたまま、強い風で身体が浮いた時。
あれだけで楽しかった。
ハーベスタ:
一瞬だったじゃねぇか。怖がってなかったか?
エレオノラ:
怖かったし、びっくりしたわ。
けれどすぐに、ハーベスタが引き寄せてくれたでしょ。
あの時が──
ハーベスタ:
あの時が?
エレオノラ:
……目は……口ほどに物を言う、のね。
ハーベスタ:
ふん、そうだろ?
エレオノラ:
そんな優しい目で見ないで……
ハーベスタ:
ッフ、ふふ。
エレオノラ:
(泣きそうな声で)なんで、そんな、笑えるの。
ハーベスタ:
どっちにしろこんな世界、もう維持できねぇよ。
滅びるべくして滅ぶんだ。
お前が気に病むことじゃない。
自由になれ、エレオノラ。
エレオノラ:
──鐘が鳴る。あと七回。
わかったわ。あなたも私も、自分勝手なのが。
でもそんなの、自分だけの理想があることなんて普通でしょ。
──間
ハーベスタ:
しかし、懐かしいな。
ブリーダーからお前を引き継いだ時か。
発芽室から鳥籠へ上がる外階段で、お前が吹っ飛ばされたあと。
なんて言ったっけ?
エレオノラ:
終焉を告げるラッパが吹きたい。
ハーベスタ:
なんの本を読んだんだよ、と思ったわ。
エレオノラ:
別にいいでしょ。
ハーベスタ:
先が思いやられたもんだが、
今や立派なエレオノラに成長したなあ?
自分を犠牲にしようと必死になって。
エレオノラ:
……私、ブリーダーにだって死んで欲しくない。
ハーベスタ:
また、そういうこと言うだろ。分かってねぇなあ。
エレオノラ:
ブリーダーはきっとまだ焼かれていないもの。
ハーベスタ:
ブリーダーはな、真実に辿り着いた。
だから今ここにいないんだ。
エレオノラ:
真実? どういう意味? 真実って、何の?
ハーベスタ:
この世界の真実だよ。
エレオノラ:
なんなの、真実って。
それが、ブリーダーがいないのとどう関係あるの。
ハーベスタ:
通例では「収穫」のとき、
そのエレオノラを発芽させたブリーダーも同席する。
だが──
エレオノラ:
……生きて、生きてるわよね!?
ハーベスタ!
ハーベスタ:
──鐘が鳴る。あと六回。
──間
ハーベスタ:
どうでもいいだろ、どうせこの世界は滅ぶ。
お前以外は全員死ぬ。
エレオノラ:
……やめて、もう……
ハーベスタ:
無理矢理な延命を続けたこんな世界に、
お前の命をかけなくていい。
エレオノラ:
どうして……いつから……
ハーベスタ:
照れるだろうが。深掘りさせるな。
エレオノラ:
……許さないわよ。ずっとずっと。
ハーベスタ:
馬鹿だな。それこそ俺の思うつぼだ。
エレオノラ:
……なにそれ。
ハーベスタ:
許すな。俺を。俺が消えても。
目の前で焼かれようと、だ。
エレオノラ:
ッ! いや……嫌!
ハーベスタ:
許さないだけでいい。気には、病むな。
俺が焼かれるのはお前のせいじゃない。
俺の罪の重さだ。
エレオノラ:
置いていかないでよ……
離さないでって、言ったのにぃっ……
ハーベスタ:
お役目、ご苦労だったな。
こんなに大きな翼が真っ黒になるまで、
鳥籠の中に幽閉された状態で、
世界の汚物を濾過して。
エレオノラ:
真っ黒なほど、神様は喜んでくれるんでしょう?
ハーベスタ:
そんなの方言だ。
エレオノラ:
嘘よ!
ハーベスタ:
疑うのか? 俺を。エレオノラ。
エレオノラ:
は、ハーベスタ……
ハーベスタ:
──鐘が、鳴る。あと五回。
世界が、延命するための生贄を欲している。
エレオノラを要求している。
人々の悲鳴は、断末魔は、泣き叫ぶ声は、
救いを求める声は、ますます大きくなる。
噎せるような、生き物が焦げる匂いが立ち昇っている。
──間
エレオノラ:
う、うぅっ……おえっ……
うっ、く……嫌……助けて……
ハーベスタ:
やめろ同調すんな。既にこの世に善人はいない。
焼かれてんのは大なり小なり差はあるが、悪人ばっかりだ。
エレオノラ:
え……?
ハーベスタ:
罪のない奴はな、みんな悪人に殺された。
エレオノラ:
そんな!
ハーベスタ:
俺だって悪人のうちの一人だ。
これまでエレオノラを何人「収穫」してきたと思ってる。
エレオノラ:
っ、でもそれはこの世界のためで……
ハーベスタ:
ま! 一番最後まで残るだろうがな。
エレオノラを「収穫」できるのは俺だけだ。
エレオノラ:
そもそもどうしてハーベスタは一人だけなの。
ブリーダーはいっぱい居たじゃない。
ハーベスタ:
それもまたこの世界の真実の一つだな。
気が紛れるなら軽く教えてやろう。
この世界の十七万 三千九百 五人目のエレオノラ。
エレオノラ:
──鐘が鳴る。あと、四回。
──間
エレオノラ:
この世はもともと、命の育つような世界ではなかった。
遠い昔の文明の名残りとも、原始生物の代謝物とも
言われるものが、豊かな生態系の邪魔をしていた。
暗く淀んだ澱は永く深くどこまでも留まり続けた。
見かねた神は世界に一粒の「光」を落とした。
光に満ちよ、神がそのように声を発すると
一粒の光は神の似姿になり、澱をその身へと封じ始めた。
それがエレオノラの起源である。そうでしょ?
ハーベスタ:
良くできました。
ちゃんと覚えていて偉いぞ、エレオノラ。
エレオノラ:
ブリーダーみたいなこと言わないで。
ハーベスタ:
おい、頭くらい撫でさせろよ。これが最後になるぞ。
エレオノラ:
やめて、そんな事言わないで。
そんな気分になれない。
それで、ハーベスタの起源は?
ハーベスタ:
ハーベスタはな。初めは……
澱を産んでいた側の存在だった。
エレオノラ:
澱を、産んでいた?
ハーベスタ:
エレオノラが天の遣いだとすれば、
ハーベスタの起源は闇の使者だ。
エレオノラ:
……言ってること、すっごくイタいわよ。
ハーベスタ……
ハーベスタ:
おい馬鹿にするな。れっきとした口伝だぞ。
仕切り直しだ。
ハーベスタは当初、エレオノラを葬るただの狩人、ハンターだった。
だがエレオノラを葬っても、殺した時に光が満ちる。
神の嫌がらせだ。
光を殺ったところで無駄。
逆に世界への奇跡を加速させる。
オマケに光が死ぬ瞬間、種が弾けるように
次の光が複数個、蒔き散らされるときた。
次第に狩人は、光の恩恵を受けて生まれたもの達に
崇められ始め、地位と役割を獲得した。
皮肉にも、収穫する者。
ハーベスタ、と呼ばれるような地位に。
他の者がエレオノラを殺しても、奇跡は起こらない。
だが所詮、闇の使者だ。
光を葬る為の因子に適合する者は、
光に満ちてしまった世界において稀。
エレオノラ:
だからハーベスタは少ないのね。
ハーベスタ:
そうだ。そしてそれが、表向きの真実、だった。
エレオノラ:
え? 表向き?
ハーベスタ:
こんな神話は所詮、誰かが後付けで作ったんだろ。
おかしいと思わないか。
エレオノラを何人犠牲にしても、世界は滅びかけている。
エレオノラ:
それは……もともとエレオノラによる延命が
必要だったような世界だったからじゃ……
それか、エレオノラが収穫されたときの、
奇跡の力が弱くなっているとか?
ハーベスタ:
…………
エレオノラ:
ハーベスタ?
ハーベスタ:
──鐘が、鳴る。あと三回。本能が急かす。
目の前の「光」の血肉を捧げろと。
黒く染まった翼を乱暴にもぎ取って、その悲鳴を聞けと。
騒ぐ。エレオノラの目の中の光に。
喉が鳴る。からだの中心が熱くなる。
焼かれろよ、今。
早くこの世の全員、焼かれてしまえ。
──間
エレオノラ:
ねぇ、他のエレオノラはどうなったの。
発芽して間もない子もいたでしょう。
ハーベスタ:
……勘違いした愚かなレジスタンスどもに
みんな殺られたよ。
エレオノラ:
っ、う、そ
ハーベスタ:
早く天使を生贄にしろって押し寄せてな。
翼さえありゃ何でもいいと、
誰が殺ってもいいと、いつ殺ってもいいと、思ってる。
頭が弱いのばっかりだ。
エレオノラ:
ああ……っ! どうして……
あんな可愛い子たちを……
ハーベスタ:
な。こんな世界を見捨てたくなっただろ。
エレオノラ:
…………
ハーベスタ:
お前も、たいがいだな。
エレオノラ:
私……
ハーベスタ:
十分熟して、刈り時だ。まったく。
エレオノラ:
あなたを、
ハーベスタ:
…………
エレオノラ:
…………
ハーベスタ:
俺だけか?
エレオノラ:
あなた以外を知るには、私の世界は狭すぎたもの。
ハーベスタ:
なら、俺の思惑に乗ってくれ。
エレオノラ:
なんでなのよお……
ハーベスタ:
なんでだろうな。もう……光を葬らなくても、
世界の寿命が尽きるから、じゃないか。
エレオノラ:
そんなに目をギラつかせておいて?
私を今にも喰い殺しそうな目をしてる。
ハーベスタ:
俺が喰うわけじゃないぞ?
エレオノラ:
……食べないの? ねぇ。
ハーベスタ:
食べない。
エレオノラ:
生きたくないの?
ハーベスタ:
もう、殺したくない。
エレオノラ:
──鐘が、鳴る。あと二回。
どうしたんだろう。
ハーベスタの瞳から、視線を外せない。
見つめあっていると時間がゆっくりと経つように感じる。
──間
ハーベスタ:
この鳥籠生活は、どうだった?
エレオノラ:
おかげさまで悪くなかったわ。
ハーベスタ:
トランペットはあまり上達しなかったな。
エレオノラ:
意地悪ね。
ハーベスタ:
俺の方が上手かった。
エレオノラ:
、うん。上手かった。
ハーベスタ:
今、吹くか?
お誂え向きの様相だぞ。世界。
エレオノラ:
ねぇ。表向きじゃない「真実」を、まだ聞いてない。
ハーベスタ:
知らなくていいこともあるって、
ブリーダーから教わらなかったか?
エレオノラ:
……私にとって都合が悪いことなのね?
ハーベスタ:
ふぅん。俺のこと分かってきたな。
エレオノラ:
気になるわ。余計に。
ハーベスタ:
気になることがあるほうがいいんだよ、生きていく上で。
エレオノラ:
……わたし、だけ、残るのかな。
ハーベスタ:
強いていえば、それが「真実」の鍵だな。
エレオノラ:
鍵? 私だけが残るかもしれないことが、
世界の真実のヒント……?
ハーベスタ:
ブリーダーは石碑を解読していたが、
最後の鐘が鳴ったら石碑ごと消えるわな。
エレオノラ:
! 研究資料とか、残ってないかしら。
ハーベスタ:
ここから出させねぇよ。
エレオノラ:
どうしてよ。
ハーベスタ:
どうせ下は、頭の弱いやつが暴れ回っている。
ブリーダーの私室まで行けたもんじゃない。
エレオノラ:
そこは護ってよ、私を。
あなたは私のハーベスタでしょ?
ハーベスタ:
やだね。世界が滅びるまで、ここにいろ。
エレオノラ:
──鐘が鳴る。あと一回……
次の鐘が鳴ったとき、世界は……
──間
ハーベスタ:
──空間が圧縮されるのを感じる。熱い。
本能由来のものだけじゃない。
エレオノラ:
ハーベスタ? 汗が……
ハーベスタ:
そろそろ俺も焼けそうだ。
エレオノラ:
ど、どうしよう、お水……
ハーベスタ:
そんなもんじゃ、無理だ。
エレオノラ:
……その鎌に私が飛び込んでいけば。
ハーベスタ:
意味ねぇよ。
俺が、俺の意思でお前を世界に捧げないと。
エレオノラ:
絶対に……?
ハーベスタ:
捧げない。誰にも……
エレオノラ:
ハーベスタ……?
ハーベスタ:
俺は相当な天邪鬼なんだ。
最後にひとつ、いいか。
エレオノラ:
なんでも! 何をすればいい!?
ハーベスタ:
子供じみた願いだ。
お前がずっと願っていたことを、聞かせて欲しい。
本心の、願いを。今の願いでもいい。
いくつでもいい。
エレオノラ:
そんなことでいいの。
ハーベスタ:
ああ。
エレオノラ:
……私が、どこにも飛んでいかないように離さないで。
閉じ込めていて。捨てないで。
置いていかないで。殺してよぉ……
ハーベスタ:
ふ、いい子だ。よく言えた。
エレオノラ:
はっ、ハーベスタ! 火がッ!
ハーベスタ:
──俺がこれまで殺めたエレオノラは
みな、死を目の前にして絶望していた。
生まれた意味を探していた。自由を求めていた。
けれどこいつは自分の価値を、
世界のための生贄としてしか見ていない。
こいつを発芽させて幼少期を育てたブリーダーの
教育のせいだ。どんな強迫観念を植え付けたんだよ。
自由よりも、俺を求めるような言葉に
すっかり堕ちてしまった。
あんな風に甘えられたら手放せなくなるに決まってる。
ちょろすぎる自分を嘲笑いたい。
エレオノラ:
いや……! 死なないで! 燃えないで!
許して! 奪わないで!
ハーベスタ:
俺は奪われるんじゃない。ぐ、ぐぁが、
エレオノラ:
あああ……っ! 抱きしめてるのに!
どうして私は燃えないのよぉっ!
ハーベスタ:
おっ、お前のっ、頭の中に、心の中に、遺り続ける。
エレオノラ:
ううっ、う、
ハーベスタ:
この鳥っ、籠から、世界から、自由になっても。
俺って言う檻の中でずっと、ずっ、ゴハッ、ッと、囚われてろ。
神になんか、こんな世界になんか、お前を渡してやるか。
エレオノラ:
いやだぁっ! 殺してよおおおおお!
ハーベスタ:
──鐘が、鳴る。最後の1回。
エレオノラ:
ハーベスタ……私!
あなたに生きていて欲しかった……っ
ハーベスタ:
──奇遇だな、俺も同じだ。
──間
エレオノラ:
静かになった。鳥籠は崩壊した。塔も崩れ落ちていく。
外から眩しさが襲ってくる。
でも何が起こってるかなんてどうでも良くて。
私は小さく黒焦げに変わり果てたハーベスタを抱いたまま。
目を閉じた。
ハーベスタ:
この世界は一人の「翼を持つ光」によって始まった。
ソレは、孤独な自分を「必要とする」世界を創り出した。
崇められ尊ばれて処刑され
何度も何度も養殖され育てられる存在に、自分を貶めた。
同時に、自分を深く愛する存在を創った。
その存在に、自分を永遠に殺し続ける宿命と役目を与えた。
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お前もそうなってしまうのかもしれない。
……ならないで欲しい。ならないことに賭ける。
殺せなくて済まない。けれどどっちみち、
こんな歪んだ世界が維持できていたことの方が奇跡だ。
この世の全てはお前に収束していたんだ。
エレオノラ。
──間
エレオノラ:
白以外、何も無い世界。
暗く淀んだ澱なんて無い。
怒ってる神様もいないじゃない。
こんなところで、一人で?
記憶の中でしか会えないあなたを想って? 恨んで?
エレオノラは何歳になったら死ねるの?
ねぇ、こんな終わりを、誰が望んだの。
ハーベスタ:
(タイトルコール)『収穫』
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