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朗読シリーズ
🆕『氷の王』(1つのあらすじからみんなで物語をつくる企画)
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同じあらすじから、どれくらい異なるテイストと持ち味でお話を書けるか?という物書き実験企画をしています。是非ご参加ください。
~要項~
・チャレンジしてくださる方は統一感を出すため、Xへご投稿の際は「文庫ページメーカー」をご利用ください。(投稿後、他の媒体にご掲載いただいて構いません)
・長さの規定はありません。おひとり様いくつでも投稿してください。
・泣ける話、ホラー、ギャグ、恋愛ストーリー、詩、どのように変化しても構いません。他の登場人物が出てきても構いません。
・【 】内は好きなものを入れてください。
・タイトルは自由です。#あらすじを私が育てるとこうなる ハッシュタグ投稿していただけると発案者が読みに行けるので嬉しいです。
お題のあらすじ
───────❅*
千年の眠りから目覚めた氷の王が、世界を彷徨っていました。氷の王が通る村や里は雪と氷に覆われていきます。
ある山村で出会った旅人は、冷気を気にせず「寒いのは苦手なんですけれど、あなたの【 】はすごく綺麗ですね」と氷の王に言いました。
旅人が去った後、氷の王は初めて息を白く吐きました。
次の朝、村の氷雪は溶けていましたが、旅人の首元には雪の結晶の形の痣ができていました。
世界は再び長らく冬を忘れることでしょう。
───────❅*
ここから私の作ったお話
・
・
・
深い氷河の下。波が氷を穿ち、泡立つ音がする。雪に覆われた氷の青壁が轟音を立てて、海へ滑り落ちた。
「しごとのじかん……」
今さっき、崩れ落ちて海面に浮かんだ氷の壁。その一嶼に、真っ白なヘラジカが佇んでいた。ヘラジカは確かに雪の多い地域にも生息するが、このような海で見られるものではない──白いからだは陽の光を反射させ、まるで光をまとっているかのようだった。ヘラジカは、嶼の縁へ寄る。巨体に反して、嶼は転覆することなく静かに波の動きに同調していた。足の蹄が海面へと伸びると、波が凍りついた。ヘラジカはそのまま氷の橋を作りながら、世界を旅し始めた。
吹雪く世界。これは神から与えられたヘラジカの使命だった。ヘラジカは眠りから覚めたら、仕事をする。生き物たちを一度、眠りにつかせねばならない。花も木も、人も動物も。凍ったままの心で、無慈悲に。歩いて、旅して、全てを凍らせ、この星が真っ白い雪玉になった時、ヘラジカはまた眠りにつけるのだった。今回は、前回の仕事から、千年経っていた。
大地と海が、およそ半分以上凍った頃。ある山を歩いていたヘラジカは、里山を見つけた。灯りがある。その方向へゆっくりと、冬を連れていく。多くはない数の村人たちは、迫る吹雪に慄いて逃げ出して行った。家に籠って耐えようとする者はいない。彼らは恐らく、凍てつく樹氷も、雪を含んだ荒れ狂う風も見たことがないのだ。
しかし、一人だけ。恐怖よりも好奇心に駆られた旅姿の若者が、空っぽになった村の広場の隅で、逃げずに立ち尽くしていた。
「氷の王だ……」
旅人はそう呟いて、フードを外し、ヘラジカの元へ近づいてゆく。物珍しさに、ヘラジカは吹雪を弱めた。
「北の国の古い伝承に残っている。大きなツノをもつ真っ白な大鹿が、およそ数千年に一度、世界の時を止めるのだと。その存在は、氷の王と呼ばれている。あなたがそうなんでしょう?」
ヘラジカは首を傾げた。旅の若者もつられるように軽く首を傾げた。そして優しく目を細めて、手を差し出した。
「ああ、なんて──なんて幸運。恐れ多くも、あなたに触れる許可をいただけますか?」
旅人のコートの襟から、風でさらりと髪が流れた。ヘラジカが雪をかぶせてきた、大地のような色をしていた。
ヘラジカは了承の意を伝えるように、旅人の傍へとゆっくり近づき立ち止まる。旅人は手袋を外し、そっとヘラジカの太い首のあたりに触れ、撫でた。
しんしんと降り続く雪の中、震えながら、ふぅと白い息を吐いて旅人は言った。
「こんなに寒い経験をしたことがありません。これまで、少しの冷害だって苦手でしたけれど……あなたの澄んだ氷のようなツノと瞳も、雪のような真っ白な毛並みも、すごく綺麗ですね。……止まった世界も悪くないかもしれません」
ヘラジカは、からだのなかで、何かが音を立てて弾け、溶けだしたような気持ちがした。冷たい、冷たいからだなのに、不思議なあたたかさが巡った。
「身に余る光栄をありがとうございます、氷の王。それでは私は、次の地に向かおうと思います。例え世界中の時が止まっても、まだまだこの目で見たいものがあるのです」
旅人は礼をして、去っていった。ヘラジカはそれを黙って見送った。旅人のからだには、ほとんど熱が残っていない。自分の身のうちの不思議なあたたかさを分けてあげたい。ヘラジカは初めてそんなことを思った。吐いた息は、白かった。それも、初めてのことだった。
その晩、やはり旅人は道端で、凍えて息絶えていた。ヘラジカはそれを見つけて歩み寄った。亡骸の睫毛は凍りつき、生気のない青い顔で、からだも固く強ばっていた。首を撫でてくれた柔らかな手と、優しい表情はそこになかった。
ヘラジカは、泣いた。
明くる朝。旅人は目を覚ました。
初めて経験した冬が夢であったかのように、あたりは花々に満ち、暖かな日が空の低いところに顔を出していた。けれども昨日の出来事は夢ではなかったのだということが、木陰に生える霜柱と、びしょ濡れの地面から察せられた。ぴとん、ぴとん。葉から葉へ、雫が落ちて揺れる。
ちり、と痛む首元を疑問に思いながら立ち上がり、服の水気を絞って旅人は着替えをした。首元にできた雪の結晶の形の痣を、濡れた髪の毛先がくすぐった。
世界は再び永らく、冬を忘れるのだろう。
花と大地の下に眠って。
~要項~
・チャレンジしてくださる方は統一感を出すため、Xへご投稿の際は「文庫ページメーカー」をご利用ください。(投稿後、他の媒体にご掲載いただいて構いません)
・長さの規定はありません。おひとり様いくつでも投稿してください。
・泣ける話、ホラー、ギャグ、恋愛ストーリー、詩、どのように変化しても構いません。他の登場人物が出てきても構いません。
・【 】内は好きなものを入れてください。
・タイトルは自由です。#あらすじを私が育てるとこうなる ハッシュタグ投稿していただけると発案者が読みに行けるので嬉しいです。
お題のあらすじ
───────❅*
千年の眠りから目覚めた氷の王が、世界を彷徨っていました。氷の王が通る村や里は雪と氷に覆われていきます。
ある山村で出会った旅人は、冷気を気にせず「寒いのは苦手なんですけれど、あなたの【 】はすごく綺麗ですね」と氷の王に言いました。
旅人が去った後、氷の王は初めて息を白く吐きました。
次の朝、村の氷雪は溶けていましたが、旅人の首元には雪の結晶の形の痣ができていました。
世界は再び長らく冬を忘れることでしょう。
───────❅*
ここから私の作ったお話
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・
深い氷河の下。波が氷を穿ち、泡立つ音がする。雪に覆われた氷の青壁が轟音を立てて、海へ滑り落ちた。
「しごとのじかん……」
今さっき、崩れ落ちて海面に浮かんだ氷の壁。その一嶼に、真っ白なヘラジカが佇んでいた。ヘラジカは確かに雪の多い地域にも生息するが、このような海で見られるものではない──白いからだは陽の光を反射させ、まるで光をまとっているかのようだった。ヘラジカは、嶼の縁へ寄る。巨体に反して、嶼は転覆することなく静かに波の動きに同調していた。足の蹄が海面へと伸びると、波が凍りついた。ヘラジカはそのまま氷の橋を作りながら、世界を旅し始めた。
吹雪く世界。これは神から与えられたヘラジカの使命だった。ヘラジカは眠りから覚めたら、仕事をする。生き物たちを一度、眠りにつかせねばならない。花も木も、人も動物も。凍ったままの心で、無慈悲に。歩いて、旅して、全てを凍らせ、この星が真っ白い雪玉になった時、ヘラジカはまた眠りにつけるのだった。今回は、前回の仕事から、千年経っていた。
大地と海が、およそ半分以上凍った頃。ある山を歩いていたヘラジカは、里山を見つけた。灯りがある。その方向へゆっくりと、冬を連れていく。多くはない数の村人たちは、迫る吹雪に慄いて逃げ出して行った。家に籠って耐えようとする者はいない。彼らは恐らく、凍てつく樹氷も、雪を含んだ荒れ狂う風も見たことがないのだ。
しかし、一人だけ。恐怖よりも好奇心に駆られた旅姿の若者が、空っぽになった村の広場の隅で、逃げずに立ち尽くしていた。
「氷の王だ……」
旅人はそう呟いて、フードを外し、ヘラジカの元へ近づいてゆく。物珍しさに、ヘラジカは吹雪を弱めた。
「北の国の古い伝承に残っている。大きなツノをもつ真っ白な大鹿が、およそ数千年に一度、世界の時を止めるのだと。その存在は、氷の王と呼ばれている。あなたがそうなんでしょう?」
ヘラジカは首を傾げた。旅の若者もつられるように軽く首を傾げた。そして優しく目を細めて、手を差し出した。
「ああ、なんて──なんて幸運。恐れ多くも、あなたに触れる許可をいただけますか?」
旅人のコートの襟から、風でさらりと髪が流れた。ヘラジカが雪をかぶせてきた、大地のような色をしていた。
ヘラジカは了承の意を伝えるように、旅人の傍へとゆっくり近づき立ち止まる。旅人は手袋を外し、そっとヘラジカの太い首のあたりに触れ、撫でた。
しんしんと降り続く雪の中、震えながら、ふぅと白い息を吐いて旅人は言った。
「こんなに寒い経験をしたことがありません。これまで、少しの冷害だって苦手でしたけれど……あなたの澄んだ氷のようなツノと瞳も、雪のような真っ白な毛並みも、すごく綺麗ですね。……止まった世界も悪くないかもしれません」
ヘラジカは、からだのなかで、何かが音を立てて弾け、溶けだしたような気持ちがした。冷たい、冷たいからだなのに、不思議なあたたかさが巡った。
「身に余る光栄をありがとうございます、氷の王。それでは私は、次の地に向かおうと思います。例え世界中の時が止まっても、まだまだこの目で見たいものがあるのです」
旅人は礼をして、去っていった。ヘラジカはそれを黙って見送った。旅人のからだには、ほとんど熱が残っていない。自分の身のうちの不思議なあたたかさを分けてあげたい。ヘラジカは初めてそんなことを思った。吐いた息は、白かった。それも、初めてのことだった。
その晩、やはり旅人は道端で、凍えて息絶えていた。ヘラジカはそれを見つけて歩み寄った。亡骸の睫毛は凍りつき、生気のない青い顔で、からだも固く強ばっていた。首を撫でてくれた柔らかな手と、優しい表情はそこになかった。
ヘラジカは、泣いた。
明くる朝。旅人は目を覚ました。
初めて経験した冬が夢であったかのように、あたりは花々に満ち、暖かな日が空の低いところに顔を出していた。けれども昨日の出来事は夢ではなかったのだということが、木陰に生える霜柱と、びしょ濡れの地面から察せられた。ぴとん、ぴとん。葉から葉へ、雫が落ちて揺れる。
ちり、と痛む首元を疑問に思いながら立ち上がり、服の水気を絞って旅人は着替えをした。首元にできた雪の結晶の形の痣を、濡れた髪の毛先がくすぐった。
世界は再び永らく、冬を忘れるのだろう。
花と大地の下に眠って。
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