家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

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第10部 ふたりの城と、落ちぶれた家族の末路

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助産婦さんが屋敷に到着し、部屋の中は一気に緊張感に包まれた。

「ううーっ!」

私は陣痛の波に耐えながら、ベッドの縁を強く握る。

「はい、今は休みましょう。深呼吸して。」

助産婦さんが落ち着いた声でタイミングを教えてくれる。

「次、来ますよ。はい!息んで!」

「うううーーっ!」

痛みに全身が引き裂かれるようだった。

それでも私はお腹の子のため、懸命に力を込める。

「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」

「もう少しです!頭が見えましたよ!」

助産婦さんの声に励まされながら、私はまた息んだ。

何度そうしたか分からない。そして——

「おぎゃあーーー!」

泣き声が響いた瞬間、私の目からは涙があふれていた。

この小さな命が、私とセドリックの子ども。

腕に抱かれたその温もりが、すべての痛みを忘れさせてくれた。


すると助産婦さんが、「おめでとうございます」と優しく声をかけ、産湯に浸かったばかりの赤ちゃんをそっとタオルで包んで私の胸元に差し出してくれた。

「……ああ……」

私はその小さな体を抱きしめた。

あたたかくて、柔らかくて、信じられないくらい愛おしい。

「男の子です。」

傍にいたマリーナが、涙をぬぐいながら微笑んで教えてくれた。

男の子。——ああ、男の子だったんだ。

この子は私の息子。

セドリックと私の愛の結晶。

すると部屋の扉がそっと開いて、セドリックが入ってきた。

私の隣にしゃがみ込み、小さな命をのぞき込むと、ふるえる手で赤ちゃんをそっと腕に抱いた。

「ありがとう、クラリス……」

その瞳には光るものが浮かび、静かに一筋、頬を伝って落ちていった。

セドリックが泣いている。私も、マリーナも、皆が泣いていた。

「名前は、アルフレッドにしよう。」

「アルフレッド?」

思わず私はその名を繰り返した。

「平和をもたらすという意味の、由緒正しい名前だよ。」

セドリックが微笑んで言った。

私は、そっと腕の中の赤ん坊を見つめた。

「やっと会えたわね、アルフレッドよ。」

小さな指がぎゅっと私の指を握る。

力強く息をしているアルフレッドが、どこか誇らしげにさえ見えた。

「ここから、アルフレッド・グレイバーン侯爵の人生が始まるんだな。」

セドリックは赤子の手を優しく包む。

「あなたの人生が、愛情に満ちていますように。」

私はそう祈りながら、息子の額にキスを落とした。


ー End -
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