アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚

日下奈緒

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第10話 週末婚再び!?

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「床に落ちたのかな。」

私はわざと、床に膝をついて探し始めた。

「今度は、何の資料?」

「一番上に置いておいた資料です。」

「ああ、円グラフが書いてある資料?」

私はその瞬間、内本さんの前に、立ちはだかった。


「何で、円グラフが書いてある資料だって、分かったんですか?」

「だって、さっきここの前を通った時、その資料が一番上に置いてあったから。」

「それ、本当ですか?」

内本さんが、渋い顔をした。

「どういう意味?」

「さっき、内本さんがここの前を通った時、一番上に置いておいたのは、この資料です。」

私は、別な資料を内本さんに、差し出した。

内本さんは、眉間にシワを寄せながら、資料を見つめる。


「じゃあ、どうして円グラフのある資料だと言ったのか、答えは内本さんがまた、このデスクに来た時に、一番上に置いてある資料が、それだったからですよね。」

内本さんの目が、大きく見開く。

「さあ、返して下さい。取った資料。」

でも内本さんは、強きだ。

「冗談は止めて。なぜ、私が資料を取らなければならないのよ。そんな事して困るのは、あなただけじゃなくて、私もなのよ?」

「そうやって、自分も困った振りをすれば、あたかも自分も被害者だって、誤魔化せますよね。」

「何言ってるの?言いがかりをつけるのも、止めて頂戴。」

内本さんは、大きく前に出た。

私も負けじと、大きく前に出る。


部長達にセクハラされる程、いい女だと思われているのは、内本さんだけじゃないんだから!

私も、セクハラされたんだから!

たった、一人のだけど……


「さっきから、いかにも私が犯人みたいに言っているけれど、証拠でもあるの?」

「証拠って、この部屋の中にいたのは、内本さんだけじゃないですか!」

「私は、ずっと仕事をしていました!」

「いいえ!立ち上がって、資料を持って行く場面、私が見ているんです!」

「トイレに行ってた人が、どうやって見るのよ!」

「それは……」

この場合、トイレは嘘で実は見張っていましたって言った方がいいのかな。

「まさか……トイレって言うのは、嘘……」

「うっ!」

怒りに満ちた内本さんが、メドゥーサに見える。


「はい。そこまで。」

突然私と内本さんの間に、五貴さんが入ってきた。

「内本君。こういう事は、やはりよくないよ。」

「五貴さん……」

そして五貴さんが後ろのデスクから、無くなった書類を取り出した。

「ああっ!どうして社長がそれを!」

内本さんは叫んだ後、口を塞いだ。

「俺も、給湯室に行く振りをして、陰から見ていたんだ。」

「しゃ、社長まで!」

内本さんは、すっかり項垂れていた。


「これで内本君を首にするとか、そう言う事は考えていない。ただ……つむぎに謝ってほしいんだ。」

「謝る!?この私が!?」

「驚く事じゃないだろう。悪い事をしたら謝る。社会人として、当たり前の事だ。」

内本さんは、クルッと振り返って私を見ると、体を震わせながら謝ってくれた。

「ご、ごめん……なさい……」

「やったぁ。」

あのプライドの高い内本さんを、謝らせた!

嬉しい!

私は心の中で、万歳をした。


「でも、どうしてこんな事を?」

私が聞くと、内本さんは再びメドゥーサの如く、目を血走らせた。

「あんたが、私の周りの男を次々と、モノにしていくからよ!」

「へっ……内本さんの、周りの男?」

「そうよ!社長だって、私と付き合っていた頃は、結婚の”け”の字もなかったのに、いとも簡単に結婚しちゃって!もっと許せないのは、次に狙っていた益城社長まで、虜にしちゃってさ!」

内本さんは、はぁはぁと息を切らしている。

「それは……私のせいじゃないのでは……」

「はっ!しらばっくれちゃって!」

そりゃあ、内本さんにしてみれば、こんな地味な女が、次々と男を振り向かせていく様は、見ていて面白くなかっただろうなぁ。

でも、私は何もしていない。

私のせいじゃない。

と、思いたい。


「こうなったら、次に狙った男は、絶対モノにして見せるわ。」

内本さんは、思いっきりやる気になっている。

「あの……」

「何よ。」

「頑張って下さい。」

「あのね!あなたに言われなくても、頑張るわよ!!」


怒りで暴れている内本さんを他所に、私は残りの一枚の資料を、五貴さんから受け取った。

「嫌な思いをさせたね。」

「ううん。五貴さんさんがいるから、大丈夫よ。」

私と五貴さんが見つめ合うと、また内本さんが鋭い目で、こちらを見た。

「そこ!仕事中に、イチャつかない!」

「はーい。」


暴れている内本さんも、傍から見ると可愛い。

こうして私には、平和が訪れた。


1か月後。

社長室に、五貴さんのお父様が、急に訪れた。

「珍しい。何かあった?」

「ん?ああ……」

するとお父様は、ちらっと内本さんを見た。

それを合図に、内本さんがスッと立ち上がって、お父様の隣に立つ。


「実はな、五貴。私達、付き合う事にしたんだ。」

「ええっ!」

「ゆくゆくは、結婚も考えている。」

「えええええ!!!!!」

五貴さんは、口を開けて放心状態だ。


「えっ?お父様って、独身だったんですか?」

私は素朴な疑問を、投げかけた。

「ああ。五貴の母親とは、死に別れていてね。それ以来、一人だったんだ。」

あまりの展開に、私も何て言ったらいいのか、分からない。

隣に立っている内本さんは、勝ち誇ったかのように、喜んでいる。

「なに!?」

「ははは。平日は玲亜と一緒にいたいからなぁ。」

内本さんとお父様は、頬を寄せ合って、イチャついている。


「と、言う事は……」

「俺達、また週末婚?……」

私と五貴さんは、ガクッと倒れそうになった。

「ああ。家族みんなが幸せって、いいもんだなぁ。」

「本当。そうですね。」

そう思っているのは、お父様と内本さんだけだよ。

誰だっけ?

仕事中にイチャつかない!って、私達の事、注意していたのは。


「こうなったら……」

五貴さんは、私の耳元でそっと囁いた。

「週末は、熱い夜を過ごそうな。」

思わずカァーッと、頬が赤くなってしまった。


そう言う話なら、週末婚も悪くないかなと思う、今日この頃だった。


ー End ー

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