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4 開幕
しおりを挟む授業開始の鐘の鳴ると同時に、中庭に見目麗しい二人の男女が入ってくる。
金髪碧眼の如何にもなメローニア王国のアラン王子と、物語の主人公、肩にマスコットっぽい鳥を乗せた不思議属性のルシアだ。
「ここが中庭だね。外廊下で校舎や練習場、いろいろな場所につながっているから、昼時になるとここで昼食をとる人が多いんだ。今は授業時間だから私たちだけだけど」
「わぁっ、すごい! こんなに大きな噴水があるなんて私のお城っ……じゃなくてお屋敷と同じぐらい大きい」
ルシアは少々物語の序盤だとお姫様感が隠しきれない。国が滅んでだいぶたっているのに、テンションが上がってポロリと口を滑らすことが多いのだ。
これで攻略対象たちが気がつかないのは一体なぜなのかというぐらい、プリンセスやってる。
肩に鳥も乗っているし、身振り手振りが大きくてそりゃあもうプリンセス。
彼女は中庭の中心の噴水まで走っていき、輝くような笑みを浮かべて、アランに言った。
「それに、こんな場所でランチを食べるなんてとっても素敵。私この場所とっても気に入った」
「……そうか。それはよかったよ。ここから続く校舎に入れば、それぞれ教室があって教師がいるから、迷子の君をきっと保護してくれると思う」
……とっても素敵! だって……可愛い。
純粋なルシアの様子をみて僕はついついそんな風に思ってしまう。
普通の女性とは違う動機でゲームをしていたよこしまな気持ちがあった僕だけれど、主人公の彼女の事が嫌いではない。
女の子は恋愛対象ではないけれど可愛いとは思うのだ。
そしてそんな愛らしい無邪気な子供のような彼女に、アラン様もまんざらではない様子で、心の底から優しげに微笑んで王子らしいキラキラとした雰囲気を纏っていた。
「というか、編入初日から遅刻となると少し怒られると思うけど……私と話し込んでいたと言ったら少しは教師も容赦してくれると思うよ」
「……?」
ルシアは噴水の周りのベンチになっている部分に座ってみて、肩の小鳥……名前はたしかコランと言う。乙女ゲームにありがちなポップなマスコットキャラクターだ。
そんなコランとここでランチを食べようと視線を交わしている彼女は、続けて言われたアラン様の言葉に視線をあげて首を傾げた。
「……それは……」
実はこの時はまだ、偶然出会っただけで彼がこの学園街の外にある大国メローニアの王族だとは知らないという設定なのだ。
だからこそ、そんな風にいったアラン様をルシアはとても不思議に思う。このあたりで普通は何かを察してもおかしくない。
しかし彼女は乙女ゲームの主人公。天然で毒気のない純然たる思考の持ち主だ。
「そんな、アランは私を助けてくれたのにあなたのせいになんてできないよ! 今回は私が余裕を持ってこられなかったのが悪い。怒られる覚悟はちゃんとできてるもの。
だからアランも怒られるのは怖くないから一緒に登校しよ? ね?」
ルシアは、アランが自分と同じように遅刻してしまった学生で、自分のせいにして遅れたと教師に言えばいいと言ったと考えた。
そして端から授業を受ける必要がない高貴な身分である彼に、怒られるのが怖いから登校しないのだと決めつけ、自分も一緒に行ってあげると妙な優しさを見せる。
本来メローニア王国の王子の名前も知らないなど、貴族であればありえない事なのだが、なにせ大陸の端の小国の姫で学園に入学する前は、国を滅ぼした魔の手から逃れるために引きこもりのような生活をしていた。
だからこその反応であり、普段の貴族たち、同じ年ごろの女性たちとはまったく違う反応をされて、アラン様は驚く。
驚いて、それから面白くなって相好を崩して珍しく声をあげて笑いだす。
「……っ、くははっ、なんだ君。本当に私が何者なのか知らないんだね。っ、それにしてもこの私に、怒られるのが怖いから、か」
「ええ? 私何か変なことを言っちゃった?」
「いいや、君はまったくもっておかしくない。……そうだね。私も久しぶりに授業に出て見ようかな」
アラン様は授業は免除されているが、出ることも可能だ。学園に籍を置いているのでまったくおかしなことではない。
しかし、王宮で最高の師に魔術を教えられ、王族特有の魔法もマスターしている彼には魔法学園の授業など必要ないだけだ。
けれどもそんなこととは露知らず、サボりのただの学生だと思っていたルシアは改心して授業に出るつもりになった彼に「うんっ」と笑みを浮かべて、さて、行こうかとコランに笑みを向けた。
コランは「ピッ」と小鳥のように鳴いて、彼らはそろって教室に向かった。
「っ、……ゔ、ゔゔ~」
そしてそれを見ていた僕は柱の陰でたまらず涙をこぼして呻いていた。
……うう~、尊い。二人とも可愛い、イケメン。いや、アラン様は怖い、怖いけど、姫さまかわいいぃ。
原作からまったく解釈違いなしである。この眼下に広がっている世界は、僕も行けたらと願っていたゲームの世界。
僕は今、ここにいる。と世界の中心になったような気分で叫びだしたくなった。
そして涙腺が決壊した。
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