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17 ニコラスの狙い
しおりを挟む「それにしても、ニコは最近俺の練習によく付き合ってるけど、授業の方は大丈夫なわけ?」
結局、怪我をした僕は練習場の準備室の中で、水の魔法道具と格闘していた。
色々な人間の魔力の残滓が残っているそれで体を治すと体の内側に見知らぬ人間の血液が注がれているみたいで気持ち悪い。
しかし、今のうちにグレンにどうにか、ルシアとの接点を作ってもらってルートに入ってもらいたいので彼に頼るわけにもいかない。
「……っ、うぇ~……気持ちわるいぃ」
「ニコ、俺の話聞いてる? 授業大丈夫なわけ? 俺たち騎士と違って魔法使いの称号はきちんと勉強して単位がないと試験に受からないよね。練習はアンタが言い出したことかもしれないけど、流石にそのせいでアンタの将来がつぶれたら俺だって寝覚めが悪いよ」
「…………」
「え、ちょっと何、聞こえてない?」
「……」
魔力を使いつつも僕は彼の言葉に耳が痛かった。
もちろん、大丈夫なわけがない。一年生なのにこんな風にサボりまくっていたら多分卒業できない。というか進級できない。
姉さまもアルカディア常用のせいでサボりも多い、三年生になれるかどうか怪しいが、それよりも僕らの人生よりも生き抜けるかどうかの方が急務であり、そのために必要なのはフィルの協力だ。
「まさか、騎士に転職するつもりとか? 言っておくけどニコ絶対才能ないよ……」
しかし何も言い返せずに黙っていると彼は、変な勘違いをして僕に憐れむような視線を向けた。
その勘違いはあまりに突飛でそれに、それだと僕が自分に才能があると感知がしている男みたいじゃないか、流石にスルーすることは出来なくて「わかってるし!」
と声を大にして、それから考えてあった言い訳を口にする。
「騎士に転職とかありえないから! まったく僕をそんな風に憐れんだりしないでよっ! それに、今はただ、フィルはどんな風かなって、気になってて、フィルがあんまり人と関わらないのは大体姉さまのせいだし……責任は僕にもある」
「ああ……そういう話……」
僕の言葉にフィルも納得して、少しため息交じりにソファーの肘掛けに手を置いて、考えるように僕を見た。
ちなみにこの場所は、練習場の準備室とはいったが体育館の準備室のように埃っぽくてかび臭い体育用具が置いてある場所ではない。
きちんと整備された剣が壁に掛けられて飾られ、カーペットが敷かれ、給仕の女の子もいるきちんと休憩できる場所だ。
いくつかに分かれて用具がしまってあり、別の部屋には練習用の木剣もあるが基本的には貴族たちはその部屋に入ったりしない。
多くの国家から学園に入学者がいるので国からの寄付金も、貴族の家それぞれの入学金にプラスした寄付金もあり、学園の設備は貴族用にとても充実している。
もちろん平民にもその学び舎の門は開かれているということになっているが、そもそも平民には魔力がないため滅多に平民枠の入学生はいないのが現状だ。
平民なのに魔法学園の入学者に選ばれちゃって~?! みたいな乙女ゲームだってあるのだろうが、このゲームはそういうのはきっかりしている方なのだ。
「……別に、あの人のせいだけにするつもりは俺はないよ。だって誰から見ても俺が舐められるような容姿をしているのは事実だし。そんなこと言うやつらには容赦しない方がいい、ってむしろ教えてくれたのかもね」
僕が姉さまの話題を出すと、フィルはすこし自虐的に笑いながらも、まだまだまったく許している様子ではなさそうだった。
……ひ、ひえ……やっぱり怒ってるよね。わかってましたケド。
「現に俺の容姿に対して何か言った人間には片っ端からそんなこと言えないように叩きのめしているから、不快な思いもしてないし?」
「……ご、ごめんなさい」
「いーや。俺はアンタに怒ってなんかいないんだよね。兄妹でも別人だろ? ただ、アンタが頑なに自分の姉を擁護して許してもらおうと立ち回ってるからちょっと練習試合に気合いが入り過ぎちゃうだけで」
「……」
恨みのこもった低い声でそういわれると、僕は返す言葉が見つからずに視線を彷徨わせた。
姉さまがやらかしたのは、フィルに対する執拗な容姿いじりだ。
フィルはもともと滅んでしまったかの国、フィアノーガ王国の貴族だった。
フィアノーガ王国の騎士の家系なので、護衛対象であるルシア姫のことも知っているし、滅んだときに両親を失い、メローニア王国にいた親戚筋に引き取られた。
そして亡国からやってきた半端物の貴族としてフィルの事を姉さまは執拗に色々なことで詰ったり、最終的にこんな顔をしているのだから女の子みたいに弱いはずだと周りをたきつけて、小さな彼に暴行を加えた。
さらに、どうせ女の子なんだからドレスを着ろとせまったり、色々とやらかした。
そしてフィルはその経験をばねに剣術の稽古に励み、最年少で騎士の称号を得るまでになった。
しかし、そうだとしても幼いころの嫌な記憶は変わることはない。
フィルは学園生活を送るうえで少しでも自分の容姿を褒めた相手にその場で襲い掛かり、自分の強さを証明することで心の平穏を保っている。
けれどもそれは原作の話であり、今は決闘を申し込むぐらいで済んでいる。
多分僕の功績だと思うのだ。
姉さまが彼を弄るたびに、出向いていっては彼を男らしいとほめちぎり、こんなに女っぽい男の子なんているはずがないと周りに言えば、僕がそうです女装してと間に入った。
もちろん姉さまはぶちギレていたが、他の人間は次第にフィルを弄るのをやめていった。
しかし、それでもフィルは最年少騎士で騎士の称号を持っているし、多分嫌な思いなどしてそれをばねになんかしなくても、もともと剣術の才能があったのだろうと思う。
そして僕は彼とは、男らしさを教えてもらうという名目で、あまりの強さと美しさで周りに人が寄り付かない彼の練習相手に収まっている。
フィルと僕の実力差を考えると、練習になっているかどうかも怪しいが、一人よりはマシらしく、多分僕はめきめき強くなっていってると思うのだ。
「……それにしても、アンタはいくら俺の相手してても太刀筋も変わらないし、正直どんくさいからちょっと心配もあるかな」
「心配?」
「そう。だってほら、最近色々と物騒だからね。フィアノーガを破滅に追い込んだ魔薬が色々なところで流通しているらしいし、力はあるに越したことない」
「……それは、もちろん」
「ま、アンタがやる気ある限りは、鍛えてあげるよ。明日も今日と同じ時間でいいの?」
「うんっ」
そういう結論に落ち着いたらしくフィルは、頭を切り替えて、僕に問いかけてきた。
僕はそれに安堵しつつ、頷いた。
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