悪役令嬢の弟転生 ~断罪回避の為に”なんでも”してたら、攻略対象が愛を告げてきた~

ぽんぽこ狸

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31 正論 その一

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 事情を話しながらグレンとは長い付き合いなのに、自分と姉さまの事を深く話をしたことはなかったなと思う。

 というか、まぁ人に相談するようなことでもないし、もともと自分の家族の失態なんて貴族同士では絶対にしない話題だ。

 弱みを握られていい事なんか一つもない、それに僕とグレンの関係は罪滅ぼし、僕がグレンに危害を加えた姉さまの相談をするのなんてお門違いである。

 けれども僕の話をグレンは真剣に聞いてそれから「なるほどね」と呟くように言う。

 姉さまを見捨てるつもりなんかない事も一人で助かっても意味がないと思っていることも否定せずに一度考えてくれて、グレンが怒られなかったことに少し安心する。

「……一応聞いておくけど、あなたはそれでアラン王子殿下の話にはなんて答えるつもりなの?」
「一人だけで助かるつもりはないって、それは僕にとって解決になってないし……今更、責任を放棄したくない」
「うん。責任……か」

 呟くように言ってグレンはまたしばらく逡巡する。

 姉さまの事は僕がどうにかするしかない。

 もちろん誰にも迷惑をかけないようにするし、手遅れならば仕方がない。

「それに僕しかいないんだ。姉さまには。

 それに、僕にも……姉さましかいない。二人きりでどこか遠くに逃げるでもなんでもいい、背負う覚悟はもうとっくの昔にできてるし、僕らはずっと一蓮托生だったから」

 考えていた言葉をそのまま吐き出す。

 それに、今までそれなりにアラン様には尽くしてきた。何か逃げ出す以外のいい方法を教えてくれるかもしれない。

 僕の事を助けてくれるつもりはあるみたいだったから、少しの手助けぐらいはしてくれるだろう。

 そう思えば、その案も悪くはないと思う。

「……それを、俺は否定することはできない。でもニコ、誤解しないで聞いてほしい」

 方法について考えを巡らせていると、話をすべて聞き終わってからグレンはとても慎重に切り出した。

 その言葉に、彼が何を言おうとしているのか少し察してしまって身構えた。

「うん」
「俺は、今、あなたが自分の多くのものを投げうって、その身一つになってもメロディ様だけは助けようとしているというか……そんな風に見える」

 ……身一つ。

「例えば立場、それから友人、信頼をおいている人、自分の家、それ以外にもあるたくさんのつながり。国もそうだね」
「……」
「今のあなたが彼女を助けるために失うものは、あなたにとってとても大きいはずだ。

 メロディ様を連れて逃げ出して、あなたにはメロディ様以外が残らない。そんな風に思う、間違っているかな」

 ……それはそのとおり、間違ってない。何もなくなる。でも元から僕はこの世界の住人じゃないし僕だって姉さま以外大層な繋がりなんかない。

「……間違ってない、ケド、それってそんなに悪い事……そりゃ僕だって維持できるならそうしたい。でも無理そうだからそれしかないって言ってるだけ」
「ニコラス、知ってる。でもほかに手段がなかったとしても俺は悪い事だと思う」
「そんな、こと……」

 反論したい気持ちになるのに、まっとうな反論が思い浮かぶことはなく、言葉に詰まって「じゃあ、見捨てろって君も言いたいんだっ」と子供みたいに返す。

 それにグレンはすぐに鋭く言った。

「違う、そういう極端な結論をすぐに出すような話し方を俺はしたくない。ニコ、あのね、俺はただ、明確にするべきだと思っているだけ。

 あなたが彼女と心中を選ぶのは、間違いなく許容できない。

 では心中ではなく逃避行は? 駆け落ち、もしくはあなたがすべての責任を負って彼女を監禁ないしは軟禁してすべての面倒を見る。

 そのあたりがニコの中にある選択肢だろうけど、それは多くの可能性をつぶしてる。

 あなたは俺からすると、メロディ様に固執している。それは家族愛かもしれない、でもその愛からくるのだとしても今あげた行動は正しくない、それに愛は愛でも近づきすぎたら選択の余地が狭まる。

 あなたが彼女から離れることによる利益と損害の計算がその固執している感情によっておかしくなってるんじゃないかな」
「っ、しょうがないでしょ、あの人には僕しかいないんだからっ」

 グレンが言っていることは確かに正しい、間違っていない。はたから見たら間違いなく僕がおかしい、合理的じゃない。わかってるそれでも譲れないから困ってるんだ。

 僕の答えにグレンは冷静に言った。

「それは、ニコラスが”神使”で、使命を背負っているから? ニコラスは彼女から離れたら消えてなくなってしまう?」

 不意に、彼の口から出てくるはずのない言葉が出てきて、僕は目を見開いて、頭が真っ白になった。

 何で知っているのか、どこで知ったのか、誰から話を聞いたのか、グレンは一切そんな話を今までしなかった。

「……」

 彼を見てその言葉の真意を測ろうと穴が開くほど見つめた。

「ニコラスは知らないみたいだったけれど俺はずっと前から知ってた。そしてそれはきっとメロディ様に関することなんだろうなとも思ってた」
「そ、んなの。使命とか……それもあるかもしれない、ケド、僕はただ……」
「俺は正しくあなたの事情を全部知ることができた? あなたは神使で何かしらかの使命を背負っている、あなたは彼女が救われることを望んでいて、あなた達はお互いが大事だけどこのままでは、破滅を逃れられない」

 静かに話を進めるグレンの言うことは正しい、たしかに彼が言っていることは僕の抱えている事情のすべてでおおむね間違っていない事だ。

「ねぇ、ニコラス、使命がどんなものだとしても、あなたがたとえ神が作ったものだとしても、あなたはあなたで、彼女は彼女、別人だよ」
「……」
「あなたの全部をなげうって助けて、あなたにすべてを預ける形で助けられて、ニコラスとメロディ様は……幸せになれる?

 二人とも、笑える日はいつか来る?

 そう思えないのに、必死にお互いに縋りついて、身動きが取れないまま今から逃げ出したって次から次に追い詰められるだけ。

 それでも手を離せない関係今の君たちの関係は、何か使命があるのだとして超次元的なことが絡んでいたとしても、ただの共依存だと俺は思う」
「っ……」
「間違っていて、何か俺が考慮できていない事実があるなら言って欲しい、事情があるならどんなに複雑でも聞くし、そのうえで話をしたいんだ。ニコラス……これでも真剣だから」

 じっと僕を見てそういう彼の瞳は、言葉の通り真剣で、反論なんかない。

 それ以上の事情なんかない。

 彼が言ったことで全部だ。

 僕は盲目的になりすぎてる、姉さまと距離を置くことを拒絶している。

 べったり寄り添って母子のように一心同体みたいに思いたくてそばにいる。

 それがもうすぐ大人になる僕らに取って正しくない関係で、状況を悪化させている……のだとしても、それでもグレンは一つ見落としていることがある。

 でもそれを言ったら彼との関係が終わってしまうかもしれない。

 グレンに悪意があってこんなことを言っているわけではないのを知っているのに、次に言葉を発したら言ってはいけない事を言ってしまいそうで、咄嗟に口元を覆って目線を話した。

「ニコ、目を逸らさないで、なんでも言って俺は、あなたに自分を犠牲にメロディ様を助けるのはやめてほしい」

 不意に手を取られて、身を引こうとしても逃がしてくれそうもない。

 ……嫌われたくないのに。

 思っていた言葉はついに口からこぼれ出て、視界がにじんでグレンの顔がよく見えない。

「っ、でもそんなきれいごと言ったって! じゃあそんなこと言うグレンは僕にとってなんなわけ! グレンにとっての僕って何?! 依存だろうと何だろうと、ほかに方法がない事は否定しないで間違ってるっていうだけなのは無責任だと思わない?!」

 間違っているなんてわかっている。姉さまと僕はもはや相性が悪いまであると思う。そのぐらい行き詰っているし難しいし、でも見捨てられないんだ。
 
 僕にとって彼女は唯一で、ほかの誰かに比べられない代えがたい人だ。

 それを身をなげうって助けること、それ以外の人が悪い事だからって止めるのはおかしいんじゃないの?

「僕らって友達だよ多分! だからこんな風になってたらそりゃ冷静になれっていうよねッ、でも冷静になったところでじゃあグレンは僕にとって姉さま以上に代えがたい特別な人になってくれんの?

 僕の事をそれ以上に必要としてくれんのッ? 重いでしょ、そんな風に思ってくれる人がいるなら、殴ってでも止めたいだろうし、僕だってそうする。だったら僕だってそりゃ考えるよ、駄目だなって認めるよ!
 
 でもいないじゃん、僕って結局、姉さまの責任を背負うためにしか行動してなかったし。

 なんかよくわからんけど神使だし、何できてんのかもわかんないけど、この世界に居場所ないよ! 姉さまの横にしか、自分がいてじっくり来る場所がないよ!

 どんなに傷つけられても駄目な人でも、僕の居場所だし、僕の唯一だよッ。共依存だとしても、ほかに依存できるほどのものがないから仕方ないでしょ」

 今日はなんだかよく叫ぶ日だ。情緒が落ち着かない。頭の中がガンガンして視界の歪みがひどくなってゆらゆら揺れる。

 涙はぽたぽた零れ落ちた。




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