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社長は淡々とした声で、まるで業務連絡のように話した。
しかし、本当はひどく傷ついていることは、目を見れば明らかだった。
本当に寂しそうで、悲しそうで、翔は無意識に涙を流していた。
社長にハンカチを差し出され、初めて泣いていることに気づく。ありがたく受け取り、両目に押し当てた。
「こんな話に泣いてくれるなんて、翔くんは本当に優しい子だね」
翔は首を左右に振る。優しくなんてない。優しいのは、息子さんの気持ちを汲んで寂しさに耐えている社長の方だ。
大切な息子さんが、好きだった奥さんから虐待を受けていて、それを全く知らずにいたなんて、どれほどの絶望だっただろう。
しかも、気付いた時にはどうにもならないところまで来ていたのだ。翔なら立ち直れない。
もっと早く気づけたら、今頃息子さんと楽しく仕事ができたかもしれないのに。離婚せずに済んだかもしれないのに。
救いがあるとすれば、息子さんと再会できたことだろうか。だが、その息子さんからは父親扱いされずにいる。
どんな思いだっただろう。数年間行方がわからなかった息子さんと再会して、「はじめまして」と言われる気持ちは。
自分なら耐えられないと思った。翔には息子はいないが、大切な人に大切だと言えないなんて、苦しいという言葉では表しきれないほどの痛みだろう。
「仲直り、できないんですか……?」
翔がそう言うと、社長は寂しそうに笑った。
「したいとは思っているよ。だけど、今更何と言えばいいと思う?謝って済む段階はとうに過ぎてしまった。許されることではないんだよ」
社長の言葉に、翔はぐっと唇を噛む。確かに、息子さんの気持ちを考えれば、謝って許してもらおうなんて考えが甘いと思う。
けれど、社長が悪いわけではないのに。こんなにも、息子さんのことを思っているのに。
報われないなんて、あまりにも悲しすぎるではないか。
「気づかなくても、無理はないじゃないですか。みんなで隠していたんでしょう?お嫁さんも、娘さんも、息子さんも、社長に悟られないように動いていたんじゃないですか。社長は悪くないじゃないですか」
翔の訴えに、社長はゆっくりと首を横に振った。
「そうかもしれない。でも、私がもっと子どもたちをよく見ていれば気づけたはずなんだよ。妻は私の前では仮面を被っていたし、息子もポーカーフェイスが得意だけど、桃花と柚葉はそうじゃない。きっと、何度も不安な顔をしていたと思う。
私が無頓着だったから気づけなかっただけだよ。息子だって、助けを求めるサインを送っていたかもしれないのに」
そう言われたら、翔は反論できなかった。
実際に現場を見たわけではない以上、翔は想像でしかものを言えない。社長を納得させるような、安心させるような言葉は、もうこれ以上は出てこなかった。
結局翔は何も言ないまま、社長に促されて就寝した。
布団に潜っても、尚同じことを考え続ける。
本当に、もうどうにもならないのだろうか。
お節介とは知りつつ、社長と息子さんが仲直りできることを祈りながら眠った。
しかし、本当はひどく傷ついていることは、目を見れば明らかだった。
本当に寂しそうで、悲しそうで、翔は無意識に涙を流していた。
社長にハンカチを差し出され、初めて泣いていることに気づく。ありがたく受け取り、両目に押し当てた。
「こんな話に泣いてくれるなんて、翔くんは本当に優しい子だね」
翔は首を左右に振る。優しくなんてない。優しいのは、息子さんの気持ちを汲んで寂しさに耐えている社長の方だ。
大切な息子さんが、好きだった奥さんから虐待を受けていて、それを全く知らずにいたなんて、どれほどの絶望だっただろう。
しかも、気付いた時にはどうにもならないところまで来ていたのだ。翔なら立ち直れない。
もっと早く気づけたら、今頃息子さんと楽しく仕事ができたかもしれないのに。離婚せずに済んだかもしれないのに。
救いがあるとすれば、息子さんと再会できたことだろうか。だが、その息子さんからは父親扱いされずにいる。
どんな思いだっただろう。数年間行方がわからなかった息子さんと再会して、「はじめまして」と言われる気持ちは。
自分なら耐えられないと思った。翔には息子はいないが、大切な人に大切だと言えないなんて、苦しいという言葉では表しきれないほどの痛みだろう。
「仲直り、できないんですか……?」
翔がそう言うと、社長は寂しそうに笑った。
「したいとは思っているよ。だけど、今更何と言えばいいと思う?謝って済む段階はとうに過ぎてしまった。許されることではないんだよ」
社長の言葉に、翔はぐっと唇を噛む。確かに、息子さんの気持ちを考えれば、謝って許してもらおうなんて考えが甘いと思う。
けれど、社長が悪いわけではないのに。こんなにも、息子さんのことを思っているのに。
報われないなんて、あまりにも悲しすぎるではないか。
「気づかなくても、無理はないじゃないですか。みんなで隠していたんでしょう?お嫁さんも、娘さんも、息子さんも、社長に悟られないように動いていたんじゃないですか。社長は悪くないじゃないですか」
翔の訴えに、社長はゆっくりと首を横に振った。
「そうかもしれない。でも、私がもっと子どもたちをよく見ていれば気づけたはずなんだよ。妻は私の前では仮面を被っていたし、息子もポーカーフェイスが得意だけど、桃花と柚葉はそうじゃない。きっと、何度も不安な顔をしていたと思う。
私が無頓着だったから気づけなかっただけだよ。息子だって、助けを求めるサインを送っていたかもしれないのに」
そう言われたら、翔は反論できなかった。
実際に現場を見たわけではない以上、翔は想像でしかものを言えない。社長を納得させるような、安心させるような言葉は、もうこれ以上は出てこなかった。
結局翔は何も言ないまま、社長に促されて就寝した。
布団に潜っても、尚同じことを考え続ける。
本当に、もうどうにもならないのだろうか。
お節介とは知りつつ、社長と息子さんが仲直りできることを祈りながら眠った。
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