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心地よい朝の日差しに、ゆっくりと目を開ける。
ふわふわとした布団の感触に、再び目を閉じてしまいたくなる。だが、自室とは明らかに違う風景に気づき、一気に頭が覚醒した。
驚いて飛び起き、辺りを見渡す。無駄なものが一切ない整頓された部屋は見覚えがある。
徐々に、昨日の記憶を思い出す。翔の歓迎会を兼ねた新年会をしていて、飲みすぎて、多分そのまま寝てしまったのだ。
翔がここで眠っていたということは、家の持ち主である恭哉さんは違うところで眠ったのだろうか。見渡すが、彼が眠っている姿は見当たらず、布団らしきものも見当たらない。
ふと、部屋の向こう側から物音がする。食器がぶつかるような音から察するに、恭哉さんが朝食の準備でもしているのだろうか。
翔は布団から出て、部屋の扉をそっと開けた。そこには思った通り、マグカップにお湯を注ぐ恭哉さんがいた。
恭哉さんは翔に気づくと、爽やかな微笑みを向けた。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「おはようございます……。すみません、寝落ちしてしまって……しかも布団を占領してしまって……」
申し訳なさすぎて、顔が上げられない。しかし恭哉さんは気にした様子はなく、フライパンの火を止める。
「ちょうど朝ごはんができたので、一緒に食べましょう。飲み物はコーヒーでいいですか?」
「あ……はい」
インスタントコーヒーと、恭哉さんの分であろうココアを運ぶ。恭哉さんは確か昨日も甘いチューハイとカクテルを飲んでいたが、甘いものが好きなのだろうか。
恭哉さんがフライパンで焼いていたものを皿に乗せ、運んでくる。美味しそうなフレンチトーストで、恭哉さんの方にはホイップクリームが乗っていた。
甘いものに甘いものを乗せる。しかも甘いココアを飲みながら。凄い組み合わせだ。
「甘いもの好きなんですか?」
翔がそう聞けば、恭哉さんは自嘲気味に笑った。
「甘党なんです。見た目と合わないので、外では隠してるんですけど」
確かに、恭哉さんのイメージはどちらかと言えばブラックコーヒーな気がするが、そういう人が甘いものを食べる姿は逆にうけるのではないかとも思う。
二人で「いただきます」と声を揃え、フレンチトーストを口に運ぶ。普通より少々砂糖が多い気はするが、これも嫌いではない。
翔はコーヒーで甘みがリセットされるが、ここに更にホイップクリームを乗せ、甘いココアを飲むのだから、恭哉さんの甘党は相当なものなのだろう。翔なら胸やけする。
完璧な人だとばかり思っていたが、こういう可愛らしい一面もあるのだと思うと、何だか微笑ましく思った。
「何笑ってるんですか?」
恭哉さんにそう聞かれ、答えに困って固まってしまう。まさか可愛らしく思っていたなどと言えるわけがない。
「いや、その……のどかな朝だなぁと……」
などと適当な返しをしたとき、ふと恭哉さんを見て気になった。
「恭哉さん、家でもコンタクトしてるんですか?」
仕事の時にキャラ付けでカラーコンタクトレンズをつけているのかと思ったが、今日は仕事の予定は入っていない。そういえば昨日もつけていた。
翔の問いに、恭哉さんの表情が陰る。
「……嫌いなんですよ。自分の目の色」
良くないことを聞いてしまったと思い咄嗟に謝ったが、恭哉さんはすぐに、何事もなかったかのように笑顔に戻った。
それ以上、その話はしなかった。誰だって聞かれたくないことの一つや二つあるものだ。
朝食の食器洗いは翔がやった。寝落ちしてベッドを占領して、挙句朝食まで用意してもらったのだから、このくらいはしないと気が済まない。
その後、新曲のPV撮影の話になった。こんな真冬だが夜の海で撮影したいという話になり、ちょうど来週三日間くらい空いている日があるから、急ではあるがそこで撮ることになった。
潮風があるから楽器の扱いは気をつけなきゃいけないし、体調管理も徹底しなければいけない。
あまり日にちがなく、ホテルや撮影スタッフの手配を早くしなければならないので、翔はその場で電話をかけた。急な話でも、意外と何とかなりそうで安心する。
ふと恭哉さんをみると、なぜかおかしそうに笑っていた。
「どうしました?」
「いや……。結局休日になってないなと思って」
確かに、今日は仕事ではなかった。テレビ局にいた頃なら、どうして休日にこんなことと思っていたかもしれない。
意外と、自分が思っているより、自分はこの仕事が好きなのかもしれない。
何だか嬉しくなって、無意識に笑みがこぼれた。
ふわふわとした布団の感触に、再び目を閉じてしまいたくなる。だが、自室とは明らかに違う風景に気づき、一気に頭が覚醒した。
驚いて飛び起き、辺りを見渡す。無駄なものが一切ない整頓された部屋は見覚えがある。
徐々に、昨日の記憶を思い出す。翔の歓迎会を兼ねた新年会をしていて、飲みすぎて、多分そのまま寝てしまったのだ。
翔がここで眠っていたということは、家の持ち主である恭哉さんは違うところで眠ったのだろうか。見渡すが、彼が眠っている姿は見当たらず、布団らしきものも見当たらない。
ふと、部屋の向こう側から物音がする。食器がぶつかるような音から察するに、恭哉さんが朝食の準備でもしているのだろうか。
翔は布団から出て、部屋の扉をそっと開けた。そこには思った通り、マグカップにお湯を注ぐ恭哉さんがいた。
恭哉さんは翔に気づくと、爽やかな微笑みを向けた。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「おはようございます……。すみません、寝落ちしてしまって……しかも布団を占領してしまって……」
申し訳なさすぎて、顔が上げられない。しかし恭哉さんは気にした様子はなく、フライパンの火を止める。
「ちょうど朝ごはんができたので、一緒に食べましょう。飲み物はコーヒーでいいですか?」
「あ……はい」
インスタントコーヒーと、恭哉さんの分であろうココアを運ぶ。恭哉さんは確か昨日も甘いチューハイとカクテルを飲んでいたが、甘いものが好きなのだろうか。
恭哉さんがフライパンで焼いていたものを皿に乗せ、運んでくる。美味しそうなフレンチトーストで、恭哉さんの方にはホイップクリームが乗っていた。
甘いものに甘いものを乗せる。しかも甘いココアを飲みながら。凄い組み合わせだ。
「甘いもの好きなんですか?」
翔がそう聞けば、恭哉さんは自嘲気味に笑った。
「甘党なんです。見た目と合わないので、外では隠してるんですけど」
確かに、恭哉さんのイメージはどちらかと言えばブラックコーヒーな気がするが、そういう人が甘いものを食べる姿は逆にうけるのではないかとも思う。
二人で「いただきます」と声を揃え、フレンチトーストを口に運ぶ。普通より少々砂糖が多い気はするが、これも嫌いではない。
翔はコーヒーで甘みがリセットされるが、ここに更にホイップクリームを乗せ、甘いココアを飲むのだから、恭哉さんの甘党は相当なものなのだろう。翔なら胸やけする。
完璧な人だとばかり思っていたが、こういう可愛らしい一面もあるのだと思うと、何だか微笑ましく思った。
「何笑ってるんですか?」
恭哉さんにそう聞かれ、答えに困って固まってしまう。まさか可愛らしく思っていたなどと言えるわけがない。
「いや、その……のどかな朝だなぁと……」
などと適当な返しをしたとき、ふと恭哉さんを見て気になった。
「恭哉さん、家でもコンタクトしてるんですか?」
仕事の時にキャラ付けでカラーコンタクトレンズをつけているのかと思ったが、今日は仕事の予定は入っていない。そういえば昨日もつけていた。
翔の問いに、恭哉さんの表情が陰る。
「……嫌いなんですよ。自分の目の色」
良くないことを聞いてしまったと思い咄嗟に謝ったが、恭哉さんはすぐに、何事もなかったかのように笑顔に戻った。
それ以上、その話はしなかった。誰だって聞かれたくないことの一つや二つあるものだ。
朝食の食器洗いは翔がやった。寝落ちしてベッドを占領して、挙句朝食まで用意してもらったのだから、このくらいはしないと気が済まない。
その後、新曲のPV撮影の話になった。こんな真冬だが夜の海で撮影したいという話になり、ちょうど来週三日間くらい空いている日があるから、急ではあるがそこで撮ることになった。
潮風があるから楽器の扱いは気をつけなきゃいけないし、体調管理も徹底しなければいけない。
あまり日にちがなく、ホテルや撮影スタッフの手配を早くしなければならないので、翔はその場で電話をかけた。急な話でも、意外と何とかなりそうで安心する。
ふと恭哉さんをみると、なぜかおかしそうに笑っていた。
「どうしました?」
「いや……。結局休日になってないなと思って」
確かに、今日は仕事ではなかった。テレビ局にいた頃なら、どうして休日にこんなことと思っていたかもしれない。
意外と、自分が思っているより、自分はこの仕事が好きなのかもしれない。
何だか嬉しくなって、無意識に笑みがこぼれた。
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