勇者パーティーの賢者、女奴隷を買って無人島でスローライフする

黒須

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一章

第35話 奴隷が大泣きする程厳しくした

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 ココノは8歳。おっとりした大きな目で頬っぺはふっくらプニプニで丸いのに手足は細い。
 ココア色の細くてフワっとした天パを背中まで伸ばした垂れ耳兎の獣族だ。
 身長は120センチくらいでいつもボーっとしている。

「ココノ、家に帰りたいよな?」

「うん、早くおうちに帰りたいの。お母さんに会いたいの……」

 いつものようにボーっとしていて淡々と話すココノに俺は決意して言う。

「ココノ……! よかったら俺の娘にならないか!?」

「嫌なの。お母さんに会いたいの」

 速攻拒否られた……!一生面倒をみるつもりで、かなり覚悟して言ったのに……ッ!

 ココノの本当の両親は元低ランク冒険者だった。
 冒険者業で成果を出せず引退した後は母方の実家がある大魔帝国コルドルド領の山間の寒村に定住した。

 そして数年後、村は賊に襲撃される。

 当時まだ1歳半だったココノを守ろうと二人は冒険者時代の剣を取り命を落とした。
 賊はドクバックの手の者で人攫いが目的だった。

 捕まった村民は奴隷紋を貼られ、大人は直ぐに売りに出される。
 ココノのように幼い子供は賊が運営する施設に預けられ、商品になる年齢まで育ててから売りに出す。

 つまり、ココノが育った家は賊の施設、育ての母親は本当の両親を殺した賊の一味だったのだ。

 だがその事実を8歳の子供に伝えることはできない。一生トラウマになるほど深く傷付ける可能性が高いからだ。

「やはり、ココノを家に帰すことはできない。もう少し大きくなるまでここで俺と暮らしてもらう」

 そう言うとボーっとした大きな瞳がみるみる濡れて……、ポロっと涙が一つ溢れた。

 ココノは手で目を拭いながら大声をあげる。

「うっ、ふあぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!」

 涙が洪水のように溢れている。

「ココノ……」

「あ゛ぁあ゛あ゛……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!うぞ…づぎぃいいぃ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!」

 あっちゃー……やっぱこうなるよね……ッッ!!

 こうなることも想定していた。
 ココノはお母さんに会うのを凄く楽しみにしていたのだと思う。だから泣くなとは言わない。

 ただ……、今一時泣かれても、この子の今後一生を思うなら、ここで保護した方がいいに決まっている!

 それには先ず、俺がこの子から信用されなきゃいけない。

 こうなったら持久戦だ!
 泣き止むまで付き合うから覚悟しとけよココノ!
 




 大輪のバラが満開に咲き誇るバラ園の中を青髪のアズダール人、三人は歩く。

 先頭を歩くアストレナは11歳で身長は142センチ。青髪のボブヘアにあどけないロリフェイスのクール系美少女で幼いにも拘わらず聡明な顔をしている。

 アズダール王国、第三王女の彼女が安物のスニーカーと細いデニムパンツを穿き、上も同じく安物の白無地ロングTシャツを着ている。

 常に背筋を伸ばし姿勢が良いアストレナは眩しい太陽の下、バラに囲まれた石畳の細道をツカ…ツカ…とゆっくり歩く。サラサラの髪を小気味よく規則的に揺らしながら。
 その口元には薄っすら笑みを張り付けいる。

 三歩程空けた後ろを並んで歩く二人の少女はアストレナの侍女のヒルデビアとレモニカだ。
 彼女達もアストレナと同様にズボンとスニーカーというカジュアルな格好をしている。

 レモニカは13歳。身長は145センチでウェーブのかかった髪を肩まで伸ばし、背中を丸めていつも自信が無さそうな不安気な顔をしている。
 今も初めて来た場所に怯えながら辺りをキョロキョロ見ている。

 対照的に背筋を伸ばした美しい姿勢のヒルデビアは冷静な表情でレモニカの横を歩く。

 時折、辺りに視線を配り警戒する所作は冷静なスナイパーの様だ。

 彼女も13歳で身長は153センチ。目つきが悪く、髪は片目の隠れたショートヘア。

 ゴロウに奴隷紋を消してもらった三人は昨夜、自分達の部屋で今後の話をした。

 彼女達はいつも同じ話をしている。

 偽名を使い町娘の振りをして転々と旅をしながら野宿をした晩。
 敵に捕まって拷問を受け、数カ月後三人まとめて解放された日の夜。
 檻の中で奴隷として初めて迎えた夜。

 いつもいつも同じ話をした。
 アズダール王国の王位を簒奪する話を……。

「この服、軽くて生地が薄いのにしっかりしていて動きやすいですわね」

「ええ、ここまで伸びる生地は他にありません。ゴロウ様が元いた世界というのは余程文明が発達しているのでしょう」

「あ、あのっ、ふふふ布団という寝具も暖かくて、気持ち良くて、ととととても幸せでした!」

「ええ、そうですわね。それに食事もとても美味しくて……」

 アストレナは美しく咲くバラに手を伸ばす。

「ここはユートピアですわね」

「ええ、そうですね」

「わわわわたしも、そう思います!」

 この場所が素晴らしいとわかっていても三人はここに残りたいとは微塵も思っていない。

 三人には絶対に曲げられない強いこころざしがある。そして同じ志を抱いているといことを確信し合っている。

「先程ゴロウ様が仰っていた施設案内が終わり、ここでやることが見えてきたら、ゴロウ様に事情を話しましょう」

「「 はい 」」

 と、その時、少し先に白いワンピースを着た少女が見えた。

 太陽が苦手だという彼女にゴロウが渡した麦わら帽子を被っている。

 雪のように白い肌、透き通った桜色の髪、水色の瞳の少女ラウラ。
 彼女の歳は10歳で身長は137センチ。

「ラウラさん、お一人ですか?」

「うん。そうだよ」

「もし良ろしければ、わたくし達と一緒にお花を見て回りませんか?」

「ボク、一人でいるのが好きだから……、誘ってくれてありがとう。えへへへ」

 ラウラの屈託のない穏やかな笑顔にアストレナも笑みを浮かべる。ポーカーフェイスな微笑みを。

「ラウラさんは未来が見えるのですよね?」

「うん。でも、魔力制御が下手でちゃんとは見れないけどね……」

「それでも、羨ましいです。わたくしも自分の未来を見てみたい……」

 アストレナの媚びるような視線や言い回しには打算がある。
 何となくそれを察したラウラは、わかっているよ、と言わんばかりに答える。

「うん……、ゴロウに魔法を教えてもらって、上手に見れるようになったら、ボクが見てあげるからね」

「本当ですか!?」

「もちろん♪」

「ラウラさん、やっぱり一緒に参りましょう。4人で回るのも楽しいですよ?」

「うーん、じゃあそうしよかな。ここのお花綺麗だよね。アストレナはどの色が好き?」

「わたくしはピンクが気に入りましたわ!可憐で儚くてとても美しいです」

「ボクは白かな!ヒルデビアとレモニカは?」

「私は黒や紫が好きです」
「わわわたしは、黄色ですぅ!」

「皆違うね。おもしろーい♪」

「ふふふ、そうですわね」

 アストレナは未来が見えるラウラをワンチャン仲間に引込みたいと思っているのかもしれない。




 あれから1時間経った。
 ココノはまだメソメソ泣いている

「ココノ……ジュース飲むか……?」

「いらないの!えっく、うっ……ずっ、うそつきなの……しんようできないの……うっぅぅ」

「ぐぬっ……」

 これはまだまだ時間が掛かりそうだ……ッ!
 でも……絶対に諦めない。
 俺が諦めたらこの子に待っているのは親に売られる悲惨な未来だから。



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