35 / 97
一章
第35話 奴隷が大泣きする程厳しくした
しおりを挟むココノは8歳。おっとりした大きな目で頬っぺはふっくらプニプニで丸いのに手足は細い。
ココア色の細くてフワっとした天パを背中まで伸ばした垂れ耳兎の獣族だ。
身長は120センチくらいでいつもボーっとしている。
「ココノ、家に帰りたいよな?」
「うん、早くおうちに帰りたいの。お母さんに会いたいの……」
いつものようにボーっとしていて淡々と話すココノに俺は決意して言う。
「ココノ……! よかったら俺の娘にならないか!?」
「嫌なの。お母さんに会いたいの」
速攻拒否られた……!一生面倒をみるつもりで、かなり覚悟して言ったのに……ッ!
ココノの本当の両親は元低ランク冒険者だった。
冒険者業で成果を出せず引退した後は母方の実家がある大魔帝国コルドルド領の山間の寒村に定住した。
そして数年後、村は賊に襲撃される。
当時まだ1歳半だったココノを守ろうと二人は冒険者時代の剣を取り命を落とした。
賊はドクバックの手の者で人攫いが目的だった。
捕まった村民は奴隷紋を貼られ、大人は直ぐに売りに出される。
ココノのように幼い子供は賊が運営する施設に預けられ、商品になる年齢まで育ててから売りに出す。
つまり、ココノが育った家は賊の施設、育ての母親は本当の両親を殺した賊の一味だったのだ。
だがその事実を8歳の子供に伝えることはできない。一生トラウマになるほど深く傷付ける可能性が高いからだ。
「やはり、ココノを家に帰すことはできない。もう少し大きくなるまでここで俺と暮らしてもらう」
そう言うとボーっとした大きな瞳がみるみる濡れて……、ポロっと涙が一つ溢れた。
ココノは手で目を拭いながら大声をあげる。
「うっ、ふあぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!」
涙が洪水のように溢れている。
「ココノ……」
「あ゛ぁあ゛あ゛……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!うぞ…づぎぃいいぃ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!」
あっちゃー……やっぱこうなるよね……ッッ!!
こうなることも想定していた。
ココノはお母さんに会うのを凄く楽しみにしていたのだと思う。だから泣くなとは言わない。
ただ……、今一時泣かれても、この子の今後一生を思うなら、ここで保護した方がいいに決まっている!
それには先ず、俺がこの子から信用されなきゃいけない。
こうなったら持久戦だ!
泣き止むまで付き合うから覚悟しとけよココノ!
◆
大輪のバラが満開に咲き誇るバラ園の中を青髪のアズダール人、三人は歩く。
先頭を歩くアストレナは11歳で身長は142センチ。青髪のボブヘアにあどけないロリフェイスのクール系美少女で幼いにも拘わらず聡明な顔をしている。
アズダール王国、第三王女の彼女が安物のスニーカーと細いデニムパンツを穿き、上も同じく安物の白無地ロングTシャツを着ている。
常に背筋を伸ばし姿勢が良いアストレナは眩しい太陽の下、バラに囲まれた石畳の細道をツカ…ツカ…とゆっくり歩く。サラサラの髪を小気味よく規則的に揺らしながら。
その口元には薄っすら笑みを張り付けいる。
三歩程空けた後ろを並んで歩く二人の少女はアストレナの侍女のヒルデビアとレモニカだ。
彼女達もアストレナと同様にズボンとスニーカーというカジュアルな格好をしている。
レモニカは13歳。身長は145センチでウェーブのかかった髪を肩まで伸ばし、背中を丸めていつも自信が無さそうな不安気な顔をしている。
今も初めて来た場所に怯えながら辺りをキョロキョロ見ている。
対照的に背筋を伸ばした美しい姿勢のヒルデビアは冷静な表情でレモニカの横を歩く。
時折、辺りに視線を配り警戒する所作は冷静なスナイパーの様だ。
彼女も13歳で身長は153センチ。目つきが悪く、髪は片目の隠れたショートヘア。
ゴロウに奴隷紋を消してもらった三人は昨夜、自分達の部屋で今後の話をした。
彼女達はいつも同じ話をしている。
偽名を使い町娘の振りをして転々と旅をしながら野宿をした晩。
敵に捕まって拷問を受け、数カ月後三人まとめて解放された日の夜。
檻の中で奴隷として初めて迎えた夜。
いつもいつも同じ話をした。
アズダール王国の王位を簒奪する話を……。
「この服、軽くて生地が薄いのにしっかりしていて動きやすいですわね」
「ええ、ここまで伸びる生地は他にありません。ゴロウ様が元いた世界というのは余程文明が発達しているのでしょう」
「あ、あのっ、ふふふ布団という寝具も暖かくて、気持ち良くて、ととととても幸せでした!」
「ええ、そうですわね。それに食事もとても美味しくて……」
アストレナは美しく咲くバラに手を伸ばす。
「ここはユートピアですわね」
「ええ、そうですね」
「わわわわたしも、そう思います!」
この場所が素晴らしいとわかっていても三人はここに残りたいとは微塵も思っていない。
三人には絶対に曲げられない強い志がある。そして同じ志を抱いているといことを確信し合っている。
「先程ゴロウ様が仰っていた施設案内が終わり、ここでやることが見えてきたら、ゴロウ様に事情を話しましょう」
「「 はい 」」
と、その時、少し先に白いワンピースを着た少女が見えた。
太陽が苦手だという彼女にゴロウが渡した麦わら帽子を被っている。
雪のように白い肌、透き通った桜色の髪、水色の瞳の少女ラウラ。
彼女の歳は10歳で身長は137センチ。
「ラウラさん、お一人ですか?」
「うん。そうだよ」
「もし良ろしければ、わたくし達と一緒にお花を見て回りませんか?」
「ボク、一人でいるのが好きだから……、誘ってくれてありがとう。えへへへ」
ラウラの屈託のない穏やかな笑顔にアストレナも笑みを浮かべる。ポーカーフェイスな微笑みを。
「ラウラさんは未来が見えるのですよね?」
「うん。でも、魔力制御が下手でちゃんとは見れないけどね……」
「それでも、羨ましいです。わたくしも自分の未来を見てみたい……」
アストレナの媚びるような視線や言い回しには打算がある。
何となくそれを察したラウラは、わかっているよ、と言わんばかりに答える。
「うん……、ゴロウに魔法を教えてもらって、上手に見れるようになったら、ボクが見てあげるからね」
「本当ですか!?」
「もちろん♪」
「ラウラさん、やっぱり一緒に参りましょう。4人で回るのも楽しいですよ?」
「うーん、じゃあそうしよかな。ここのお花綺麗だよね。アストレナはどの色が好き?」
「わたくしはピンクが気に入りましたわ!可憐で儚くてとても美しいです」
「ボクは白かな!ヒルデビアとレモニカは?」
「私は黒や紫が好きです」
「わわわたしは、黄色ですぅ!」
「皆違うね。おもしろーい♪」
「ふふふ、そうですわね」
アストレナは未来が見えるラウラをワンチャン仲間に引込みたいと思っているのかもしれない。
◆
あれから1時間経った。
ココノはまだメソメソ泣いている
「ココノ……ジュース飲むか……?」
「いらないの!えっく、うっ……ずっ、うそつきなの……しんようできないの……うっぅぅ」
「ぐぬっ……」
これはまだまだ時間が掛かりそうだ……ッ!
でも……絶対に諦めない。
俺が諦めたらこの子に待っているのは親に売られる悲惨な未来だから。
17
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる