勇者パーティーの賢者、女奴隷を買って無人島でスローライフする

黒須

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二章

第62話 奴隷に剣術を教える

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「ヒオリ、お前はどうして剣で世界一になりたいんだ?」

 うちの子供達が各自学習を始めた初日、俺はヒオリにそう尋ねた。
 すると彼女は真剣な顔で即答する。

「ホムラ家の名誉の為です。それと自分の誇り……ですかな」

 ヒオリは戦争孤児で親兄弟、親戚はもうこの世にいない。

「詳しく聞かせてくれないか?」

「酒造ホムラ家は某が暮らしていた町では一番裕福な家でした。使用人もたくさんいて、役人が金銭を借りに来ることもありましたな。父上母上それに兄上も努力家で人柄も良く周りから尊敬され頼られる存在でした。その様な立派な家の唯一の生き残りである某が平々凡々では、亡くなった家族に顔向けできないのです。故に何かで頂点を目指せれば剣の道でなくとも良かったのですが……。某はヤスベイに負けて、腕を切り落とされて……。某は……悔しかった。惨めでした。故にいつか絶対に剣で名を馳せる人物になりたいと思ったのです」

「ホムラが負けたままではいられないってことか」

「ええ!その通りです!」

 ヒオリってかなり良いところのお嬢さんだったんだな。実はプライドが高いのかも。
 彼女、言葉遣いは丁寧だし多少なら読み書きもできる。

「わかった!ではお前に最強の剣術を教えよう!」





 というやり取りから数日が経った。

 俺の能力、神眼、全知全能の目ガイアストローアイズはこの星に生きた全人類の人生を見ることができる。そしてその記録は無限記憶書庫アカシックレコードに保管されている。
 つまり俺は、この星の長い歴史の中で今までに人類が編み出した魔術、剣術、体術、戦術を全て知ってる。今はなき技術も含め全て。
 そして一度その技を見れば無限記憶書庫アカシックレコードが詳細を解析し、自分が使うこともできる。

 但し、長い歴史の中で剣術には最強と呼ぶに相応しい流派がいくつもあり、その中で一番は?と、問われても答えは出ない。
 何故なら使い手の相性によって結果が異なるからだ。ボクシングと相撲で例えるとわかりやすいだろう。ボクシングで一番になったからといって相撲で一番になれるとは限らないのだ。

 また剣術とは型であり、使い手の身体的特徴を潰して型に嵌めれば、本来の良さを無くす場合もある。故にヒオリの長所や個性を活かした剣術を慎重に選ばなければならない。

 俺は先ず彼女の長所や短所を見抜くことにした。彼女の動き、癖を無限記憶書庫アカシックレコードの超演算で解析して最適な流派を選ぶ。

 そこで、ここ数日間は木刀で模擬戦をしている。
 今日はゴロウズではなく俺本体が相手だ。

「せい!」カンッ!

「やーッ!」カン!カン!カーンッ!

 木刀がぶつかる音が青空に響く。


「よし、一旦休憩しよう」

「はい!」

 俺は土魔法で作ったベンチに腰掛ける。
 ヒオリも隣に座り、水筒の水を飲んで額の汗をタオルで拭った。

 ヒオリ・ホムラは11歳。7月7日生まれだからあと1ヶ月ちょっとで12歳になる。
 手足の長いスラっとした体形で、この前、全員健康診断をやったら彼女の身長は146センチだった。
 腰まで伸ばした真っ赤な赤髪ストレートヘアと切れ長の目で金色の瞳が特徴的な美少女だ。

「ヒオリ」

「はい!」

「ゴロウズと模擬戦をやる時より、俺の動きを読めていたのは何故だ?」

「某には相手の気を見る力がありまして、例えばゴロウ殿が踏み込む際は僅かに足の気が強くなります。攻撃は牽制と本命で腰や肩、腕の気に違いがあります故、先読みできます。しかし……、ゴロウズ殿はそもそも気がないので、動作の予想ができないのですよ」

 なるほど……、それはヒオリのスキルだな。

「わかった。どの流派を教えるか悩んでいたが……、ヒオリにぴったり合う剣術があるぞ」

 ヒオリは真剣な顔で俺を見詰める。

「それはどのような流派なのでしょうか?」

「一世代で消えた剣術で名前はない……。が、ヒルマ・ツキカゲという男が編み出した剣術だから月影流と名付けるか」

「ヒルマ・ツキカゲ……それはどのような人物なのですか?」

 ふむ……、俺は無限記憶書庫アカシックレコードで彼の生涯を見る……。
 え?……ああ、そういうことか。

「……ゴロウ殿?」

 俺は暫し無限記憶書庫アカシックレコードを閲覧した。
 なるほど……、これは驚きだな。通りで彼の剣術がヒオリにしっくりくるわけだ。

「ヒオリ、聞いて驚け。ヒルマはお前の先祖だ」

 それから俺は約200年に死去した故人ヒルマ・ツキカゲの人生とヒオリの祖先の話しをした。

「某のホムラ家にはそのような起源があったのですね……」

「そういうことだ。お前のスキルやその赤髪も、ヒルマ・ツキカゲの遺伝だったんだな」

 ヒルマは当時最強と謳われた幕府剣術指南役ジュウベイや、刀術の聖地火河ひがの頂点に君臨した天才剣士クレナイ刀窮とうきゅうを殺している。
 神代魔法が使われてなくなった新時代以降でなら、世界的に見ても十指に入る最強剣士と言えるだろう。

「わかりました。ゴロウ殿……いえ、師匠!改めてお願いします。某に月影流を教えてください!」

 し、師匠!?まぁいいか、なんでも……。

「ああ、任せろ。先ず、月影流には大きく分けて3つの技がある。相手を斬る〈あらわし〉、斬ったと見せ掛ける〈うつろ〉。これはある意味幻術に近いな。そして〈現〉と〈虚〉を同時に繰り出す〈眩影げんえい〉」

「斬ったと見せ掛けるとはどういうことですか?」

「そうだな……。その説明をする前に先ず、お前が”気”と言っているモノの正体を教えよう。それは微弱な肉体強化魔法だ」

「そのような魔法があるのですか?」

「ある……正確にはあっただな。神代魔法に分類される魔法で今の時代では使われていない技術だ。但し、何十年と己を鍛え抜き生涯を掛けて武を研鑽し、達人の域達した者は独自で強力な肉体強化魔法を使えるようになっている。ヒルマもその類だ」

「では某が強い肉体強化魔法を使えるようになるには何十年も掛かるのですね……。ですが、それでも鍛錬を続けます!絶対に諦めません!!」

「まぁ落ち着けって。失われた技術で知られていないってだけで、使えるようになる方法・・はある。お前に適性があれば今から使える筈だ……」

「ふえ?」

 こんな方法知ってるのは俺だけだから肉体強化魔法が普及することはないだろう。



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