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二章
第87話 奴隷三人の進路指導
しおりを挟むヒルデビアは鋭い目を光らせる。
「グラントランドの第二王子を暗殺するのですね?」
「あわわわわ……!ひ、ヒルデ過激ですぅー!」
「違う違う。そんなことをしても代わりの王族や貴族が来るだけだし、グラントランドに責任追及されて賠償金を吹っ掛けられるぞ」
「仰る通りでございます……」
「確かに、根本的な解決にはなりませんわね……」
「そうだね。まぁ要するに国の借金を全額返せればよいわけだ。返済が終われば争った貴族間で蟠りはあるかもしれないが、命や金を掛けて無益な内戦はしないだろう」
「で、でも、どうやって……」アストレナ
「途轍もない額ですよ。それができないからこの様な事態になってしまったのです……」ヒルデビア
「むむむ無理ですよぉーっ!」
「まあまあ、一旦落ち着いて」
子供には難しい話だが、この子達は頭が良いから理解できるだろう。
「ウィスタシアの実家、ヴォグマン領の農業を俺が手伝っているのは知っているな?」
3人はコクリと頷く。
「5月から始めたというのに、全領民と家畜が来年の収穫期まで十分食べられる量を今年収穫できる見込みだ」
以前、アストレナとグラウンドを造った要領で、今年の5月初旬にゴロウズ達が猛スピードで良質な畑を整備したのが大きかった。
「今年は俺が用意できる種や苗、肥料に限界があって、これが精一杯だった。だが、来年は今年の収穫から種や苗を用意できる。それと肥料だが、鶏は1羽が年間に約300個卵を産むから順調に増えている。肥料になる鶏糞の確保は問題ない。元々肥料になる腐葉土はヴォグマン領にたくさんあったしな」
「畑を広げて収穫量を増やせるということですわね……」
「ああ、そうだ。来年は今年の3倍の面積で農業をやる予定だ」
ヴォグマンの領民は食料難で飢えていたから農業に対して滅茶苦茶士気が高い。それに農機具の導入も進んでいて、まだまだ畑は広げられる。
「4年後には10倍以上になっているだろう」
「すすす凄いですっ!」
「物凄い生産量になりますね……」ヒルデビア
「ああ。でだ、俺はヴォグマン領の領主、大六天魔卿アルベルト・エル・ヴォグマンと契約書を交わしている」
「どのような契約でございますか?」
「余った作物や加工品を外国に売る際は全てモモの商会を通すという契約だ」
「で、では、ヴォグマン領の利権を全てモモさんが持っているということですか?」
「実はそうなんだよ」
3人は固唾を呑む。
「ところで、うちの食事は美味いか?」
「おおおお野菜も果物もお肉も、す、凄く凄く美味しいですぅ!ととと特に、け、ケーキが大好きですぅー!えへへへ♡」
「王宮で頂いたどのような料理よりも美味しいですわ。わたくしは里芋が好きです。煮物やこの前食べた里芋とイカのバター炒めもとても美味しかったですわね……ふふっ♡」
「ええ、調味料なども全てが洗練されておりますね。とくに私は胡椒や唐辛子がたまらなく好きでございます。ふっ、激辛麻婆豆腐をまた食べたいです♡」
「ヒルデビア、食べ過ぎると次の日お尻痛くなるからね……!まぁ俺もそう思うよ。日本の農作物は長い年月をかけて美味しくなるように品種改良されてきたからな」
はっきり言って、日本の食材はこっちの物とは比べ物にならないくらい美味いし品質が良い。
「つまりこういうことだ。ウィスタシアの領地で作った作物をモモがグラントランド王国で売る。モモ一人ではそんな物量を売り捌けないから、アズダールが従業員を出す。因みに輸送はゴロウズが転移魔法でやってくれるからな」
「絶対売れますわね……」
「ええ、間違いありません」
「わわわわたし、パンとかケーキとか作れますぅ!」
「モモは経営で忙しいと思うから、レモニカがアズダールの人達に料理を指導して、言葉遣いや所作が綺麗なヒルデビアが接客を指導すると良いかもな」
そう言って俺が微笑むと3人は目を輝かせた。
「実は以前、モモに軽く話したら人材確保を指摘されたんだ。ヴォグマン領の人は農業で忙しいし、お客さんびっくりしちゃうからゴロウズに接客させるわけにはいかないだろう?それでもモモはやり甲斐がありそうだって言ってたけどな」
「モモさんの真面目で人付き合いが良い性格は商人に向いていますわね……」
「俺もそう思うよ。それにあの子は失敗しても挫けないからな。成功するまで進み続けるだろう」
「あのゴロウ様、紡績機や自動織り機を使って服や布団を作れないでしょうか?」
ココノとヒルデビアは最近紡績機を完成させた。これで現在、この世界では滅茶苦茶高い衣服が破格の値段で作れる。
「もちろんだ。それを見越してヴォグマン領の南部で綿花の畑を増やしているよ」
全てが順調にいけば国を買えるくらいの利益が出せる。まぁその利権を持ってるのはモモだけどね。
この世界のカネに全く興味がない俺には不要な利権なんだよな。タダで譲ると言われても断る。
「モモさん、凄いですね……。是非一緒にやりたいですわ」
「はい、必ず成功すると思います……」
モモは両親が奴隷で、欠損奴隷として格安で売られていた。そんな彼女が一国を買える利権を持ってるって普通に考えて凄いよね。
「わわわわたし達と、い、一緒にやってくれるでしょうか?」
「モモはここにいるメンバーは全員家族だと思っている。お前達が人を出せる可能性があると話したら、一緒にやれるなら嬉しいって言ってた。俺はサポートしかできないから皆で協力して頑張るんだぞ」
悲惨な体験をした3人だが、うちに来た頃より、今は少し明るくなった。
これからは未来に希望を持ってもっと明るい人生を歩んで欲しい。
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