勇者パーティーの賢者、女奴隷を買って無人島でスローライフする

黒須

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二章

第95話 セブンランドに敵侵入

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 沖堤防の上でココノとフォンが釣りをしている。インドアなタマとは対照的に2人は外で遊んだり生き物を捕まえるのが大好きなのだ。
 そんなフォンのロッドが激しくしなりリールが唸る。

 ギュイィィィィン!

「うっっりぁああああーーッ!おっきぃーっ!これ、新記録だよっ!」

「フォン凄いの!頑張るの!」

「絶対に釣ってやるぅーーーーっ!きゃっ!!」

 ラインが切れた反動でフォンが吹き飛ばさてしまった。ショートパンツ姿の彼女は膝を擦りむく。

「いったーい!」

「血がいっぱい出てる……。おうち帰るの!ウィスタシアに回復魔法で治してもらうの!」

「うん……痛たたた……。ココノは釣れた?」

「ふふん!見て!」

 鼻息を荒くして得意げに小さなクーラーボックスを開けるココノ。

「わぁー!すっごぉーい!!カワハギがたぁーくさん!」

「今日は餌のアサリを小さく切って針に付けてみたの!肝醤油でお刺身食べると凄く美味しいの!」

「うん!凄く美味しいよね!レモニカに切ってもらおう!アッチ、お腹すいてきちゃった!にひひひひっ。ふえっ?」

「誰なの?」

 クーラーボックスを覗き込んでいた2人は背後の気配に気付き、振り返って驚く。
 そこには水色の髪の男女が立っていた。





 監視システムゴロウズ二式を通してセブンランドの情報が入ってくる。

「フルーゲル、やけに無駄話が長いと思ったら、やってくれたな」

 ゴロウズラボの沖堤防に夢魔族が2人出現した。こいつらはゼスタとロロムだな。6000年以上生きている大魔族だ。堤防にはフォンとココノがいる。

「到着した瞬間に気付いたか。お前、まじで化け物だなぁ。だがもう遅いぜ。転移魔法を使っても一瞬で移動できるわけじゃない。まぁそんなことは知っているか?今この瞬間、転移していないってことは諦めたかぁ?おっと、あのゴロウズって人形が変な動きをしたら即座に一人殺すよう指示を出すぜ」

 凡庸型ゴロウズ零式では奴らに勝てない。動かしても無駄だろう。
 セブンランドまでの距離だと転移魔法で到着に3分はかかる。俺が消えればフルーゲルが念話で殺害を指示する可能性があるな。

 まぁ……転移魔法で移動すればの話しだが。

「フルーゲル、お前がやっていることは俺にとって全く脅威ではないんだよな」

「カッカッカッカッ!おもしれぇ強がりだなぁ?それともガキ共を見捨てるかぁ?ああ?」

「うちの娘には傷一つ付けさせないさ」

「なら、分るよなぁ?ガキ共を攫って交渉する予定だったが、手間が省けるぜ!――第五位階精神魔法、魂定制証こんていせいしょう!!」

 フルーゲルは魔力を纏った指で空に文字を書き始める。

『制約、夢魔族一切を傷付けない。反故にすれば五体及び魂を自害する』

「――第五位階精神魔法、魂印!」

 宙に書いた文字の上に魂印が浮かび、文字と重なった。

「この魔法、知っているよなぁ?」

「5000年前の大魔法戦争後、生き残った者達が後世に神代魔法を伝えないことを強制的に誓わされた魂の制約魔法。その劣化版だな」

 5000年前に使用されたのは第七位階魔法だ。

「その通り。お前の魔力を『魂印』に流し込むんだ。そうすりゃ、全員五体満足で帰してやるよ。おいッ!聞いてんのかッ?お前は詰んでるだぜッ!」

「ん?ああ……聞いてるよ……」

「魂印に魔力を流し込め!それで契約は成立する!」

「……」

「早くしろ!」

「うるせーな。今いい所なんだよ」

 俺はゴロウズ二式を通してセブンランドの状況を把握し、沖堤防の遥か上空を飛ぶドローン型ゴロウズ一式が見ている映像を無限記憶書庫《アカシックレコード》介して見ている。
 現在セブンランドではヒオリとラウラが戦闘を開始している。

「ぐぬぬぬぬ!俺様になんて口利きやがるっ!!今すぐ一人殺せと指示を出すぞ!」

「はいはい、そんな焦るなよ。ほらっ」

 魂印に魔力を送った。すると魂印と文字は光り輝き俺に吸い込まれて魂と結びついた。

「くくく、やったぜぇーッ!!あっさり終わっちまった!アウダムっつても大したことはなかったなッ!カッカッカッカッ!」

 フルーゲル、めっちゃ嬉しそう。それに俺の魂を縛れて安堵した様子だ。


 第七位階探知魔法を常に発動させている監視システムゴロウズ二式は人の感情や気分を読み取ることができる。思考までは読めないが、どうやら刺客2人に殺意はないようだ。

 もし僅かでも殺気があれば奴らがセブンランドに現れた瞬間、制圧していた。

 異次元倉庫には戦闘特化型ゴロウズ三式が3体ストックされている。ゼスタとロロム程度の相手なら三式1体で十分だ。一瞬でかたが付く。




〈時間を巻き戻して〉

 ココノとフォンの背後に二人の夢魔族が出現した。
 ウィスタシア、ラウラ、ヒオリ、ガイアベルテが何故かこの状況に気付き、警戒にながらこちらに向かっている。

 これは日々修行をするヒオリとラウラにとって良い機会でもある。相手は神代の民、伝説級の人物だ。そんな凄い奴と戦えるチャンスなんて一生に一度もないのが普通。
 故に俺は安全を確保できる範囲内で皆の動向を見守る事にした。

「狐族のお嬢さん、足……大丈夫ですか?私が魔法で治しましょうか?」

「ロロム、やめろ。ここの住民に魔法を使うなとフルーゲル様は言っていた。良かれと思っても、治療すればお前の魔力痕跡が残ってしまう」

「アッチ、大丈夫だよ!」
「あなた達は誰なの?」

「私は夢魔族のロロムです。こちらはゼスタ。ちゃんと治さないといけまんよ。大怪我じゃないですか?お仲間に回復魔法を使える方はいませんか?」

「ウィスタシアとラウラが使えるの!」
「うん!2人とも魔法が得意なんだぁー!にひひひっ」

「では、その方がいる所まで空を飛んで運んであげますね」

 ロロムは優しく微笑む。

「よろしく頼むのん!」
「親切なお姉さん、ありがとう!」

「ゼスタ、2人を抱えてください」

 ゼスタはやれやれとため息を吐き、ココノとタマを抱えようとしたところでウィスタシア達が浜辺に到着。

 ヒオリが叫ぶ。

「そこで何をしているッ!貴殿らは何者だッ!」

 するとゼスタが。

「ロロム、余り時間がない。あの龍種は危険だが、それ以外の5人を拐って帰れば十分だ。足の治療は向こうですれば良いだろう?」

「そうですが……」

「アッチ平気!ねぇ、何処に連れて行くの?」

 ゼスタが叫ぶ。

「俺達はお前らを拐いに来たッ!大人しくしているなら痛い思いはさせないッ!そこの龍種以外の3人もこっちへ来いッ!」

 ヒオリは腰に差した刀の柄に手を掛け沖堤防へ渡る細い桟橋を歩き出す。

「つまり、貴殿らは敵ということですな……。
 ――月影流、虚、影去かげさり

 桟橋をゆっくり歩いている筈のヒオリの見えない斬撃がゼスタの背後から飛んできた。

「月影流、眩影げんえい、幽撃!」

 ギンッ!

「ぐっ!!」

 ゼスタは咄嗟に右手に結界魔法を展開してこれを受け止める。

 まだ歩いている桟橋のヒオリは彼女の闘気が作り出した幻影だ。攻撃が終わると砂のように消えた。
 ヒオリ本体は光学迷彩のように姿を消してゼスタの背後回っていたのだ。

 ゼスタは流石に魔法発動までの時間が早い。ヒオリの気配に気づいてからの、あの一瞬でよく防いだ。
 ヒオリの方は剣戟を消すのに集中して肝心の威力はおざなり。肉体と刀身にしっかり闘気を纏っていれば、あんな中半端な防御結界ごと切り裂いてゼスタの腕を切り落とせた筈だ。

 ヒオリもそれに気付いているようで悔しそうな顔をしている。
 反対にゼスタとロロムは驚いているな。

「ちっ、ガキだと思って油断した!」
「肉体強化魔法を操ってるのですね。まだ子供なのに、まるで神代世代の様な戦い方です」

 ヒオリは斬った勢いを殺さず、刀を口にくわえて、ココノとフォンを拐い海へ飛ぶ。
 海中に沈むと思いきや、海面に突然出現した岩を蹴った。
 ヒオリの進行方向の海面に次々に岩が出現して、その岩を飛びながらウィスタシア達がいる方へ逃げていく。

 ロロムが呟く。

「足を着地する瞬間に土魔法を固定化させているのですね……。これもレベルが高い。素晴らしい魔法制御です」

 海岸で手を翳すウィスタシアが「ふん」と唸った。

「土魔法は私の得意分野でな」

「そう簡単に逃がすかよ!」

 ゼスタが宙に浮く。ヒオリを追う気だな。

 ヒュボッッッ!!

 ヒオリを追おうとするゼスタの鼻先を巨大な火球が掠めた。彼は動きを止めて岸を睨む。
 冷静な顔のラウラが杖を向けていた。

「行かせない」

「おい!ロロムッ!どうする!?こいつら生意気だぞ!」

「少し恐い思いをしてもらいますか。躾がなっていないようです」

 んん……?俺、厳しく躾けてますが??

(この時、俺本体の横ではフルーゲルがシコシコ魂定制証を書き、魂印を出して魔力を込めろとか何とかギャーギャー言っていた。正直、煩くてしょうがない)







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