95 / 97
二章
第95話 セブンランドに敵侵入
しおりを挟む沖堤防の上でココノとフォンが釣りをしている。インドアなタマとは対照的に2人は外で遊んだり生き物を捕まえるのが大好きなのだ。
そんなフォンのロッドが激しくしなりリールが唸る。
ギュイィィィィン!
「うっっりぁああああーーッ!おっきぃーっ!これ、新記録だよっ!」
「フォン凄いの!頑張るの!」
「絶対に釣ってやるぅーーーーっ!きゃっ!!」
ラインが切れた反動でフォンが吹き飛ばさてしまった。ショートパンツ姿の彼女は膝を擦りむく。
「いったーい!」
「血がいっぱい出てる……。おうち帰るの!ウィスタシアに回復魔法で治してもらうの!」
「うん……痛たたた……。ココノは釣れた?」
「ふふん!見て!」
鼻息を荒くして得意げに小さなクーラーボックスを開けるココノ。
「わぁー!すっごぉーい!!カワハギがたぁーくさん!」
「今日は餌のアサリを小さく切って針に付けてみたの!肝醤油でお刺身食べると凄く美味しいの!」
「うん!凄く美味しいよね!レモニカに切ってもらおう!アッチ、お腹すいてきちゃった!にひひひひっ。ふえっ?」
「誰なの?」
クーラーボックスを覗き込んでいた2人は背後の気配に気付き、振り返って驚く。
そこには水色の髪の男女が立っていた。
◇
監視システムゴロウズ二式を通してセブンランドの情報が入ってくる。
「フルーゲル、やけに無駄話が長いと思ったら、やってくれたな」
ゴロウズラボの沖堤防に夢魔族が2人出現した。こいつらはゼスタとロロムだな。6000年以上生きている大魔族だ。堤防にはフォンとココノがいる。
「到着した瞬間に気付いたか。お前、まじで化け物だなぁ。だがもう遅いぜ。転移魔法を使っても一瞬で移動できるわけじゃない。まぁそんなことは知っているか?今この瞬間、転移していないってことは諦めたかぁ?おっと、あのゴロウズって人形が変な動きをしたら即座に一人殺すよう指示を出すぜ」
凡庸型ゴロウズ零式では奴らに勝てない。動かしても無駄だろう。
セブンランドまでの距離だと転移魔法で到着に3分はかかる。俺が消えればフルーゲルが念話で殺害を指示する可能性があるな。
まぁ……転移魔法で移動すればの話しだが。
「フルーゲル、お前がやっていることは俺にとって全く脅威ではないんだよな」
「カッカッカッカッ!おもしれぇ強がりだなぁ?それともガキ共を見捨てるかぁ?ああ?」
「うちの娘には傷一つ付けさせないさ」
「なら、分るよなぁ?ガキ共を攫って交渉する予定だったが、手間が省けるぜ!――第五位階精神魔法、魂定制証!!」
フルーゲルは魔力を纏った指で空に文字を書き始める。
『制約、夢魔族一切を傷付けない。反故にすれば五体及び魂を自害する』
「――第五位階精神魔法、魂印!」
宙に書いた文字の上に魂印が浮かび、文字と重なった。
「この魔法、知っているよなぁ?」
「5000年前の大魔法戦争後、生き残った者達が後世に神代魔法を伝えないことを強制的に誓わされた魂の制約魔法。その劣化版だな」
5000年前に使用されたのは第七位階魔法だ。
「その通り。お前の魔力を『魂印』に流し込むんだ。そうすりゃ、全員五体満足で帰してやるよ。おいッ!聞いてんのかッ?お前は詰んでるだぜッ!」
「ん?ああ……聞いてるよ……」
「魂印に魔力を流し込め!それで契約は成立する!」
「……」
「早くしろ!」
「うるせーな。今いい所なんだよ」
俺はゴロウズ二式を通してセブンランドの状況を把握し、沖堤防の遥か上空を飛ぶドローン型ゴロウズ一式が見ている映像を無限記憶書庫《アカシックレコード》介して見ている。
現在セブンランドではヒオリとラウラが戦闘を開始している。
「ぐぬぬぬぬ!俺様になんて口利きやがるっ!!今すぐ一人殺せと指示を出すぞ!」
「はいはい、そんな焦るなよ。ほらっ」
魂印に魔力を送った。すると魂印と文字は光り輝き俺に吸い込まれて魂と結びついた。
「くくく、やったぜぇーッ!!あっさり終わっちまった!アウダムっつても大したことはなかったなッ!カッカッカッカッ!」
フルーゲル、めっちゃ嬉しそう。それに俺の魂を縛れて安堵した様子だ。
第七位階探知魔法を常に発動させている監視システムゴロウズ二式は人の感情や気分を読み取ることができる。思考までは読めないが、どうやら刺客2人に殺意はないようだ。
もし僅かでも殺気があれば奴らがセブンランドに現れた瞬間、制圧していた。
異次元倉庫には戦闘特化型ゴロウズ三式が3体ストックされている。ゼスタとロロム程度の相手なら三式1体で十分だ。一瞬でかたが付く。
◇
〈時間を巻き戻して〉
ココノとフォンの背後に二人の夢魔族が出現した。
ウィスタシア、ラウラ、ヒオリ、ガイアベルテが何故かこの状況に気付き、警戒にながらこちらに向かっている。
これは日々修行をするヒオリとラウラにとって良い機会でもある。相手は神代の民、伝説級の人物だ。そんな凄い奴と戦えるチャンスなんて一生に一度もないのが普通。
故に俺は安全を確保できる範囲内で皆の動向を見守る事にした。
「狐族のお嬢さん、足……大丈夫ですか?私が魔法で治しましょうか?」
「ロロム、やめろ。ここの住民に魔法を使うなとフルーゲル様は言っていた。良かれと思っても、治療すればお前の魔力痕跡が残ってしまう」
「アッチ、大丈夫だよ!」
「あなた達は誰なの?」
「私は夢魔族のロロムです。こちらはゼスタ。ちゃんと治さないといけまんよ。大怪我じゃないですか?お仲間に回復魔法を使える方はいませんか?」
「ウィスタシアとラウラが使えるの!」
「うん!2人とも魔法が得意なんだぁー!にひひひっ」
「では、その方がいる所まで空を飛んで運んであげますね」
ロロムは優しく微笑む。
「よろしく頼むのん!」
「親切なお姉さん、ありがとう!」
「ゼスタ、2人を抱えてください」
ゼスタはやれやれとため息を吐き、ココノとタマを抱えようとしたところでウィスタシア達が浜辺に到着。
ヒオリが叫ぶ。
「そこで何をしているッ!貴殿らは何者だッ!」
するとゼスタが。
「ロロム、余り時間がない。あの龍種は危険だが、それ以外の5人を拐って帰れば十分だ。足の治療は向こうですれば良いだろう?」
「そうですが……」
「アッチ平気!ねぇ、何処に連れて行くの?」
ゼスタが叫ぶ。
「俺達はお前らを拐いに来たッ!大人しくしているなら痛い思いはさせないッ!そこの龍種以外の3人もこっちへ来いッ!」
ヒオリは腰に差した刀の柄に手を掛け沖堤防へ渡る細い桟橋を歩き出す。
「つまり、貴殿らは敵ということですな……。
――月影流、虚、影去」
桟橋をゆっくり歩いている筈のヒオリの見えない斬撃がゼスタの背後から飛んできた。
「月影流、眩影、幽撃!」
ギンッ!
「ぐっ!!」
ゼスタは咄嗟に右手に結界魔法を展開してこれを受け止める。
まだ歩いている桟橋のヒオリは彼女の闘気が作り出した幻影だ。攻撃が終わると砂のように消えた。
ヒオリ本体は光学迷彩のように姿を消してゼスタの背後回っていたのだ。
ゼスタは流石に魔法発動までの時間が早い。ヒオリの気配に気づいてからの、あの一瞬でよく防いだ。
ヒオリの方は剣戟を消すのに集中して肝心の威力はおざなり。肉体と刀身にしっかり闘気を纏っていれば、あんな中半端な防御結界ごと切り裂いてゼスタの腕を切り落とせた筈だ。
ヒオリもそれに気付いているようで悔しそうな顔をしている。
反対にゼスタとロロムは驚いているな。
「ちっ、ガキだと思って油断した!」
「肉体強化魔法を操ってるのですね。まだ子供なのに、まるで神代世代の様な戦い方です」
ヒオリは斬った勢いを殺さず、刀を口にくわえて、ココノとフォンを拐い海へ飛ぶ。
海中に沈むと思いきや、海面に突然出現した岩を蹴った。
ヒオリの進行方向の海面に次々に岩が出現して、その岩を飛びながらウィスタシア達がいる方へ逃げていく。
ロロムが呟く。
「足を着地する瞬間に土魔法を固定化させているのですね……。これもレベルが高い。素晴らしい魔法制御です」
海岸で手を翳すウィスタシアが「ふん」と唸った。
「土魔法は私の得意分野でな」
「そう簡単に逃がすかよ!」
ゼスタが宙に浮く。ヒオリを追う気だな。
ヒュボッッッ!!
ヒオリを追おうとするゼスタの鼻先を巨大な火球が掠めた。彼は動きを止めて岸を睨む。
冷静な顔のラウラが杖を向けていた。
「行かせない」
「おい!ロロムッ!どうする!?こいつら生意気だぞ!」
「少し恐い思いをしてもらいますか。躾がなっていないようです」
んん……?俺、厳しく躾けてますが??
(この時、俺本体の横ではフルーゲルがシコシコ魂定制証を書き、魂印を出して魔力を込めろとか何とかギャーギャー言っていた。正直、煩くてしょうがない)
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる