勇者パーティーの賢者、女奴隷を買って無人島でスローライフする

黒須

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二章

第97話 奴隷の実戦訓練②

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 ゼスタの身長は190センチ程で髪型、顔、体型を一言で表現するならゴリマッチョ。対するヒオリは152センチ。かなりの体格差だ。
 そんな二人が沖堤防の上で何度も激しく打ち合う。

 ゼスタは動きを止めて、太い指のゴツい手で巨大な拳を握り呟く。

「俺の本業は魔法使いなのだが、体を動かすのが好きでな。武術を嗜んでいる」

 肉体強化魔法を纏うゼスタは空手のような構えをする。神代武術が一つ重拳術だ。
 拳に闘気を纏い、鋼のように硬くして剣撃や魔法を弾き返す武術。

「月影流虚、影裂かげさき

 ヒオリが闘気を飛ばした。しかし――。

「カッ!!」
「……ッ!?」

 一喝だけで掻き消されてしまう。

「現、〈光閃こうせん〉ッ!
 せぁあああーーッ!!」

 ヒオリの全闘気を纏った上段からの渾身の一振り。

 ギンッッッ!――「なんとッ!?」

 全くブレない超重量級の正拳突きでヒオリの刀と体は簡単に弾かれてしまう。
 まるで高速道路を走るトラックになす術なく弾き飛ばされたような感じだ。

 刀と両腕を跳ね除けられ胴ががら空き、エビ反り状態。
 ゼスタがその隙を見逃すわけもなく、重く一歩を踏み込む。

 ヒオリの胴を狙った正拳突きだ。

「ハッッッ!」

 俺はゴロウ二式でその攻撃を超スローモーションで観察する。危険な一撃ならここで止める。
 拳の軌道は腹部の急所、関元かんげんをずらして狙っている。更に拳には闘気を纏っていない。インパクトの瞬間、指をクッションのように曲げて衝撃を緩和させた!
 怪我させないように滅茶苦茶配慮しているな……。

 それでも、腹に拳を撃ち込まれた衝撃でヒオリは数メートル吹き飛んだ。

「げほっ……ごほっ……ごほっごほっごほっ……」

 地べたを這いずり咳き込むヒオリ。
 ゼスタはそれを冷ややかな目で見下ろす。

「ガキなのに物凄い才能だな……。斬られたと感じたら斬られていない。逆に斬られていないと感じているなら切られいる。つまり――、セイッ!」

 地べたに倒れていたのはヒオリの幻影。本体はゼスタの横から斬りかかっていたのだが――。

「ぐはッ」

 上から落ちてきたゼスタの拳がヒオリの頬をとらえた。ヒオリは顔面から防波堤のコンクリートに叩きつけられる。

 軽い脳震とうで立てない。鼻血を出し頬には傷。ダメージで呼吸が荒くなっている。

「ゼハッ……はぁー、はぁー、はぁー」

「お前の弱点は剣の軽さ。俺が手加減していることくらいわかるだろう?死にたくなかったら諦めろ」

 しかし、ヒオリは肩で息をしながらも立ち上がり剣を構える。

「月影流現、光閃!」

「だから軽いと言ってるだろう!なにッ!?」

 ゼスタの正拳突きに自ら頭突きを当てにいくヒオリ。その踏み込みと同時に上段からカウンターを振り下ろしている。

「せああああああッ!!」

「ハッッッ!」

 だが、ヒオリの刀が届くことはなく、彼女は再び吹き飛ばされて地面に転がった。

 俺も稽古でヒオリと試合をする。しかし、俺は今まで彼女に一度も攻撃を当てたことはない。いつも寸止めだ。

 だって、ヒオリは12歳。日本なら小学校6年生だ。小6を木刀で殴れますか?いや、殴れないでしょ……。
 それに彼女の容姿。ヒオリはかなり控え目に言って超美少女なんだよ……。殴れないでしょ……。

 そして何より俺の指示に素直に従い、ひたむきに努力する。俺のことを愚直に信じている。教える立場としては可愛くしょうがない。
 殴れないんだよなぁー……。

 地面に倒れていたヒオリは刀を立てて、フラフラしながらも懸命に立ち上がろうとする。

 俺も一緒に殴られているような気分だ。心が痛い。

「はぁーはぁー、死にたくなかったら?……真剣勝負の負けは死を意味します……、某は然るべくして刀を握っている。はぁー、はぁー、元より命を取るも取られるも、覚悟はできています!」

 俺はヒオリの覚悟を甘く見ていたのかもしれない。

 殴られなきゃ学べないこともある。痛みやその対処法だ。稽古を見直す必要があるな……。
 いつか俺の手から離れて、一人になって、どんな強敵と戦っても絶対に死なないように、本当に強くしてやらないと。

「小娘が。では死ぬか?」

「某はヒオリ・ホムラ。只では死にませんよ」



「なぁアウダムよ。この娘、剣王レグルスを彷彿とさせる才能だな」

「5000年前の最強剣士か……彼も人族だったな」

「ああ……、くくくく、奴の聖剣にはこの俺様も何度もやられたぜ!」

 聖剣デュランダルか……。この世界には聖剣、聖槍と呼ばれる業物が存在する。それらの武器は白龍皇帝ガイアノスの骨で作られている場合が多い。




 360度、視界を埋め尽くす圧倒的物量の炎の弾、それがロロムを囲っている。

「貴女の魔力は異常です。私の倍……いや、三倍はあるかもしれませんね」

「ボクの唯一の取柄だからね。ウィスタシア!」

「ああ!わかっているよ」

 空を飛べないウィスタシアは砂浜からストーンバレットを撃ちまくる。
 それに合わせてラウラも周囲に展開させた大量のファイアボールを一斉に放つ。

 物量による飽和攻撃。
 それらが第四位階結界魔法を展開するロロムに全弾命中していく。

 ボファ!ボガ!ボボッ!ボッ!ボファ!ボッボッボッボッ!ボガ!ボボッ!ボッ!ボファ!ボッボッボッボッ!ボガ!ボボッ!ボッ!ボッボッボッボッ!ボファ!ボガ!ボボッ!ボッ!ボファ!ボガ!ボボッ!ボッ!ボファ!ボガ!ボッボッボッボッ!ボボッ!ボッ!ボファ!ボガ!ボボッ!ボッボッボッボッ!ボッ!ボファ!ボガ!ボッボッボッボッ!ボボッ!ボッ!ボファアアーーッ!!

 攻撃が終わり煙が晴れると、無傷のロロムが宙に浮いていた。

「なんという耐久力だ……」
「これでもダメかぁ」

「ふぅー、結界魔法が壊れてしまいましたね。今のは惜しかったですよ。ところで貴女、攻撃は第一位階魔法だけなのですか?」

「ラウラ、私が援護する。前に練習したアレをやってみよう!」
「オッケー!」

 土日は二人で魔法の練習をすることも多いからな……何か技を開発したのか?

 ウィスタシアが土魔法で攻撃、ロロムはそれを前面に展開した第二位階結界魔法で容易にあしらう。
 ラウラは杖を構えて詠唱を始めた。

「赤き竜の御霊、全てを焼き……」

「何かと思えば第三位階炎魔法ドラゴンブレスですか?高位の魔法は詠唱をしないと使えないのですね――(ヒュボッッッ!)きゃっ!!」

 ロロムは不意を突かれて、背後から飛んできたファイアボールに防御魔法が間に合わず水色の髪を焦がす。

「やったーッ!当たったぁー♪」
「ふふっ、やったなラウラ」
「ボク、詠唱忘れちゃって最後まで言えないからどうしようかと思ったよ」
「ふっ、お前らしいな。もうアレ・・は必要ないだろう」
「ボク達の勝ちだ!さぁ、大人しく帰ってもらうよ!」

 ロロムは悔しそうだ。

「むっきー!今のは体に当たってないから無効ですぅーーっ!」

「髪だって体の一部だろう」
「そうだよ!おばさんのくせにずるいよっ!」

 額に青筋を浮かべるロロム。
 ラウラの煽りはどうかと思うが、ウィスタシアは正論を言っているよな……。

「もう怒りました!うちの曾孫も生意気ですが、貴女達はそれ以上ですね!そもそも私の得意分野は精神魔法なんですぅ!思い知らせてやりますね」

 ロロムが禍々しい魔力を纏った。

「ラウラ、不味いぞ!」
「これ、ボク達死ぬかも……」

 ロロムが手を翳す!

「もう遅いですよ?
 第五位階精神魔法……、癲狂癈心てんきょうはいじん

 ――瞬間、全てが止まった。ロロムの魔法も発動することなく停止している。

 ガイアベルテだけは例外で砂浜で何事もなかったように遊んでいる。しかしそれ以外――、海の波、風に舞う綿毛、ここに居合わせた者達、全ての時間が止まったのだ。

 そして空中にゴロウズがズズズズーっとゆっくり出現する。
 シャボン玉の様な干渉色、異次元倉庫に格納されている三体のゴロウズ三式の一体、『十界じっかい』。




「おい、アウダム……このゴレームがやっているのか?こいつは時魔法、時間停止だぜ……。5000年前に絶滅した刻魔族の魔法だ」

 刻魔族、5000年前に戦争を起こした世界最強の種族。あの戦争は刻魔族VS全種族の戦いだった。結果、刻魔族は負けて彼らが住んでいたアトランティス大陸ごと海に沈んだ。

「あのな、俺はゴロウだ。アウダムはもういないんだよ。フルーゲル、そう言えば刻魔族って淫魔族から派生したんだよな……?」

「ん?」

「今はいいか……ロロムの魔法は容認できない。ゴロウズ三式を自動起動させるセブンランド防衛ドクトリンに抵触してる。二人を連れ戻してくるな」

 次の瞬間、ゴロウが消えると同時にセブンランドの状況を映す魔石にゴロウが映った。

「あ、あり得ねー……、あいつ、どうやって移動したんだ!?」





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