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第6章:変わらない心
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しおりを挟むあの日以来、深侑が性的な行為に慣れる特訓が続いている。
「……先生、無理にすぐ慣れようとしなくてもいいんですよ?」
「小公爵様は嫌、ですか?」
「私が嫌とかそういう話ではなく……」
エヴァルトの膝に乗り、こてんっと首を横に倒す深侑を見てエヴァルトは咳払いをした。手触りのいいガウンは既に深侑の腰のあたりまで滑り落ちており、彼の白い肌と華奢な体が無防備に晒されている。
当たり前の如く、好きな人のそんな姿にエヴァルトのそれも自然と反応してしまうのだが、それを知ってか知らずか深侑が容赦無く乗っかってくるのでエヴァルトはため息をもらした。
「だって、小公爵様も“したくないわけじゃない”って言ってたじゃないですか……」
「確かに言いましたけど、すぐにできるようになってくださいとは言ってませんよ。大切にしたいって話をしたばかりですよね?」
「でも……」
深侑は眉を下げ、エヴァルトのシャツをぎゅっと握る。エヴァルトとしては深侑にあまり無理をしてほしくないので言っているのだが、なぜか深侑のほうが納得していないらしい。
「俺の住んでいた世界では恋人同士というんですが、想いが通じ合っている者同士ならそういうことをするものじゃないですか……」
「まあ、一般的にはそうかもしれませんね。婚前交渉を禁止してる家もあるでしょうけど」
「でも、小公爵様はもう22歳でしょう? それなりに欲もあるだろうし、その……」
「……先生?」
深侑が言い淀んでいると、エヴァルトからくいっと顎を持ち上げられ二人の視線がかち合う。エヴァルトは責めているわけではないが、ダークグリーンの瞳にじっと見つめられると何だかバツが悪く、深侑は目を泳がせた。
「……そういう行為ができないと、ど、どこかで発散してくるのかな、とか……」
「はい?」
「娼館とか、そういうところで、その……女の人や男の人にも相手をされるのは嫌だなと思って……」
今にも消え入りそうな声で深侑が白状すると、エヴァルトは目を見開いて口をぽかんと開けていた。そして深侑の言葉を頭の中で整理し終わった彼はぶわわっと首から上を真っ赤にして、ぐしゃりと自分の前髪を掻き上げた。
「な、なんの心配をしてるんですか! 私がそんな不誠実な男に見えると!?」
「そうは思ってませんけど、プロの方に頼むこともあるでしょう?」
「私は一度たりとも、娼館で女性や男性を買ったことはありませんッ」
過去にそういう経験をしていても深侑は怒らないがエヴァルトにとっては相当不服だったのか、初めてエヴァルトが焦ったように声を荒げる姿を深侑は目にした。顔を真っ赤に染め上げたまま深侑の細い肩を勢いよく掴み「私は好いている人としかそういうことはしたくありません!」と食い気味に宣言した。
「私が欲求不満の解消のために、娼館に行くと思ったんですね? 先生は」
「う……そうです……」
「はぁ、なんて信用のない……先生と出会ってからは自分でしか処理していませんよ」
「……前の婚約者の方とは、夜を共にしたことが?」
娼館に行っていないのは理解したけれど『深侑と出会ってからは』という言葉が引っかかった。揚げ足を取るような言い方をしてしまったのだが、エヴァルトは「あー……」と言いながら視線が宙を舞う。それはもうほとんど答えのようなものだ。
婚約者だったのだから性行為をしていてもおかしくはない。あまり構ってやれなかった、お互いにすれ違っていたという話をしていたけれど、そういうことをするほどの仲ではあったということだ。深侑はちゃんと事実として受け入れようと努力したが、自然と唇が尖っていった。
「先生が彼に嫉妬してくれるのは嬉しいですが……私だって、あなたのいた世界に行く方法を研究しようかと本気で迷っているんですよ」
「え? どういう意味ですか? もしかして俺に帰ってほしいってこと、ですか……!?」
今となっては元の世界に帰る想像がつかない。エヴァルトの言葉に焦った深侑が青ざめていると、ぐいっと引き寄せられた。
「……先生の体を暴いた奴らを皆殺しにしてやりたいくらい、私だって嫉妬と怒りで狂いそうなんです」
「んん……っ!」
辛うじて腰のあたりで止まっているガウンの上から、つうっと割れ目をなぞられる。深侑はエヴァルトにぎゅっと抱きつきながら、彼の肩口に顔を埋めた。
「あなたのためなら、あなたがそうしてほしいなら、私が……」
「そんなことしなくていいですから……小公爵様が側にいてくれるだけで、十分幸せです。俺自身、あの気持ち悪い記憶を小公爵様に塗り替えてほしいという願望もあります。……だから、早く慣れたいんです」
深侑が呟くと、エヴァルトは頭や肌にキスの雨を降らせた。そしてガウンの中にするりと熱い手が侵入してきて、深侑の太ももに這う。際どいところを何度も撫でられると、腰がぶるりと震えた。
「……先生。大分欲情的な格好になっていますね」
「そんなの……エヴァルト様がいやらしい寝巻きを買ってくるからじゃないですか……」
「ふふ。確かに、私のせいだ」
顎を掴まれ、深い口付け。お互いの唾液がぐちゃぐちゃに混ざり合うような、卑猥な音が部屋に響き渡るような口付けにも、深侑は大分慣れた。むしろ最近は、触れるだけのキスでは満足できないと思っている自分がいることに驚いている。
「あなたが気持ちいいと思うことだけをして、とろとろに溶けてしまうほどの体にしてあげます」
耳元でエヴァルトが囁くと、深侑はこくんと小さく頷いた。
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