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第6章:変わらない心
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しおりを挟む「ねぇねぇ、みーたん。あたしもレアくんと一緒に授業受けようかなぁ。ラヴァくんって教養がある女の子のほうが好みかもしれないし~」
「まだラヴァのことを追いかけてるのか、リオン……それに、ミユはいま僕の先生だろ。よそ見するな」
「えーっ!? 元々はあたしの先生なんだよぉ? レアくんのみーたんじゃないし!」
「前の世界での話じゃないか。今のリオンは王宮の優秀な先生がついてるのに」
「……そんなイジワル言うなら、今日からあたしもここで勉強してやるんだからねっ」
「はぁ!? だから、僕は許可してないだろ!」
「レアくんのケチ!!」
なんて和やかな会話が昼下がりの離れに響いている。莉音は聖女としての仕事もちゃんと行っているらしいが、最近はいつの間にか離れに滞在していることが増えた。
彼女の目的はラヴァであることに変わりはないが、近頃はレアエルも莉音と過ごす時間は悪くないようで楽しそうに見える。
「そういえば、もうすぐ結界の張り直しをするんだよねぇ」
「もうそんな時期に?」
「うん。そろそろ安定して力が使えるようになってきたから、魔物の王様が来る前に頑張ってみる」
「魔物の王様?」
「あれ、みーたん知らないの? この国に頻発してる魔物とかって、王様が仕向けてるんだってぇ」
「そうなんだな、知らなかった……」
「諸説あるが……魔王はアルテン王国に住まう愛の女神に恋をしていて、魔国に連れて行こうとしているとも言われているな」
「ええ、そんな理由で?」
「純愛じゃーん」
「感心するところじゃないだろ。アルテン王国だけではなくお前たちだってそれに巻き込まれているんだぞ」
アルテン王国が魔物の被害に遭っているのは深侑も理解していたが、その理由までは知らなかった。レアエルは諸説あると言っていたけれど、もしもそれが本当の話であれば国を巻き込んだ盛大なわがままである。
恋をすると盲目になると言われているが、愛の女神に恋をしている魔王はもうずっと盲目なのだろう。聖女の召喚は何百年かに一度行われているようだが、随分と昔から続いている魔王の執着心には脱帽だ。ただ、やり方が悪いのは否めないけれど。
愛の女神と言えば、エヴァルトがポメラニアンになる呪いをかけた女神がそうだった気がするなと、深侑はふと思い出す。確か滅多に地上には姿を現さない女神が魔物に襲われていたところをエヴァルトが助け、女神とは思えないほど怖い姿につい本音が出てしまって怒られたと言っていた。
その時に襲われていたのも、魔王から連れ去られる寸前だったのだろう。間一髪で助かったのに、助けてくれた相手から『意外と怖い顔をしているんですね』と言われたら誰だって怒るし、呪いもかけたくなる。
本当にエヴァルトは馬鹿なことをしたものだなと、深侑は苦笑した。
「その女神様なんだけど、誰かにブスって言われて傷ついたから引きこもっちゃってるんだってぇ。ひどくない?」
「女神にそんな馬鹿を言う奴がこの国にいるのか?」
「いたらしいよぉ。あたしだったら殴っちゃうかも」
「は、ははは……」
その『馬鹿』がエヴァルト・レイモンドだとは口が裂けても言えない。彼の名誉のためにも黙っていなければと、深侑は固く決意した。
「すみませーん、お邪魔します。エヴァルトってこちらにいらっしゃいますかー?」
レアエルの部屋で三人で談笑していると、間延びした声が聞こえてドアが開いた。屋敷の使用人かレインからの使いかと思ったが、深侑は見たことがない小綺麗な男性が立っていて首を捻った。
「どちら様でしょうか? 小公爵様はいらっしゃいませんが……」
「ミユ、」
「うそ、ここにもいないのー? どこ行ったんだろ」
「今日は公務でお忙しいとおっしゃっていたので、もしかしたら王宮か――」
「ミユ!」
エヴァルトを探している男性に彼がいそうな場所を教えていると、後ろからぐいっと服を引っ張られた。そちらを見るとレアエルが険しい顔をして男性を見つめていて「どの面下げてここに来た、お前は」と低い声で尋ねた。
「あはっ、殿下! 前よりも大きくなりましたね~」
「うるさい、気安く話しかけるな。お前と呑気に世間話なんかするつもりはない」
「ほんっと、昔からその憎たらしい性格は変わりませんね」
「あの、レアエル殿下……? お知り合いですか?」
妙に親しげな男性と、今にも噛みつきそうな顔をしているレアエルを交互に見た深侑は混乱した。
「メリル・スノウ……エヴァルトの婚約者だった男だ」
ガン、と深侑は頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。
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