元Sランククランの【荷物運び】最弱と言われた影魔法は実は世界最強の魔法でした。

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第一章 大迷宮クレバス

2話 大失恋はイジられる

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 大迷宮クレバス。
 生命の賢者リイヴ・エルガルドが作ったと言われる世界で一番最初に発見された大迷宮。迷宮が見つかって早百年と少し、その全貌は未だ攻略、解明されておらず。現在確認されている階層数は全37階層。歴史学者や考古学者たちによればその深さは第50層まで続くのではないかと言われている。

 大迷宮には賢者が残されたと言われる財宝や魔導具が眠っており。探索者達は日夜、賢者の遺産を求めて大迷宮へと挑戦していく。しかし迷宮内にはそれを守るように強力なモンスターが住み着いており沢山の命が失われてもいる。

 現在確認されている迷宮は全部で七つ。
 その全ての迷宮が未だ完全攻略されていない。

 これが誰でも知っている大迷宮の一般的な知識。

 どうして俺がこんな一般常識を思い返しているのかと言うと昨日新しくできた黒歴史を少しでも忘れ去りたかったからだ。

「いやー、昨日の告白アレはウケたなぁ!」

「まさか返事も貰えないとはさすがに同情しますね!」

 マネギルとロウドが昨日のことを思い出してバカ笑いをする。

 俺はその笑い声で昨日のことがフラッシュバックしてしまい顔が真赤に熱を帯びるのがわかる。

 現在、大迷宮クレバス地下第36階層。
 確認済みの37階層まであと1層というところまで来ていた。

 昨日25階層のターニングポイントを超えたばかりだと言うのに、Sランククラン『獰猛なる牙』は破竹の勢いで各階層を攻略していった。

 この尋常ではない速さで下の階層へ進むというのは有り得ないことだった。
 深層に行けば行くほどモンスターの強さや罠の数は激的に増す。通常の攻略ならば一日に1層~3層、良くて5層位のペースで攻略できれば御の字なのだ。

 しかし、マネギル達と来たらそんなこと知ったもんかと言ったふうにどんどんとモンスターや罠を蹴破って先へ進んでいく。

 さすがは全員がSランクとAランクの探索者なだけある。

 人格はFランクだが探索者としての実力は折り紙付きだ。

「どんな見世物が始まるかと思えばあの『静剣』に婚約を申し込むとはファイクも身の程知らずだの~」

「本当に馬鹿よね~、無難に裸踊りとかしとけばよかったのに」

 ハロルドとロールもマネギルたちの会話に混ざって笑う。

 結局のところ俺の公開プロポーズは大失敗に終わった。
 いや、正確に言えば成功だ。俺的には成功。
 マネギル達はあの公開プロポーズを大変気に入ったご様子だし、俺は彼らのご要望である『楽しいこと』をしっかりとやり遂げれた。

 しかしながらなんと言うか、いざ断られると分かっててもあれほど盛大に振られるとメンタルにかなり来る。

 俺のプロポーズの後、あの女性は一分ほど硬直したかと思えば、いきなり席を立ち上がり何も言わず真顔で酒場の出口へと行ってしまった。

 プロポーズの返事を貰えず間抜け面で顔を上げた俺は酒場にいた全員から大爆笑された。

 しかも後から話を聞いてみれば俺がプロポーズした相手はこの迷宮都市クレバスでも有名なSランク探索者『静剣』のアイリス・ブルームと言う超有名人だったらしい。

 余り……いや、かなり他の探索者の知識に乏しい俺は知らず知らずに物凄い御仁に物凄い失礼なことをしてしまっていたのだ。

 マジで死にたい。

 そして今クラン内では絶賛、俺の公開プロポーズ弄りが大流行。

 マネギル達はことある事に昨日の話を掘り返し俺の悶え苦しむ姿を見て楽しんでいる。

 マジでこいつら許さねぇ。

「それにしても深層つっても大した奴がいねえな。あれなら25階層で戦った牛の方が何倍も強かったぜ」

「そうだの~。ここまで来るのに対して苦戦せんかった、このまま37階層へ行っても問題なかろうて」

 ひとしきり笑って満足したのかマネギル達はここまでの道のりを思い返して傲慢な笑みを浮かべる。

「それじゃあちゃっちゃと行っちゃう?現在最深層の37階層まで!」

 ロールが意気揚々と拳を天に突き上げる。

「そうだな俺たちなら余裕だろ……おい失恋野郎! さっさとドロップ集めろ! 次の階層へ行くぞ!!」

 ロールの言葉に頷き、マネギルは俺に怒鳴り散らかす。

 そんなに怒鳴るなよ。カルシウム足りてねぇのか?牛乳のめよ牛乳。あと失恋野郎はやめろ。俺は別に失恋なんてしてねぇ。

「……は、はい!」

 無駄に怒鳴られ気分を害しながらも笑顔を貼り付けてせっせっとアイツらが屠ったモンスターの亡骸を漁る。

 ・
 ・
 ・

 無駄に長い階層から階層へと渡る螺旋階段を下って37階層へと到着する。

「とうちゃーくっと!!」

 無防備にロールがバンザイをして37階層の床を踏みしめる。

 階層から階層へ渡る階段の入口はセーフティポイントとなっており、新しい階層到着後すぐにモンスターに襲われるということは無い。

 だから無駄に気を張って周りを警戒する必要は無いのだが、今のロールの行動は余りにも緊張感が無さすぎる。

 一応ここは現時点での最深層。未知の強敵や罠の数々、何が起こるか全く分からない魔境なのだ。セーフティポイントでも少しぐらい気を張りつめてる方が普通だ。

 現に俺なんてガチガチに緊張している。
 まさか最弱最低のFランクの俺が最深層まで来れるとは思いもしなかった。

「なんでぇ、最深層って言っても対して代わり映えしねぇ景色だな。他の階層と同じでただの洞窟じゃねえか」

「まあ最深層と言っても途中の階層ですからね。ターニングポイントの時のような一風変わった雰囲気の地形はもう少し先、厳密に言えば次は50階層ですからね」

 マネギルも拍子抜けだと言わんばかりにつまらなそうな顔をする。

 ターニングポイント。

 それは25階層毎にその階層の地形が一風変わったものへと変化し、強力なボスモンスターが存在する階層。

 この大迷宮クレバスで確認されているターニングポイントは現在25階層。あの牛頭人『グレータータウロス』がいた階層だ。25階層の地形は今のような岩肌剥き出しの洞窟ではなく、階層中を覆い尽くすような森だった。

 出てくるモンスターの強さはほかの階層とは一線を画し、殆どの探索者はその25階層で行き詰まる。
 その代わりと言ってはなんだが見つかる財宝や魔導具も貴重なものが多く。グレータータウロスがドロップする魔導具はとても高値で売れた。

 それはもう笑いが止まらなくなるぐらいに。

「そうだよなあ、次のお楽しみは50階層までお預けか……地味になげぇぜ」

「フォフォフォ、曲がりなりにも最深層、まだ完全なマッピングはされておらんのだ、まだ手の付けられてない宝部屋があるだろう。そんなに肩を落とさんでも希少な魔導具や宝石がガッポガッポだぞえ?」

 遠い目をして項垂れるマネギルをハロルドがそう言って肩を叩く。

 ハロルドが言っている『宝部屋』とは金銀財宝や魔導具が隠された部屋のことだ。その部屋にはモンスターは出現せず安全に宝を頂くことが出来る。所謂ボーナスステージみたいなものだ。

「……それもそうだな。よし! 早速宝探しと行こうぜ! 失恋野郎! 見つけた財宝ネコババしやがったらタダじゃ置かねえからな」

「し、しませんよ!」

 ハロルドの鶴の一声で気力を取り戻したマネギルは背筋を伸ばすと俺に睨みを効かせてくる。

「マネギル、早速見つけました!」

 そんなやり取りをしていると腰に携えた武器に魔力を通し索敵魔法を使っていたロウドが何かを感じ取る。

「おっ!ナイスだロウド。宝部屋か?」

「はい、規模から察するにそうでしょう。ここを数分ほど行った先に隠しの宝部屋があります」

 マネギルの質問にロウドは端的に答える。

「うっし! そんじゃあ早速お宝を確認しますか!」

「「「おおー!」」」

 そんなこんなで緩く、完全に気の抜けた雰囲気で最深層の攻略が始まった。

 ・
 ・
 ・

「こいつはすげぇや!!」

「次々と宝部屋が見つかるのぉ~」

「今日だけで一体いくら稼いだかしら!?」

「ふっふっふっ。私の索敵魔法に掛かればこんなの楽勝ですよ!」

 37階層の攻略を初めてからおよそ30分程が経過しただろうか。
 俺たちは最初の宝部屋を皮切りに次々と芋づる式に宝部屋を見つけていた。

 今見つけた部屋で5ヶ所目の宝部屋だ。

 余りにも多すぎる。

 加えてここまで一度もモンスターと接敵していないのもおかしい。最短距離で宝部屋を転々として来たから運良くモンスターに遭遇しなかったのかもしれないが一匹も出会わないというのは迷宮を潜ってから初めての事だった。

「うほー! こんなにジャラジャラと出てきやがって! 最高じゃねえか37階層!!」

 しかしマネギル達は目の前のお宝に夢中でそんなことを気にしている暇はない。

 部屋中に乱雑に敷き詰められた財宝達は自らの存在を主張するようにギラギラと趣味の悪い光を発する。

 こうも連続して宝石の強い光を目にすると疲れる。

「おい失恋野郎! さっさと回収しやがれ! 他の探索者達が来たらめんどくせぇからな!」

 少し離れた位置で宝石を見ていた俺はマネギルにサボっていると思われたようで直ぐに宝石の回収命令が出る。

「わ、分かりました!」

 沢山のお宝を手に入れて機嫌が良いとは言え、いつその機嫌が一転するかわかったものではないので俺は奴の命令通りに宝石の回収を始める。

 うっ……近づくとさらに光が強い。
 アイツらよくこんなもんをずっと眺めてられるな。
 大事なお目目が悪くなるぞ?

 目に突き刺さるようなその光に俺はそんな悪態をつきながら急いで影の中にお宝を入れていく。

 "ええい! さっきからジャラジャラと物を投げ入れおって! 俺の影の中に何をしやがる!!"

「……え?」

 無心で影の中に宝石やら魔導具を投げ入れてると老人の怒鳴り声が聞こえたような気がする。

「ん? どうした失恋野郎。サボってねぇでさっさとしろ」

 急に手を止めてキョロキョロと辺りを見渡し始めた俺をマネギルは怪訝そうな表情で見てくる。

「あの……えっと、今変な老人の声が聞こえませんでした?」

「は? そんなの聞こえねえよ。昨日の失恋で頭でもイカれたか? いいからさっさと手ぇ動かせ」

 俺の質問にマネギルはさらに表情を曇らせると適当にそう返してくる。

「……」

 確かに聞こえた、聞き間違いではない。
 だがその声の正体を探ることは難しそうだ。今ここで宝の回収を止めればマネギルの気を損ねてしまう。

 かなり気になる老人の言葉であったが俺は再び宝を影の中に入れていく。

「お、終わりました!」

 直ぐに宝の回収を終えてマネギルに報告する。

「遅せぇよ! チンたらしてんじゃねぇ! ……まあいい今日は宝部屋を五個も見つけて俺様は気分が良い。特別に許してやる、次ノロノロとトロイ仕事しやがったらモンスターの餌にするからな?」

 マネギルは怒鳴ったかと思うと急に冷静になって脅してくる。

 それを見ていた他の仲間は「マネギルやっさしぃ~」みたいなこと言ってたが普通に考えて俺は怒られるような仕事をやったつもりは無い。てか滅茶苦茶速い方だろうが、なんなら褒められるべきだ。
 あとマネギルの情緒不安定ぶりがやばい。いきなり怒鳴ったかと思えば静かに脅してくるとかお前の感情の制御の仕方はどうなってんだよ?

「あはは、ありがとうございます」

 それに笑顔で答え事なきを得る。

「よし、もう十分にお宝は回収できた。今日は少し早めに迷宮を上がって酒場でパァーっとやるぞ!」

 俺との会話が終わるとマネギルは他のメンバーにそう声をかけて迷宮の離脱を指示する。

 他のメンバーは今日の仕事が終わったことを確認して思い思いに喜びの声を上げる。

 まだ迷宮を完全に出た訳では無いというのに気の早い奴らだ……。

 そんな気の緩んだ時だった。

「あ、あれ!? で、出口が! マネギル! 出口が巨大な岩で塞がれています!!」

 いち早く体を出口に振り向けていたロウドが怖気た声で驚く。

 その声で俺達も出口のある後ろへとすぐ様振り向く。
 そこにはロウドの言葉通り先程まで空いていた出口が大きな岩か何かによって塞がれている。

「な、何!? どういうことだ!!」

「わ、わからないです! モンスターか何かが道を塞いだとしか……」

 マネギルの詰問に戸惑うロウド。
 この突然の状況に気がかなり動転しているようだ。
 それが他の仲間にも伝染するようにマネギル達の顔色はどんどんと青ざめていく。

「い、いや、安心しろ! ここは宝部屋だモンスターは出てこない。なんならセーフティポイントと同じだ! 何も焦る必要なんてない!」

 マネギルの言葉で全員が気がつく。

 いつになく冷静なマネギルの判断に少しづつ全員は安堵して気を落ち着けいく。

 奴の言葉通りここにはモンスターは出現しない。どうやって音もなく出口を塞がれたのかは分からないが、出口を塞いでいる岩のような物を壊せばいいだけだ。
 そう、ただ確実に岩を

 そう思っていた。

 突如目の前に岩の人型モンスターが20体ほど宝部屋の中に出現する。

「な、なんだコイツら!? どうしてここに!?」

 それは産まれたと言うよりもその場にパッと現れた。一つ瞬きをした瞬間に沸いて現れたのだ。

「ここは宝部屋だぞえ!? どうしてセーフティポイントと同類の場所にモンスターが湧く!!?」

「そんなことどうでもいいわよ! とりあえずコイツら倒さないと初めて見るし数が多いわ!!」

「そ、そうですね! マネギル! 僕たちがこのモンスターの相手をしているうちに貴方は出口を塞いでいる岩を斬ってください!!」

 その数の多さと初めて見るモンスターに彼らは慌てるが直ぐに冷静さを取り戻し、素早い判断で陣形を組む。

「分かった、任せろ!!」

 そうして死のせめぎ合いが始まった。
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